クロノスからの贈り物 ~ Story of Umi   作:Kohya S.

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13. 反省のかたち

 翌日、放課後。

 穂乃果、毬穂(まりほ)、ことり、そして海未の四人は修学旅行のお土産を持って部室へ行った。

 

「あ、穂乃果ちゃんたちだ。お帰りなさい!」

 凛が笑顔で迎えた。二年生以外の部員はすでにそろっていた。

「ライブ、大成功だったんだよ! ねえ、かよちん」

「うん、凛ちゃんがリーダーで、練習、がんばって。お客さんたちにも、すごく好評で……」

 花陽もはしゃいだように話した。

「それは、よかったですね」

 海未は微笑んだ。しかしほかの三人は沈んだ表情のままだった。

 

「どうしたの、なにか浮かない顔だけど……」

 絵里が気遣(きづか)わしそうに聞いた。凛と花陽もなにかを察したのか口をつぐむ。

「ええ……。詳しくお話します。……まずはお土産を」

 四人はそれぞれ、ちんすこうやシーサーの置物を手渡した。

 

「それで、どうしたのよ。あんたたち」

 にこがさっそく、ちんすこうをつまみながらいった。海未はほかの三人に視線を送るが、穂乃果は目を伏せたままだった。ことりと毬穂はかすかにうなずいた。海未は代表して話し始めた。

「……実は、帰りの前日、私たち四人は無断外出をしてしまったのです」

 海未は穂乃果と毬穂が空港に向かったこと、ことりと自分がそれを追いかけたことを話した。

 

 口に出すと、あらためて無謀なことをしたものだと思う。あのときは、これしかないと思ったのですが、頭に血が(のぼ)っていたのですね……。

 

 海未が話し終えると、四人以外の部員は驚きに飲まれたのか部室は静まりかえった。

 

「それで、なにか、お仕置きは決まったん?」

 やがて希がつとめて明るくいった。

「いえ、まだです。きっと、これから呼び出しがあると思います」

「でも、まずいわね」絵里が考え込む。「……同じ部活の四人が、部活のことが原因でトラブルを起こしたとなると……」

「……休部とかもあるかもしれへんね」

 希が引き取った。

 

 重苦しい雰囲気が部室に流れた。

「みんな、ごめんね、穂乃果のせいで……」

 穂乃果がぽつりともらした。

「いえ、私たち全員が悪いんです」

 海未がいうと、ことりと毬穂もうなずいた。

 

「穂乃果、毬穂。反省はしてるみたいだけど……。さすがにまずかったわね」

 絵里はさとすように話す。ふたりは小さくうなずいた。

「海未とことり、あなたたちもよ」

「はい。言葉もありません」

「うん」

 

「……まったく、馬鹿ね、見つかるなんて」

 にこがあきれたようにいった。

「私みたいに、見つからないようにやりなさいよね!」

「にこちゃん、そんなことしたの……」と真姫。

「た、たとえばの話よ、たとえば」

 にこは明後日のほうを向いた。

 すこしだけ雰囲気が明るくなる。

 

「どんな処分になるか、まずは待つしかないわね……」

「はい」

 海未は絵里にうなずいた。

 

 それから凛が持ってきたライブの写真をみんなで回覧した。海未たちはスマートフォンで撮影した沖縄の写真を見せた。

「凛ちゃん、やっぱりかわいいよ」

「ありがと、かよちん」

 たしかにウェディングドレス風の衣装に身を包んだ凛は想像以上に愛らしかった。

「かわいいやん、これ」

 そのわきで希はシーサーの置物を抱きしめていた。

 

 ライブの成功を心から喜べれば、よかったのですが。海未はそう思った。

 

 やがてスピーカーから声が流れた。

『二年二組の高坂穂乃果さん、高坂毬穂さん、園田海未さん、南ことりさん。理事長がお呼びです。理事長室までお越しください。繰り返します……』

 

「それじゃ、いってくるね」

 緊張した顔で穂乃果がいった。ごくりと唾をのむ音が聞こえそうな気がした。

 

        ・

 

 四人は理事長室に入って頭を下げた。

 学院の(みなみ)理事長はこげ茶色の重厚な机の向こうに座っていた。理事長は女性で、パープルのシャツにライトグレーのスーツをきっちりと着こなしていた。

 

「だいたいの事情は聞いています。ライブに出られなくなりあせってしまい、無断でふたりだけで東京に帰ろうとした。そうですね、高坂穂乃果さん、毬穂さん」

 硬い表情でふたりに問いかける。

「はい、その通りです」

 穂乃果は理事長をまっすぐに見つめた。

「おっしゃる通りです」

 毬穂もうなずいた。

 

「そして、園田さん、南さん。ふたりは高坂さんたちを連れ戻すため、やはり無断でホテルを出た。……間違いありませんか」

 理事長はことりの母でもあったが、それを微塵も感じさせない口調だった。

「はい、間違いありません」

 海未は答えた。

「はい」とことりも返す。

 普段の理事長はむしろ優しそうな雰囲気の女性だが、今日は大きく異なり――海未は理事長の瞳に射抜かれる思いがした。

 

「……それでみなさん。なにか、いうことはありませんか?」

 理事長は静かに話す。

 沈黙が流れた。海未はちらりと穂乃果に視線を送る。

 

「……いえ、特にありません」

 穂乃果は目を伏せた。

「あの、私が穂乃果さんを巻き込んだんです。飛行機が飛びそうだって……」

 毬穂が訴えるように身を乗り出す。

「ううん、私が帰るって、いい出したの。私の責任です」

 穂乃果は途中でさえぎり顔を振った。

「でも、穂乃果さん、それは……」

「毬穂」

 海未は隣から声をかけた。毬穂は押し黙る。

 

 それからしばらくは誰も口をきかなかった。

 

「わかりました」

 やがて理事長がいった。

「……四人とも、まずは反省文を提出してください。期限は、明後日までです」

「あの……海未ちゃんとことりちゃんは、穂乃果たちを止めるために外出したんです。それを考慮していただけないでしょうか」

 穂乃果は静かに、しかし強い意思をこめて話した。

 

 理事長はすこし時間をおいて――首を振った。

「……多少、考慮すべき事情はあるかもしれませんが、無断外出という点では同じです」

「そんな……」

「いいの、穂乃果ちゃん」とことり。

 穂乃果がことりと海未に視線を送る。ふたりは小さくうなずいた。

 

 理事長は続けた。

「今回の事態の理由、反省すべき点、どう改善するか。それぞれについて、簡潔にまとめてください。……また、みなさんには一週間の奉仕活動を命じます。その内容についても、明後日までに、自分たちで考えてきてください」

 いったん言葉を切り四人をじっと見つめる。

「その後の処分については、反省文と奉仕活動によって判断します。……よろしいですか」

「はい」

 四人はそろってこたえた。

 

        ・

 

 四人は重い足取りで部室に戻った。理事長からの話を部員に説明する。

 

「ということは、部の処分については未定、ってことやね」

 希が眉をひそめた。

「なによそれ、生殺(なまごろ)しもいいところじゃない」とにこ。

「四人とも反省していると思うし……素直に自分たちの気持ちを書いてね」

 絵里ははげますように微笑んだ。

 

 結局、その日と翌日の練習は中止になった。

 

 四人は部室を出て一緒に帰った。

 学院の前の長い階段を下りてから、ゆるい下り坂を歩いていく。

 

「穂乃果、反省文、一緒に書きましょうか」

 海未は穂乃果に聞く。

「……ううん、自分で書くよ」

 穂乃果は首を振った。

 

 いつもなら泣きついてくるところですが、穂乃果らしくありませんね。いえ……それだけ責任を感じているのでしょう。逆に、穂乃果らしいといえるのかもしれません。

 

「そうですか。……相談には、乗りますから」

「ありがと、海未ちゃん」

「毬穂とことりは?」

「私も、自分で書いてみます」

「わたしも」

「……わかりました」

 海未はうなずいた。みな、それぞれに思うところがあるのでしょうね。

 

「奉仕活動の内容は、明日、学校で話しましょうか」

 そう海未が提案するとほかの三人も同意した。

 

 翌日。放課後、教室に四人で残り奉仕活動の内容について話しあった。

 とはいえ特にアイデアが出るわけもなく――あまり突飛なものでも逆にまずいだろう――本来の部活の時間をあてて、校内の草むしりを穂乃果と毬穂が、プール掃除をことりと海未が、おこなうことに決めた。

 

 そしてさらに翌日。四人はもう一度、理事長室に呼び出された。

 

 それぞれが提出した反省文を理事長は受け取った。

「これはお預かりします。……それで、奉仕活動の内容は、決まりましたか?」

「はい。校内の清掃活動をおこないます。具体的には、私と高坂毬穂が敷地内の草むしりをやります」

 穂乃果は真剣な表情だ。海未が続ける。

「そして、私と南ことりとで、プールの清掃をおこないます」

 

 理事長はじっと四人を見つめたが、やがて首を振った。

「残念ですが……。それは認められません」

「そんな……内容が簡単すぎるからですか?」と穂乃果。

「いいえ。草むしりは、ちょうど業者を入れる時期でしたから、適切です。でもプールは……考えてごらんなさい、夏が終わって、一見よさそうですが、いまプールを清掃しても、来年までには、また汚れてしまいますよ」

 気まずい雰囲気が流れた。

「……かわりに、全棟の屋上を清掃することを命じます。それでいいかしら」

「はい」

 海未とことりがこたえた。

「一週間後、また呼びます。反省文については、それまでに職員会議でも検討しておくわ。では、明日から始めなさい」

 四人は一礼した。

 

 理事長室を出ようとしたとき背後から理事長が声をかけた。

「まだまだ日差しは強いです。水分補給と熱中症には、くれぐれも気をつけなさい」

「はい。失礼します」

 穂乃果が代表してもう一度頭を下げた。

 

        ・

 

 翌日から四人は清掃活動を開始した。

 

 μ'sの練習も同じ日から再開されていたが、海未とことりはそれを見ながら清掃を続けた。ふたりのところにはときどきメンバーがやってきて、はげましてくれたり手伝ってくれたりした。いつも練習に使っている棟だけでなく、特別教室のある棟の屋上も対象に、すみずみまできれいにしていった。

 またメンバーが報告してくれたところでは、穂乃果と毬穂は中庭や花壇のまわり、校舎や体育館の裏など、地道に進めているようだった。

 

 十月とはいえ、なにもさえぎるもののない屋上の日差しはきつかった。海未はことりだけでなく、穂乃果や毬穂にも日焼けと暑さ対策を徹底するよう気を使った。

 清掃はさすがにつらかったが――。

 

 いえ、つらいなどといったら、(ばち)が当たりますね。海未はそう自分にいい聞かせた。

 

 またすこしずつでもきれいになっていく屋上に、達成感はあった。

 

 そして一週間後。四人はふたたび理事長室に向かった。

 

「四人とも、一週間、お疲れさま」

 理事長は心なしか優しい口調で話した。

「校内、屋上を確認しましたが、ずいぶんきれいになったようですね。……反省文も確認しました。職員会議で話しあいましたが、四人とも内容は十分です。毬穂さんの文章は、ややエキセントリックでしたが……」

 そういって毬穂に微笑んだ。もう一度、四人に視線を戻して続ける。

「ぜひ、今後に生かしてくれることを期待します」

 理事長は言葉を切った。

 

「それで、追加の処分などは……」

 海未は不安を感じながら聞いた。うしろでことりと毬穂も小さくうなずく。

「……追加の処分は、ありません。反省文と奉仕活動で十分です」

 理事長は今度こそ微笑んだ。海未の心に安堵が広がる。

 

「正直にいうとね……もし、反省文に、なにか()(わけ)めいたことが書いてあったら……そう、部活のために仕方なく、とか、学院のために、とか……アイドル研究部への処分も、考えていたわ」

 理事長は穂乃果を見つめ、さらに残りの三人に順に視線を送った。

「でも、誰も書かなかった。……だから、あなたたちは十分に反省している、そう判断したのよ」

「……ありがとうございます」

 海未は四人を代表する気持ちで頭を下げた。

「いいえ。……音ノ木坂学院に限らず、生徒の本分は勉学よ。それを忘れないで……充実した学院生活を送ってちょうだい」

「はい。失礼します」

 四人そろって一礼し理事長室を出た。

 

        ・

 

 四人はその足で部室へ向かった。部室には残り六人、一年生と三年生の部員がそろっていた。

「ど、どうなりましたか?」

 花陽がおずおずと聞いた。

「まさか休部なんてことは、ないでしょうね」

 真姫は右手で髪の毛の先をくるくるといじる。彼女も内心の不安を隠しきれていなかった。

 

「はい、おかげさまで……追加の処分は、ないそうです」

 海未はようやく笑顔を浮かべた。

「それは……よかったわ」

 絵里も安堵の表情を見せた。

「反省が認められたみたいで……。ね、穂乃果さん、ことりちゃん」と毬穂。

「はい」

 ことりも微笑んだ。

 しかし、穂乃果は暗い表情のままだった。

 

「穂乃果……?」

 海未はそんな穂乃果に違和感を感じた。

 

 穂乃果のなかでは、まだ決着していないのでしょうか……。

 

「……ごめんね、みんな。不安な思い、させちゃって」

 穂乃果は静かにいった。

「まあ、たしかに不安だったわね。でも、こうして一件落着したし、いいんじゃない?」

 にこがすましてみせた。

「ううん、よくないよ……」穂乃果は首を振った。「毬穂ちゃんにも、海未ちゃんにも、ことりちゃんにも。部員のみんなにも。迷惑ばっかり、かけちゃって」

 顔を落として続ける。

「穂乃果、自分がいなくちゃμ'sは始まらない。そう思ってた。でも、ぜんぜんそんなこと、なかったんだ」

「えっ、そんなことないよ、穂乃果ちゃん……」

 凛があわてたようにいう。

「でも、ライブ、うまくいったよね……」

 穂乃果は寂しそうに微笑んだ。

「それに、学園祭のときも体調をくずして迷惑かけちゃったし、穂乃果、みんなと一緒にやる資格なんてないよ」

 

 ああ、そうなのですね、と海未は思う。

 

 学園祭からこちら、A-RISEとの邂逅(かいこう)、ラブライブの最終予選、とがんばってきたところで、今回の事件。自負も出てきたところで、それが空回りしていたと気づいてしまった。そういうことなのでしょう。

 

「穂乃果、もういいではありませんか。これからにつなげていけば……」

 海未は元気づけようとする。

「そうですよ、穂乃果さん」

 毬穂は穂乃果の肩にぽんと手をかけた。

 

 穂乃果は肩をゆすり、その手を振り払うようにする。

「ごめん。私……頭を冷やすことにする。……練習、しばらくお休みするね。ごめんね、みんな」

 穂乃果は振り向いて部室の扉を開けた。

「穂乃果!」

「穂乃果ちゃん」

 海未とことりが呼びかけたが、穂乃果はそのまま出ていき、扉はガチャリと閉まった。

 

 部室は静寂に包まれた。

「穂乃果ちゃん……」

 扉を眺めたまま花陽がつぶやく。

「どうしよう……」

 ことりが困ったようにいった。

「穂乃果も、いろいろ思うところがあるみたいね」

 絵里が誰にいうともなく話した。

「追いかけましょうか?」と毬穂。

 海未はかぶりを振った。

「いえ……いまは、穂乃果に時間をあげたほうがいいでしょう」

 

「あのときのカード……この運命を示してたのかも、しれへんね」

 希がぽつりともらした。

 

        ・

 

 次の日、穂乃果は宣言通り練習に来なかった。

 その翌日、放課後。海未たちは穂乃果に声をかけることにした。

 

「穂乃果。帰りに修学旅行と……例の件を報告に、神田明神に参拝しようと思うのですが」

「えっ、穂乃果はいいよ……」

「それでも、けじめですから」

 穂乃果はしばらく逡巡(しゅんじゅん)したがやがてうなずいた。

「……うん、そうだね」

 

 四人は一緒に学院を出た。秋葉原方面にしばらく歩く。男坂をゆっくりと上ると神田明神の境内だった。

 

 手と口を清めてから静かに参拝した。

 海未は修学旅行から無事に帰ってこれたこと、ライブが成功したこと、無断外出の件が穏便にすんだことを感謝した。

 

 境内から出て海未は穂乃果にたずねる。

「穂乃果、いつまでお休みするのですか」

「……わかんない」

 穂乃果は顔を落としたままいった。

「……もしかしたら、アイドル。止めたほうがいいのかも」

 その言葉に海未は足を止めた。

「穂乃果、本気なのですか」

 どうしても語気が強くなった。

 

 ことりに続いて、あなたまで、それをいうのですか、穂乃果……。

 

 穂乃果も立ち止まった。前を歩いていたことりと毬穂も振り返る。

「もう廃校もなくなったし、第二回ラブライブも、穂乃果なしで、なんとかなるよ」

 穂乃果は力なく笑った。

「穂乃果さん、まさか……」

 毬穂が駆け寄ってくる。

「うん、あとはみんなで、がんばって」

「そんな、μ'sは九人だって」

「ううん、ほら、毬穂ちゃんもいるし。毬穂ちゃんかわいいから、きっと人気が出るよ」

「そんなことないです……。そんなこと……」

 毬穂は泣きそうな顔になる。

 

「穂乃果ちゃん、わたし……日本に残ったこと、後悔してないんだから」

 ことりは両手で穂乃果の手を握る。

「ことりちゃん……ごめんね」

 穂乃果は手を振りほどき走り出した。

「穂乃果!」

 海未は背中に向かって呼びかけたが、穂乃果は振り返らなかった。

 

        ・

 

 海未たちは、穂乃果がアイドルを止めたほうがいいのかも、と話したことを他の部員に伝えた。

 それからも毎日、部員たちは練習のために屋上に集まっていたが、穂乃果がいないことでどうしてもモチベーションは上がらないのだった。

 

 数日後。明日から中間テストを控えて部活が休みになる日。

 穂乃果をのぞいた部員たちは、練習帰りにファーストフード店へ立ち寄った。思い思いのドリンクを手に二階席へいく。

 

「実はね、みんな。新しいライブの出演依頼が来てるのよ」

 全員が席に着いたのを見て絵里が話しはじめた。

「秋葉原をハロウィーンストリートにするイベントがあって、そこでライブをやらないかって」

「ハロウィーン……もう、すぐじゃない」

 真姫がいう。

 絵里はうなずき、イベントの概要が書かれた紙を回覧した。

 

「A-RISEにも、出演を依頼しているんですね」と花陽。

「ええ、そうなのよ。……それでね、どうしようかと思うんだけど。穂乃果が、あんな調子でしょう」

「私は、参加するべきだと思うわよ。ラブライブの最終予選に向けて注目を集めるという意味で、外せないでしょう」

 にこは即答した。

「うちは……どうかと思うなあ。A-RISEも来るんやし、穂乃果ちゃんがいないμ'sが出たら、みんなどう思うやろ」

 希は淡々と話した。

「それは、そうだけど……」

 にこは押し黙る。

 

「……でも、穂乃果ちゃんが突然、アイドルを止めるなんて、いい出すなんて」

 凛がつぶやいた。

 

「あの……穂乃果には、いろいろがプレッシャーだったのだと思います」

 海未は全員に向けて話した。

「学園祭からラブライブ予選とがんばってきて、自分がやらなきゃ、と背負い込んでいた。しかし、それが自分の独走にすぎなかった……そう気づいて……いいえ、思い込んでしまっているのかもしれません」

 

 穂乃果はたしかにやりすぎました。でもそれは、そう思わせてしまった、私たちにも責任があるのですよね。

 

 絵里がうなずいた。

「学園祭で穂乃果が倒れたとき……私は単に、がんばりすぎて体調管理がなっていないだけ、だと思ってたわ。でも、実はそのころから、気負っていたのかもしれないわね。穂乃果はずっと私たちを引っ張ってくれていたけど、私たちもそれに甘えていた……」

 

「あの、たしかに私、穂乃果さんに、焚き付けるようなことばかり、話していたかもしれません。ごめんなさい」

 毬穂が静かにいった。

「もうすこし、穂乃果ちゃんに任せっきりにするんじゃなくて、みんなで行き先を、きめるべきだったのかも」

 ことりもうなずく。

 

 しばらくの沈黙のあと絵里が口を開いた。

「今回は……参加を見送りましょうか」

「……仕方ないわね」

 にこがやれやれというように首を振った。ほかの部員も同意するようにうなずいた。

 

「ラブライブの予選は……どうしますか?」

 花陽が小声でいった。

「このままだと、参加は厳しいんじゃない?」

「うん、そうかも……」

 真姫と凛が不安そうに続ける。

「そんな……それじゃ、実質的に解散したようなものじゃないですか」

 毬穂が悲痛な声を上げた。

「にこは反対よ。たとえ八人でも、出るべきだわ」にこは強い調子でいう。「それに、穂乃果のことだから、きっとそのうち、またやりたい、っていい出すわよ」

「そう、なのかな」とことり。

「……信じてるんだから」

 にこがささやいた。

 

 ファーストフード店の店内に、場違いな重苦しい沈黙が流れた。

 

「あの……」

 海未は口を開いた。

「穂乃果がどこまで本気でアイドルを止めようと思っているのか、それをたしかめさせて、くれませんか。結論を出すのは、それからでも遅くないと思います」

「海未ちゃん……」

 ことりが海未を見つめる。

「海未さん、ありがとうございます。そうですよね」と毬穂もいう。

 海未はふたりにうなずいてみせた。

 

「わかった。それじゃ、とりあえず海未たちに任せるわ」

 絵里の言葉に海未は頭を下げた。

 

 帰り道、ことりと毬穂と別れ、ひとりになって海未は思う。

 

 穂乃果はああいう性格ですから、思い込みすぎているところが、あるはずです。ことりの留学のときも、そうでしたが……きっと考え直してくれる、私はそう信じています。

 

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