そろそろ暑さが気になりだす5月後半のアスタリスクで、ようやく気楽な時間を過ごせるようになってきた。
相変わらず人間関係は薄いが、この世界での記憶が曖昧な自分にとってはそれで構わない。むしろ他人に気を遣わず行動できるので色々楽だ。
という訳で、今回の休日はいよいよアスタリスクの外、とりあえずは商業エリアを見に行こう。
当然単独行動だ。
できれば学園内の購買で買えない物が手に入る店なんかもチェックしておきたい。
地下鉄で商業エリアに入り、適当な駅で降りる。
地上に出ると、いかにも大都市の中心といった感じで、街並みを見ているだけで結構楽しい。
(前世では勤務の都合上、地方都市暮らしが長かったのだ)
まずは大型の本屋でも探してみるか。そのあと適当に食事して、ショッピングモールなんかを覗いてみよう。そういえば歓楽街、ロートリヒトもここからなら近いが、どうするかな?昼間行っても・・・ああ、今は制服姿だからやはりまずいか。
結局まる1日使って、商業エリアの3割程度を見て回った。今日見る事の出来た区画だけでも予想以上に多種多様な店があり、結構楽しかった。
ただ移動が少々面倒ではある。
車が欲しいところだ。そうなると運転免許が問題だが、実技試験なら問題ないはず。今日見た限りでも、道路事情や交通ルールは前世とあまり変わらないようだ。
どうやって免許と、車を手に入れようか考えながら学園に戻る。
車は趣味と実用だからな・・・趣味といえば、いや趣味と言えるかどうか分からないが、酒もそろそろ欲しいな。自分は煙草はやらないが、ビールは結構飲んでいた。こちらに来てからは当然飲んでない。そろそろあのほろ苦さが恋しい。酒と来たら次に女だが・・・やっぱりロートリヒトでそういうお店を探すべきか。
そんな風に、全然高校生らしくない考えに没頭していた。
そのせいだろう。この後のやり取りがあんな事になったのは。
『彼女』がいた。
今度も、正門脇の大きな木に背中を預け、腕を組んでこちらを、今度ははっきり睨みつけている。相変わらず怖い。
「やれやれ。またかい」(あんまり人に物を頼む態度じゃないような)
「ええ。3度目のお願い」 (うん? これは三顧の礼という奴か?)
「そう言われてもなぁ」 (俺はそんな大物じゃないぞ)
「あたしも考えた。確かに無理なお願いをしてる。だから・・・」
「ん?」
「引き受けてくれたら、お礼はする。あたしにできる事は、何でも」
「・・・」(ん?今、何でもするって言ったよね)
「どう、かな?」
「そうか・・・。ならばお前は俺の女になれ」
「!」
彼女の顔が強張る。うん、そりゃそうだよね。
「別に付き合えとか彼女になれとかじゃない。好きな時に好きに体をもらう。意味はわかるよな」
うん、我ながら外道だ。
一瞬、彼女が歯を食いしばるような顔で、自分の目を見る。こちらはと言えば、努めて無表情を維持する。
もういいだろう。自分は黙ってその場を去る事にした。
まあ、これであきらめるだろう。
※ ※ ※
「これでいいか?」
「よし、これで提出できるな」
煌式武装研究部だが、結局のところ、今までは勝手に部室に入りびたり、無断で機材を使っている事になっていた。
流石にそろそろ不味い、という事で、自分は正式に入部する事にした。
3年のこの時期から、というのはどうかと思ったが、その辺りは副部長のクラウスの「気にするな」の一言でクリアとなった。
ちなみに部長はといえば、何かの研究テーマとかで大学部に行ってばかりでほとんど顔を見ていない。
他の部員もいたりいなかったり、部員じゃない奴も好きに出入りしたりと(この前までの自分もだが)実は結構フリーダムな部活である。
そのフリーダムな環境のせいで、また面白い物を見る事になった。
ノックも無しに扉が開く。
ん、誰かきたのか?ってこいつ誰だ?
やけに小さい姿に思わず言ってしまった。
「おい。ここは小学生も入れていいのか?」
「良く見ろ。うちの制服だろ」
そりゃそうだが、これが私服だったら、この後ろ姿は小学生にしか見えないぞ。まあ、こいつの事は知っていて、今思い出したよ。
「よう沙々宮。データなら上がってるぞ」
沙々宮紗夜。物語のレギュラーにしてヒロインの一人。初めて見たが、小さいとしか言いようがないな。
「ありがとう。予定よりずっと早い」
「まあ、面白いテストだったからな」
クラウスとやり取りしている紗々宮。背丈は半分位にしか見えん。
しかしこの子、顔だけは妙に大人びて見えるな。何ともアンバランスな。これで銃撃砲撃の煌式武装(ルークス)を使いこなす相当な実力者なんだから見かけによらない。
出ていくその子を見送りながら聞いてみた。
「あの子も部員という訳じゃないだろう?」
「ああ、新しいルークスのテストなんかをやる代わりに、たまにこっちのトライアルに付き合ってもらっていた。見た目はああだが、面白い子だよ」
「だろうね」
そりゃあの外見と性格で、星武祭(フェスタ)に上位入賞するなんて面白いとしか言えないよな。
※ ※ ※
夜、寮の自室。
日記という程ではないが、最近の出来事と新たに分かった事を端末を使って記録していく。
何しろ新たな体験が多すぎる。覚えるのは何とかなるが、何か別の形で整理しておかないと、記憶の混乱が起こりかねない。
それを終わらせると、もう消灯時間だった。
といっても自室内では何をしていてもいい。一人部屋の気楽さだな。
用意していた保冷ボックスを開けると、中には良く冷えたビールの缶。
前回商業エリアに出た次の日、早速再度出向いて買ってきた。店では取り敢えず贈答品として数本のセットで買い、直接持って帰った。案外楽だったね。
銘柄は少しわからない所もあったが、グラスに注いでみるとまさしくビールである。懐かしい味である。柄にもなく、少ししんみりしてしまった。
こちらに来てから、こんな気分になったのは始めてかもしれない。
部屋の照明を落とす。窓を開け、小さなベランダから夜空を見上げる。
星空は前世と変わらない気がする。
満月ではないが、月明かりが薄い影を作る。
落ち着いた気分で、金色の液体を楽しむ。
良い時間だったが、生憎長くは続かなかった。
何の前触れも無く、何か黒い影?がベランダに飛び込んで来た。
ぎょっとして、グラスを落としそうになる。
唖然として見ると、それは人だった。
それもある程度知っている女。
「お前かよ・・・」
瀬名 美咲は勝手に室内に入ってきた。
「何の用だ?」(あれ?これってもしかして)
「・・・あんたの女になりに来た」 (やはりそうきたか)
「本気・・・なんだろうな」 (しかしここに直接くるか?)
「冗談でこんな事言えないし、できない」
まあ、もしかしたら、とは思っていたが。でも良く思いきったな。
「それで、受けてくれるの?」
「わかった。一緒にフェニクスに出よう」
「・・・契約、成立ね」
「そうだな。じゃあそういう事で」
そこまで聞くと、美咲は背を向ける。
目立たないように、だろう。着ていた濃紺のスプリングコートを脱ぐ。
その下の制服のボタンを外す。ためらいはないようだ。
あっさり下着姿になった。そしてうつむきながら、こちらに向き直る。
その肩を抱いて、普段使っていない方のベッドに押し倒す。
少し大きめの胸の前で合わせた手が、細かく震えているのが分かる。
「初めてか?」
「・・・うん」
「ああ、あまり無理はしないよ」
でも、まあ、抱かせてもらおう。