異世界転生体験記 ~アスタリスクの場合~   作:jig

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変わる日常

2月。

1年の中で、一番寒い月は1月か2月どちらかだが、今年は2月かな。

今年は、と言っても、アスタリスクに来て実質半年程度。他の年の事は知らない。

 

最近は授業に出るのも半分位、後の時間は自由だ。

今日も午後は空いたので、市内に来ている。遊びではない。会社の説明会だった。

 

説明会といっても自分一人が総務の担当から話を聞いて、わからない事を質問する程度。今年の採用は自分を入れて3名なので個別対応でも構わないそうだ。この規模の会社なら新人3人は妥当だな。自分以外は市外の高校から来るそうで、もちろん非ジェネステラだ。その辺は気にしても意味がない。

 

「他に質問はありませんか?」

 

「特には・・・ああ、それじゃもう一つ。これから卒業まで、空いた時間はアルバイトで過ごすつもりですが、構いませんか?」

 

「ええ、特に問題は・・・。バイト先はどちらですか?」

 

「まだ決めてはいません」

 

「そうですか・・・。うん。それなら、こういうのはどうでしょう。ウチでバイトしませんか?」

 

「は?」

 

「少し早いが仕事のOJTになります。職場の雰囲気も知る事ができます」

 

「なるほど、悪くないですね・・・」

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

休日の朝。

六花技研本社、作業準備室。

久々に作業服姿になっていた。

 

「今日の作業は行政エリア、厚生局北棟の空調機械室です。到着してから安全ミーティングですが、今回は先日から来てもらった深見君にも現場に入って貰いますので、特に作業中の安全確保に注意する事。作業工具の準備は―――」

 

出発前の注意を聞いて社有車に乗り込む。

バイトのシフトとしては、平日放課後に週2回、そして週末1日を1回。今回は初めての現場だな。放課後はどうしても時間が半端になるので、データまとめや工具の清掃など雑用だけで、休日は1日現場になる。作業内容は企業、公共設備、商店などの水道メンテナンスだが、意外にもアスタリスク市外での仕事も増えているらしい。

まあそっちに行くのは正式に社員になってからだな。

何してもこれで多少は金が入る。美咲のヒモみたいな真似をしなくてすむ。

その美咲も、自分と時間を合わせるようにバイトを始めるそうな。こっちはまともに商業エリアのホテルスタッフにしたらしい。

 

さして時間もかからず、今日の職場に着いた。

車から降りて作業帽をかぶり、安全具のチェック。工具箱を持つと主任について歩きだす。

これもまた、懐かしい感じだ。

さて、前世の経験がどこまで役にたつかな?

 

 

※  ※  ※

 

 

 

少し考えればわかる事だったが、体を使う仕事に対して、ジェネステラの身体能力は凄く便利だ。

今まで意識していなかったんだが、例えば。

 

「連鶴、だったか。刀藤がその小さな体で日本刀を振るい続けて平然としているのも、修行の成果だけじゃなかったんだな」

 

「そう言われると、そうですね」

 

午後の食堂。

最近は意識してレギュラーメンバーの間に顔を出すようにしている。

理由は天霧とお姫様の仲を気にして、という事にしている。

今のところ、二人の関係は自分達の尽力によって冷戦状態からは脱した、と思われている。もちろん実態は友好同盟を通り越して国家統合にまで至っているんだが、とても公表できないよな。

 

「まあお前さん達はまだ考えなくてもいいが、この力の使い方は戦い以外にもあるって事さ。俺の職場はまさにそれだ。やり過ぎると不安全行動で叱られるから注意はするが」

 

「不安全?どんな事ですか?」

 

「急いでいるからといって3階の足場から飛び降りて平然としていたり、とか」

天霧、お前さんも似たような事、やっただろう。

 

「それは、普通の人が見ればびっくりしますね」

 

「そんなところだ。さて、そろそろ行くか。街中に用がある奴はいるか?3人までなら乗っけて行くよ」

 

「あれ?今日もバイトでしたっけ?」

 

「いや、不動産屋巡りだな。そろそろ新居も探さないと」

 

「新居・・・」

 

女達の表情が微妙になる。自分と美咲が卒業後、同棲、いや一緒になる事は会長以外にも知らせてある。

そう聞くと色々思う所がありそうだな。

 

「それでは深見さん。商業エリアまでお願いできますか?」

 

「会長かい。珍しいね。うん、車を持ってくる」

 

ここで貴女か。今度は何を話せばいいのかな。

それとも。あるいは。もしかして。

ま、なるようにしかならんか。

 

 

 

車を出して学園内に入る。

会長はすぐに出てきた。

ちょっとわざとらしいが、一旦降りて助手席のドアを開け、一礼する。

 

「ご丁寧にどうも」

 

「まあ、これ位はね」

 

学園を出て、まっすぐに市内に向かう。

 

「で、どちらまで?」

 

「中心区のホテル、エルナトまで」

 

「おいおい。まさか六花園会議!?」

 

「いいえ。あのホテルはそれ以外の会合等にも使われるのですよ。今日はある企業連合の方との打ち合わせです」

 

「そういう公式行事に行くのに、こんな得体の知れない男が一緒じゃまずいだろうに」

 

「いえいえ。同じ星導館学園の生徒なら問題ありません。しっかりエスコートしてくださいね」

 

「まあ、やれと言われればやるけどね」

 

相変わらずいい性格してるね。この子は。

 

「それにしても、生徒と呼ばれる立場もあと1ヵ月で終わりなんだが」

 

「そうですね。今でも残念ですが。・・・綾斗の方、いかがでしょうか?」

 

「心配いらんよ。あいつも立場をわかっている。グリプスへ向けてのトレーニングが本格化すれば大丈夫だろう。お姫様もそうだ」

 

真顔で嘘を吐く。いや、嘘とも言い切れないが、あまり気分は良くない。

しかし、本当に気づいてないのか?一番怖いのはこの子なんだが。

 

「それなら安心ですね。もう少しの間、あの二人の事、お願いしますね」

 

その笑顔からは、少なくともネガティブな面は読み取れない。

 

もう少し話していたかったが、ホテルに着いてしまった。

2階のメインエントランスに車を入れ、正面ゲートに止める。旧車でそんな事をすると結構目立つが仕方なし。

注目を浴びながら降りると、助手席のドアを開ける。

会長は優雅に出て来る。

 

「迎えは必要かな?」

 

「いえ。そこまでは。またお会いしましょう」

 

「ああ、またな」

 

小声でやり取りして見送る。

さて、この後は自分の用事だが・・・セレブな世界から一気に庶民の世界に、といったところか。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

ちょっとやる事が増えてきたな。

 

バイトは継続、というか少し増えている。どうも人手不足のようで、できるだけ来てくれと言われると断りにくい。どうやら会社で働いていて、チームにしろ部下にしろ、充分な人員が得られる事はある訳がないのはこの世界でも同じようだな。

新居探しも気に入った物件はまだない。流石にマンションは無理なので、静かな所の1LDK位のアパート、と思っているんだが、美咲も納得させないといけない。決まったら住所登録、引っ越しの準備、は大した事ないか。

そしてもう一つ。

天霧君とお姫様の面倒を見る、がある。

 

さて今日は、世間一般でいう所の休日。

で、バイトが終わると学園に戻って車を出す。

お姫様と美咲を乗せると商業エリアに逆戻り。えーと、今日の待ち合わせはあの店の前か。お、いたいた。

車を止めるとすぐに天霧が乗ってくる。

 

「綾斗!」

 

「ユリス!」

 

お前ら、もう少しの辛抱なんだから自重しろよな。あ、こら。俺の車の中でそんな事するんじゃない!

後部座席でいちゃつくカップルに美咲も苦笑するしかないようだね。

 

で、お二人の目的の場所だが・・・

 

ロートリヒトでも少し外れにある、少し派手目の大型ビル。

ホテルの名を冠してはいるが、むしろ宿泊客は少ない。つまりはそう言う場所だったりする。

車用の入り口から入ると、スロープを登っていく。

 

「5階が空いてるみたいだね」

 

車を5階フロアに入れる。開いている部屋の駐車スペースに停めると、周りが3Dスクリーンでパーテーションのように囲われる。つまりは人目に触れず部屋に入れるようになっている。

 

「先輩、今日もありがとうございました」

 

「それでは、夕方まで・・・」

 

「わかってるよ。今日は俺達も用事があるから一旦戻る。迎えは5時位で良かったかな」

 

「はい、お願いします」

 

「綾斗・・・!早く・・・」

 

会話もそこそこに密室に消える二人。

まったく、苦笑いしかできないな。

 

 

 

 

 

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