異世界転生体験記 ~アスタリスクの場合~   作:jig

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卒業

星導館学園、高等部。

卒業式。

意外と普通の式典の後、卒業証書をもらって終わり。

今時、紙の証書だが、まあ様式美か。

実際には電子IDの経歴に高校修了が記録されている。

 

ともあれつつがなく式は終わった。といってもまだしばらくは寮にいるので、感慨としては微妙なところだ。

ま、一つの区切りではある。

 

 

「で、式も終わったばかりのところで、何をやってるんだ?」

 

「見ての通り、実験だが」

 

大学部、トレーニングルームで美咲と一緒に模擬戦をこなした後、、呆れ顔でやってきたのは数少ない友人の一人、クラウスだ。

 

「深見・・・さっきまでこの学園の最終イベントやってたのに」

 

「お前も同じだろう」

 

「俺はこのまま進学で、ここを離れる訳じゃない。でもお前達はなあ」

 

「まあまあ。そんな事より、この子達、すごいよすごいよ!」

 

テンション高めな研究者。認識工学研究室の刀根さん。一体何だ?と思ったら。

 

「もし今年フェニクスがあったら、この二人、決勝まで行けるかもね」

 

とんでもない事を言い出した。

 

「マジで?」

 

「認識力の拡大と思考ブーストによる判断力のアップ。お互いの判断共有による完璧なコンビネーション。これにプラーナを使った自己加速と強化を加えたら・・・大変な事になるね。超高速戦闘、そんなイメージが浮かんだわ」

 

「そいつは凄い。ただ、自己加速とか強化とか、聞いてないんですけど」

 

「もちろんこれから仕込むんだよ。それは時間が必要。だから今年フェニクスがあればと思ったんだよ。惜しいな~」

 

意味の無い仮定だよなあ。

だが面白そうだ。仕事に就いてからも、休日に大学部へ顔を出すのは案外楽しいかもしれん。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

その夜。

商業エリアに普通に存在している、いわゆるファミレスっぽい店。

珍しく高校生らしい体験をしている。

と言っても気心の知れた少人数で、パーティーとも言えない適当な集まり。

美咲が友人達とお別れ会をやると言って、自分も引っ張り込まれた。

自分達以外は数人の女子、男子は一人だけ。まあそれだけでも気が楽になる。いくら自分の女が含まれているとは言っても、自分以外全員女子、では辛いものがあるよな。

 

「それではあたし達の卒業を記念して、かんぱーい!!」

 

何となくリーダー的な子の仕切りで、周りが一気に盛り上がる。

ほほう。美咲の友人にしては随分とそれらしい女子高生だな。いかにもギャルっぽいが見た目はなかなか。

 

「そこ!怪しい目で見ない」

 

「いやいや、邪な事など考えてませんよ。美咲さん」

 

「ふん。あの子は駄目だからね」

 

と言う美咲の視線を追うと・・・ああ、あいつか。

 

「こうして話すのは初めてだな。佐久間、だったか? 深見だ」

 

「最初に話すのが卒業式の後とはね。まあよろしく頼むよ」

 

あの子の男、ってわけか。どうやらまともな奴らしい。こういう形で知人が増えるのもいいね。

 

その後も高校生らしい時間を過ごす事ができた。

女子達は美咲が一緒にいる時に会い、適当に挨拶した位でちゃんと話すのは初めてな面々だったが、気立ての良い子ばかりだったので合わせるのは楽しかった。やはり進学、就職で進路は分れるが、離れても連絡は取り合う、という事になった。自分も佐久間とはたまには会うって事で話をつける。奴は進学組だったのだ。大学部に行く時、機会があるだろう。これでまた一人、友人が増えたかな。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

友人と言えば、そう言っても間違っていない奴がもう一人。

 

数日後、そいつの家で夕食、という事になった。

 

「だた、男女間で友情が成立するかどうか。難しい所だな」

 

「はあ?いきなり何言ってんだ?」

 

「こっちの話だ。妙な事言ってすまん、イレーネ」

 

ウルサイス姉妹の家。

妹の方の、心尽くしの手料理を頂いた後、ソファーで姉の方と向き合う。

 

「どうかしたか?」

 

改めて周りを見渡す。住む場所はどうしても比べてしまうな。

 

「いや。自分が借りた所と比べても、結構いい所だと思って」

 

「ああ、ここは学園が用意した所だしな。あたしらの事情は知ってんだろ?」

 

「まあね。借金で縛っておいて、待遇は良くすると。決定的な反抗まではさせたくない、といったところか?」

 

「かもな。あのいけ好かない男が考えそうな事だな」

 

「そうさな・・・っとすまんね。招待してもらってつまらん話題を出した」

 

「いいさ。で、卒業したらこの辺に住むのか?」

 

そういってグラスにワインを注いでくれる。様になってるな。

 

「いや、ちょっと離れた住宅エリアだ。職場があっちなんでね」

 

そう言ってグラスを傾ける。ディナーに招待されるのに手ぶらではどうかと思って持ち込んだ勝沼の白ワインだが、なかなか良いな。

 

「卒業してアスタリスクで仕事かい。別に珍しくはねえが・・・そういやあんた、生まれはどこだ?」

 

「自分でもわからん。だから帰る所は無いよ。家族はいない。天涯孤独ってやつだ」

あれ?そういえば家族どころか親戚すらいないな。知らないだけかもしれんが。

 

「悪い」

 

「気にするなよ。それに家族はもうすぐできるしな」

 

そう言ってキッチンを見る。

そこでは美咲とウルサイス妹が鍋を前にあれこれやっている。

 

「ほー。もうそこまで・・・てか早すぎねえか?」

 

「良く言われるが、俺もあいつもそれで納得している。大丈夫だよ」

 

「そうか。ならば素直に祝福してやるよ」

 

そう言ってグラスを掲げ、笑うイレーネ・ウルサイス。そういう仕草も良く似合う。

 

「ありがとよ」

 

自分もグラスを上げ、一気に呷る。

 

自分もそうだが、イレーネも酒を飲んでいい年齢には達していないはずだ。

それでも付き合ってくれるのはありがたいね。

飲み友達ってのもそろそろ欲しいところだ。

いや、未成年が何を言ってるんだ、となるんだけど。

 

 

 

「プリシラちゃん、ありがとう。次に来る時はあたしも何か作ってくるから」

 

帰りがけ。

ウルサイス妹と美咲はすっかり打ち解けている。

 

「ぜひまたいらしてくださいね。楽しみにしています」

 

「こっちは何時でもいいぜ。ああ、今度はカジノでも行くか?」

 

「お姉ちゃん・・・?」

 

ああ、こいつは色んな意味でカジノには詳しそうだ。ただ生憎自分はギャンブルに興味は無いんだよなあ。

 

「ルーレットよりは美味い手料理の方に惹かれるよ。今日はすっかり御馳走になったね。プリシラさん、大したもんだよ」

 

「ありがとうございます・・・ああ!忘れてた。これも持って行って下さい」

 

渡されたのはまだ暖かい、調理用バッグだった。

 

「あれ!シチュー入れてくれたの?ありがとー」

 

「あと、これも一緒に」

 

今度はバスケットに入ったソフトブレッドとオリーブオイルの瓶だ。

 

「おいおい。夕食だけじゃなく、明日の朝食の用意までしてくれたのか。ありがとう。助かるよ」

 

「本当に・・・うん。きっとまた来るから」

 

「ああ。元気でな。また会おうぜ」

 

 

 

ウルサイス姉妹の家を出て、市街を歩く。

そう言えば車を買ってから、学園外で美咲と連れだって歩く事はあまりなかったな。

手を取って立ち止まり、夜空を見上げる。

冷たい空気の中、三日月と星が明るい。

 

「どうしたの?」

 

「いや、今年は色々あったな、と。卒業したせいか、振り返るようになった」

 

「そうだね。色々あったね。でもこれからも、きっと色々あるよ」

 

そうだった。

自分だけじゃない。

それに新しい生活がすぐそこまで来ている。自分も、美咲も。

 

「確かに。あまり過去を振り返っている場合じゃないな」

 

「そうだよ」

 

「ああ。そうだ。今日は寮に戻る事もないだろう。マンションまで行こう」

 

向こうも取り敢えず住めるようにはしてある。朝食まで用意してもらった事だし。

 

「うん。そうしよ。ああ、あたしが欲しくなった?」

 

「それもあるね」

 

「いいけど、一つはっきりさせて」

 

「何だい?」

 

「ずいぶんイレーネと話が弾んでいたみたいだったけど・・・」

 

そう言った美咲の握力が急上昇。まずい!

 

「浮気はしないよ。お前に刺されたくない。大体イレーネもそんな気ないだろ?」

 

「だったらいいけど。本当に、信じてるからね?」

 

大丈夫だから。お前一筋だから。他の女の相手はしないから。

 

だから落ち着いて!美咲さん!

 

 

 

 

 

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