まずは主人公二人を座らせる。ちょっとは落ち着いて欲しいのだが・・・
あーあ。ごく自然に寄り添いやがった。まあいいけど。
適当に選んだソフトドリンクがテーブルに並ぶ。
グラスを取るが、乾杯と言う訳にもいかないか。お疲れ様、も違うような気がする。
「何というか、おめでとう、かな?良かったね」
「美咲、俺の台詞とるなよ」
「あ、ありがとうございます」
「・・・♡」
お姫様は無言だが、天霧の肩に頭を預けて輝くような笑顔だ。幸せの絶頂、というところか。こんな笑顔もできたんだね。隣の美咲を忘れて思わず見惚れそうになる。
いかんな。
そういえば自分は美咲にこんな表情をさせた事はあっただろうか。いや、今はそんな事を思っている場合じゃないな。
軽く頭を叩いて切り替える。
「ラブラブの所を悪いけど・・・そんな気分に水を差す話をしなきゃね、令」
うーん、ビールが欲しいな。制服で来るんじゃなかった。
「ああ、分かっていると思うが、二人の関係は秘密だ。まず内側としてはグリプスの為だな」
「そうですね・・・」
「流石にわかるか、天霧」
「ええ、自惚れでなく、あの3人が俺に好意を持ってくれているのはわかりますから・・・」
「だよなあ。傍から見てもそうだったし。まずいよなあ。この際だ。いっそ正直に打ち明けてチームとしては協力をお願いするか?」
「無理ね」
「無理だ」
女二人に一刀両断されてしまった。息合うね、君たち。
「駄目かぁ・・・」
「もし最初が何とかなっても、ギクシャクするのに1週間、チームが壊れるのに1ヵ月かな」
こういう時は女の言う事の方が正しいんだろうね。
「ならば隠し通すしかあるまい。大体外にバレても困った事になるし」
「ああ、天霧の方はわからないけど、お姫様の家、大騒ぎ、かな?」
「国王陛下は歓迎するだろ。いや、笑顔で責任とって結婚しろって言うな。いや、もう言われてたっけ?」
二人がはっとした顔をする。
「毎回毎回驚かされるが、深見先輩は知らない事が無いのか?」
「そうでもないよ。ともあれ騒ぎにはなるだろ。マスゴミにも餌を与えるようなもんだし。統合企業財体も動くかもしれん」
「なんだか凄いことに・・・なるわね、これは」
「そういう訳だから、お前さん達は学園内では距離を置け。多少不自然に見えてもかまわん。トレーニング中も気をつけるんだ」
「それしかないか・・・でも、綾斗・・・」
「ああそれから、天霧。女子寮侵入は禁止な。バレたら流石に言い訳きかない」
まあ一度位ならなんとか・・・いや、あの3人は絶対不審に思うからだめだ。
「そっ、それでは私達はどうやって、その、付き合って行けば・・・」
「外で会えばいいでしょ」
「俺達に付き合えば、ロートリヒトのホテルまで直行できるな」
「ホ、ホテル!?」
「はあ・・・あんたって、どうしてそういう話に持っていくの?」
「仕方なかろう。大体なあ、女を知ったばかりの奴が、そうそう我慢できると思えん。天霧だって同じさ。そうだろう?」
「いや、それはその・・・あ、でもユリスを大切にしたいと思っていますし」
「あ、彩斗・・・お前に求められるなら、私はいつでも・・・ 」
見つめ合う二人。
うわぁ。砂糖を吐くとか壁を殴りたくなるとはこういう事か。
「まあとにかく、私達は協力するから、その辺はゆっくり決めよう。少し早いけど食事にするよ」
美咲がモニターを展開して連絡を入れる。
ちょっとインターバルだな。
※ ※ ※
ダイニングバーといっても流石高級店、料理の種類、レベルも相当なものだ。まあそれもあって選んだんけど。
そして料理の種類も選ばせてもらった。
スタッフが運び入れるワゴンから出てくるのは・・・
「何、コレ?」
「さあ?」
お姫様もしらないか。まあヨーロッパではそうなるか。
鉄板の上で湯気を立てているのはブリート・スペシャルにファヒータス。
「今日の夕食は俺の希望でね。メキシコ料理だ」
「メキシコ、ですか」
まあ実際はアメリカナイズされたメキシコ料理だが、まさかこちらでも見る事ができるとはね。
「肉、野菜、チーズなんかを一緒にいける、美味いぞ。じゃあ始めようか」
「はい、頂きます」
自分以外は初めての味だったようだが、概ね好評だな。
天霧はナイフとフォークには慣れていないか。お姫様が楽しそうに取り分けている。これが二人きりだったら、「あーん」とかやりそうだな。
食事の後は夜景を見ながら話の続きになる。
窓はアスタリスクの外側を向いている。ここからだと、ちょうど星導館学園を遠くに見下ろす位置になるな。
あそこで色んな事があった。
でもあと2か月ちょっとで生活の場は変わるんだよな。
主役二人にその事を言うと、微妙な表情で惜しんではくれた。そういえばこの二人、友人後輩兄弟はいても先輩キャラって周りにいなかったような。まあこの先はわからんか。
この先と言えば。
「そうは言っても、お前さん達の関係が発覚した時の事も考えておかないとな」
「そうだけど、そうなったらホント、どうすればいいの?」
「正直私も、どうなるかわからないな」
「俺もです」
ですよねえ。こんな特殊な状況、聞いた事も無いよ。
「感情、だからね。それも3人。嫉妬につける薬は無いよ」
まあその通りなんだが。しかし・・・
「劇薬でよければ無いでもないな」
「え!?」
「劇薬・・・どんな手だ??」
お姫様には辛い方法だよ。
「結局、問題なのは天霧が一人の女だけ特別扱いしているっていう事だろう?」
「それは、まあ、そうだが・・・」
「だったら前のように、全員同じ扱いになればいい。同じスタートラインに戻す、みたいな」
「そんな事ができるのか?」
「あ、まさか」
美咲は気がついたか。そうだよ。
「うん。天霧が他の3人、皆抱いてしまえばいい」
「そんな・・・! 無理です!」
「・・・」
思わず叫ぶ天霧に対し、お姫様は憂い顔で俯く。
「無茶な手だねぇ」
まあな。天霧も会長はともかく、他に二人を相手にするには抵抗あるだろうし。
「だから劇薬なんだ。効果もあやしいしな。まあ今はそういう手もある、程度に思っていてくれ」
天霧ハーレムが実現するか?いや、そんな事態になるのはあまり考えたくないな。
※ ※ ※
ドアを開けると、店内に客はいない。
平日のまだ早い時間だからこんなものか。
しばらくぶりに来た、BAR 「KAJA」の雰囲気は変わっていなかった。
カウンターに並んで座る。
この店は好きなんだが、今日は違和感が強いな。何しろコートを脱ぐと制服姿だ。美咲も同じ気持ちらしく、落ち着かない様子で店内を見回す。
本来こういう店は落ち着く為にもあるんだが、仕方ないか。
「マスター、ノンアルコールビールと、何かフルーツカクテルないかな。アルコール抜きで」
「しばしお待ちを」
店主が幾つかの瓶を取り出すのを見ながら言う。
「本来ならお前さんもここの雰囲気に合いそうなんだが、この格好じゃ台無しだな」
「そんな事より、あの二人の事よ」
「ん?そろそろ1回戦が終わる頃か」
食事の後、あのホテルに取っておいた部屋のカードを渡して一旦別れた。
本来は自分達で使うつもりで予約してたんだが・・・
話の後、あの二人、特にお姫様の雰囲気が微妙になってしまったので、無理矢理部屋に押し込んで親睦を深めてこい、と言ってやった。
まあ外泊は無理なので、時間を決めて迎えに行く事になっている。その間、自分達はここで時間を潰す事にした。
「そうじゃなくて。令、どうしてあの二人にここまで協力するの?別に駄目ってわけじゃないけど」
そういえば、何故だろう?
主役と仲良くしておけば色々メリットがあるとは考えていたが、そんな打算だけじゃなかった気がする。
天霧がいい奴だったからか?
お姫様が天霧にお似合いだったからか?
「あの二人が気に入った、という言い方は上から目線で嫌なんだが・・・そんな感じ」
うん、そんな感じだな。