予想外の再会はあったが、その後は普通のパーティーだな。
いや、自分以外の3人にとっては会社の懇親会など普通じゃないだろうが。
「あんまり気にせず飲み食いしてりゃいいさ」
「そうなの?」
「ああ、ルークス絡みの話を振られたらクラウスか部長に任せればいい。お?このアイスバインとザワークラウト、実に美味いな。流石ヨーロッパ系企業」
「あんた洋食派だったっけ?」
「いや。これは黒ビールに良く合うんで好きなんだが・・・ここで飲めないのが残念だな」
「またそう言う事言って・・・」
その後はあまり波風立つ事もなかった。
クラウスと部長はEUROXの社員と技術論でそれなりに盛り上がっている。
アルルカントの連中も近づいてはこなかった。カミラ・パレートの周りで固まっている。
そんな訳で自分はほとんど美咲相手に雑談して過ごす。
「いかがでしたか?今日のパーティーは?」
そろそろ時間、と思った所でやって来たのは村上部長か。
「中々の非日常を体験できて面白かったですよ。部長」
「そういう時間を提供できたら何よりでした」
まあ、今の自分にとってはまだまだ毎日が非日常なんだけど。
「ところで深見さん、来年は大学部ですね。学部はどちらに?」
「ああ、実はまだ進学か就職か、決めていないんですよ。いや、判断が遅いのは分っています」
「ほほう。就職もあると。では弊社はどうですか?」
そう来たか。これはこれは。
「有り難い申し出ですが、今からで間に合うんですか?」
「その辺りは私が何とかします」
ああ、総務部長だもんね。
「なるほど。では考えさせて頂きます」
「是非。ところで一つお聞きしたいのですが」
「何でしょうか?」
「深見さんは沙々宮紗夜さんをご存じですか?いや、差支無ければ・・・」
「一応の面識はありますね。ああ、やはり彼女の煌式武装が気になりますか」
「はい。率直に言って実に興味がありますね。何とか一度、お話だけでもと思っております」
まあ、煌式武装メーカーとしてはそうなるな。本当はあの子の親父さんが目当てだろうが、そういう話は全部断っているらしいし。
話が妙な方向になってきて、美咲が心配そうにしている。だがまあ、この程度はいいか。
「この場でお約束はできませんし、時間もかかりますが、聞いてはみますよ」
「よろしくお願いします」
それなりに面白かったパーティーも終了。当然ながら最後の挨拶もお偉方で、一本締めでもするかと思ったが、流石にそこまで日本企業的では無く、普通に拍手で終わりだった。
明日は休みなのでこのまま美咲と二人で、としたかったんだが今回は煌式武装研のの二人が一緒なので真直ぐ学園に戻る。
ちょっと道路は混雑気味だな。しかしまだまだ運転は楽しいので構わない。
市街地を抜けると一気に視界が開ける。前方に星導館学園、その上に冬の星空。そんな景色もいい感じだ。
※ ※ ※
早朝。
制服の上に、適当にハーフコートを引っ掛けて寮を出る。
(寒い・・・)
ここ数日、冬らしい乾燥した晴天が続いている。気温はマイナス2~3℃あたりだろう。空を見上げる。少しだけ夜が青くなってる。
こんな時間に出歩くのも久しぶりだ。辺りは静まりかえっている、と思いきや、小さな足音?いや走っているのか。
暗がりの中から現れたのは・・・
「深見先輩?ですか。おはようございます」
「刀藤か。早いなあ」
レギュラーの一人だが、まともに話すのは初めてだな。
「先輩も、どうしたんですか?こんな時間に」
「目が覚めちまってね。良い機会なんで夜明けのアスタリスクで飛ばしてみようと思う」
「そうですか・・・気をつけて下さい」
「刀藤もな。早朝のトレーニング、ずっと続けているんだろうが、流石にこの時期は要注意だろ」
「はい、ありがとうございます」
冬用とは言え、トレーニングウェアで一番冷え込む時間に動く。大した物だよ。
まだ子供なのに。何とも厳しい生き方をしているな。だからこその強さなんだろうが。
駐車スペースが見えてきた所で、キーのリモコンを操作。
エンジンは一発でかかった。そこは旧車とは言え、自分からすれば未来の車だ。
ドアを開けると急速暖房による暖かさが上がってくる。
コートを放り込んでシートに座る。ベルトをオートに設定して、シフトレバーを1速に入れてクラッチを上げる。
ゆっくり進みだす感触。よし、路面凍結は無いな。
アクセルを踏んで学園を飛び出した。
外縁道路を何周かするうちに、東の空がはっきりと明るくなってきた。
冬の乾燥とはいえ、アスタリスク自体、クレーター湖という水の上に存在している。
気温と水温の関係からか、水面から少し水蒸気が立ち昇っているようだ。道路上もうっすらと靄がかかっている。
外縁地区の適当な公園に車を入れてエンジンを切る。
窓を開けて東の空を見る。
朝日が顔を出すにはもうしばらくかかるだろう。
何故こんな事をしているのか。
それは決断する為。将来を考える為。
進学か?それとも・・・
進学は当初考えていた道だ。
気楽な学生をあと何年か続けられる。自分の人生で一番良かった大学生活を、もう一度体験できる可能性を考えると心躍るものがある。
反面、デメリットもあるな。
まずは経済的な不安。何しろ無収入だし。バイトでどこまでやっていけるか。
そして新たな問題。
そもそも気楽な生活にならない可能性が高い。
こちらの方が厄介だ。
どうやら学園は自分を戦力としてカウントしたらしい。
そこはまあ、何とか逃げるとしても、このままだと今後の面倒な展開に関わる事になりかねない。
これは調子に乗って天霧や会長に知識を与えてしまったせいでもあるので、自業自得だ。
とは言え学園間、あるいはその上の暗闘に巻き込まれたり、使われたりする状況は考えたくもない未来だ。
自分の事だけでなく、美咲の存在もあるな。
あいつをヤバイ状況につきあわせるのも御免だ。
自分にとって久しぶりに、あるいは初めての『愛せる』女になりそうな存在だ。守って行かなければならないだろうな。
夜明けの空を見ながら考える。
これまで、何度も考えてきたが、もう決断を下すべき時期だろうな。
突然、目の前が真っ白になる。
眩しい。
そうか。日の出か。
まあ、そういう事だ。
それで良い。
※ ※ ※
「うん、第一志望の所は面接で余程のミスをしなければ大丈夫だね。他は面接すれば内定出ると考えていいよ」
進路指導室で担当教員と相談。
「では第一志望の六花技研に連絡を。他は後にします。面接はいつ頃になりそうですか?」
「先方は急いでいるな。多分年内で調整してくると思うよ。それから警備隊はどうする?」
「遠慮しておきます。それでは」
進路相談を済ますと、美咲が待っていた。
「決めたの?」
「ああ、多分今年中に結果が出るな。駄目なら第二志望だが、そうはならないだろうね」
「ふーん。何の会社だっけ?」
「アスタリスクのインフラ関係だな。特に水道システムに強い所だ。給料はまあ、それなり。現場作業の手当が色々あるのがいいね」
「そういえばEUROX社? はどうするの」
「悪いがパスだな。ルークスの技術はちょっと馴染めないな」
煌式武装研に所属はしているが、あれを仕事にするのはちょっと違う気がする。
「そういえば美咲はどうなんだ?」
「あ・・・あたし?まあ、その・・・」
「何だ?」
「実は・・・内定出た」
「はあ?お前面接してたっけ?」
それ以前にまともな就職活動していないだろ。
「・・・エントリーしたら内定だって。面接は後でいいって」
まるでバブル期の就職事情だな。いや、それ以前に大丈夫か?その職場。
「ここ・・・」
美咲が差し出した端末に表示された資料を見ると、商業エリアの大型デパートの一つだ。
「マジか。で、何をするんだ?」
「ファッションフロアの専属モデルと販売係、両方みたい」
「なんとまあ。ジェネステラで、ストレガで、フェスタ出場者がやる仕事なのか?ああ、まあお前さんは見た目はいいからなあ、それもありか」
「・・・そ、そうかな?」
「お前がやってみたいならそれもいいさ。案外やれるんじゃないかな」
こいつの進路も決まるか。
うん、いいね。