異世界転生体験記 ~アスタリスクの場合~   作:jig

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事後処理

警察の事情聴取という奴は、例え被害者であっても長く、面倒な物だ。

それはこちらでも変わりなかった。まして自分は被害者とは言えない。当事者?

そんな訳で、それからしばらくの毎日は警備隊の本部と学園の往復になってしまった。

 

それでもあの時、シャーナガルムの追及から逃げるという選択肢は無かった。

何しろ今回叩きのめした連中、馬鹿で無ければそれなりに力を持ったプロ集団だ。そんな奴らとドンパチやってしまった以上、公的治安当局の関与はあった方が良い。ある意味で保護も期待できる。

引き換えに多大な面倒を抱える事になったが。

 

現場に行って立ち合いの元、検証作業に付き合うなどマシな方で、しまいには奴らとの戦いの再現までやらされそうになった。

天霧達とウルサイス姉妹も、一度ならず警備隊に呼ばれたようだが、こちらはそう大変ではなかったらしい。

何しろ天霧は警備隊長と面識がある。その辺りも考慮されたな。

 

 

※  ※  ※

 

 

 

そんな面倒な毎日を過ごしている内に、カレンダーはいよいよ3月になった。

 

お馴染みの面々と、放課後の食堂にて。

 

「まあなんとか、警備隊との付き合いは終わりになりそうだ。やれやれだな」

 

「お疲れ様でした。そちらが終わるなら、学園としても問題にしないでしょう」

 

「ならばいいけど。会社の方はどうなの?」

 

「気になるのはそっちだな」

 

バイトの立場で、勤務時間後とは言え、退勤途中に問題を起こした、と言う事になる。

とりあえず総務部との相談は何度かやって、その結論だが。

 

「今回の件について、報告書じゃないけど、経緯を書面にして提出する事になった。進路指導の担当にも見てもらうが、会長、貴女にも一筆願いたいんだが」

 

ここでまた借りを作りたくはなかったんだがなあ。

 

「わかりました。お安い御用ですよ」

 

まあ、卒業していきなり無職でヒモにはなりたくないし。

 

「こんちは~」

 

「夜吹か。そっちはどうだ?」

 

「それなりに情報は集まって来てますよ」

 

よし、そろそろ聞かせてもらうか。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

もう寒さはピークを過ぎたが、夕方ともなるとまだまだだな。北関東ともなると尚更だ。

そんな冷たい空気をかき分けて、室内に入るとほっとする。

急いでエレベーターに乗り、最上階へ。

 

「俺が最後か。待たせたな」

 

「それはいいが・・・瀬名先輩は?」

 

「今はこの話を聞かなくていいだろ。宥めすかして置いてきた」

 

商業エリアの高級ホテル、その最上階。ダイニングバー『スターライト』

こういう話をする時には便利な店だ。

 

「それにしても、似合わない姿だな。ラミレクシア」

 

「余計なお世話だ。グリューエンローゼ。・・・なんだってこんな所に」

 

今日のイレーネ・ウルサイスは珍しく、レヴォルフの制服をまともに着ている。何しろ場所が場所なだけに、最低限のドレスコードは要求される所だからね。

 

「あまり聞かれたくない話になるからな。では誰から話す?夜吹か。・・・ああ、こいつは夜吹英志郎。星導館の新聞部で色々知ってる。多少は裏の世界にも顔が効くらしいね」

 

「いや~それ程でも。で、どうします?ロートリヒトや再開発エリアの噂なんかになりますけど」

 

「じゃあ頼む」

 

「はい。まずはっきりしているのは、ウルサイスの妹ちゃんを攫った連中、レヴォルフの連中っすねえ。まあ退学した奴らも混じっていましたが」

うん、その辺りは警備隊でも聞いた。

 

「という事は連中、タイラントに逆らったという事か」

 

「いや、元からディルクの野郎に従わない奴らはいる。あたしも命令でそんな奴らを叩いた事もあったしな」

 

「ふむ、ではその頭の悪そうな奴らが外の人間に良いように使われたって事だな」

 

「いや、それがそうでも無いらしいっすよ、先輩」

 

「おお?」

 

意外だ。思わず妙な声を出してしまった。

 

夜吹の話をまとめるとこうなる。

まず最初にレヴォルフの反会長派が妨害工作を企んで、学外のドロップアウトした連中に声を掛けて人数を揃えた。

そしてそいつらの意向でプリシラ・ウルサイスをターゲットにした。

もっともこの時点で本気で誘拐までは考えていなかったらしい。少しでも負担になれば、といった感じで一人になる所を狙って実行。

ところが成功してしまった為、返って扱いに困り、慌ててマフィア関係に情報を上げたところ、市外の組織から買取りの打診があった為その話に飛びついた。

しかしドタバタで話を進めてしまった為、肝心の引き渡しの場で話がこじれて騒ぎになり、某通行人の干渉を許した、といった所らしい。

 

「そんな事情が・・・。何というか、災難だったね。イレーネ」

 

「連中、初めからタイラントと敵対してたのか。だから・・・」

 

「ああ。ディルクの野郎には怒鳴り込んでやったが、あいつ肝心な事は何も言わねえ」

 

「あるいは今回の件も、反対派のあぶり出しに使おうとしていたのか?でなけりゃあっさり誘拐なんてできんだろう」

 

「何だと!まさかディルクの野郎・・・プリシラを餌にしたのか!!」

 

「いや~。それはどうですかねえ?」

 

「というと?」

 

「妹ちゃんには猫、ああ、黒猫機関の護衛が付いてるみたいですね。ただ今回はそこが上手く行かなかったと言うか・・・何しろ連中、少数精鋭でしょ」

 

「どういう事だ?」

 

「いや~。去年、猫が一人、いなくなったでしょ。フェニクスで」

 

「そうか!沙々宮と刀藤が戦った・・・!」

 

ヴェルナーと言ったか。逃げられた事になっているが、実は夜吹が確保してたな。

 

「その補充がまだで、色々隙ができてたんじゃないかと」

 

「その程度の組織とも思えないが・・・」

 

いや、有り得るよ、お姫様。人間が構成する組織に完璧は無い。まして、秘密保持という制約を受けていれば、妙な所で軋みや綻びがでるものさ。

しかし今回も、結果的に得をしたのはタイラントだけか?何しろ反対勢力が一つ、つぶれたんだから。警備隊からあれこれ探られるというデメリットを差し引いてもプラスだろう。大したものだよ。

 

その後は軽く食事をしながら近況報告、世間話となった。

もっとも自分はあまり長くは付き合えない事情があった。

 

「そろそろ時間だ。じゃあ一足先に行くよ」

 

「お疲れ様でした」

 

「ちょっと待ってくれ。もう帰るのか?」

ん?イレーネさん、どうしたのかな?

 

「悪いが予定があってな。また後日だ」

 

「・・・わかった」

 

そういや連絡先は知らなかったな。まあ天霧を経由してくれればいいよ。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

急いで出たのは車屋の都合に合わせた為だった。

愛車の修理がやっと終わるのだった。

閉店時間ぎりぎりに店に駆け込むと、見事に復活したレグルスが待っていた。

 

今回、ダメージとしては深刻ではなかった。

左フロントフェンダーの凹み、傷とホイールアライメントのズレ、タイヤのパンク位だ。

しかし旧車なだけに、部品交換でOK、とはいかなかった。そもそも部品自体が無いんだ。結局人の手で直して調整するしかなく、時間が掛かった。

そして時間=費用である。

渡された見積りを見た感想。

 

(不幸だ・・・)

 

事実上、貯蓄がゼロになってしまった。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

「ここ、どうかな?」

 

数日経って、放課後。

居住区の一角。案内されたのはこじんまりとしたマンションの一室。

間取りは自分の感覚で表現するなら1LDKといったところか。

しばらく動けなかった為、新居探しの最終段階は美咲に任せきりになってしまっていたが、あいつの選択もなかなかいい。ここなら商業エリアに近いし、職場との距離も悪くない。

家賃もまあ、許容範囲だな。

 

「よし、ここに決めるか」

 

不動産屋のオフィスに戻って契約に移る。引っ越しの日はまた改めて決めるか。

 

また一つ、変化への準備が終わる。

 

車で学園まで戻ると、正門前に主役二人。

改めて話を聞く事になっている。

 

彼らとゆっくり話せる機会は、もう多くは無いだろう。

 

本当に、もう、あと僅か、なんだな。

 

 

 

 

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