異世界転生体験記 ~アスタリスクの場合~   作:jig

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出会いと変化

何だか妙な状況になってしまった。

あれ、これって例の有力学生の闇討ち、その一つを防いだ事になったのか?

少し考え込んで、返事が遅れていると、『彼女』が話しかけてきた。

 

「ええと、助けてもらったのかな?」

 

「そうなる・・のか」

 

「ありがと・・・その、怪我は?」

 

怪我?そう言われて気が付いた。手の甲に擦過傷ができているが・・・

 

「大した事はない。そっちは?」

 

「あたしは何ともないけど・・・扉が倒れる?ふつう?」

 

「そりゃおかしいよな。ええと・・・風紀委員?だったか。連絡してみるか?」

 

「うん、それじゃ・・」

 

端末を使い始めたのを見て、何故か思い出した。

この子、この間中庭でユリスを睨みつけていた子じゃなかったか。

あの時と比べて、随分と雰囲気が柔らかいので気が付かなかった。以前はかなりきつい感じがして、近寄り難いタイプかと思っていたが、今はそうでもない。それに容姿はかなり良い方だ。

 

「・・・・・」

 

何か言いたそうだったが、とりあえず自分はあまり言う事もないので黙っていると、彼女も言葉を無くした。

奇妙な沈黙は風紀委員がやって来るまで続いた。

 

 

※ ※ ※

 

 

風紀委員会の事情聴取はそれなりの時間がかかった。

 

事故にしては考え難い状況だったのは確かだが、パペットの事は言わなかった。何しろ自分しか見ていないし、説明のしようが無い。あんな所にいた事の理由は問われるが、適当にやり過ごす。彼女の方は、何かの備品を返しに行って通りかかったそうだが、狙われた自覚はないだろう。風紀委員達も、まだこの段階では事件とまでは確信できないようだった。

 

何とか風紀委員から解放されると、辺りはすっかり暗くなっていた。

今後は予定変更だな。あまり妙な場所を散歩するのはやめておこう。トレーニングと煌式武装(ルークス)の調整に専念する事にしようか。

そういえば彼女の名前を聞き忘れていた。しくじったな。まあいいか。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

次の日、新たな行動を起こす。

少し時間をかけて目的の部屋を見つけた。ドアをノックすると、適当な返事があった。

それを聞いて部屋に入ると、中にいたのは一人だけ。その男は作業中らしく、モニターから顔をあげもしない。

とりあえず声をかけてみる。

 

「煌式武装研究部はここでいいのか?」

 

「そうだが。何の用だ?」

 

「昨日メールでアポとっといたんだがね。少し俺のルークスを見て欲しいんだが」

 

「そうだったか?そういう事なら装備局へ行けよ」

 

「あっちは何だか敷居が高そうでね。ここでも見学、調整、相談は歓迎なんだろ?」

 

そこまで言うと、やっと奴はこっちを見た。そのタイミングで、ルークスの片方を差し出す。すると相手の雰囲気がいきなり変わった。

 

「お!EUROX社のVAL、3シリーズか。ちょっと珍しいな」

 

「そうなのか?確かにあまり見ないタイプと思ったが」

 

「アスタリスクではともかく、アジア圏ではあまり出回っていないからな。それも3シリーズはガントレット形式で、ユーザー自体少ないし」

 

「ほう。調整方法でわからない所があったんだが、まずはそういう話も聞いてみたいね」

 

いいだろう。そういって奴は立ち上がった。自分より背が高い。広い額に細い目、青い瞳。

 

「クラウス。クラウス・ヒルシュブルガーだ。よろしく頼む」

 

「深見 令。クラウスか。ドイツ系か?」

 

「そんな所だ。よし、何が聞きたい?」

 

どうやら上手い具合に、エンジニアを確保できそうだな。ちょっとオタク入っているかもしれないが、技術者ならその位がちょうどいい。

 

その日以来、自分は2,3日に1度位のペースで煌式武装研究部に顔を出し、ルークスのカスタマイズに専念した。

V.A.L.=ヴァリアブル・アーツ・ルークスの名の通り、調整、設定可能な範囲が大きく、流星闘技(メテオアーツ)の発動に対する余裕も大きいので、どんどん面白いルークスに変化していく。扱っていて楽しい。それはクラウスの奴も同じだったようで、他の仕事?を放り出して他の部員から控えめな抗議を受けたりしたが、副部長としての立場から好きにやっているみたいだった。

 

 

※ ※ ※

 

 

しばらくルークスのカスタマイズに熱中していたが、体も動かしておかないとまずい。

公式序列戦や星武祭(フェスタ)に出るつもりはない。面倒は御免だ。とは言えせっかくジェネステラとして性能のいい身体を持つ事になったのだから、思い切り使えるようにはなりたい。

そういう訳で、相変わらず一人だが、トレーニングルームに入る。流石にこれはクラウスに付き合わせる訳にはいかない。

 

さて、今日は何をしようか・・・

 

「こんちは」

 

その声に振り向くと『彼女』がいた。

 

「ああ、しばらく。で、どちら様でしたっけ」

 

「美咲。 瀬名 美咲」

 

「せな みさき?どちらが苗字で名前なんだ?」

 

「・・・あたしの事は美咲でいいよ。深見 令」

 

「俺の事は好きに呼んでくれ。それで何か用か?」

 

「この前の事。お礼もしていなかったから」

 

「偶然だ。別に気にしなくていい」

 

「・・・」

 

自分がサンドバッグに向かうと、また沈黙が流れる。といっても何を話したら良いのやら。特に用も無い。

これがカフェやバーなら別だが、生憎ここはそういう洒落た場所じゃないし。

と、向こうから聞いてきた。

 

「一人で訓練しているの?」

 

「まあ、ね。ちょうど良い相手もいなくて」

サンドバッグを跳ね上げながら答える。

 

「あなた、戦えるの?」

 

「どうかな。戦闘経験不足なのは分かっているが」

 

「ちょっと付き合おうか?」

 

「なに?」

 

驚いて彼女を見る。すると感じるプレッシャー、いや、星辰力(プラーナ)の高まりか!

彼女が端末を取り出す。

空間ウィンドウが開き、こちらを向いた。表示されるテータは彼女のものだった。

 

『瀬名 美咲』

『高等部3年』

『序列29位』

『魔女(ストレガ)』

 

「ストレガ!」

 

「そう。両手のナイフと空間に生成するダガーで遠近どちらでも戦えるよ。この前のお礼。相手してあげる」

 

そういって彼女は微笑む。お礼が戦闘訓練とはどうかと思うが、今の自分にはちょうど良いか。

 

「・・・では、ありがたく、お願いします」

 

トレーニングとはいえ戦闘、対人戦。前世含めて初めての経験がこういう形になったか。

かなり緊張する。

しかしこれはこれで面白い。

部屋の中央に移動して、両手のルークスを起動する。調整の結果、一番なじむ形でガントレットが現れる。

彼女も左右のホルダーから発動体を取り出して起動する。明るい緑のブレードが輝く。

 

そこで問いかける。

 

「いいかな?」

 

「いつでも」

 

距離は5m位か。この身体なら本当に一瞬で飛び込める。

だが、自分にどこまで出来るだろうか?前世含め、荒事には全く縁のなかった自分が。

 

まあ、ためらっていても仕方ない。

 

両腕を構え、一気に踏み込んだ。

その瞬間、何故か理解できた。

 

よし、行ける!

 

 

 

 

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