さて。
パーティーなんて久しぶりだが、まあそれはいい。
本来酒が入るものだが、高校生が飲む訳にはいかないな。
その分車が使えるからいいか。前世でも飲酒運転だけはやらなかったのだ。
という訳で、招待者からの送迎を断って自前の車で出向く。本当にらしくない高校生がいたもんだ。
12月のアスタリスク、少し慌ただしく感じてしまうのは自分だけだろうか。
目の前に3Dモニターを展開させてマップ表示、ナビゲートに従って運転する事しばし。
着いたのは市内中心に近い高級ホテルだった。
格としては、何度か使ったホテル・オーザバルと同程度か。
地下駐車場に車を置くと、エレベーターでメインホールまで直通。
会場はまあ、企業のパーティーとしてはこんな物、だな。受付で到着を入力しながら中を覗くと、招待客、関係者は大人ばかり、スーツ姿が大多数、ドレス姿が少々、制服姿は・・・ほう、アルルカントの連中が数人いるか。まあそんなところだな。
隣を見ると連れの二人が落ち着きを無くしている。
ああ、こういう場は始めてか?
そこへ一人の中年男性がやって来た。
「失礼、星導館学園の皆様ですね。本日ご案内をさせて頂くEUROX JAPAN総務部の村上と申します。よろしくお願いします」
そう言って差し出される名刺を両手で受け取る。総務部長 村上ロベルト、とある。結構上の人が出てきたな。
「ご丁寧にどうも。こちらこそよろしくお願いします。何分学生で、名刺は持たないのでご容赦願います」
何だか自分が代表みたいになっているが、いいのかな?
「お気になさらずに。開会まで少し時間ありますね。こちらの部屋で少しお待ちを。皆さんは特別ゲストですから、開始後に登場、となっております。できればそこで、一言ご挨拶を頂きたいのですが」
「そうですか・・・」
ちょっと待て。そんなの聞いてないよ。
「難しいですか」
「いえ、何とかします。まあ手短になりますが」
「それで充分です。ではよろしくお願いします」
うむ。一つ手間が増えたが、何とかするか。
「令、大丈夫なの?」
「何だか任せきりみたいだが、いいのか?」
「かまわんよ。別に大したことじゃない」
「深見君、余裕だね。何と言うか・・・」
まあ、ここは高校生の皮を被ったおっさんの出番だな。
程なくしてパーティーが始まる。といってもこういう企業のパーティーの最初はお偉方の挨拶、というのはこの世界でも変わらない。それが終わるまではあからさまに飲んだり食べたりできないな。
この場合はその面倒なお偉方に含まれてしまった。
だからなるべく短く行こう。
「さて本日は、先のフェニクスで活躍された星導館学園の方を特別にお招きしております。わが社のルークスと共に戦ってくれた深見 令様、そのパートナーである瀬名 美咲様、お二人をバックアップした煌式武装研究部のローウェル部長、ヒルシュブルガー副部長です。では、皆様どうぞこちらに」
拍手と共に会場の一角に作られたステージに引っ張り出される。
さて、やるか。
「では、深見様、お願いします」
「はい。僭越ですがご指名ですので、挨拶させて頂きます。本日はこのような素晴らしい場にご招待頂き、感謝しております。先のフェニクスにて、自分達の戦いによって皆様に新たな可能性を示す事ができたのであれば幸いだと思っています。またその後、御社ルークスのモニターにてご一緒に仕事をさせて頂きました。お互い良い結果を出せたと思います。どうもありがとうございました」
一礼するとまた拍手。
ま、こんなものか。
自分達の出番の後は、EUROX本社の事業部長、つまりは役員が出てきて乾杯。やっと本当のパーティーの始まりだ。
ソフトドリンクを一杯呷った後、ウチの部長の評価。
「深見君、何と言うか・・・あっさりこなしちゃったね。感心するわ」
「いや、部長もこの位は何とかなるでしょう」
結構いいかげんな挨拶だったんだが。
その後は千客万来、とはならず、数人の社員が軽く話しかけてきただけ。
まあちょっと普通じゃない高校生だが、社会人から仕事絡みの話を振られても気疲れするだけだし、楽しめない。そうならないように配慮してくれたのは・・・
「どうも。先程は無理を言ってしまいましたが、上手くやって頂いた。ありがとうございました」
多分この人か、村上部長。
「ちょっとおかしな挨拶になってしまいましたよ」
「いえいえ。中々の物です。ああ、この後は無理はさせませんので、ゆっくり楽しんで下さい。それではこれで―――」
彼が言いかけた途中で驚きの表情になる。同時に背後から僅かなざわめきが聞こえる。なんだ?
振り向くと会場入り口に、アルルカント・アカデミー最大派閥の代表がいた。
「これはこれは」
「令、あれって確かフェニクス準優勝の」
「ああ、その片割れ、カミラ・パレートだな」
おーおー。早速囲まれているねえ。挨拶攻めにあっているが、流石に動じないな。
「このパーティーに出てくるとはね。ルークスの技術開発で関わりでもあったかな?」
「そう言えば深見君、面識あるんでしょ」
「・・・」
「まーちょっとだけ」
部長、そんな話の振り方はやめて!美咲の機嫌が。
「そうらしいね・・・」
急降下だな。こりゃ後で大変だ。
「大体あの時はクラウスも一緒だった。メインはそっちだろ。その後会ってないし」
「・・・どうかしらね」
急いでフォローするが、当事者の一人が台無しにしてくれた。
「やあ。深見君。また会ったね」
うわー。当の本人が来ちゃったよ。美咲の眼つきがはっきりわかる程鋭くなる。
「貴女が招待されていたとはね」
「武装開発で関わりがあった。正直出席するか迷っていたんだが、君がいたとは来る価値があったかな」
こいつまで困った話の振り方をしてくれるなあ。美咲だけじゃなく、周りの大人達もこちらを見る目が変わったぞ。
「そりゃどうも。ではまた後で」
「いや、この前の話の続きをしたいんだが」
「ストレートにきたね。こういう場所じゃどうかと思うぞ?」
「それも考えてある。こちらに」
そう言われて少しはなれた壁際に移動する。周りの視線が痛い。
「それで、エルネスタの事だが」
「おいおい、こんな所で・・・話していいんだよな、多分」
「察しがいいね。周囲に空気振動を遮断するフィールドを展開しているから、盗聴は不可能だ。私の立場だと、こういう装置は常に持ち歩いているのだよ」
「流石はフェロヴィアスのトップだな。で、お友達に何か気になる事でも?」
「ああ。あいつはアルディとリムシイの修復を終えて、3体目のパペットを考えているらしい。だが・・・」
「なるほど。既にそこまで!あの子、性格はともかく天才には違いない。で、ウルム=マナダイトは手に入るのかな?」
「それだ。かなり難しいはず。となると学外をあてにするしかないが、それは―――」
「なんだ。わかっているじゃないか」
「やはり、レヴォルフ、いや、タイラントか」
彼女がため息をついた。そんな仕草も様になるねえ。
「レヴォルフの不機嫌男が、新たなウルム=マナダイトを餌に君の友人を何らかの計画に引き込もうとしている。その計画が何なのかは分らない。ただ奴らは、計画の詳細を知らせるつもりは無いようだね」
「奴ら、と言ったか?」
「ああ、現フェスタ実行委員長も絡んでいるよ」
「それは・・・! 厄介そうだね」
「言うまでもなかろう?まあ計画の中身はともかく、奴が君の友人と接触したと知ったとき、俺が最初に思い浮かんだ言葉は『使い捨て』だ。気をつけた方がいいね」
怜悧な表情に憂いが重なる。いささか面倒な奴だが、恩人かつ親友の置かれた状況を考えれば、そうもなろう。
「忠告、感謝する。この礼はいずれ」
「ああ、またな」
内心はともかく、去って行く姿は颯爽としている。やはりいい女だな。半身サイボーグなのが実に惜しい。
「令、何を話したの?」
もう一人のいい女がやって来た。さて、どう言ったものかな?
いや、浮気するつもりはないから!