二月も後半。バイト先にて。
「深見君、明後日は入れるか?」
「ええ、いいですよ」
「シフト出た後に追加ですまんが、手が足りなくてね。現場は24ブロックの・・・ってわからんか。端末に送ったから。ビル内配管と制御盤の解体。松井の班に入ってくれ」
「わかりました」
送られたデータを見る。これって・・・再開発エリアじゃないか。あんまり良い印象ない場所だよな。そもそもあまり行った事も無いし。
しかしまあ、仕事だ。
「明後日だと学園の都合があるので、この時間だと・・・直行して良いですか?足はあるんで」
「おう、かまわんよ。マイカー利用申請で処理できるように総務に言っとくから」
「それでは作業着と工具はこのままお借りします」
バイトのはずなのに、すっかり戦力にカウントされてしまった。
突然の現場作業も断れないし・・・
社員になる前から社畜になってどうするんだ。
※ ※ ※
「ホントっすねえ。仕事を持つと辛いですよ、先輩」
学園、寮にて。こいつともケジメをつけておかないとな。
「その辺はお互い様だろ。夜吹」
「え?何の事ですか?」
「おいおい、今更だろう。お前さんが影星で、会長の仕事をやっていたのは知ってる。ああ、そういう家柄だったな。気に入ってはいないだろうが」
「な、何でもお見通しですね。しゃれになんねえっすわ」
「安心しな。これ以上の事は知らんし、公言するつもりもない。卒業したら尚更、関わる事もなくなるし」
「それ、お願いしますね」
「ああ、わかっている。世話になったな」
そういえばこの世界に来て、最初に接触したレギュラーはこいつだったな。情報を得る為、何度か使って、多少話す程度の仲にはなった。
そうだね。世話になったよ。
元気でな。これからも上手くやれよ。
そんな調子で、身の回りの整理を始めた。
人間関係は整理する程の事もないが、多少はケリをつけておかないと、後で困るかもしれない。
そういう奴は多くはないが・・・
夜吹はこれでいいとして、会長はどうするかな。あと、カミラ・パレートだ。
うーん。卒業式までに何とかしないと。
考えながら寮を出る。
ここ数日は雪こそ降らないが、かえって寒さが厳しい。この後どうしよう。美咲と一緒に大学部でも行くか。研究の手伝いも終わった訳じゃないし。
「あ、いたいた。令」
「おう。美咲。ちょっと付き合えよ」
「うん」
そのまま歩いて大学部校舎まで向かう。
「最近お姫様はどうだ?」
「令も知ってるでしょ。落ち着いてはきたよ。最初はいつバレるか、冷や冷やしてたんだからね」
「まあ二人きりの時のバカップルぶりは酷かったからなあ」
「普段は抑えてる反動だよね、あれ。あの子があんなにデレデレになるなんてねー」
「それに付き合う天霧もまあ、アレだけどな」
当たり前だが大学部の研究棟にはすぐ近く。雑談している内に着いてしまう。
ちょっと間が開いたが、自分達にとってはお馴染みの場所となった認識工学研究室。
「こんにちは」
「マリさん、しばらく」
何となく、室内の雰囲気か柔らかい。という事は・・・
「クラウス、いたのか」
ああ、二人きりだったな。邪魔してしまったか?
「ああ、ちょっとな。それで?」
やはりな。奴の態度が堅い。悪かったねえ。
「実験に付き合おうと思って。ああ、その前に聞いとこう。卒業後も来た方がいいのかな?」
プラーナとマナを使った感覚、認識の共有実験はまだ終わった訳じゃない。
「え?いいの?この先も手伝ってくれると助かるんだけど」
「ええ、まあ。仕事があるので何時でも、とはいきませんが。あと、学園に入れる許可申請もお願いしますよ」
ふむ、卒業後も学園との最低限の関わりはできるな。レギュラー陣の様子も少しは見れるかもしれない。
「OKOK!喜んで手続きしちゃうぞ。任せて~」
「という事だ。クラウス。まだしばらくは厄介になる。ルークスの方も頼むよ」
自分のルークスは私物で、所有も問題ない。よって卒業後も持ち歩くつもりだった。何しろ機能が多彩なので、いじっているだけでも面白い。ただトラブルがあった場合は、対応できる奴が必要だろう。
その後はあちこちにセンサーを取り付けられて、美咲と模擬戦をさせられた。
それが終わると二人で妙なパズルをさせられたり、ゲームをしたりと、不可解だが面白い実験だった。
何でも二人で共同して実施する行動からデータを取るのが重要だそうな。
「いいねえ。なかなかのデータが集まったわ。やっぱり共同作業でのパターン解析はいいわぁ。もっと続けよう!何か良いやり方無い?」
マリさん。データを見て大喜び、目がキラキラしてる。あ、この人ってアレか?
「良いやり方ねぇ・・・あ、そうだ。いっそのこと俺と美咲でセックスしてその時のデータを取るってのはどう?」
「おい!」
「ちょっと!」
「・・・それだぁ!! それなら最高のパターンが見れる!すぐ準備するね。クラウス、適当にベッドかソファー探してきて!」
あーあ。明るい雰囲気と性格に騙されていたが、この人も立派なマッドサイエンティストだよ。
「一応冗談のつもりだったんだけど」
「当たり前でしょ!クラウスもマリさん止めて」
あーあ。ぐだぐだになってしまった。
結局三人ががりでマリさんを落ち着かせて、ついでに自分が美咲に殴られてこの場はおさまった。
もっともその後、何度もそのデータ採取を頼まれる事になったんだが・・・
※ ※ ※
休日。
だから仕事。いやバイトか。
食堂で適当に朝食を済ます。学園の食堂はどこも安くて美味いな。もうすぐお別れが残念だ。
寮の自室に戻ると着替える。普段は制服だが、今日は現場直行なので六花技研の作業服だ。クリーニングパッケージから野外作業用の安全服を取り出す。耐火、耐切断、絶縁の機能をもつ機能牲繊維でできた上下セパレートの青いユニフォームだった。これに耐衝撃性があれば防御力は学園制服と並ぶな。
作業服の上から安全帯とツール・ベルトを掛ければ装備完了。作業帽を被ると軽ヘルメットは肩のフックに掛ける。専用グローブは工具バッグの中に入れてあるから大丈夫。では行くか。
当たり前だがそんな姿で学園内にいると、相当不審に見られる。
本来学生と教師しかいない所に、どこから見ても工事作業員が堂々と歩いているんだ。
通り過ぎた後にふり返る位は良い方で、立ち止まってまじまじと見られたりもした。
そんな一人から声をかけられた。
「先輩・・・深見先輩ですか?」
「ああ、天霧か。おはよう」
「おはようございます。それ、仕事でしたか?」
「そうだよ。いやバイトなんだが。驚かせたか?」
「ええ、一瞬誰だかわかりませんでした。すみません」
「いいさ。天霧の目をごまかせたなんて俺もなかなかだな。いや、変装とか気配消したりのスキルは持ってないけど」
「そうですね。でも意外に分からないものですね」
ああ、そういえばこいつって変装のセンスが全然無かったな。
「そうそう、チーム・エンフィールドの立ち上がりは順調みたいだな」
「ええ。トレーニングは楽しいですよ」
「いい事だ。ただ、まあ、バレないように注意は怠るなよ」
「はい。その事はユリスも合わせてくれていますから」
「そうだな。じゃあこれで」
「はい、どうも」
今のところは穏やかな状況か。
今朝はあまり寒さが厳しくないが、車内は冷え込んでいる。
エンジンをかけると暖房もスタート。ハンドルとシートに組み込まれたヒーターも作動して、すぐに暖かくなった。よし。モニターにマップを表示させて出発だ。
再開発エリアまではそう時間はかからないが、着いてから現場までの移動は少々手間取る。
いくらナビが優秀でも初めて来る場所だからな。
ちょっと遠回りになってしまったが、それ故に気になる場所が目に入った。
たしかここは去年、天霧達とサイラスとかいうのがやり合ったビルじゃなかったか?
後で見てみるか。
そう思ったせいで、最後のイベントのフラグを立ててしまう事になった。