土曜日の午後。
放課後、大学部の研究室。
認識力の拡大、は意外に早く目処がつきそうだった。
結局は万能素(マナ)をどう使うか、という事なので、元々素養のあるジェネステラであれば感覚の強化やそれ以上の能力に転換するのは難しくない。
一方で感覚の共有、これは難題だった。
自分の認識を発信する事は、マナを利用する事で理論上は可能だった。
では伝わった認識を相手がどう処理し、理解するか?それが難しい。
理論構築は終わっているそうだが、実際にやってみると、これがうまくいかない。
どうやらかなりの時間が必要になりそうだ。
大学部を出ると、寮に戻らずそのまま車を出す。
今日の美咲のリクエストは商業エリアのアウトレットモールだったな。長い買い物になりそうだ。
「令、あなたお姫様と何か話したの?」
「うん?ああ、この間ね。また天霧の事で相談に来たんでね」
「それでか・・・あの子、昨日私の所にも来たよ」
「ほう。美咲には何を聞いてきたんだ?」
「ん~。解りやすく言うと、男に抱かれる時、どうしたらいいか、とか」
「おおっと。何ともストレートな」
「あと、そういう状況にするにはどうしたらいいのか、なんて事も」
「こりゃ本気だな」
「前から本気だよ。あの子」
「という事はやる気だな。遂に決意したか」
でもあと1か月もするとリーゼルタニアご招待だ。その時、他の女達との関係が微妙になるな。それでもいいのか?お姫様。
「とにかく美咲、この事は・・・」
「わかってる。誰にも言わない」
こんな事が世間にバレたら大騒ぎになるな。
「でもねえ。仮にも第1王女様がそんな事をしたら・・・。天霧もたたじゃすまないね。王様とか怒るんじゃない?」
「いや、どうかな。国王やってるあの子の兄貴なら、案外笑って許すんじゃないか」
何しろいきなり結婚しろ、なんて言う位だからな。
「そうなんだ。それじゃあの子は幸せになれるかもね」
「そうだな」
幸せか。なるほどね。そう言う見方もあるか。
ならばそろそろあいつらの仲に口出しするのは終わりにしようかな。
※ ※ ※
自室にて。
さて、こんな物か。
EUROX社の試作ルークスのモニターも終わる。
報告書のフォーマットに書ける事は全部記入して、クラウスに送る。そうすれば後は奴が綺麗にまとめるだろうから、自分の仕事もそれで終わり。
肝心のルークスだが、結局は自分が使っていたモデルのパワーアップバージョンの域を出なかった。
拡張機能、あるいは追加機能も幾つか試したが、どうもしっくり来る物が無かったな。
他に追加というと、それこそ射撃機能の付加もあるが、オプションでは威力は知れている。とても銃型ルークスには及ばない。
まあ、アイデアとしてはあったが、自分もクラウスもそっちは完全に専門外だ。周りで銃に詳しいと言うと・・・
沙々宮位しかいないな。相談程度はしておいて良かったかも。
いずれにしてもモニター期間はもう終了だ。
良い小遣い稼ぎだったんだがなあ。
ん?端末にメール着信。誰だ?
・・・ほう、これは・・・
クラウスに聞いてみるか。
「よう。メール見たか?」
通話が繋がるなり話し出す。
「いきなりだな・・・ああ。EUROXの件か?」
「ああ。招待状、という事だが」
「別に断る理由もないよ。来月の事だし、スケジュールはどうにでもなる」
「そうだな。行くか」
「そうしよう」
モニターのお礼に、との事だが、パーティーの招待。
正確にはEUROX JAPAN。
EUROX社の日本、同時にアスタリスクでの拠点になる、それなりの規模の会社からの招待だった。
自分とクラウス、そしてそのパートナーと言ってきている点が面白いな。
※ ※ ※
特に何も無い放課後。
そろそろ寒くなってきたな。
空は鉛色。とは言えその程度で気分が沈む事もない。
この世界でも全ての季節を体験できて、むしろほっとする。冬は嫌いじゃないしな。
そういえばそろそろ初雪になるか。その時は車の扱いには注意しないと。
道路は除雪されるだろうが(自己融雪式路面、というらしい)そもそもFR車は濡れた路面に弱いからな。駆動力の設定変更だけで対応したいが、無理ならタイヤも変えるか?また金かかるな。
等と考えつつ、寮に向かう。
と、その途中で天霧に会う。
「こんにちは。先輩」
「よう。元気そうで何より」
ふむ、天霧君の様子は至って普通であるな。この分じゃお姫様とは進展なしか。
「そう言えば冬休みはヨーロッパ旅行だろう。良かったな」
「ああ、ご存知なんですね。ユリスに頼まれて、リーゼルタニアに行く事になりました」
「お姫様、いや、国王からの招待だね。楽しいとは思うよ。まあそうじゃない事もあろうが」
「・・・何か、あるんですか」
「多分ね。一つだけ教えておくと、セル=ベレスタは常に持っていろよ。少しは状況を楽にできるだろう」
「そう、ですか・・・」
「まあ、武器の携帯が制限される場もあるだろうが、そういう時も何とかごまかして手放すなよ」
「わかりました」
「まあ、そう深刻になるな。保険とでも思っておけばいい」
「保険、ですか」
「そう、保険さ。帰ってきたら向こうの話を聞かせてくれや。じゃあな」
「はい、ありがとうございました」
うん。今はこんな物だな。
さて、その冬休みだが、どうやって過ごそうか。
アスタリスク市街へ出る許可は出やすくなるが、それは帰省という理由があればだろう。自分の場合はどうかな?そもそも帰る所など無いし。まずは美咲にも聞いてみて、それで考えるんだな。
本当にやる事が無かったら、大学部の研究室にとことん付き合ってもいいし。
あれは面白い。
一つ、思いついた事がある。
研究者は感覚の共有、を考えているが、自分はあれを応用すると新しい戦法が使えるんじゃないかと思った。まだイメージだけでしかないが、実現できれば相当な戦闘力向上が見込める。まあ、実現するには進学して、あの研究室に入る事まで考えないといかんだろう。
進学、か。
迷うところだな。
もう一つの道、就職については、エントリーした企業の全てから面接の案内が来ている。
なんと書類選考突破率100%だ。まあ5社しか出していなかったが。
後、何故かエントリーもしていないのに警備隊からも打診があった。人手不足なんだね。
まあ警備隊は除外するとして、本当に興味があるのは1社か2社になるが、スケジュールが合う限り面接は受けてみるか。高卒の採用試験だ。あまり固く考える事もない。前世の転職活動よりはマシなはずだ。
だがここに来て、進学という選択のウエイトも大きくなってきたな。
そろそろ本気で進路指導担当に相談してみるか。
だが、最終判断は自分だ。
少し考え過ぎたようだ。
自分でも気付かぬうちに寮へ向かう遊歩道で立ち止まっていた。
気が付かなかった事はもう一つ。
「深見先輩ですね」
誰だろう。知らない男が目の前に立つ。先輩と言ってくる以上、年下か。かといって中等部ではないな。
「何かな?」
「2年3組。トニー・ハドリー。決闘を申請します」
忘れてた。
星導館学園、いやアスタリスクにはこれがあったんだ。
公式序列戦を完全にスルーしていて気にしていなかったが、今の自分はある程度だが、挑まれる立場でもあった。
さて、どうしたものか。
改めて目の前の生徒を見る。
体格は似たような物。ヨーロッパ系か、彫りの深い、整った顔をしている。モデルでも通りそうだな。
確かページワンには名前が無かったはずだ。しかし雰囲気はそれなりに戦えそうな感じがする。
「理由を聞いていいかな?」
「フェニクス優勝者と互角に戦った人に興味を持ってはいけませんか?」
互角は言い過ぎだが、こういう奴が出てくるのは予想しておくべきだったな。しかし大会終わってしばらく経つんだが。ああ、自分がその後も表に出ないので痺れをきらしたか?
まあ、やってみるか。
本気の1対1の戦いは初めてかな。
ちょっとブランクはあるが、ルークスのモニターと研究室の手伝いで身体は動かしているし、ルークスの発動体も持っている。モニターついでに修理させた、共にフェニクスを戦ったやつだ。
「決闘を受諾する」
校章が光り、情報処理が始まる。
さて、どこまでできるかな。