まあ、ちょくちょくと頑張っていく所存です。
東京都千代田区大手町 首相官邸内廊下内
懐に忍ばせた携帯MDの着信振動を感じ、簪はそれを取り出し、着信元を表示すると、ほんの少し簪は、顔色を変えると、会話ボタンを手で触れた。
「何か用?織斑さん今私忙しいのよ。後で電話してくれる?」
『簪か、俺だ一夏だ。緊急事態なんだ。直ぐに士道にアポを取ってくれ。出来るだけ早く!』
「申し訳ないんだけど、総理は今緊急会議中ですので、後日、面会時間等を連r….」
『そんな暇ないんだ。直ぐに会わせてくれ』
「…解ったわ。何時頃来れるの?」
『すぐ近くの窓から門を見てくれ。直ぐに分かる』
と一夏が言うとおりに簪が窓の方を見ると、幾つもの人垣の中の前列に別居中の夫の顔が見え、その隣に彼の姉がいた。簪はすぐに警備室に彼らを淹れる様に再度携帯MDを起動させた。
総理官邸内に通された一夏と千冬は前を歩く簪に付いて行き、暫く長い廊下を粛々と歩いて行き、総理執務室内に通されると、簪は内心余り良い思いをしていない事を隠しながらも、
「少々お待ちください。総理を呼んできますので。くれぐれも周りの物に触れないで下さいね」
と言うと、執務室の扉を閉じ出て行った。扉が閉まると、千冬が考え深げに
「ほう、此処で色々と指示を出したりしているんだな。この机のペンなんかもらっていいのかな?」
と机のペンを取りペン回しを始めた千冬の横で、自前のパソコンを起動し高速でタイピングしている一夏が居たが、その表情は,一層厳しい顔立ちだった。
一夏が厳しい表情でパソコンを睨んでいた時と同時刻。政府は、未確認飛行物体に対して、コンタクトを取るために国防空軍と国防陸軍共同作戦が実施されていた。勿論マスコミ等も其れに追随する様に作戦実施基地外から中継放送を開始していた。また、それらを監視する為に実施基地前には多数の装甲車や警護兵等が警戒を実施していた。
『いよいよ、我々人類の前に姿を現した未確認物体に対し、国防軍がコンタクトを取る様です。なお、このコンタクト実施に際し、大型ヘリから大型照明装置を取り付け、発光信号によるコンタクトを取る模様です。我々の前に現れた新たな客人がどの様な意図を以て現れたのかは、未だに専門家の意見が割れており.....』
と現地キャスターが興奮する様子でマイクを持ち声をあげていた。
一方基地内には、幾つかの大型ヘリが駐機しており、周りを幾人もの整備員が忙しなく動き回っていた。作戦機には、国防陸軍のAH-88 ヘルハウンド14機を突貫改修し、両翼の巨大なスタブウィングにこれまた巨大な発光照明装置を取り付けており、これがコンタクト専用機として重要な役割を担っていた。また、この機体の護衛役として、国防空軍の近接航空支援用垂直離着陸対地攻撃機 VA‐3Bを28機をフル武装体制で準備体制を整えていた。そして、全ての準備が整い、順次発着場から飛び立ち、其れを周囲の兵が歓声を上げ見送っていった。
其れを総理官邸内の会議室内の大型スクリーンで官僚達に混じり、見ていた士道の耳元に簪がそっと何かを囁くと士道の眉が微かに動き、簪にもう一度詳しくと、要求すると共に他の人に勘付かれない様に口元に手を翳し聞き返したが、簪は先程と変わらない返答を寄越すと、士道は席から立ち上がり席を開ける様子を隣に座っていた。冬月現道(ふゆづき げんどう)内閣副総監が,軽く睨みを利かせていた。彼は、密かに総理の椅子を狙う一人であった。
「総理、観ていかないのですか?」
「いや、部屋で見るよ」
と言うと秘書官の一人に連れられ会議室を出て行った。彼は知っていた。執務室にはテレビが無い事を。
「それで、私に何か用かな?一夏」
「ああ、御託を抜きにして話す。直ぐに荷物を纏めて避難しろ。これは忠告ではない指示だ」
「それは、出来ない相談だな」
「いいか。今までの一連の電波障害も関連しているんだぞ」
「それについては、専門家から説明があったぞ。もうすぐこの状況が落ち着くと説明されたからな」
「お前はそこまで落ちぶれたのか。良くそんな連中の言葉を鵜呑みにしたものだな。やはり、総理になって怠慢になったのか?」
「なんだと、お前こそ。学生時代、有名企業の推薦状が束になって送られてきたのに、其れを蹴って、小さい放送局に入社した負け犬に言われたくないな」
「何だと、この.....」
と二人が掴み掛ろうとしたところに、千冬が、
「いい加減にしろ、お前らそんな暇あるのか」
と怒鳴ると、2人の距離を少し離すと溜息と共に
「どうしてあの二人は、こんなにも険悪なんだ?昔は仲が良かったのに」
と言うと、それまで黙っていた簪が、
「私に原因があるかも知れません。昔、一夏と交際してた時に、一夏が士道に私が浮気していると思ったらしく彼を思いっ切り殴った事があったんです」
其れを聞いた千冬が目を剥いて一夏を見ると、
「総理を殴っただと、お前が」
「千冬姉、それは、士道が総理になる前の時だからな。後、早く説明させてくれ」
一夏は、今までの事を説明を始めた。
「良いか、俺たちがいる地球は丸いから電波を発しても反対側には、電波は届かない。これは分かるな」
「ああ、未透視線の事だろ、電波は真っ直ぐしかないからな」
「正解だ。だから、衛星をリー方式で使用し、地球の反対側に電波を届かせる。それをあの宇宙船は利用したんだ」
「どういう事だ。…まさか」
「正解だ。総理。あの宇宙船の中の連中はそれを利用して、配置しようとしているんだ。そう、チェスと同じだ。ある一定期間までの自軍の駒を配置させ、頃合を見計らって一気に攻める」
「攻めた後は、どうなるんだ一夏?」
と少し青ざめた顔をした士道が尋ねると、一夏は自前のパソコンを見せ、画面に刻一刻と時が迫るデジタル時計が画面一杯に表示されていた。
「チェックメイト」
室内の温度が急速に低下するのを感じ、誰もが一言も話すことが出来なかったが、士道がすぐさま我に返ると、簪に対しすぐさま次の命令を出すと、部屋から出て行き、官僚の皆が集まっている部屋に駆けて行った。
「簪、すぐさま此処に居る全員をヘリで脱出させる。すぐさま防空軍に政府専用機を準備する様に連絡を。こうなったら、全軍にデフコン1を命令。総理大臣の銘による第一級緊急事態宣言体制を全国に命令。急いでくれ。後、君達も一緒に来てくれ」
「判りました。すぐさま準備させます」
「士道,いや総理。私ももう少し調べてみます。」
「頼む。一夏」
「了解しました。士道総理大臣」
と言うと、其々が駆け足で駆けて行った。千冬も一度車に戻ると言うと走り出していった。
会議室に戻ると、すぐさま全官僚に対し命令を下した。
「すぐに皆避難を開始してくれ。副総理以下官僚は、すぐに北海道の緊急事態センターに避難を。開始してくれ」
「待って下さい総理。今、コンタクトを取るために発進したばかりですよ。コンタクトを取った後でもよろしいのでは?」
「コンタクト機をすぐさま呼び戻せ。急げ」
「すぐには、無理です」
「何だと」
と官僚の一人と言い争いしている時に、コンタクト機が未確認物体に対し、コンタクトを試みようとした。
夕焼け染まりつつある上空を編隊を組みながら飛行する突貫換装したAH-88部隊とそれを囲む様に護衛のVA-3B部隊が綺麗な編隊を地上の人々に見せながら順調に眼前の巨大飛行物体を目指し飛行を続けていたが、目標近くでAH-88 1機とVA-3B 2機の小隊に編隊の編成を変更し、其々の担当区域に別れていった。
『此方。第四空中観測隊『スコープ1』此れより未確認飛行物体に対し、発光信号によるコンタクトを試みる』
『了解』
未確認飛行物体に対し等間隔に弧を描くように配置された各小隊から突出したAH-88の両小翼に設置された兵装パイロン及び機首下部の機銃搭載箇所を改装し、近くの複数の野球場から徴発した大型電光式スコアボード発光装置及びサーチライトを臨時に搭載していた。
そして、機首下部のサーチライトに照らされた未確認飛行物体に対し、其々事前に取り決められた発光パターンを順次ヘリから発光信号として未確認飛行物体に送られていった。
幾分かの発光パターンを送り、その反応を確かめようとした所、未確認飛行物体が突如として動き出した。
『スコープ1よりCP。繰り返すスコープ1よりCP。目標が動き出した。繰り返す、目標が動き出した。目標外縁側面が上下に割れだした。我々の応答に答えた模様。指示を乞う』
『CPよりスコープ1。了解。観測及び交信を継続せよ。なお、全警護隊。警戒を厳にせよ。武器使用は相手が攻撃した際は速やかに応戦を許可する』
『スコープ1。了解』
『ガードマン1。了解』
という交信がなされている間にも未確認飛行物体の外縁側面が上下に割れていったが、暫くしてこの動きを止めると、割れた隙間から淡い光が外に漏れていった。その光景を見ていたAH-88及びVA-3Bの各乗組員はその光景を緊張と少しばかりの興奮を持って見ていたが、その破滅は突然起きた。
突如、未確認飛行物体の割れた全側面の隙間から無警告で光弾が発射され、突出していたAH-88全機が回避する暇なく空中で粉砕され、その攻撃は間髪入れずに其れを唖然として見ていた護衛のVA-3Bの乗員達にも光弾は容赦なく襲い掛かった。次は自分達だと気付く前に約半数がAH-88の乗員に続く様にあの世に旅立った。
『CP!、CP!緊急事態発生。飛行物体から攻撃を受けた。繰り返す。攻撃を受けた。コンタクトは失敗。繰り返す。コンタクトは失敗。これより退避行動しながら攻撃を加える。以上』
『此方CP。一体何があった!応答せよ『ガードマン1』繰り返す。『ガードマン1』応答せよ』
と前線臨時基地内では混乱の極致に達しようとしていたが、生き残ったVA-3Bの機首に装備された送受信用暗視カメラからの断片的な映像が送られていた。
『ガードナー1より残存ガードナー隊全機へ。速やかに後進間攻撃を開始。射撃時間30秒後に全力離脱。時間合わせ3.2.1.開始』
残存VA-3B各機から主翼に懸架された94.7㎜21連装ロケット弾ポットと2連装対空ミサイルが連続して放たれたが、効果を確認する前に速やかな退避行動に移ったが、殆どの機は、退避する前に先程のAH-88と撃墜されたVA-3Bと同じく未確認飛行物体の光弾攻撃により次々に撃破されていった。
『此方『ガードマン9』。離脱に成功。我が部隊の残存機は僅か3機のみ。これより帰還する』
『了解』
この連絡を首相官邸の大会議室内で聞いていた以下全官僚は、悲嘆に暮れた。まさか、外宇宙からの訪問者が地球に対し宣戦を布告するような態度を取る返答を寄越すとは思ってもみなかったが、士道総理は先程の一夏のシュミレーションが当たった事に愕然となったが、すぐに総理大臣命令による全官僚に対し、首相官邸の廃棄と全職員の緊急避難を命令し、官邸内は上を下への混乱下に陥ったが、総理以下一部の人間はすぐに行動に移った。それとほぼ同時に官邸前に政府専用ヘリMi-12J(国内で改修し生産型)が着陸した。
すぐさま、士道総理以下数人の幕僚とその護衛官、秘書そして、士道の娘の士織等と共に乗り込もうとした所、
士道総理の秘書官である簪に、
「済まないが、彼ら(一夏と千冬)も一緒にご同行して貰おうか。何かと役に立てるかもしれないからね」
「判りました。速やかに我々とのご同行を無理矢理でも連れて行きますのでご心配なく」
「頼むぞ」
「はっ」
暫くした後に、簪が二人を連れて来た後にMi-12Jは巨大な左右のメインローターを回転させながら、ゆっくりと離陸していった。
少し時間を戻していく
急速な日常変化を混乱する住宅街の住人達を尻目にプリウスαに乗り込もうとした武内に少し怪訝な顔つきをした奏が口火を切りだした。
「ねえ、本当に行くつもり?まだ休暇中じゃない。貴方が行かなくても良いのに」
「すみません。基地からの通達が有ったので、すぐに行かないといけないので」
「もう、仕方が無いのね。じゃあ、約束して」
「約束ですか」
と次の言葉を武内の口から出ようとした時に、奏がその唇と自分の唇を重ねた。
「そ、無事に帰ってきて」
と、奏が言った後に、家から飛び出すように武内に駆け寄った楓が抱き着きながら、
「パパー!私も一緒に連れてってー!」
と元気に言うと、武内は、少し笑みを浮かべ楓の両脇を抱え上げると、
「すみません。今から仕事の為に連れて行けません。けれど今度帰って来た時に花火を打ち上げましょう」
「ホント?」
「ええ、私は嘘を吐きません。盛大に上げましょう」
「約束だよ」
「解かりました」
「じゃあ、行ってらっしゃい、パパ」
「行ってきます。奏さん、楓さん」
と少し笑みを浮かべながら、武内はプリウスαに乗り込み、発進していった。
少し走れば、すぐに基地に着く予定だったが、今日に限って渋滞しており、予定時間よりも少し遅れそうだった為に事前に基地に連絡して良かったと思う一方、なぜか嫌な胸騒ぎを覚えながらも車を運転していたが、ふとこんな思いが頭をよぎった。
[しかし、楓が私の事を本当の父親だと思っているが、本当は違う。彼女は奏の別れた夫の子。それが今では、まるで…。止めておこう。今は、この事態についてのみに集中しよう。それが終わってから、此れからの事について三人で考えて行こう]
と思い、助手席のダッシュボードを開け、其の奥から綺麗に包装された小さな四角い箱を取り出し、自分の手提げ荷物の中にそっと入れた。
基地前の検問所にはいつもと違い厳戒態勢が敷かれており、幾つもの阻害用トーチカや砂袋を積み重ね、その上に対戦車ミサイル発射器や重機関砲、更には対空ミサイル発射機が据え付けられており、警備兵も重装備で警戒に当たっていた。
「お疲れ様です。身分証を拝見します」
「お願いします」
と何時もより念入りに調べられたが、問題ないと判断され、速やかにゲートが開けられた。駐車場に車を止め、武内がふと空を見上げると、幾つものヘリや航空機が編隊を組み、頭上を飛行していった。
「なんだか、嫌な予感がするな」
と武内が呟き、其のまま、前に向き直り、基地に入って行った。
未だに太陽は巨大な未確認飛行物体に隠れたままだったが、それでも青空が広がっていた。
武内が国防空軍基地に入るのとほぼ同時刻埼玉県春日部でもこの混乱の余波を食らっていた。
一連の未確認飛行物体の襲来が日本全国だけではなく世界のあらゆる所で確認されたと先程の日本政府の公式発表された以降、全国各地で一時的な混乱があったが、現在徐々にその混乱も収まる雰囲気が出来て来ていたが、もしもの時の為に自主避難する人々が出た為に政府も避難場所としての地下避難所の開放等の措置を指示した。その為国内の多くの保育園幼稚園小中高大学校の臨時休園校を決めた。それに従い、春日部のある幼稚園も急遽子供たちを幼稚園バスで帰園させた。
「じゃあね。しんちゃん」
「ほーい。じゃあね」
「こら、先生にさようならでしょ。すみません、家のしんのすけが」
「いえいえ、では明日もよろしくお願いしますね」
「はい。では明日もよろしくお願いしますね」
と言うとバスが閉まり発進していった。
「お帰リンゴジュースは美味しい」
「こら、だだいまでしょ。後、帰って来た時は手洗いとうがいをしなさいよ」
と台所で何やら作業を始めたみさえが言うと、しんのすけが、
「やれやれ、うるさい母ちゃんだな」
と小声で言った瞬間、みさえが瞬く間にしんのすけの後ろからげんこつを加えた。
「サッサと、うがいと手洗いをやる!」
と言うとまた、台所の方へ消えていった。
暫くのんびりと時間を過ごしたしんのすけにみさえが、
「もう少ししたら、ママひまわり連れてお買いもの行くから、ついでにしんちゃんもシロの散歩行きなさいよ」
「ええー、めんどくさい」
「早く行きなさい」
「仕方ないなー。シロー散歩にいくゾ」
「あ、そうそう。しんちゃん、今日早目に帰って来なさいよー」
「ほーい」
「返事は、はい、でしょ」
「はーい。うんじゃ行ってくるよ。みさえ」
「こらしんのすけ!って行っちゃか。それにしても、本当今後どうなる事に成るやら」
「たーい?」
とみさえがリビングに行き、ひまわりを抱っこし、つけっぱなしだったTVが未だに上手く受信できていないが断片的にアナウンサーが今回の襲来についての続報を途切れ途切れに伝えていたが、みさえはTVのスイッチを切り、買い物に出発した。
そして、コンタクトを試みた部隊が壊滅する時刻まで残り4時間前の出来事であった。