まずは一気に踏み込むと同時に左のフック。勿論当たるとは思っていない。あくまで牽制。ファーストショットはあくまで右ストレート!
それなりに気合を入れて放った正拳はあっさり躱された。
(そう甘くないか)
バックステップですぐ距離をとる。ここはヒット&アウェイでいってみよう。
そう思った瞬間、今度は彼女が踏み込んでくる。
長いナイフのような煌式武装の緑の閃光が飛び込んでくる。
(!!)
反射的に両腕でガードするが、全ては受けきれない。何回か、緑の刃がすり抜けてくる。もっとも向こうもリーチの限界から、ダメージを受ける程ではない。だが距離が詰まればやばい。
ならばこれはどうだ?
体を振って狙いをそらす。タイミングを計って右にステップ。そこから再度右での正撃、のつもりがナイフの一閃であっさりと腕が跳ね上げられる。
「強い!・・・いや、俺が弱いのか?」
「弱くはないと思うよ。やっぱり経験だね」
そう言って微笑む彼女を見て、この状況が楽しくなる。
ならばもっと付き合ってもらおう。全力で、限界を試してみたくなった。今度は両腕でガードを意識しながら、再度床を蹴った。
「お互い、少し、やり過ぎた、みたいだな」
「・・・そうだね」
結局1時間近く、訓練とはいえ全力の格闘戦にはまってしまった自分は、床に座り込んで荒い息を吐く事しかできなくなってしまった。彼女も座ってはいるが、そこまで呼吸は乱していない。
「これが実力の差か・・・」
「さっきも言ったけど、経験だね。無駄な動きが目立つし。でもちゃんと考えて戦ってるね。わかるよ」
「そいつはどうも。ところで、時間いいのか?」
「ああ、結構長く遊んだね。もう戻らないと。ごめん、先に行くよ」
「気にしないでくれ。世話になった」
「じゃあまたね」
そういって去っていく彼女の背中が見えなくなった所で、とうとう床に大の字にひっくり返った。ここは専用ルームではないので、少し前から他の生徒も出入りしている。それでいくつかの呆れた視線を感じるが、気にしている余裕など無い。
始めはともかく、中盤は中々いい勝負できたな・・・それでもあいつはストレガとしての力は全く使ってなかったから、結局は完敗だな。
まあこの結果は予想していた。それにこの段階では、勝ち負けよりも戦う事の方が余程面白い。
戦いが面白い?自分の中にそんな一面があったとはね。
※ ※ ※
その日、自分は例によって某研究部でルークスの設定をいじった後(半分位はただ駄弁っていただけかも)、寮の自室に戻るつもりだったが、端末に入るメールによって予定変更となってしまった。
誰かと思えば生徒会からの呼び出しの連絡である。
別に目をつけられるような事はしていないはずだが。
生徒会、ときたら、例の腹黒会長と会う事になるんだろうか。あまり良い予感はしないな。
呼び出しに応じ、生徒会室に入る。さて、どんなものか--
件の会長、クローディア・エンフィールドがそこにいた。
ご丁寧に席から立ちあがり、自分の前までやってくる。
「ようこそ。深見 令さん。こうしてお会いするのは始めてですね。星導館学園生徒会長のクローディア・エンフィールドです」
「高等部3年6組、深見 令」
そう普通に返事を返したつもりだったが、その時の自分は平静を保つのに苦労していた。この会長の外見は知ってはいたが、実際目の当たりにするとまともに顔を見ているのが辛くなる程の美少女だ。いや、そろそろ〈美女〉でも良い。これで歳下なんだから、この世界はやはりおかしい。
「わざわざお呼びして申し訳ありません。ですが、少々微妙なお話をしなければなりませんので」
「ええ。聞きましょう」
何の件だろう?そろそろ目を合わせていられなくなったので、視線を下げる。するとこの子自慢の大きな胸のふくらみが目に入る。なんだかな・・・
「先月の事故の件についてです」
「それが何か?」
ああ、そうきたか。そろそろ人為的と疑いだしたか。
「風紀委員からの報告は受けていますが、幾つか確認したい事が出来ました」
「構いませんが、何故会長が直接?」
仕方ないのでさりげなく視線を外し、巨大な窓から青空を眺めて答える。
「貴方とも一度、直接話してみたかった、ではいけませんか?」
どうしてこういう事言っちゃうかな・・・この子は。それとも俺を不審に思ったか?ああ、そういう所は腹黒なのか。
美しく微笑む生徒会長の表情から、内心はとても読み取れなかった。
結局のところ、例のパペットの件は話さなかった。ただ、やはり有力学生の不自然な事故が起こり始めているようだった。それに関して、先に自分か関わった件については誰かの関与があるという事を示唆しておいた。
(あれから一度だけあの場所に行ってみたが、例の扉のレールには雑な工作の跡があったのだ。風紀委員も気がついただろう)
「ともあれ、有力候補の一人である瀬名さんが無事で何よりでした。私からも感謝申し上げます」
「あいつにも言ったが偶然に過ぎないんだが。で、もう帰っていいか?」
「はい、今日は有難うございました」
さて、この子は自分の何かに気が付いたのかな?序列2位にして学園の会長という事は、戦闘以外でも相当な人物であるはず。あまり妙な興味を持たれても困るんだが・・・今の所は考え過ぎかな。
※ ※ ※
この世界にやってきてそろそろ1か月、カレンダーは5月の半ばまで進んでいる。
何とか生活にも周りの環境にも慣れた。
勉強はまあ、そこそこというレベルで抑えている。その分身体の使い方は充分把握できた。以前のように体のスピードとパワーに感覚がついてこない、という事は無くなった。今後は戦い方の訓練を積めば面白い事になりそうだ。それでも星武祭(フェスタ)は元より公式序列戦にも出る気にはなれない。本格的にバトルするにはまだ無理があると思っている。少し消極的か?
端末に連絡が入る。自分のアドレスをいつの間に知ったのか、瀬名 美咲だった。どうやら訓練に付き合えと言いたいらしい。了解して指定のトレーニングルームに向かう。この時間、彼女が予約を入れた為、自分達以外は誰もいない。
あれ、これって二人きりという状態だが、意識しすぎか。
軽いウォーミングアップの後、早速手合わせとなる。2度目の対戦。近接格闘だけならばかなりいい線いってると思うが・・・
30分後、一旦終了、休憩に入る。
「・・・もう少しか」
「そうだね、距離の取り方が上手くなれば、いい線いきそう」
「意外とやれるものだな。俺も」
「うん。これまで見てきたけれど、あんたは結構やれる。それで頼みあるんだけど」
「何だい。改まって」
「・・・あたしと組んで、フェニクスに出て欲しい」
「・・・はぇ?」
予想外の言葉に、間抜けな反応を返してしまった。