クロノスからの贈り物 ~ Story of Umi   作:Kohya S.

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第二章・修学旅行と友人たち
10. 修学旅行、前夜


 「ラブライブ!」の一次予選も終わり、海未にいつもの日常が戻ってきた。最終予選は十二月で、それまでに一度くらいはライブをやりたい、と部員たちは話していた。

 

 また、宏未(ひろみ)には週に一、二度のペースで家庭教師に来てもらっていた。彼の教え方はわかりやすく海未は感心していた。まずは中間テストでその結果が出るはずだった。

 

 そんなある日。放課後。

「皆さん、ライブ、やりませんか!」

 練習にひとり遅れていた毬穂(まりほ)が屋上にあらわれた。

「ええっ、ライブって、どういうこと?」

 穂乃果が聞く。

「はい、あるデパートの企画、なんですけど。ファッションショーでなにかイベントをやりたいらしくて、もしよかったらμ'sにライブをしてもらえないか、って」

 

「おおっ、すごいよ、毬穂ちゃん」

 穂乃果は目を輝かせた。

「あら、意外なところから依頼があったわね」と絵里。

「きっと、一次予選を突破して、μ'sがメジャーになったせいね」

 にこが腕組みをしてうなずいた。

 海未にも驚きだった。スクールアイドルとファッションショー、意外な組み合わせですね、と思う。

 

「ファッションショー……。うーん、どんな感じなのかなあ……。イメージできないなあ」

 首をかしげる花陽。

「もしかして……水着! だったりして!」

 希が片手を口に当てて笑いながら、花陽の体をつつく。

「み、水着ですか! そ、そんなの、花陽、困っちゃいます。最近、ち、ちょっと服がきつくなってきたかな、って思ってるのに」

 花陽は目を白黒させながら困ったように身をよじる。

 海未もその隣で顔を赤くしていた。

 

 ええっ、水着でファッションショーですか! まさかビキニとか……。そ、そんな……破廉恥です! もうこれは絶対にお断りするしかありません!

 

「そんなわけないでしょ、これから冬なんだから……」

 真姫があきれたようにいった。

「それに、私たちがやるのは、あくまでライブよ。ライブ!」

 にこも右手の人差し指を立ててみせる。

 花陽と、それに海未は安堵のため息をついた。

 

 ああ、それなら安心ですね。もう、心配して損しました。希には困ったものです。

 

「あの、さすがに水着じゃないです」笑う毬穂。「なんでもウェディングドレスのショーらしくて……それにちなんだ衣装も、用意してくれるみたいです」

「ウェディングドレス……女の子のあこがれ、ですよね。素敵です♪」

 ことりはうっとりとした表情になる。

 

「凛は、よくわかんないけど」

「凛ちゃんにも、似合いそうだよ」

 花陽がいうと凛は笑って否定した。

「えー、そんなことないよ」

 

「最終予選に向けて弾みをつける、ということで、いいと思うんですけど。どうでしょうか」

 毬穂は部員全体を見渡した。

「いいとは思うけど……いつごろなの?」と穂乃果。

「三週間後、十月下旬です」

「あれっ、二年生の修学旅行、そのころじゃなかったっけ?」

 ことりが首をかしげる。

「大丈夫です」毬穂がうなずく。「予定では、沖縄から帰ってきた、翌日ですから」

「そっか、よかった♪ でも、そうなると……」

 ことりのあとを絵里が引き継いだ。

「あまり練習にかけられる時間はないわね。それに、問題は……曲ね。ファッションショーだと、いままでの曲はふさわしくないでしょう?」

 絵里が指摘すると希もうなずく。

「そうやね、特に、ウェディングにドレスにあいそうな曲は……ないかもしれへんね」

 

「うーん、曲か……」穂乃果は海未と真姫に視線を送った。「ねえ、海未ちゃん、真姫ちゃん、なんとかならないかな、新曲?」

 

 海未は真姫と視線を交わした。海未が目配せをすると真姫もうなずいた。

「仕方ないですね。作詞はなんとかしましょう」

「まあ、作曲も、できなくはないと思うわ」

 

「おおっ、ありがとう。海未ちゃん、真姫ちゃん。さすが、μ'sの作詞作曲、担当だね。A-RISEもほめてたもんね」

 穂乃果は海未と真姫の手をそれぞれ握りしめた。

 

 穂乃果にかかったら仕方ないですね。時間は限られていますが……真姫と話しあってなんとかしましょうか。

 

「それでは、ライブ、受けていいでしょうか?」

 毬穂がそわそわしたようにいった。

「ええ、いいんじゃない。どうかしら、みんな?」

 絵里の問いかけにメンバーは口々に同意した。

「わかりました。手続き、進めますね!」

 毬穂は満面の笑みでうなずいた。

 

「よーし、それじゃ、練習がんばるぞーっ」

 穂乃果が宣言した。

 

        ・

 

 その日の練習後、海未は真姫とふたり部室に残り、新曲について話しあった。

 

「ウェディングドレス、といっていましたね。ということは、やはり……そういう歌詞にしないと、まずいでしょうね」

「そうね……ふさわしい歌がいいわね」

 真姫はうなずいた。

「私には……いささか荷が重いですね。あまり、その、そういうことに経験がありませんので……」

 海未は素直に心情を話した。海未の頬はすこし赤く染まっていた。

「でも、いままでの歌詞も、海未っぽくなかったけど」

 真姫はいたずらっぽく笑った。

「そ、それはそうなのですが……」

 海未はますます赤くなった。

 

 それをいわれると、弱いですね。私は、私の想いを、歌詞にしているだけ、なのですが……。我ながら、意外にロマンチックなところが、あるようなのですよね。

 

「……でも、なにか、そういうものへのあこがれとか、夢とか、あるんじゃないの?」

 真姫はすこし照れくさそうにいう。

「そ、それは……」海未は目を落とした。「ないわけでは、ないですが……」

 

 たしかに人並みにウェディングドレスを着た自分を想像してみたこともある。ただ、どうしても具体的なイメージはわかないのだった。

 ふと宏未の顔が海未の心に浮かんだ。

 

 いえ、別に、あの人のことをどう思っているとか、そういうわけではないのですが……。どうして思いついたのでしょう。不思議ですね。

 イメージ……。作詞、なんとか、なるでしょうか……。

 

 海未はしばらく考えてから口を開いた。

「あの、申し訳ないのですが……先に詞を作ってもいいでしょうか」

 曲作りは、先にメロディーを作るよりも、詞にメロディーをつけるほうが難しいと、以前、どこかで聞いたことがあった。

「もちろんいいわよ」

 真姫はうなずく。

「ありがとうございます」海未は頭を下げた。「がんばりますね」と微笑む。

「ええ、期待してるわ」

 真姫も微笑みを返した。

 

 海未はそれから数日、作詞に悩んだ。

 やはり具体的なイメージは、なかなかわかなかったが――それでもメンバーたちのことを、彼女たちの未来を想うと、だんだんと歌詞が姿をあらわしてくる気がした。

 

 ようやく歌詞を書き上げた海未は、一年生の教室まで足を運んで真姫に手渡した。

 歌詞を一読した真姫はくすりと笑った。

「なにがおかしいのですか?」

 海未は不安に襲われて聞いた。

「ごめんなさい、いい歌詞だと思うわよ」

「本当ですか?」

「本当よ、本当」真姫はあわてたようにいった。「ただ、いままでの曲と、ずいぶん雰囲気が違ったから……」

「それは……ああいうステージですから、精一杯、がんばったんです」

 海未は頬を赤らめた。

「うん、女の子の気持ちが素直に出ていて……すごく素敵よ、海未」

「あ、ありがとうございます」

 海未は頭を下げた。

「私も、これにふさわしいかわいい曲、作らなきゃね」

 真姫は微笑んだ。

 

 数日後。

「ねえ、曲ができたの。まずは海未に聴いてほしいんだけど……。いいかしら?」

 練習後の部室で、海未は真姫から音楽プレイヤーを渡された。

「はい、もちろんです」

 

 イヤホンから流れてきた曲は真姫が歌った仮歌で――海未の歌詞にわかりやすく、それでいてドラマチックなメロディーがあわせられていた。

 ええ、情景が思わず浮かぶようです。

 

 やがて曲が終わり海未はイヤホンを外す。

 かすかに頬を赤らめて上目遣(うわめづか)いでうかがう真姫に、海未は笑いかけた。

「……素晴らしいです、真姫」

「あ、ありがと」

 真姫はほっとしたように笑った。

 

 翌日、部員たちに披露すると、彼女たちの反応も上々だった。

 

「いい曲ができたし、これから歌に、振り付け、がんばろうね!」と穂乃果。

「おーっ」

 全員が声をそろえた。

 

――――――――

 

 ライブが決まったあとの、ある日の夕方。宏未は家庭教師の時間にあわせて海未の自宅に向かっていた。

 道すがら宏未は前回の指導のことを思い出す。

 

 宏未がラブライブの予選を見たことを話すと、海未は大いに恥ずかしがったのだった

 

「あの、投げキッスのところ、かわいかったと思うよ」

「それは……。あの、なんとなく……。もう、恥ずかしいです」

 海未は顔を真っ赤にして下を向いた。海未さんはライブになると性格が変わるのかな、と宏未は思った。

「でも、μ's、園田さんもみんなもすごくよかった。A-RISEにも引けを取らないくらい、ね」

「あ、はい……ありがとうございます」

 宏未が素直な感想を伝えると海未は嬉しそうにしたのだった。

 

 宏未が門のインターホンを押すと、海未がこたえた。海未の自室に通される。

 

「よろしくお願いします」

 椅子に座ると海未は丁寧に挨拶した。

「よろしく」

「宏未さん、先にお伝えしておきますが……」

「はい」

「申し訳ありませんが、来週はお休みでお願いします。XX日からXX日まで、修学旅行なのです」

 海未は嬉しさを隠しきれないようすだった。

「うん、わかった」宏未はうなずき、自分のことを思い出す。「そっか、修学旅行か、いいね。どこへいくの?」

「はい。沖縄へ……。宏未さんはいらっしゃったこと、ありますか」

「ええと」

 未来ではいったことはあるけど、話がいろいろおかしくなりそうだな……。

「……あいにく、ないんだよね。たしか、いまの時期でも、海に入れるんでしょ?」

「そうなんです。楽しみで……。あの、お土産、買ってきますね」

 海未はそういって笑った。

「うん、よろしく」

 

「あの、それで……」

 海未はいいかけてしばらく躊躇(ちゅうちょ)した。宏未はしばらく待つ。

「……帰ってきたあと、μ'sがライブをおこなうのです。一応、それもお伝えしておきます」

「それは、楽しみだね。……見にいこうかな」

「えっ、あの、その……お任せ、します」

 海未は前回と同じく恥ずかしそうに目を伏せた。宏未はそんな海未を微笑ましく思った。

「それで、どこでやるの?」

「あ、それは……」

 海未は場所――音ノ木坂学院からも遠くないデパートの催事場でやるらしい――と日時を宏未に告げた。

「そ、それでは、ご指導、お願いします」

 海未はそういって教科書を開いた。

 

 海未が問題を解いているあいだ、宏未は考えた。

 

 未来の歴史で、こんな時期にライブ、あったかな……。改変前の……毬穂が知っている歴史にはなかったはずだし、改変後の歴史でもハロウィンのライブだけで……。

 もしかして、毬穂がμ'sの活躍の機会を増やすために……?

 

 勉強に一区切りがついて宏未は海未に聞いてみる。

「そういえば、デパートでライブなんて、珍しいね。どういうきっかけで?」

「はい、マネージャのところに話があったのです」

「へえ、面白いね」

「最初は私も面食らいましたが、いまはよい機会だと思っています」

「うん、そうだね」

 宏未はうなずいた。

 

 やっぱりそうか。毬穂が持ってきたんだな。うーん、海未さんたちには悪いけど、μ'sがあまりうまくいっても、困るんだよな……。

 

 宏未は悩んだものの、とりあえず打てる策はなさそうだった。まあ、とりあえずようすを見るか、と思う。

 

 旅行の無事を祈っていると伝えて、宏未は海未の自宅をあとにした。

 

        ・

 

『それでは明日の天気です』

 宏未の自室。この時代に来てから調達した平面テレビから天気予報が流れていた。

 アナウンサーと気象予報士が会話する。

『今週末ですが、台風が沖縄に近づくようですね』

『はい、この時期としては発達しています』

『影響が懸念されますが……』

『いまの予想では、このあと進路を大きく東に変えて、太平洋上に抜ける見込みです』

 

 ん、沖縄。そういえば、海未さんの修学旅行、明日から、だっけ。台風か……。

 

 いまのところ天気は時間遡航の影響を受けておらず、変化していないようだった。宏未は遡航者用のアプリで念のため数日間の天気を確認してみた。

 

 あれ、沖縄、台風が直撃してる。ちょうど海未さんが帰ってくる日じゃないか……。これは、連絡しておいたほうがよさそうだな。

 

 宏未は携帯端末を手に取った。

 海未はすぐに電話に出た。

『はい、園田海未です』

「宏未です。いま、すこし大丈夫かな」

『ええ、大丈夫ですが……。どうかされましたか?』

 突然の電話に海未は戸惑(とまど)っているようだった。

「あの、園田さんの修学旅行の件で……。台風が来てるの、知ってる?」

『はい、天気予報は見てます。ただ、沖縄には来ないということでしたが……』

「そうなんだけど……ええと、大学の友人が詳しいんだけど、ちょっと今度の台風は特殊だから、急に進路をかえる可能性があるって」

 それらしく聞こえればいいけど、と思う。

「ちょうど帰りのころ、沖縄に近づくかもしれない」

『そうなのですか……』

 海未はなにか考えているようだった。

 

「だから、その、ライブもあるって聞いてたし、一応、連絡しておこうと思って」

『……ありがとうございます』

 海未は丁寧にいった。頭を下げるようすが目に見えるようだった。

『わかりました。私のほうでもそれを考えて、準備しておきます』

「うん、そうしてもらえると、俺も気が楽だよ」

『わざわざ、ありがとうございます』

 海未はもう一度、礼をいう。

「うん。それじゃ、よい旅を」

『はい、いってまいります』

 海未は電話を切った。

 

 俺、思わず電話しちゃったけど……。もし海未さんたちが帰れなくて、ライブが中止になったりしたら……そのほうが、歴史としてはマシになったのかな。

 でも、海未さんに、μ'sのみんなに悲しんでほしくはないし……。うーん、よくわからないな……。

 

 宏未は気づいていなかったが――彼もμ'sにひかれつつあったのだった。

 

        ・

 

 三日後の昼前。

 

『台風は進路をかえて、沖縄に近づきつつあります。最接近は明日の未明になりそうです。厳重な警戒をお願いします……』

 宏未の部屋のテレビが台風情報を伝えていた。やっぱりこうなったか、と思う。

 

 そのとき宏未の携帯端末が着信音を鳴らした。宏未はテレビの音を消して端末を取り上げる。海未からだった。

 

「はい、宏未です」

『あ、宏未さん。突然すみません。あの、いま、大丈夫でしょうか』

 海未はあわてたようすだった。

「うん、大丈夫。台風、近づいてるんだって」

『はい、宏未さんのいった通りになりました。それで、困ったことに……明日の便が飛ばないようなのです。東京に戻れるのは、明後日の夜になりそうです』

「それはたいへんだね。親御さんには?」

『はい、もう連絡しました』

「そっか。それで、わざわざ俺に電話くれたのは?」

『あの、ぶしつけなお願いで恐縮なのですが……』

 海未はいったん言葉を切った。覚悟したように続ける。

『明後日のライブ、見に行っていただけないでしょうか』

「え、うん、もちろんいいけど」

 宏未は即答する。

 

『宏未さんのおかげで事前に話せましたし、あとに残してきた絵里や花陽たちを、信頼していますが……。やはり客観的にライブを確認してくれる人が欲しくて……。あの、お願いできますか』

「うん、だからいくよ」

 宏未は海未のあわてぶりがおかしくなる。

 

『あ、すみません。私ったら……。あの、ありがとうございます』

「いや、もともといこうと思ってたから。……海未さんも落ち着かないと思うけど、気を付けて」

『はい。わざわざすみません』

「穂乃果さんたちと……」毬穂に、といいかけて思いとどまる。「みんなにも、気を付けるようにいってね」

 思いついて付け加える。

「そうだ、よかったら……明後日の朝にでも、また電話してくれるかな。その、どうなったか、気になるし」

『わかりました。電話しますね』

「ありがとう。それじゃ」

 宏未は電話を切った。

 

 海未さん、相当、あわててたな。無理もないか、台風で帰れない、ライブにも出られない、っていう非常事態だもんな。

 よし、明後日はしっかり見てこよう。

 それにしても、台風か……。毬穂がへんなことしなければいいけど……。

 

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