クロノスからの贈り物 ~ Story of Umi   作:Kohya S.

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14. 穂乃果の決断

 海未たちがハロウィンイベントへの不参加を決めた翌日。宏未(ひろみ)は海未の自宅を訪れた。

 

「そろそろ中間テストだよね。テスト対策に力を入れたほうがいいかな」

 海未の自室で宏未は海未に聞く。

「そうですね。今回は宏未さんに見ていただいていますから、おかげさまでここが不安、というところはありませんが……」

「それは嬉しいね」

 宏未は微笑んでみせた。海未も笑みを浮かべたが、どこか寂しそうだった。

 

 前回の家庭教師のとき、無断外出の処分が軽くてすんだことは聞いていた。また、穂乃果が練習を休んでいることも。

 

 海未さんが落ち込んでるのは、そのせいだろうな、と思う。まだ解決してないのか……。

 

「それじゃ、全体的にテスト範囲を復習していく感じにしようか」

「はい」

 とりあえず宏未は勉強を始めた。

 

 勉強が一段落したころ、和服姿の海未の母が飲み物を持ってきた。テストが近づいて、いつもよりすこしだけ指導時間が長い。

 

「ありがとうございます」

 宏未は礼をいう。

「いいえ。よろしくお願いしますね」

 そういって彼女は微笑み、去っていった。

 

「それじゃ、休憩しようか」

「はい」

 

 アイスコーヒーを一口飲んでから宏未は聞いてみる。

「そういえば、穂乃果さん、あれからどうなの?」

「実は、あのあと……アイドルを止めたほうがいいのかも、といい出して……」

「ああ、そうなんだ……」

「はい。秋葉原でおこなわれるハロウィンのイベントにも、参加依頼があったのですが……みんなとも話して、それは見送りました」

 海未はつらそうに視線を落とした。

 

 なるほど、そんなことになったのか。

 これは、μ'sが活躍する、という未来は、どうやらなくなりそうだな。それはそれで一安心だけど……。

 

「それは、残念だね」

 その言葉は宏未の本心だった。

「ええ」

 

 海未は一呼吸おいてから続けた。

「ただ、穂乃果が、本当にアイドルを止めたいと思っているとは、私には思えないのです。……いえ、私はそう思いたくない、というか……」

「……そっか」

「はい」

 海未は視線を落とした。

 

 ふたりのあいだに沈黙が流れた。

 

 宏未は海未の横顔を――切れ長の瞳に長いまつげ、透き通るような白い肌、うなじにかけて流れる黒髪を、見つめた。考えに沈む彼女のことを、宏未は美しいと思った。

 

 彼女を悲しませたくない、そう考えて宏未は口を開く。

「……ことりちゃんが留学するときにも、海未さんが、彼女の本当の気持ちを、考えてあげたんだよね。それで、彼女は日本に残ることにした」

「はい」海未は顔を上げた。「……そうだといいな、と思っています」

 

「きっと、本人よりも、まわりのほうが、本当の気持ちをわかってる、ってこともあるんじゃないかな。……というか、本人は、わかってるとしても、それを認めたくない、っていうか」

「それは……あるかもしれません」

 海未はゆっくりとうなずいた。

 

「だとしたら、もう一度、本音を出せるようになるには、なにかきっかけがあればいいんだと思う。海未さんが……その、触媒(しょくばい)になってあげられる、そんな気がするんだ」

「触媒、ですか」

「うん、穂乃果さんだけでなく、みんなに変化をもたらすような……」

「変化を……」

 海未はふたたび考え込んだ。

 

 宏未はふたたびコーヒーを飲んで、いった。

「……勉強、続けようか」

「はい」

 

 やがて一区切りがついた。

 

「今日は、ありがとうございました」と海未は頭を下げた。

「いいえ。中間テストまでもうすこしだし、がんばろうか」

「はい。……それに、穂乃果のことも」

 海未は優しく微笑んだ。

「いや、差し出がましいこといっちゃって……」

「そんな……とても役に立ちました。それに、私、嬉しかったんです」

「ん? 助言するのは当然のことだと思うけど」

 宏未は首をかしげた。

「その……きっと宏未さんは気づいていないと思いますが……」

 海未は目をそらして頬を赤く染めた。

「……私のことを、名前で呼んでくださって……」

 

 宏未ははたと気づいた。そうか、つい、海未さんっていってたかも……。

 

「あっ、ごめん、う……園田さん。急に馴れ馴れしくして」

 宏未はあわててあやまった。

「いえっ、いいんです」海未は手を振る。「私も、名前で呼ばれるほうが、なれていますから」

「でも……」

「あの、名前で呼んでくれたほうが、嬉しいです……」

 海未はますます赤くなった。まいったな、と宏未は思う。まあ、お互いさま、か。

 

「うん、それじゃ、海未さん」

 海未は顔を上げて微笑む。

「穂乃果さんのこと……うまくいくと、いいね」

「はい」

 

 宏未はその笑顔を見て思う。彼女ならきっと、なんとかしそうだな……。

 

        ・

 

 十月末日、ハロウィンの日。宏未は秋葉原へいくことにした。海未からイベントについて聞いて、興味がわいたのだった。

 

 それぞれの通りにはジャック・オー・ランタンを模したバルーンが飾られており、周辺のビルにも幽霊や骸骨などのデコレーションが飾られていた。

 また中央通りは歩行者天国になっていた。

 

 へえ、かなり盛大にやるんだな。宏未はそう思いながら秋葉原を歩いた。

 

 やがて人が一方向に流れていくのに気づいた宏未は、なんとなくそれについていった。中央通りの一部が仕切られており、そのまわりに人垣ができていた。どうやらライブがおこなわれるらしい。

 

『えー、みなさん、お待たせいたしました! いよいよハロウィン限定、スクールアイドルライブの開催です!』

 アナウンスに歓声が上がった。

 

 最初に登場したのは二人組のユニットだった。

 通りをパレードするような形で笑顔を振りまきながら、曲にあわせてふたりは歌った。

 なかなかたいしたものだな、と宏未は思う。

 

 曲が終わり、ふたりが喝采にこたえる。

 

Midnight cats(ミッドナイト・キャッツ)のみなさんでした。続きまして、地元アキバのアイドル、A-RISEの登場です!』

 アナウンスが流れると、観客たちはより一層、盛り上がった。

 

 魔女にドラキュラ、フリルのついたドレスの女の子という、ハロウィンの仮想風の衣装に身を包んだ三人が、特設ブースからあらわれた。

 宏未もA-RISEについては聞いていたし、動画も見ていた。

 

 そう、一次予選第一位、だよな。

 

 A-RISEは広い通りを縦横に使い、歌い、踊った。ステージとは違いなにもない空間で、ともすれば小さく見えがちなはずだが、三人はそれを感じさせなかった。

 たしかな存在感を持ってA-RISEは輝いていた。

 彼女たちは観客たちへ歌で呼びかけ、観客たちもそれにこたえた。

 

 やがて曲が終わる。密度の濃いA-RISEのライブは長いようでも短いようでもあった。三人は決めポーズを解いて、大きく腕を振って挨拶した。

 われんばかりの歓声と拍手。宏未もそれに加わった。

 

 A-RISE、さすがだな。でも、μ'sも負けてないはず。

 

 宏未にはそれは贔屓目(ひいきめ)とは思えなかった。そして、本当ならここに、μ'sもいたはずなんだよな、と思う。

 宏未はえもいわれぬ喪失感に包まれていた。

 

――――――――

 

 海未が宏未に相談した数日後。

 海未は穂乃果、ことり、毬穂(まりほ)の四人で学院を出た。試験期間中のため、ちょうど昼ごろだった。

 

「お昼ごはん、食べていきませんか?」

 毬穂の誘いで四人は秋葉原のほうへ向かった。

「なににしようかなー♪」

 ことりは楽しそうに歩いた。

「穂乃果ちゃん、どうする?」

 くるりと振り向いて聞く。

「穂乃果はやっぱり、サンドイッチがいいな」

 ずいぶん時間がたったせいか、穂乃果もすこし明るさを取り戻していた。

 

「えへへ、そういうと思った。わたし、いいお店、みつけたんだよ」

「へー、案内してよ」

「うん♪」

 海未と毬穂もあとをついていった。

 

 途中、ことりの紹介した店でサンドイッチを買った。席はすくないようだったので、外で食べることにする。

「いつもの公園、いきましょうか」

 海未の提案に三人ともうなずいた。

 

 秋葉原の街中は数日後に迫ったハロウィン一色になっていた。

 

 そういえば、と海未は思い出す。イベントに出る予定、だったのですよね。

 皆、同じことを考えたのか無言になる。

 

「あ、これ……」

 毬穂が足を止めた。ほかの三人も立ち止まる。毬穂の視線の先にはイベント紹介のポスター。仮装風の衣装姿のMidnight catsのふたりと、A-RISEの三人が微笑んでいた。

「……本当なら、ここに私たちも、出てたんですよね」

 毬穂がぽつりといった。

 しばらく四人でポスターを眺める。最初にポスターの前を離れたのは穂乃果だった。

 

 やがて公園についた。ベンチに座る。穂乃果の表情にはふたたび影が差していた。

 

「イベントには、みんなで来ましょう。ちょうど、試験もその日までですし」

 海未はサンドイッチを食べながらいう。

「えっ、穂乃果はいいよ……」

「屋台も出るみたいだし、楽しいよ、きっと♪」

 ことりが無邪気を(よそお)っていった。

「あ、私、屋台とか初めてなんです。あの、案内してくれますか」

 毬穂が穂乃果に笑いかけた。

「うん、いいけど……」

 穂乃果はうなずいた。

 

「おいしかったです♪」

 サンドイッチを食べ終えたことりが満足そうにいった。

「うん、紹介してくれてありがとう、ことりちゃん」

 穂乃果にも笑顔が戻った。

 

 四人で学院のほうへ歩き始める。

「穂乃果さん……」

 穂乃果の横を歩きながら毬穂が口を開いた。

「ん?」

「やっぱり、アイドル、続けないんですか」

「……うん」

 

 毬穂はしばらく無言だったが、遠くを見るように話し始めた。

「私……引っ越してくる前に、穂乃果さんたちに元気をもらったんですよね。だから、こっちに来られるって知って、すごくすごく嬉しかった。みんなの隣にいられるなんて、夢みたいだって思いました」

 いつになく毬穂は真剣な表情だった。

「だから、μ'sには、活躍してほしくて……。すこしでもそれを手助けしたくて……。でも、あんなことになっちゃって……」

 毬穂は穂乃果を見つめる。

 

 なるほど、だからふたりで東京に戻ろうなんてしたのですね、と海未は思う。

 

「あの……私、穂乃果さんを尊敬してるんです。もちろんほかのみなさんも、すごいです。でも、μ'sが動き出したのは、穂乃果さんがいたからで……」

「毬穂ちゃん……」

 穂乃果は困惑した顔で毬穂を見返した。

「だから、穂乃果さんがいなくちゃ、μ'sじゃないって……。私、私……」

 毬穂の瞳に涙が一粒、輝いていた。毬穂は耐えきれなくなったように視線を落とす。

 

「毬穂ちゃん、ごめんね」

 穂乃果も目をそらし、そっとつぶやいた。毬穂は小さく顔を振った。

 

 それに、毬穂が穂乃果のことをそんな風に考えていたなんて……。いえ、決して意外ではありませんね。たしかに、穂乃果はμ'sに欠かせません。私も同意です。でもはたして穂乃果に、それを納得させられるでしょうか。

 ……そういえば宏未さんにもいわれました。私が、触媒になれるのではないか、と。

 

 次の交差点で、毬穂とことりは別れていった。

 

「毬穂、泣いていましたね」

 海未がいうと穂乃果は無言でうなずいた。

「穂乃果。……あなたらしくありませんね。叱られて、反省をして……いつもなら翌日には、すっかり元気になっていたではありませんか」

 海未は静かにいう。

「そうだけど……。でも、今回は違うよ。穂乃果のせいで、アイドル研究部が……μ'sが休部寸前だったんだよ。ううん、廃部になったかもしれない。海未ちゃんやことりちゃん、毬穂ちゃんにも迷惑をかけて」

 穂乃果はいやいやをするようにかぶりを振った。

「ええ、それはよくわかりました。たしかに周りを見ていませんでしたね。でも、穂乃果は反省した。休部にもならなかった。私たち部員も、それを認めた。それでいいではありませんか」

「でも……」

 

「……もしかして、自分がいなくてもμ'sがなんとなかると知って、ショックだったのですか」

 穂乃果には(こく)な質問だと思ったが、あえて海未は口にした。

「そんな、そんなこと……」

 穂乃果ははっと海未を見つめる。海未はその視線を受け止めた。穂乃果はやがて目をふせた。

「……ううん、そう、なのかも知れない。……私なんか、いなくても、いいのかなって。かえって迷惑なんじゃないかな、って。そう思ったんだ」

「違いますよ、穂乃果」

 海未は優しくいった。

「たしかにμ'sは、穂乃果がいなくても大丈夫です」

 顔を上げる穂乃果。その顔に戸惑いが浮かぶ。

 

 海未は続けた。

「でも、それは、穂乃果がいて、みんながいて……みんなでがんばってきた、そのおかげですよ」

「海未ちゃん……」

「ただし、だれかが欠けたら、μ'sはそこまでです。もう、それはμ'sではありません。……穂乃果にしかできないことがある、私にしかできないことがある。みんながそれぞれ、それを持っている。それは認めても、いいと思うのです」

「そう、なのかな……」

 穂乃果の問いかけるような視線に、海未はうなずいた。

 

        ・

 

 ハロウィンの日。部員たちは一緒に学院を出て秋葉原へ向かった。

 

「なんですか、これ?」

「ヨーヨー釣りだよ。知らないの、毬穂ちゃん?」

「初めて見ました!」

「穂乃果、これ、得意なんだから!」

 中央通りの歩行者天国の一角、並んだ屋台に部員たちはしばらく夢中になった。

 

 やがてライブ開始を告げるアナウンスが流れた。部員たちは人垣に加わった。

 

 最初にライブをおこなったのは地区予選三位のMidnight catsだった。

 ふたりの息のあった歌とダンスに海未は舌を巻いた。

 

 しかしさらに圧巻だったのは次のA-RISEだった。曲こそ定番の「Private Wars」だったが、路上でのライブにあわせてダンスにはアレンジが施されていた。三人は広い舞台を存分に生かし観客を魅了した。

 

 海未は隣にいた穂乃果に目をやった。穂乃果の目は輝いていた。

 

 曲が終わり観客が喝采を送った。部員たちからも自然に拍手が上がっていた。

 海未は、手を振りながらブースへ下がっていくA-RISEのメンバーが、ちらりとこちらに視線を送ったような気がした。

 

 人垣がゆっくりとばらけていく。

「さすがだわ」

 にこが腕組みをしていった。その表情はアイドルにあこがれるファンのそれではなく、ライバルを冷静に分析するプロのそれだった。

「うん、すごいね」と花陽。

「……それじゃ、帰りましょうか」

 しばらくして絵里がいうと全員がうなずいた。

 

 海未たちは余韻に包まれながら通りを歩いていった。会話は弾まなかった。

 

 秋葉原の中心部を外れるとあたりは急に静かになる。

 

「あの、神田明神に、寄っていきませんか。十人で秋葉原に来るのは、そういえば初めてかもしれません」

 海未は切り出した。

 きっとなにかのきっかけになるだろう、そう思ったのだった。

「ええ、いいわよ」と絵里が応じた。

 

 秋葉原方面から来ると、男坂をのぼることになる。みな苦もなくのぼったが毬穂だけは例外だった。

「みなさん、さすがですね」

 上についた毬穂は肩で息をしいてた。

「まあ、鍛えてるしね」とにこ。

「えへへ。毬穂ちゃんも練習、するといいにゃ」

 凛が笑う。

「そうですね、基礎練習くらい、したほうがいいのかも」

 毬穂も微笑んだ。

 

 そう、ここでずっと、練習してきたのですよね。海未は感慨に包まれた。

 みな同じ気分だったのだろうか、男坂の上から秋葉原のほうを無言で眺めた。

 

「ねえ、みんな、話があるんだけど……」

 穂乃果が数歩、輪から離れてくるりとみんなのほうを向いた。すこし上気したその顔は真剣な表情だった。皆の視線が集まる。

「……あの、その……」

 穂乃果はどう切り出していいかわからないようだった。

「なによ、水臭(みずくさ)いわね」

 にこが冷やかすようにいう。

「……みんな、ごめん!」

 穂乃果は深く頭を下げた。

 

「あら、なにか、あやまってもらうようなこと、あったかしら?」

 絵里が希に話しかける。

「んー、うちは知らへんなあ。穂乃果ちゃん、すこし調子が悪くて部活、ちょっと休んでただけやん」

「だれでも、あることだよね♪」

 ことりが笑った。

「えっ、でも……」

 戸惑う穂乃果。

「それじゃ、明日から、来てくれるのね?」と絵里。

「うん……そのつもり、だけど……」

「よかった、穂乃果ちゃん。また一緒にやろうね」

 花陽が穂乃果に笑いかけた。

 

「……でも、私、アイドル止めたい、なんて、いっちゃって……」

 穂乃果は目を伏せた。

「あんた、それ、本気だったの?」

 にこが目を細めて穂乃果をにらむ。

「ううん」穂乃果はかぶりを振る。「海未ちゃんたちに、話を聞いて……それに、今日、A-RISEのライブを見て、思ったんだ。私……やっぱりアイドル、続けたいよ。……でも、一度、止めたいっていったのに、いまさら……」

 にこがはあっと息をはいた。

「あんた、私を馬鹿にしてるの。私が何回、止めたいと思ったか、知ってるの? 悩んで悩んで、やっぱりあんたは続けたいと思った。なら、それでいいじゃない」

「にこちゃんがいうと、重みが違うにゃ」

「あんた、それ、どういう意味よ」

 凛が茶化すと、にこも早速応じた。

 

 穂乃果はすこし表情をやわらげる。

「……だけど、迷惑じゃないかな。その……穂乃果みたいに、ひとりで突っ走るメンバー、いたりすると」

「そうですね、いつも苦労させられています」

 海未はふっと苦笑してみせた。

「……でも、穂乃果がいなければ、音ノ木坂は廃校になっていたかもしれません。それは、(ほこ)ってもいいことだと、思いますよ」

「でも、もう、私の役目は、終わったのかなって……」

 

 絵里が首を振った。

「廃校がなくなって、μ'sはそのとき、解散してもよかった。……でも、解散しなかった。それはね、穂乃果、あなたがいたからよ。見てくれるみんなを幸せにしたい、っていう、あなたの想いを私たちは共有したから」

 絵里は微笑んで、続ける。

「それに、A-RISEもいってたじゃない。これだけのメンバーはそうそういないって。……外野のほうが、私たちのことをよくわかってるって、皮肉よね」

 

 海未は一歩、前に出る。

「穂乃果、もう心は決まっているのでしょう。私たちと、もう一度、一緒にやりましょう」

 海未は穂乃果に手を差し出した。

「そして、私たちを導いていってください。……それは、穂乃果にしか、できないのですから」

 

 前も同じことをいいましたね。またいうことになるとは……私はそういう、運命なのでしょうか。

 

「海未ちゃん……」

 穂乃果は目をぬぐうと、ゆっくりと海未の手を取った。

 

 絵里が手を重ねた。希、凛、花陽、真姫、にこ、ことりが、それに加わる。

 

「あなたもですよ、毬穂」と海未。

「えっ、私も?」

 おずおずと毬穂も右手を乗せた。

「さあ、穂乃果!」

 

 穂乃果は大きく鼻をすすってから、表情を引き締める。

「……よーし、みんな、全力で、いっくよー!」

「おーっ!」

 神田明神の境内、その一角に、全員の声がこだました。

 

        ・

 

 それから部員たちは手をほどいて、照れくさそうに顔を見合わせて――神田明神に参拝してから、それぞれ帰路についた。

 

「海未ちゃん、いろいろありがと」

 帰り道、海未とふたりになった穂乃果は恥ずかしそうに口を開いた。

「いいえ、穂乃果が決めたことですから」

 海未は優しく笑ってみせる。

「……これからもいろいろ、あると思うけど……。ううん、穂乃果、絶対にいろいろ馬鹿なこと、しちゃうと思うけど……。よろしくね、海未ちゃん」

「はい、穂乃果」

 ふたりは視線をあわせて微笑みあった。

 

「……なにか、歴史を変えるようなこと、したいなー」

 穂乃果は大きく伸びをする。

「うふふ、大袈裟(おおげさ)ですね、穂乃果は」

 海未はもう一度、笑った。ただそれは決して無理なことではないように思えたのだった。

 

        ・

 

 その日の晩。入浴を終えて海未は宏未に電話をかけた。

 

「あの……穂乃果が、もう一度、アイドルをやることになりました」

『そっか、それは、よかったね』

 宏未の言葉には実感がこもっているように、海未には感じられた。心が温かくなる。

「はい。……宏未さん、ありがとうございました。アドバイスしていただいて」

『いや、俺はなにもしてないけど……。でも、よかった』宏未は繰り返した。『それじゃ、μ'sも、活動再開するのかな』

「はい、そうなると思います」

『わかった。期待してるね』

「ありがとうございます」

 

 宏未との会話を終えて海未は思う。

 

 宏未さんには、いろいろお世話になりました。相談できる方がいる、というのは、とても嬉しいことですね。それに、素敵な殿方ですから……。あら、私、なにを考えているのでしょう……。

 

 海未はひとり顔を赤らめた。

 

 就寝の準備をしながら、海未は久しぶりに心からぐっすり眠れそうな気がした。

 




原作の「Dancing stars on me!」のライブがなくなり、のんたん推しの方には申し訳ありません。
次話より海未ちゃんライブ編です。暗い話が続いてしまいましたが、次からは明るくなる予定です。
ご感想等お待ちしております。
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