はあ、疲れた。
もう終わらせて欲しいんだが・・・
「休憩終わり。立ちな!」
見上げるとそこには美咲が腕を組んで仁王立ちしている。相変わらず無駄に決まっている。だけどね、この位置関係だと、タイトスカートの奥がばっちり見えてますよ。うん。
「今日は水色か~」
「あ、ん、た、ね~」
「下着見た位で怒るな。もうその中身まで知ってるんだし」
返事の替わりにライトグリーンのダガーが降ってきた。身体を跳ね上げて何とか回避する。
「それじゃまだ行けるね。特訓の続きといこうか!」
美咲が右手のナイフ型煌式武装(ルークス)を高く掲げると、周囲に星辰力(プラーナ)の輝きと共に光のダガーが複数、実体化する。
「くたばりな!」
腕が振るわれると同時に、ダガーが飛んでくる。
(どうしてこうなった・・・)
光の刃を避け、あるいは弾きながら、この数日を思い返してみた。
自分達はパートナーとなった。一緒にフェニクス出場を目指す。それはいい。
自分はそれを引き受ける替わりの条件を出した。美咲はそれを受け入れた。それもいい。
意外と早く、この異世界で一緒に寝る相手ができた、と思ったんだが、良く考えたら自分達は学生で、しかも寮暮らしである。
男子寮にしても女子寮にしても、異性の生徒が簡単に入れる所ではないのである。
この前のようにベランダからエントリー、は可能であっても何度も使える方法ではない。バレたら面倒な事になるのは確実。
(ちなみに女子寮の美咲の部屋はルームメイトがいるので使用不可能)
結局休日を待って歓楽街(ロートリヒト)にあるその手の宿泊施設を使うしかない。
自分にとってのお楽しみは週末だけ。平日放課後は毎日、訓練と称してしごかれている。
何か納得できないような・・・
(世界は不公平に満ちている)
あれ、これって沙々宮紗夜の台詞だったかな。
今日もボロボロにされた。
再び床に転がりながら、クールダウンに入った美咲を見る。
(しかし俺がフェニクスに、ねぇ)
あいつの希望通り、リースフェルトのタッグと当たる事になったら、自分の役目は天霧綾斗を抑える事になる。抑えるだけでも命がけ、という状況が始末に負えないんだが。
ともかく、ルークスの強化と再調整が必要だ。入部したばかりなのに全然行けてない煌式武装研にもなんとか時間を作って・・・
そこまで考えたところで思い出す。
そろそろ主役登場ではなかったか?
「なあ、美咲。明日の朝、時間あるか?」
※ ※ ※
翌朝、7時過ぎ。
学生寮の前を通る遊歩道脇のベンチで待つ。ちょっと距離があるが、ここなら女子寮も充分視界に入るな。
さて、天霧君はいつ頃やって来るのかな?
と、その前に。
「よう。来たな~」
「・・・おはよう」
美咲さん、今朝も不愛想ですな。
「カフェオレとレモンティー、どっちにする?」
「・・・カフェオレ」
ボトルを手渡すと、美咲は隣に座ってきた。
「ホットサンドとプレーンドッグ、適当に選んでくれ。まだ冷めてない」
北斗食堂併設の売店で買ってきたモーニングセットを置く。
「貰うけど・・・何なのよ」
「お前と一緒に朝食を、と思って」
「いいけど、こんな所で?」
「もしかしたら、面白い物を見れるかもしれん」
「はっ。何それ?」
「まあ、どうなるかな」
そろそろ美咲が食べ終わるかな、というタイミングで、目に入った。
いよいよ主役の出現だ。
といっても、実に普通の登場だった。
確かにのんびりした雰囲気だな。妙なプレッシャーとかは感じないし。
ああ、距離があるせいかな。
と、奴さん、女子寮の一室に飛び込んで行った。しかし知らなかったとは言え、無茶な行動するもんだな~。
しばらくすると、部屋から轟音と共に炎が噴き出した。ついでに天霧君も落ちてきた。
「なっ!何!?」
「わははははは!」
美咲は驚いているが、自分は思わず爆笑してしまった。何しろこうして直に見ると、まるでコントだ。
「さて、野次馬になりに行こう」
「何言ってるのよ!あれはリースフェルトの魔法じゃない。一体何があったの!?」
そのお姫様も、優雅に飛び降りてくる。
「まあ見てみようぜ。ちなみにあの男は天霧 綾斗。1年の特待転入生だ」
そうこうしている間に、決闘が始まった。
お姫様が叫ぶ。
「咲き誇れ!ロンギフローラム!」
おおー。凄い凄い。炎の槍(というか円錐?)が飛んで行く。
それを躱し、おるいは切り裂く天霧君もたいしたもんだ。あれは今の自分には無理だな。
しかしリースフェルトの技には驚く。あの戦い方は知ってはいたが、改めて現実に見ると、炎の武器を自在に操るその能力には圧倒される。
「咲き誇れ!アマリリス!」
「あっ!不味い!離れるよ。急いで!!」
「いや、多分大丈夫だよ」
次の瞬間、派手な爆発が起こるが、天霧の剣閃が炎を切り裂く。うん、これで終わりかな。
視界の端に例の生徒会長の姿が映る。ああ、止めに入るな。
「まさか、あいつが決闘なんて・・・」
厳しい視線を送る美咲の横顔を見つめる。
多分自分も同じ表情をしているだろうな。
この騒動、始まりこそギャグみたいで面白かったが、決闘を見ている内にとても笑えなくなった。
次々に繰り出される炎の魔力。知ってはいたが、現実にその爆風を感じ、地面が抉れるのを見ると、正直、ぞっとした。
あれに向かって行くのは相当な力、だけでなく勇気も必要だろう。
美咲はそれを2回やった。
そしてもう一度挑もうとしている。
自分の中に、美咲に対する敬意、のような物が確かに刻まれた気がする。
「どうしたのよ?」
視線に気が付いたのか、美咲がこちらを向く。
無意識に手が、美咲の顔に触れる。
「美咲。お前、あいつと、『華焔の魔女』と戦うんだな」
「・・・そうだよ」
「お前、凄いな」
それに続く言葉は無かった。でも、何となくわかって貰えたんだろう。美咲は自分の目を見て、小さく頷いた。
※ ※ ※
「メテオアーツで防御力を強化させたい、という事か?また面白い事を考えるな」
「発想の転換、のつもりだが」
放課後。何とか時間を作ってルークスの仕様変更の打ち合わせ。
といっても詳細は固めていないので、まずは相談といった所で、中庭での立ち話となった。技術の件なので、相手はお馴染みクラウスである。
流石の奴も、流星闘技(メテオアーツ)を防御に使うという発想は持っていなかったようだ。
「プラーナで身体の強化が出来るなら、ルークスも出来そうだと思ったんだが」
「普通なら無理だが方法はある。ルークスも専用の調整をすれば或いは・・・って何だこりゃ?!」
歩きながら話していると、噴水(だった物)の前にでる。
「ああ、知らなかったか?昨日、1年の沙々宮がグレネードで吹っとばしたそうだ」
「あいつのルークスなら出来るだろうが、何でそんな事を」
「噂位は聞いているだろ。妙な奴らが学園内でこそこそやっている。その関係だ。まあお前もそんな連中を見かけたらぶっ壊しておいてくれ」
「無茶言うなよ・・・」
確かに無茶だね。と言ってもこの騒動、そろそろ天霧君達が終わらせてくれる頃なんだな。
さて、こちらはその間、メテオアーツの開発を進めるとしようか。
まずは防御力の強化、次に新たな攻撃用メテオアーツ。うん?複数のメテオアーツの同時発動は可能なのか?
出来れは面白い戦いが出来そうだが、ルークスの調整にも手が掛かりそうだな。
ルークスと言えば、美咲のルークスも調整次第でもっと使えるようにならんか?
・・・こうしてみると、やらなければならない事、まだまだ出てくるな。
面白いから全然、苦にならないけどね。