1996年 月面現地時間6月20日午前0時2分
日欧共同月面基地 観測機器部門室
無数の各種観測機器類が整然と山積みに両サイドの面積を支配し、積まれながらも規則正しい信号音と点滅を繰り返しながら記録録音していった。その機器類の山の間のわずかなスペースを使い、深夜番の記録観測員が趣味であるミニゴルフに興じていた。
「よし、もう少し。そうだそこだ!よしインだ」
とゴルフボールがホールに見立てたコップにスルリと吸い込まれるのと同時に観測機器の一つが突然、点滅を始めた。それは、設置してから一度も点滅していない機器であった。
不審に思った観測員がその危機のスイッチを確認しスピーカーに繋げるとスピーカーからある種の信号らしき音を一定の間隔でスピーカーから流れてきた。それを聞いた観測員の顔が急に驚愕する顔立ちになると、瞬時に観測機器部門室の室長に連絡する為震える手を抑えながら受話器を取った。
観測機器部門室室長用の小さな個室では、ぐっすりと眠っていた白髪交じりの男性がベットの前に備え付けられていた受話器が甲高い受信音を微睡ながらも手に取り、
「何だ?何かあったのか」
と言うと、当直の記録員の興奮した声が聞こえた。
「室長。大変です。あの観測機器が反応を示しました」
「何の観測器だ?」
「良いからこの音を聞いてください!」
と言うと、当直は受話器をスピーカーに押し当てて流れてくる規則的な音を流し、もういとど受話器を耳に当てると、向こうの方で室長の呻き声が聞こえ、
「畜生なんでこんなに天井が低いんだ。くそ」
と言う声も漏れ聞こえた。
「室長、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。糞、天井に頭を打つけちまった。ああ痛い」
「無理しないで下さいよ。余り打ち続けると禿げますよ。余り髪が無いんだから」
「そうなんだ。そろそろ育毛剤も効かなくなったなって違うだろ!悪かったな禿げててよ。後で覚えとけ。待ってろ直ぐ行く。後他の奴らも総員叩き起こせいいな」
「了解しました」
暫くすると、寝間着姿のままの職員が慌てては部屋に入り床に散らばったゴルフボールに悪態をつきながら、室長の号令で慌しく観測機器等をフル稼働し観測を始めていった。が、その直後謎の衝撃が基地全体を揺さぶった。
崩れ落ちる観測用通信機等の機器類が床に落ち、機器が壊れる音と同時に職員も付近の物に身体を辛うじて支えると、
「何だ、何が…」
と次の言葉が出る前に轟音と衝撃と光と共に、この世から跡形もなく消え去った。
この日 月面にある恒久的日欧共同宇宙基地は何者かによる攻撃を受け壊滅した。
生存者 0名 である。
1996年 地球日本国日本時間6月20日午前0時30分
日本国情報省
長い廊下を早歩きで会議室に向かう長官とその直参が顔を強張らせながら歩いていくのを押しのける様に多数の職員が走りながら通り過ぎて行った。その様子は関係各省庁でも同じような事が起きており、全ての職員が慌しく動き回り情報の収集に躍起になっていた。
「何だと!月が6割消失しただと。それは本当か!」
「は、はい。先程国防省宇宙部門からの至急電を受け取った所、月の裏側密かに設営した月面研究所からの衛星通信の定時連絡が2時間ほど前から途絶したらしく、月の衛星軌道上を周回して居る観測衛星の殆どが原因不明の通信途絶を確認しました。また、唯一通信可能な衛星からの映像が此方になります」
というと手元の資料写真付きのファイルが入っている手持ち用パソコンを開き長官に見せた。
そのファイルに添付された画像には、カメラ画像が一部乱れながらも撮影している衛星から送られている遠望カメラ映像だった。その画像には月の6割が刳り貫かれた衝撃映像だった。
「まるで、映画か何かの特撮映画みたいだな。これは本物なのか。今日はエイプリルフールではないぞ?」
「いいえ。残念ながら本物です。この画像が送られている発信源も特定済みです。また国内外の展望台及び各国政府機関にも同じような返答が確認されています」
「そうか。まさかと思うが、月で極秘裏の研究等が行われているとかはないよな。例えば、反物質生物とか触手生物とか。確か週刊漫画雑誌にそんな内容の漫画があったような気がするが」
「いいえ。現在我が国及び各国に配置している諜報員の連絡にはそのような物はないと報告を受けていますし、同じように反物質関係等も依然生成に成功した等の報告もされていません」
「そうか。それで他には、何か変わったことはないのか?」
「それなんですが、気になる報告がありますので此方に」
と言うと国防中央指令センター室に設けられた特別室に続くドア案内されるとだあの両脇に完全武装された衛兵に直参がサインをした後、ドアのオートロックシステムにカードキーと暗証番号と網膜スキャンした後ドアが開いた。すると、その室内には何人かの男女が慌しく様々な情報を精査し、確認作業に追われていた。その室内の中央には長机が置かれていた。其処に情報省長官と直参が向かい合った。
「それで気になる事とは?」
と聞くと、直参の部下の一人が大きめなアタッシュケースを長机に置きそれを開けた。
「此方になります。我が国の長距離レーザー宇宙望遠鏡から月の6割消失時と同時刻に撮影した火星付近を撮影した時に映り込んでいたモノです」
その画像には火星付近に巨大な火星程の大きさの影が映り込んでいた。それを驚愕するような長官を傍目に直参が話を続けた。
「現在の所個の影は昨日2350時に突如出現した事が、各国天文台及び国内の天文台が確認していました。また、この影から高エネルギーらしき熱も確認されております。更に我が国が独自にこの物体のコースと速度等を確認した所ほぼ真っ直ぐに地球へのコースが確認されております」
「まさか、そんな馬鹿な。この物体の地球落下予想時間は?」
「およそ1週間後だという結果ですが、もう少し早まることが予想されると天文学者の一致した意見です」
「そうか。それで総理には、この報告は?」
「現状を鑑みて現在報告は留めていますが、現在報告書の作成後速やかに報告する予定です。また、同様に陛下にも上奏を予定していますが、現在陛下も相当なご年齢の為に避難する場合は、那須野御用邸周辺に設置した那須野要塞都市網内最下層避難場所に移る準備を宮内庁と国防省が中心となった合同対策チームを関係各省庁に連絡済みです。凡そ24時間以内に稼働を開始しその後20時間以内に完全稼働を予定しています。更に国防省は、文部科学省に対し、国防法第21条の条文通りに文科省所属の全ての学園艦を緊急寄港後、国防省が接収し改装作業を連絡し済みです。その為全ての学園艦は母校に近辺の国防外軍基地内のドッグに緊急寄港後、国防省の管轄に移行速やかに住民及び関係者以外の退艦を命令しました。その後、洋上航空基地として、硫黄島以南に全艦集結させます。その作業に凡そ4乃至5日程作業に掛かる予定です」
「そうか。なら我々も関係各所との連絡等をさらに密にしつつ情報収集に努めてくれたまえ」
「了解しました」
と言うと直参は周囲の部下と共に連絡等を行いながら退室すると、部屋の中には長官の他数名が残っていたが、長官は机に広げられた写真にもう一度目を向けると、ぼそりと、
「大変な一週間になりそうだ」
と呟きが虚空に消えた。
ネタ分かった人いますか?