さて、周りの環境と自分の体については色々わかってきた。
将来についてはゆっくり考えるとして、次に何をするべきなのか?
そうだな、やはり避けては通れない、この世界の根幹に関わる戦いについてだ。
知らなければならない事は色々あるが、まず手始めに一番興味があった、星脈世代(ジェネステラ)の使う武器、煌式武装(ルークス)について調べてみよう。
寮の自室に置いてあったパッケージからルークスの発動体を取り出す。
一見、腕時計に見えるが、なぜか2つある。メーカーはどうもヨーロッパにあるらしい。
3Dディスプレイにマニュアルを呼び出す。
名前は・・・『VAL-310R/L』
無味乾燥な記号の並びが気に入った。最後のRとLは右、左という事か。
解説に従って、右腕、左腕に装着する。
外観はどう見ても腕時計。液晶パネルらしき物が、しっかり現在時刻をデジタル表示している。その文字盤?の淵に一つだけ、小さなマナダイトが付いている。
起動は・・・とりあえず何度か練習してみた星辰力(プラーナ)の集中を試してみる。
瞬間、元素が再構築され、肘から拳まで覆うように黒いガントレットが現れた。
「こりゃ驚いた」
何もない空間から物質が現れるとは、初めて見た。本当にこの世界は驚く事ばかりだな。
さて、まだこの状態ではこのルークス、スタンバイ状態である。アクティブモードに移行するのに少し手間取ったが、何度か試している内に成功した。
このあたりは後でちゃんと設定しておかないとな。
さて、アクティブ状態でもこのルークス、あまり変わらない。ただ拳の先端部分に薄緑に輝くナックル状のブロックが発現しただけだ。どうやらこのブロックが高い強度と打撃力を発揮する事になるようだ。
しかしこれは完全な接近戦、といか格闘戦用に特化したルークスだな。
こうなると自分が戦う場合、2本の腕だけが頼りの戦法になるんだが、それでいいのか?と言っても剣や銃の経験など無いので、ちょうど良いのかもしれない。
ともあれ、拳を使った戦い方の知識を得るのと(ボクシングあたりか)、実際このルークスを使ってみる事を並行して進めるか。マニュアルを読み進んで行くと、このルークス、形状や強度、使用可能な流星闘技(メテオアーツ)をかなり自由にカスタマイズできる事が特徴だそうだ。その辺り、色々いじってみるのも楽しみになってきた。
※ ※ ※
次はトレーニングである。それも身体能力ではなく、戦闘能力の向上を考えてプログラムしなければならない。
最初にジムで一通りのマシントレーニングをやってみたが、それではあまり役に立たないな。まあ充分なウォーミングアップにはなったが。
仕方ないので、目についたサンドバッグの前に立ってみる。見た目は変わらないが、表面は多分C-FRP系の繊維、中身は専用の衝撃吸収材になっている。相当重そうだな。まあそんな事を考えていても埒があかない。
適当に距離を取り、右足を前に出し、右手を握りしめる。
息を吸って、吐いた瞬間、全力で右拳を前に放り出した。
かなり強いフィードバックと共に、サンドバッグが跳ね上がった。
やはり体が覚えている。少なくとも両腕を使った拳撃については、特に誰の指導も受けずに大抵の事は出来るようだ。後はこの身体の使い方にさえ慣れれば、それなりの事は出来そうな気がする。問題は実戦に近い形式の訓練だが、これは一人ではできない。ただ剣や銃といった形式のルークスを使って訓練している連中には声がかけ辛い。まあしっかりぼっちになってしまったせいもあるが・・・しかしいきなり異世界に放り出されて、すぐに周りと上手くやれなんて普通無理だよね。うん。
ちょっと考えて、確か訓練中に擬形体=パペットが使われていたのを思い出す。あれなら思い切り殴れそうだし、格闘戦の動きもかなり再現できているようだった。早速調べて、貸し出しの申請をしてみたのだが、期待を裏切られる。訓練用パペットは数に限りがあり、消耗も多いので序列上位者から優先して割り当てられていた。そろそろ次の星武祭(フェスタ)が近づくこの時期、リスト外の生徒にはまず回ってこないらしい。こいつはまいったな・・・。
※ ※ ※
今日も放課後のトレーニングを終えて、学園内の散歩である。
周辺の地理は大体記憶(再認識ともいう)したが、まだまだ細かい所では気がつかない場所もある。なので最近はそんな一見、誰も通らないような場所もうろついてみたりする。傍から見ると結構怪しいのだが、自分はそういう事はあまり気にしない。それにおかげで面白い物を見つける事が出来た。
そいつは人通りの無い、建物と倉庫の間に入っていった。
濃紺か黒のフード姿。顔は良くわからない。だが自分にはピンときた。
パペット!それも学園内で闇討ちをやっていた奴じゃないか?
確かサイラスとかいう生徒がフェスタ出場予定の有力選手を、パペットを使い事故にみせかけて負傷させていたはず。時期的にみてもそうだろう。こりゃ面白い事になった。あのパペットならいくら殴ってもかまうまい。訓練にちょうど良い。
そう考えてしまった自分は、相当この世界に毒されてしまったんだろう。
ともあれパペットの後をつけながら、やりやすい場所を探す。近くにサイラスもいるはずだが、まあほっといていい。えてして狙う物は自分が狙われるとは考えない物だ。それにパペットが壊されても自分が操作していた、とは言えないだろう。確かあいつは自分の能力を隠していたはずだ。
少し考えが過ぎたみたいで、目標を一瞬、見失う。周りは色んな資材を置いた倉庫のような物が並んでいる。どうやらクラブ活動用の機材や道具の置き場らしい。中に入られたらまずい、と思いつつ集中する。
それで微かな音に気が付く。
右側少し先の倉庫だ。その扉が開く。
いや、開くではない、中から外に倒れようとしている。
その前に一人の生徒。いつの間に。まだ状況に気づいていない?
「危ない!」
叫ぶと同時に駆け出す。倒れる扉との間に割って入り、腕と肩で扉を受け止める。かなりの衝撃。痛みを感じつつ何とか扉を押し戻す。それなりに重い。知らずに当たっていたら相当な怪我になるだろう。
とりあえず扉を押し付けて倉庫を離れる。その先に一瞬、さっきのパペットがみえた。
「あいつ!」
追おうとしたが、すぐに視界から消えた。どうしようか。
「あ、あの~」
声がかかった。
振り向くとそこに一人の女生徒。
「大丈夫ですか?」
さて、この場はどうしたもんかな?