クロノスからの贈り物 ~ Story of Umi   作:Kohya S.

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12. 穂乃果の暴走

「穂乃果ちゃん、もしかして、空港に向かっちゃったの?」

 海未はうなずく。

「毬穂ちゃんも一緒に?」

「はい」

「どうしよう……」

 ことりは青ざめた顔で海未を見つめた。

 

 これ以上電話しても、らちがあきませんね。そうこうしているあいだに、本当に飛行機に乗ってしまうでしょう。そうなったら、もう取り返しはつきません。

 

 海未の頭を最悪の事態が駆け巡る。

 

 もしふたりが勝手に東京に戻ってしまったら…。大問題になること、間違いありません。

 

「追いかけましょう!」

 海未は携帯電話を握ったまま、きっと顔を上げた。

「ええっ! わたしたちも、無断外出になっちゃうよ」

 ことりが目を見開く。

「穂乃果たちが、勝手に東京に帰ってしまったら、それどころではありませんよ」

「でも、先生にいわないと」

「そんなことをしていたら、間に合いません!」

 海未は大きく首を振る。

「そっか、そうだよね」

 ことりも顔を引き締めた。

「バスで移動してるようでした。タクシーなら、空港で追いつけるかもしれません。いきましょう、ことり」

「うん!」

 

 海未たちは財布と携帯電話だけを手にホテルの外に出た。

 広い通りまで行ってしばらく待ち、流しのタクシーをつかまえる。

 

「那覇空港まで、お願いします。安全運転で、急いでください!」

「……そりゃまた、難しい注文だね」

 初老の男性運転手は、そういいながらもできる限り急いでくれた。

 

 車窓に流れる夜の沖縄の海は、こんなときでもなければ心躍らせてくれたはずだが、海未の目には入らなかった。

 

 どうか間に合いますように……。それだけを祈る。

 

「あ、ヒデコちゃん? ちょっとお願いがあるんだけど……」

 ことりがスマートフォンを手にしていた。

「あの、どうしても外出する用事ができちゃって……。すぐ戻るから、それまで先生に見つからないように、なんとかしてもらえないかな?」

 ああ、なるほど、と海未は思う。

「……うん、ごめんね。よろしく」

 ことりは電話を切った。

「ありがとうございます、ことり」

「ううん、ちょっと思いついたから」

 ことりはかすかに笑みを浮かべたが、すぐに心配そうな顔に戻った。

 

 途中、渋滞に巻き込またりしながらも、二十分ほどでタクシーはターミナルビルの前についた。

「ありがとうございました」

 海未は急いでタクシー代を精算して下りる。

 

 ビルの前の路上、タクシー乗り場のすこし先には何台かの路線バスが止まっていた。

 

「穂乃果ちゃんたち、どこかなあ」

「あまり遅れていないはずですから……。とりあえずチェックインカウンターに、行ってみましょう」

「うん」

 

 ふたりはビルに入った。エスカレーターで二階、三階へと上がる。

 三階には航空会社各社のカウンターが並んでいた。今朝まで欠航していたせいか、かなりの混雑だった。

 

 穂乃果と毬穂はどこでしょう……。ふたりはあたりを見回しながら、フロアを探していった。

 

        ・

 

「あっ、あそこ!」

 やがて、ことりが指さす。

 

 カウンターで毬穂が職員と会話しており、そのうしろに穂乃果が立っていた。

 海未は一目散に走った。ことりもあとを追う。

 

「穂乃果! 毬穂!」

 海未の大きな声にふたりが振り返る。

「海未ちゃん」

 驚いた表情の穂乃果。

 

「あなた、なにを考えてるんですか!」

 海未は、気づいたときには穂乃果の頬を平手打ちしていた。乾いた音があたりに響く。

 

 列に並んでいた客たちが、なにごとかとざわめいた。

 

「……穂乃果ちゃん、海未ちゃん。毬穂ちゃんも」

 ことりが三人をフロアの端まで連れていった。

 

 海未とことりは、ふたりに向き合った。

 

「穂乃果、あなたは身勝手すぎます。もし、ここでふたりだけで戻ったりしたら……問題になるのは、わかってるでしょう」

 海未はそういって首を振った。

「でも、ライブが……」

 穂乃果は片手を頬に当てたままつぶやいた。

「ライブがなんです。修学旅行は、授業の一環なのですよ。それに、勝手に戻ったりしたら、先生たちやクラスメイトに、どれだけ心配と迷惑をかけるか……」

 海未は穂乃果を見つめる。その目の端には涙が光っていた。

「あなたは生徒会長なのですよ。それに、部活だって……ここで問題を起こしたら、どんなことになるか、わかりません」

 

 穂乃果はここに至って重大さに気づいたようだった。顔色がすっと青白くなる。

 

「……ごめん、海未ちゃん、ことりちゃん」

 穂乃果は顔を落とし、つらそうにいった。

 

 海未は毬穂に向き直る。

「毬穂もなんです。あなたはしっかりした人だと思っていましたが……穂乃果と一緒になって、こんなことをするなんて……。穂乃果を止めるのが、マネージャの役目でしょう」

「ごめんなさい、海未さん」

 毬穂も肩を落とした。

 

「海未ちゃん、早く戻らないと……」

 ことりがあせりをにじませる。海未はうなずいた。

 

 四人で一階まで下りて、タクシー乗り場からタクシーに乗った。

 

        ・

 

 ホテルに戻るタクシーの車内は重苦しい雰囲気に包まれた。

 

「ごめんなさい、私が、夕方からの便は飛ぶみたい、なんていうから」

 毬穂(まりほ)がぽつりぽつりと話した。

「ううん、穂乃果が悪いんだよ。ふたりだけでもいいから、戻ろう、なんていったりして……」

「でも、私、止めなきゃいけなかったのに。穂乃果さんにいわれて、ライブ、せっかくだから、成功させたくて……」

 

 だいたいのところはわかりました、と海未は思う。穂乃果が暴走して、毬穂を巻き込んだのですね。

 穂乃果と毬穂は、どこか似たところがありますが、それが悪いほうに出てしまいましたね。

 とりあえずなんとか引き止めることはできましたが、これからどうなることやら……。

 

 海未の不安は大きくなりこそすれ、すこしも小さくはならなかった。

 

「でも、チケットはどうするつもりだったの?」

 ことりが聞く。

「毬穂ちゃんが、マイルがたくさんたまってるから、なんとかなるって」

 穂乃果がちらりと毬穂を見ると、毬穂はうなずいた。

 

 タクシーはやがてホテルに着いた。毬穂がタクシー代を払った。

 

 四人は先生に見つからないように、注意して部屋まで戻った。

 海未がひそかに危惧していたように、部屋で先生が待ち受けている、というようなことはなかった。

 しかし、海未の安堵はつかの間だった。

 

「えー、三班の諸君は、先生の部屋まで来るように」

 ドアのところにあらわれた担任の山田が、無慈悲につげた。

 立ち去った山田にかわって、ヒデコが顔を出す。

「……ごめん、ばれちゃった……」

 

 四人は重い足取りでフロアの端、教諭たちが宿泊する部屋のひとつへ向かった。

 

 そこでは担任の山田と、もうひとりの男性教諭――本条が待っていた。

 部屋の中央に座るよう指示される。

 

「なにをしたかは、わかってるな」と山田。「どうして、こんなことをしたんだ。正直に話しなさい」

「えっと……」

 穂乃果は、飛行機が飛ぶと聞いて、居ても立っても居られなくなったことを話した。毬穂も自分が航空券をなんとかするといい出したと説明した。

「……すみませんでした」

 ふたりは声をあわせて頭を深く下げた。

 

「なるほどな。……それで、園田と南は」

「はい、私たちは、ふたりが出ていったことを知って、止めなくてはならない、と……」

「無断外出になると、わかっていて、か」

「……はい。すぐに止めなくては、と思って……。短絡的でした。申し訳ありません」

「そこはすぐに、先生に相談するべきだったな」

 

 それは……いわれてみれば、その通りですね。海未はそう思う。

 

 穂乃果と毬穂がいないとわかって、追いかけることだけで頭が一杯になってしまいました。ことりが、止めてくれたというのに……。私も、どうかしていたのですね。

 

「まあ、ライブだからって、舞い上がってしまうのは、わかるよ」

 本条が口をはさむ。

「本条先生、甘すぎますよ」

「いや、すまんすまん」

 

 はあっ、と山田はため息をついた。

「だいたい毎年、無断外出があるんだ。オトノキの校風のせいだと思うんだが……。しかし、無断帰宅は、もし成功していたらオトノキ史上初めて、だな」

「すみません……」

 穂乃果はますます小さくなった。

 

「本格的な処分は帰ってから、だ。とりあえず四人は、あそこで正座。よしというまで、動かないこと」

 山田はそう宣言した。

 

 四人は入り口と、バスルームや洗面台とのあいだの狭いスペースに並んで正座した。

 本条は四人にすまなそうな顔をしてから出ていった。

 

 海未は背筋を伸ばして静かに座った。

 

 やはりこうなってしまいましたか……。いえ、このくらいで済めば、(おん)の字ですが。本当につらいのは、帰ってからですね。

 

 ちらりと横を見ると、穂乃果は暗い顔をしているものの、正座は苦にはなっていないようだった。ことりも同様だ。対して毬穂は、足がしびれ始めたのかさかんに親指をもぞもぞやっていた。

 

「あら、生徒会長が正座なんて、初めてじゃないかしら」

 別の女性教諭が笑って通りすぎた。

 

 やがて、一時間ほどたっただろうか。

「よし、園田と南は、戻っていいぞ」

 山田が声をかけた。海未とことりは立ち上がり、山田に向かって頭を下げた。

 部屋を出る前、海未はちらりと穂乃果と毬穂に、はげますような視線を送った。ふたりはうなずいた。

 

 消灯時間はすでにすぎていた。寝間着(ねまき)がわりの体操着に着替えて、暗い部屋のなか、ベッドの上で、海未とことりは眠ることもできずに待った。

 

 それからさらに一時間ほどあと。毬穂が穂乃果に担がれるようなかたちで、ふたりが戻ってきた。

「あ、あしが……もう、だめです……」

 毬穂はそのままベッドに倒れこんだ。

「おつかれさま」

 海未はふたりに声をかけた。

「うん」と穂乃果。

 彼女もさすがに言葉すくなだった。

 

 ふたりがベッドの上で着替える音が聞こえた。

 

「それでは、寝ましょうか」

 海未は小声でささやく。

「うん、おやすみなさい」「おやすみ」「おやすみなさい」

 四人は静かになった。

 

        ・

 

 翌朝。東京ではファッションショーのライブがおこなわれるはずの日。

 

 海未が最初に起き出して洗顔をすませてくると、穂乃果が目覚めていた。二段ベッドの下段でぺたんと座っている。

「穂乃果、おはようございます」

「あ、海未ちゃん。おはよう。……昨日はごめんね」

 彼女は気の抜けたような顔で微笑んだ。

「いいえ、私たちも悪かったのです」

 海未はかぶりを振った。

 

「おはようございます」

 穂乃果の上の段から、ことりが下りてくる。

「お、おはようございます」

 続いて穂乃果の向かいのベッドから毬穂が顔を出した。

 

「あ、あしが痛くて……」

 毬穂は眠そうにしながら、ベッドから脚を投げ出した。

「あらまあ」

 ことりが近づく。

「ちょっと、すりむいちゃってますね」

 そういって毬穂の脚をとった。甲のすこし上のあたりが赤くなっていた。

「正座、慣れていなくて……」

絆創膏(ばんそうこう)、貼れば、すこし楽になると思います」

 

 ことりは自分の荷物から小さな救急箱を取り出すと、なにかの薬と救急絆創膏を用意した。手際よく毬穂の脚に薬をぬり、絆創膏を貼った。

「はい、これでよし」

「ありがとうございます、ことりちゃん」

「いいえ」

 ことりは優しそうに微笑んだ。

 

 海未は、昨日からの重苦しい雰囲気がすこしだけ明るくなったような、そんな気がした。

 

 朝食のために食堂にいくと、無断外出のことはすでに生徒たちに広まっているようだった。

「穂乃果なら、やるんじゃないかと思ってたよー」

「いやあ、あはは……」

 穂乃果はクラスメイトからの冷やかしに力のない笑いでこたえた。

 

 ただ無断外出の理由までは知られていないようで――海未はすこしほっとしたのだった。

 

 食事が終わりチェックアウトまでのあいだに、海未は宏未(ひろみ)と約束した通り彼に電話をかけた。

 

 数時間後、海未たちは機上の人になった。

「いまごろ、ライブだね」

 穂乃果がぽつりとつぶやいた。

「そうですね」

 海未はうなずいた。

 

 穂乃果は無表情で機外を眺める。海未はその横顔をずっと見つめていた。

 

――――――――

 

 ライブの日の朝。宏未は海未からの電話を受けた。

 

『あの、予定通り、というか、一昨日お話ししたとおり、今日の昼ごろの便で帰ります』

 海未の声は沈んでいた。やっぱりライブが気になるのかな、と思う。

「うん、わかった。おつかれさま。ライブは予定通り?」

『はい、特に連絡もないので……そう思います』

「わかった、見にいくから」

『よろしくお願いします』

 

 海未はしばらく黙った。宏未はそのまま待つ。やがて海未の口から出たのは驚きの言葉だった。

『あの、実は昨晩、穂乃果が、マネージャと一緒にホテルを抜け出して……』

「えっ、それって、どういうこと」

『ライブが気になって、ふたりだけで東京に帰ろうとしたようです』

 それから海未は、ことりと――海未は留学に悩んでいた同級生だと紹介した――追いかけて連れ戻したこと、先生に見つかって叱られたことを話した。

 

「……それは……たいへんだったね。でも、最悪の結果にならなくてよかった、のかな」

 もし東京まで来ていたら、もっと問題は大きくなっていただろう。

『そうかもしれません』

「……今日の、家庭教師の予定、疲れてるだろうし……休みにするでしょ?」

『そうですね……。いいえ、お願いします。ライブのこと、お聞きしたいので……』

「わかった。それじゃ、最後まで気を付けて」

『ありがとうございます』

 宏未は電話を切った。

 

 毬穂……行動力だけはあるからな。穂乃果さんもそんな感じかな。……でも、どうなるんだろ。部活で問題を起こしたりして、μ'sは……。

 

        ・

 

 昼すぎ、宏未はライブの時刻にあわせてマンションを出た。携帯端末でデパートの場所を調べて電車を乗り継ぐ。

 

 会場となる催事場はデパートの最上階だった。ちょうど宏未が到着したのとほぼ同時に開いたようだ。幸い入場は無料で写真撮影も許可されているらしかった。

 宏未はステージに近いなるべく前のほうの席についた。

 

 だんだんと会場はうまっていった。ウェディングドレスのファッションショーということで客層は若い女性が中心で、それに相手の男性や母親がついていることがある、という感じだった。

 俺、場違いなんじゃないかな……そう宏未は思った。ただ、見渡すとカメラをさげた少年が目に入り、宏未はすこしだけ安堵した。

 ほどなく会場は満席になった。

 

 ショーが始まり、古風な――もとい、最新の、と宏未は心のなかでいい直す――ドレスをまとった女性が次々にあらわれた。会場からはそのたびに黄色い声が上がった。

 宏未は興味深く見守ったが、思いはどうしても次に予定されているμ'sのライブに流れていった。

 

『ファッションショーの部は、これにて終了です』

 人の流れと音楽に一区切りがつきアナウンスが流れた。

『続きまして、特別参加、音ノ木坂学院スクールアイドル、μ'sのみなさんのライブです。どうぞ盛大な拍手をお願いいたします』

 観客たちが拍手する。宏未も加わった。

 

 ステージの袖からひとりの少女が進み出てきた。少女はウェディングドレス風の衣装で――星空凛さんだ、と宏未は思い出す。

 彼女はフリルやリボンに飾られた白いワンピースのドレスを身につけていた。随所に黄色いコサージュがあしらわれている。

 愛らしい姿に会場が盛り上がった。

 

 凛はステージの中央までゆっくりと進んだ。

「初めまして、音ノ木坂学院、スクールアイドル、μ'sです」

 観客たちから上がる「かわいい」「素敵ね」という声。凛が嬉しそうに笑った。

「あ……ありがとうございます」

 

 まっすぐに背筋を伸ばした凛はマイクを握って続けた。

「えっと、本来メンバーは九人なんですが、今日は都合により六人で歌わせてもらいます。でも……残り三人の思いも込めて歌います!」

 

 袖から残り五人のメンバーがあらわれて凛のまわりに広がった。こちらは黒いタキシード風の姿だ。

 本当なら海未さんたちもいたはずなのに、と宏未は心が痛んだ。

 

「それでは、いちばんかわいい私たちを、見ていってください!」

 曲が流れ始めた。ゆっくりとしたメロディーにあわせて六人が歌う。その歌詞は運命のときを迎えて生まれ変わる、女の子の夢と希望に満ちていた。

 宏未は携帯端末で何枚か3D写真を撮った。

 

 あれ、そういえば海未さんは、なにもいってなかったけど……。海未さんはμ'sの作詞担当、ということは、この曲も……?

 

 宏未は思わずくすりと笑った。本当に海未さんは、意外性のある、人だよな……。

 

 急遽六人でのライブになり戸惑(とまど)いもあったはずだが、凛は自信たっぷりに踊り、歌いあげていった。残り五人のメンバーも凛をサポートするように踊りをあわせていた。

 

「……ありがとうございました!」

 歌い終えて凛が挨拶した。宏未は拍手を送った。

 

        ・

 

 その日の夕方。宏未は海未の自宅を訪れた。

 いつものように自室に案内される。

 

「まずは、おかえり、園田さん」

「ありがとうございます。あの、これ、お土産です」

 海未は包装紙のかかった箱を宏未に差し出した。

「なにがいいのか、わからなくて……。ちんすこうです」

「ありがとう」

 宏未が笑うと海未も笑みを返した。

 

「それで、穂乃果さんの件、たいへんだったね」

 宏未は気遣うように話した。

「はい。先生に叱られて、さすがの穂乃果と毬穂も……」

 毬穂の名前を聞いて宏未はどきりとする。

「あ、部活のマネージャです。ふたりとも、へこんでいるようでした」

「……まあ、大事件、だよね」

「そうですね……」

 海未は暗い表情になる。

「部活とか、どうなるのかな?」

「さあ、わかりませんが……。明日、きっとなにか処分があると思います」

「処分……って、大げさな」

「いえ、最悪の場合、休部などもあるかもしれません」

「そっか……。ごめん、なにもいえないけど……なんとか穏便に、すむといいね」

 宏未は笑顔を見せる。

「はい。……すみません、こんな話をして」

「いや、あまり力にはなれないけど、相談には乗るから……」

「ありがとうございます」

 海未は頭を下げて表情をやわらげた。

 

 μ's、活動休止とか、あり得るのかな、と宏未は思う。

 そうなれば、最悪の歴史は避けられたようなものだけど……。ただ、海未さんの話だと、毬穂も原因のひとつなのか。ちょっと後味が悪いな……。

 

「そういえば、ライブ、行ってきたよ」

 宏未は昼間のことを話題に出す。

「重ね重ねすみません。凛からは連絡があって……とりあえず、大成功だと、凛はいっていましたが」

 海未は不安そうにいった。

「うん、すごくよかったよ。星空さん、落ち着いてたし……。全員、歌も踊りも、ばっちりだった」

「……そうでしたか」

 海未は目に見えて安堵した。

「あ、あの、ありがとうございました」

 そういって頭を下げる。

「もともと、いくつもりだったし」宏未は首を振る。「園田さんを見られなかったのは、残念だったけどね」

 にこりと笑ってみせる。

「そ、そんな……」

 海未は目をそらして頬を染めた。

「曲もよかった。作詞、園田さんなのかな?」

「そうですが」

 とても小さな声。

「すごく、女の子らしくて、かわいらしくて、それでいて前向きで……。μ'sにぴったりだね」

「……」

 海未はますます顔を赤くして、なにもいわなかった。

 宏未は不意にそんな海未が愛らしく思った。

 

 思い出して宏未は携帯端末で撮った写真――ホログラフィはオフにして――を見せた。

「素敵な衣装ですね」

「あれ、園田さんも知らなかったんだ」

「はい、ウェディングドレス風とは、聞いていましたが……。センター、凛が(つと)めたのですね。よく似合っています」

「そうだね」

 海未はしばらく笑みを浮かべながら写真を眺めていた。

 

 その日は結局、勉強はほとんど手つかずだった。まあ、仕方ないよな。

 なにかあったら気軽に連絡してほしいと伝えて、宏未は海未の家を出た。

 

 帰り道。満天の星空のもと宏未は思う。

 もし、μ'sが活動休止になったら、海未さんはもう、ライブに出ないのかな。

 

 それはとても残念で、悲しいことのように、宏未には思えてならなかった。

 

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