さて、冬休みだが。
休みだからといって、特にやる事も無く。
天霧達を見送った後は適当に過ごしている。
ああ、準備だけはしておくか。
新聞部にて。
「夜吹~、いるか~」
「あれ、どうしたんすか、先輩」
「またちょっと教えて欲しい事があってね。付き合えよ」
そう言って部室から引っ張りだす。フェニクスの影響で忙しいのは本当らしいが、君の仕事はそれだけじゃないだろう。
「で、今度は何のネタですか?」
「大した事じゃない。天霧がリーゼルタニアから戻る日を知りたいんだが」
「え、聞いてないんすか?」
「聞いてはいるがあくまで予定だろ。どうせ向こうでも色々あるんだ。予定通りに行くもんか」
何しろダンテのテロリストにエレンシュキーガルが出てくるんだぞ。
「え、何かあるんですか?」
「とぼけるなよ。お前さんも少しは関わるんだろ。会長の手駒になっているのは知ってるぜ」
「・・・こりゃあ参りましたね。わかりました。はっきりしたら連絡すればいいですか?」
「ああ。変更あってもすぐ知らせろよ」
そう言いつつ食堂のカードを渡す。
とりあえずはこれでいいか。
※ ※ ※
さて。
結局会社の面接は年明けになったので、暇になってしまった。
どうしよう。
「どこか、行く?」
と美咲。
「まあ確かに、市外へ出るのも簡単な時期だが、どこがいい?あんまり思いつかないな」
アスタリスクの外がどうなっているか、気にはなっているが、さりとて行きたい所がある訳でもない。
前世で多少知っている首都圏は落星雨で酷い事になっているらしいし。
「暖かい所がいいよ」
「そりゃそうだろうが、車で行きたいからそんなに遠くは無理だな。往復500km以内ってとこだ」
何しろガソリンの入手に不安がある。全く異世界は面倒だ。
「それじゃ南の方で、温泉とか?」
「確かに暖かそうだが、それでいいのか?俺はかまわんが」
高校生にしては渋いね。ただこの時期、暖かくなる一つの方法ではある。
「じゃあどこかいいとこ探すね!」
嬉しそうに言うが、こいつ今回も帰省するとは一言も言わなかったな。やはり両親と何かあるのか、それとも・・・
それにしてもアスタリスクの学生って親と問題を抱えている奴しかいないのかねえ。
ま、人の事は言えないけど。
端末、モニター、3Dディスプレイに映される観光案内やらホテルのホームページ、評価サイトのランキング等々。どこに行くか、一応二人で選ぶ。
一応、となるのは今のところ経済力は美咲の方が上なので、彼女の発言力が大きい為だ。
自分は車を買った事による財布への打撃から回復していない。
そんな訳で、美咲の意見を丸呑みにして決めた旅行先は旧山梨県にある観光地+近くの温泉街、となった。
冬休みにつき、市外への外出申請も簡単に通り、さあ準備、と言っても何するの?とテンション上がったところで、不運がやって来た。
『今後の積雪量ですが、南関東の平野部で30cm、山沿いでは60cm以上と予測されています。交通機関への影響については―――』
「不幸だ・・・」
「・・・」
アスタリスクの夕焼けを見ながら、天気予報にため息をつく。
いくら何でもこれでは移動が成り立たない。
空の便?
問題は積雪だけでなく降雪だ。流石にこの世界でも、冬の嵐と言っていい気象条件ではどうにもならない。
「仕方ない。近場で遊ぶか。付き合えよ」
「うん。でも年明けに延期とか・・・?」
「面接があるからなあ。それに治療院にも行かないと。ちょっと無理だね」
「ああ、そうだったね」
この連休も適当に過ごして終わりだな。
※ ※ ※
休みの計画を立てても不運に邪魔されたので、今度は無計画でやってみる。
アスタリスクを出ると、適当に車を走らせ、気になった場所に車を止めて歩いてみる。適当な街に入ってみる。
そんないい加減な、しかし学生らしい時間の使い方。本当ならもっと暖かい時期にやっておきたかったね。
天気の実況を見ながらの移動だったが、旧埼玉県に入った所で積雪が始まったので引き返す。そのまま帰るのもつまらんので、適当なホテルで一晩過ごす事にした。
「ねえこれ見て!リーゼルタニアだっけ。パレードやってるよ」
ニュースチャンネルをモニターに表示させた美咲が言った。
ああ、そういえばそんな事もあったな。
画面には国際ニュース、リーゼルタニアの話題。首都からの中継のようだが・・・
「さすがお姫様。フェニクス優勝で国に帰ればこうなるよな」
もっとも本人は予想していなかったらしいが。
「あ、天霧まで映ってる。何してるの?あいつ」
「顔くらい見せてくれと言われたんだろう。おーおー、笑顔が引きつってるぜ」
「あいつこういうの慣れて無さそうだし、仕方ないよ」
「まあな」
さて、これからひと波乱ある訳だが。
上手くやれよ。天霧君。
※ ※ ※
異世界にやって来て最初の新年、あえて星導館学園の学生寮で迎える。
時期が時期だけに、学園も閑散としている。残った学生は3割程度かな。もっと減るかとも思ったんだが、帰る所の無い、あるいは帰る気の無い学生がいるんだろう。
結局3日程何もせずに過ごす、寝正月になってしまった。それだけなら前世でも良くあったんだが、今回違うのは一緒に居る相手がいる事だ。ほとんどの時間を美咲と寝て過ごす。ベッドの上で散々やり合っても疲れたり、負担にならない身体はいいもんだね。
そんな訳でロートリヒトのホテルで目を覚ますと、端末にメール通知有り。
隣の美咲を起さないように静かに動いてモニターを起動。うん、夜吹からの連絡だ。そろそろ来る頃だろうと思っていた。予想通り天霧だけ先に帰ってくるな。
よし、明日だな。
治療院に検診予約のメールを送った。
※ ※ ※
治療院での検査は大した時間もかからずに終わる。
先月の決闘でもらった背中の傷も完治。身体状況としては何の問題も無かった。
ただ流石に主治医だけあって、美咲との関係を見抜かれてしまい、婉曲にだが小言を言われる。そりゃ高校生らしくは無いかもだが、別にいいじゃないか。迷惑かけてないし。
午後遅くの検査が終わると、外は薄暗くなっていた。と言っても天霧君が出てくるまでは少し時間があるな。
丁度良い。治療院には結構世話になったので、知っている部署に挨拶周りしてみる。そんな事をしている内に陽が暮れる。うむ、そろそろか。
駐車場から車を出して、当たりをつけておいた場所を探す。すぐに見つかった。それに招かれざる客もだ。あの白衣姿がアレか。
おっと、いかんな。アレが動き出したぞ。ならば。
クラッチを蹴飛ばしてアクセルを踏み込む。この世界、エンジンの咆哮はクラクションより耳障りだろう。
天霧がはっとしてこちらを向いた。
よし。そのまま車を進めて天霧の横で止める。
「よー天霧。用事は終わったんだろ。送るから乗れよ!」
「先輩!・・・いや、俺はちょっと」
「(いいから乗れ!)」
小声で、だが強く言う。
「あ、はい」
乗ってきた天霧を横目に車を発進させる。同時にコンソールのマルチ・ファンクション・ディスプレイにバックモニターを表示。
そこには・・・
「天霧、モニター見ろよ」
「・・・誰ですか?いや、気が付いてはいたんです」
「ああ、アルルカントの某派閥のリーダーだな。マグナム・オーパスと呼ばれている。名前は確か、ヒルダ・ジェーンとかいったかな」
「アルルカントの?どんな人なんですか」
「気をつけろよ。何しろディルク・エーベルヴァインが『あのイカレ女』という程の、悪い意味でのマッド・サイエンティストさ」
「そんな人が何故?治療院に関係が?」
「そっちはどうか知らんが、今回はお前さん狙いだろうよ」
「俺ですか?」
「ああ、天霧遥の治療をするから言う事聞け、ってところだろう」
「姉さんの!?」
「話に乗るなよ天霧。そもそもお前の姉貴のあれは能力によるものであって、治療でどうにかなるもんじゃないだろう」
封印の能力を医学的に対応する?天才なんだろうが信用できんぞ。
「・・・本当に先輩は、何でも知ってるんですね。ああ、今更ですか」
「ともかくだ。今回は上手くカットできたが、また接触してくるだろう。相手にするんじゃないぞ」
「わかりました。気をつけます」
そうしてくれよ。もうあんなのには近づくのも御免だ。
距離が離れてモニターからアレの姿が消える。ほっと一息ついた。久しぶりに緊張したぞ。