アスタリスクの秋も深まる。
かといって紅葉はあまり見れない。学園内、或いは公園の木の葉の色が変わったかな、という程度だ。
そろそろ市外にも行ってみたいものだ。
学園生活は平穏に過ぎて行く。
自分も多少おかしなな所はあるものの、一応は普通の学生をやっている。
先日、ルークスのモニター作業も一段落したので時間もある。
そうなると学生らしく、これまでの固定メンバー以外との付き合いも増えてくる。
その日も放課後、食堂にて、とりあえず話すようになったクラスメイトと適当に騒いでいた。
「なー深見。お前会長とも付き合ってるの?」
おおっ!と周りが無責任に盛り上がる。
「あー。その噂か?なんでそうなるかな」
ああ、最近良く会っているからか。この前なんて車で二人きりだからな。いいネタになっちゃたか。
「そうだよ。会長はアイツ、天霧にアレなんだろ?」
うん、それは正しい。
「天霧がつれないから深見に乗り換えたのか?」
「深見君、二股とはいけませんね~」
こいつら、好き勝手言いやがって。
「で、本当の所はどうなんだよ」
「ああ? 本当だったら今、俺はここにいないよ。美咲に刺されてる」
「・・・マジで?」
「あいつなら有り得る」
そう言って周りを静かにさせる。
バカ話もいいが、あんまりネタにされるのも面倒だな。
※ ※ ※
特に何もない日がしばらく続いた後。
美咲と共に大学部校舎に入る。例のクラウスの依頼だった。
何人か学生とすれ違うが、大学でも制服とは、違和感ありまくりだな。
美咲は周りをきょろきょろ見回している。そんなに珍しいかな?
「何か気になる所でもあるのか?」
「ん~。来た事無かったから」
「そうか。まあ用事もないだろうしな。あ、あれか」
認識工学研究室。
おおー。大学の研究室だ。懐かしい。まあここは自分が出た大学ではないが(当たり前だ)、こういう場所に入るのは約20年ぶりか。
感慨に耽ってドアの前で動かずにいたら、向こうからドアを開けてきた。
「おー。来てくれたか。まあ入ってくれ」
クラウス、先に来てたのか。
部屋はそれなりの広さで、パーテーションで幾つかに区切られている。壁際には色んな機材やらダンボール箱等が少し未整理な感じで置かれている。うん、工学部の研究室といった雰囲気。
「紹介するよ。刀根 麻里子。ここでジェネステラの感覚系について研究している」
そう言われて出てきたのは、白衣姿のいかにも研究者といった感じの女性。平均的なスタイル、セミロングヘアで地味な印象。まあ最近自分の周りは美少女ばかり目に入るので、厳しい見方になってしまっているかもしれん。
「刀根です。フェニクス見たし、話も聞いてるよ。よろしく!」
ほう。今まで関わってきた女の中ではいなかった、真直ぐに明るいタイプ、だな。面白い。それに・・・
「深見 令です。こちらは妻の美咲。よろしくお願いします」
「ちょ!あんた何言ってるの!?」
「あっはっはっは!いいねいいね。そうか~ 奥さんと思えばいいのね!」
「まあこんな奴らだけど。とにかくよろしく頼むよ、マリ」
ふむ。こりゃクラウスと付き合ってるな、この人。でも大学部で研究室にいるという事は、結構年上?まあそれはいいとして。
「で、俺達はどんな協力をすればいいのかな」
「さっきも言ったが、マリはジェネステラの感覚について研究していて、今のテーマは感覚の強化についてだ」
「そう。あたし達は常人を超える身体能力を持つけど、その身体能力って、肉体だけに限らないでしょ。五感や認識力も向上するはずだよ。それが目立たないのは、ジェネステラ同士の戦いでは差が出ないのと、やはり研究が足りないからだと思ってる」
「感覚の強化、か。なるほど。ただジェネステラの戦いでも例外はあったな。フェニクスの天霧綾斗。奴は何度か認識力の拡大、みたいな技を使っていたよ」
識の境地、だったか?見えない物が見えるのは便利そうだ。
「お、分かってるね~。うん、確かにあれは面白かった。ただあたしはその先を見てる」
「先、と言うと?」
「その強化した感覚を、ジェネステラ同士で共有できないか。そういう研究をしてる訳なんだ」
そりゃまた面白そうな事をやってるな。自分に分かり易く表現すると、個人単位での戦闘ネットワーク化、といったところか。
「じゃあ、あたし達に協力しろという事は、それのテスト?」
「瀬名さん、正解。もう理論構築は終わって、あたしとクラウスで基礎的なトライはできてる。後は実際に戦える人で実験したかったの」
「ま、お前らが適任だよ。色々な条件でな」
なるほどね。何にしても興味深い。来年の事は決めていないが、認識力が向上するに越したことはないな。今までは、例えば界龍の双子のような姿を消す相手には手も足も出ない。それが対応できるようになるなら悪い話ではないな。そして感覚の共有もそうだ。使い方によっては天霧達が決勝で見せた技の再現ができそうだな。
「了解。では何から始めるんだ?」
「説明するよ。まずはこれを見て」
3Dモニターが展開され、様々なデータが表示される。
うん、中々面白そうだね。
※ ※ ※
数日後。
今日は研究室でのトライアルは無し。
例によって放課後、美咲とドライブ、アスタリスクを一回り。
学園に戻ると、女子寮前まで送る。
さて。学園外の共有スペースに借りた駐車場まで戻るか。これだけが面倒なんだけど、仕方ない。
ん、これは前と同じパターンか?
いや、今度は気が付いた。
「相変わらず、仲がいいな。先輩方」
背後から声がかかる。
「付き合ってまだ半年さ。そこまで飽きっぽくないよ。そう言うそっちはどうなんだ?」
ありゃ。返事が無い。つまりそういう事か。振り返ると憂い顔のリースフェルトさんであった。
「お前さん達も出会って半年近いだろうに、差がついたな。で、その辺りを相談したいと。そんなところか?」
「・・・ああ、実は。時間、あるだろうか?」
「いいよ。乗りな」
今回の相手はお姫様か。まあいいでしょう。
※ ※ ※
変える理由も無いので、この前と同じ場所に車を止める。
湖水の向こうに星導館学園が良く見える。中々に壮観だな。
「それで、天霧との仲を進展させたいんだな」
「・・・ああ、そうだ」
「気持ちはわかるよ。あれ程の男はなかなかいない。将来はもっと凄い奴になるんだろうな」
「私もそう思う」
「では君は、それ程の男の心を、どうやって掴むつもりなんだ?」
そう言えば、前も聞いたな、これ。
「あ。確か冬休みはリーゼルタニアにご招待、だったな」
「・・・今更だが、本当に何でも知っているんだな」
「そうでもない。別に秘密でもないんだろう。で、ついでに調べた結果だが、かなり厄介な状態にあるな。リーゼルタニアって国は」
「確かに、そうだな」
「で、君の立場と性格からすると、あの国の有り様をそのままにしておく事はできない」
「・・・私は、あの国を変えたい」
「その為のグリプスか? まあアイツは何も言わなくても付き合うよ。君が一緒ならね」
「・・・そうか」
一瞬だけ、お姫さまの表情が和らぐ。
「問題はその後だな。君のプランがどうあれ、統合企業財体とぶつかる事になるだろう。その時、天霧はどうするかな?」
「綾斗は・・・私を助けようとするだろうな」
「何だ。解ってるじゃないか。『ユリスの力になりたい』だっけ?それがあいつの成すべき事だそうな。言うなれば、リーゼルタニア王女の剣、という立場か」
「私の剣・・・だと?」
「君が望めば、あいつは統合企業財体さえ叩き斬るだろう。ああ、斬るというのは比喩的表現だが、この先も力を伸ばして行けば、比喩じゃ無くなるかもしれん。全く凄まじいな」
「綾斗にそんな力が?いや、もしかして!」
「ああ、力の封印を完全に解除したらどうなるか。ちょっと想像がつかないね」
「・・・本当に・・・私は・・・ どうしたらいいんだ」
「これ以上天霧に負担を掛けたく無い、関わらせたく無いならそう言って、付き合いを断つしか無かろう。もっとも奴が納得するはずはないけど」
「ああ、綾斗はそうだ」
「だったら答えはもう出ている。これまでの、そしてこれからの天霧の献身を考えるなら、君の全てを捧げるしかないだろう」
「全て・・・」
表情に朱が刺すのは夕陽のせいじゃないな。
「そういう事だ。まあそうは言っても大変な事ではあるな・・・」
まあ、まだ時間はある。
良く考える事だね。お姫様。