クロノスからの贈り物 ~ Story of Umi   作:Kohya S.

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第三章・海未とライブ
15. 海未の受難


 穂乃果が復活してから数日後、放課後の部室。

 

「この前のハロウィンのイベント、記事になってます」

 花陽が部室のパソコンでWebサイトをチェックしながらいった。

「A-RISE、ラブライブ最終予選に向けて弾み、パフォーマンスに期待……。なによ、ふん」

 隣で見ていたにこが鼻を鳴らした。

 

「でも、ラブライブ、キャンセルしなくてよかったわね」と絵里。

「ごめんね、絵里ちゃん、みんな」

 穂乃果が頭をかいた。そこにはすでに暗さはなく、海未は安心する。

「最終予選まで、二か月近くありますから、まだまだ大丈夫ですよ」

 そう穂乃果にいう。

「うん。それで、ハロウィンのかわり、って(わけ)じゃないけど、なにかライブ、できないかな」

 穂乃果がすこし遠慮がちに切り出した。

「もちろん、みんなの意見も聞いて、だけど」

 そういって照れくさそうに笑う。

 

 おやおや、穂乃果も成長しましたね、と海未は思う。あとはもうすこし自然に、気を配れればいいんですが……。

 

 部員たちは視線を交わした。

「凛は、大賛成だにゃ」

「私も」

「いいんじゃない?」

 凛と花陽、真姫が最初に賛成した。ほかのメンバーもうなずく。

 

「でも、私たちだけでライブをするのも、結構、負担じゃない? そんなに都合よく、なにかイベントとか、あるかしら。毬穂(まりほ)、どう?」

 絵里が毬穂にたずねる。

「そうですね。いまのところ特に、心当たりは……。調べてみますけど」

 毬穂は思案しながらこたえた。

 

「ふっふっふ……」

 にこが不敵に笑い始めた。

「にこちゃん、怖い……」

 真姫がぽつりともらす。

「なに怖がってんのよ。……こほん。実はアイドル研究部あてにメールが来てたのよね。印刷してあるけど、見る?」

 

 にこが取り出した紙を、絵里と希が受け取ってのぞき込んだ。

「……イルミネーション点灯式への参加について?」

 希が読み上げる。

「そう。アキバの駅前のデッキ、あるでしょ?」

「UTX高校の前の」とことり。

「そうよ。あそこのデッキと下の通り、冬になると毎年、イルミネーションやるじゃない」

「うん、デッキと、街路樹と……すごくきれいだよね」

 花陽がうなずく。

「点灯式のイベントのひとつとして、ライブをやりたいらしくて、μ'sに白羽の矢が立った、というわけ」

「……ここには、『ご応募いただいたグループから選考して』ってあるやん」

 希がいう。

「ま、まあ、細かいことはいいのよ。……いろいろあったし、断ろうかと思ってたんだけど。どうする? ちょうど今日が、回答期限なのよね」

 にこはにやりと笑った。

 

 ちょうどいいときに、依頼がありましたね。A-RISEには、(おく)れを取ってしまいましたが、これで挽回できるでしょうか。

 

「にこちゃん、さすが、部長!」

 穂乃果がにこに飛びついた。

「ぜひ、参加しましょう」

 毬穂も嬉しそうにいった。

「それじゃ、応募しておくわ。いいわね?」

「はーい」

 部員たちは賛成の声をあげた。

 

 数日後。部室に集まった部員たちに、にこは無事に選考を通過したと告げた。部員たちは手を取りあって喜んだ。

 

「あとの手続きは、私が進めますね」

 毬穂がにこに声をかける。

「ええ、よろしく。頼んだわよ」

 うなずくにこ。

「はい」

 毬穂はにこりと笑った。

 

「でも、十一月二十九日か。意外に近いんだね」と穂乃果。

「あと三週間ね」絵里がうなずく。「その一か月後には、最終予選もあるし……今回は既存の曲が、無難かしら」

「そうだね」

 

「あの……」

 海未は声をかける。

「もし、私のことを遠慮しているようでしたら……作詞なら、なんとかしたいと思います」

 

 せっかく穂乃果がやる気になったのですから。それに……考えればもう十一月。仮にラブライブの予選を突破しても、μ'sとしてのライブは数えるほどしかありません。

 

「ありがと、海未ちゃん」嬉しそうに微笑む穂乃果。「でも、大丈夫? 時間、短いけど」

 そういうと気遣うような表情になる。

「ええ、なんとかしたいと思います。ただ……」

 海未は真姫のほうに視線を送る。

「……そうね、曲の内容にも、よるわね」

 真姫は安請(やすう)け合いせず、そういった。

 

「実はね、穂乃果、考えてたことがあるんだ」

 穂乃果が目を輝かせる。

「なあに、穂乃果ちゃん」とことり。

「えへへ。次の曲は……海未ちゃんをセンターにしたらどうかな?」

「ええっ!」

 海未は思わず叫んでいた。

 

 そんな、ライブに出るだけでも恥ずかしいのに、私がセンターですか⁉

 

「無理、無理です。絶対に無理です!」

 海未は両手で頭を抱えた

 

 そんな海未を尻目に穂乃果は続けた。

「ほら、ことりちゃんは、秋葉原の路上ライブで、センターだったじゃない」

「うん。メイド服、かわいかったね♪」

「穂乃果は、いろいろやらせてもらったし。μ'sの最初の三人で、センターをやってないのは、海未ちゃんだけなんだよ」

「あら、いいじゃない」「いいやん」

 絵里と希も顔を見あわせる。

「……そういうことなら、私にもアイデアがあるわ。曲は、任せてちょうだい」

 真姫もうなずいた。

「たしかに、海未さんセンター、見てみたいですね」

 毬穂も微笑んだ。

「悪くないわね」「素敵です」「さんせーい」

 にこ、花陽、凛も加わった。

 

「そ、そんな……」

 海未は涙目になる。みなさん、そうやって外堀を埋めていくのですね。でも……。

「だめです、絶対だめです!」

 

「ことりちゃん!」

 穂乃果がいうと、ことりがずいっと海未に迫った。左手で制服の胸元を握りしめる。目を落として伏し目がちに――。

「海未ちゃん……」

 ことりはささやいた。次の瞬間、顔を上げて訴えるようにいう。

 

「お願い!」

 

 海未は思わず、はっと目を見開いた。ことりはうるうると目を潤ませて海未を見つめる。海未はきゅんと胸を締め付けられた。そして――。

「……もう、ずるいですよ、ことり」

 海未は肩を落とした。

 

「それじゃあ、海未ちゃん」と嬉しそうな穂乃果。

「わかりました。……お受けいたします」

 海未は諦めの境地でそういった。

 

 ああ、もう、ことりにはかないませんね。思えば、こうやって作詞も始めたのでしたっけ……。

 

「さすが、元祖ですね……」

 毬穂がつぶやくのが海未に聞こえた。

 

        ・

 

 はあ、どうして受けてしまったのでしょう。

 

 学校の近くのファーストフード店で、海未は真姫と向き合っていた。

「海未、まだ後悔してるの?」

「ええ、さすがに……」

 海未は頬を赤らめながらこたえた。

 

 私がセンター……そして、私が詞を書く……なんという恥ずかしさでしょうか。作詞するなんて、いわなければよかったです。

 

 くすり、と真姫は笑った。

「海未らしいわね」

 それはほめ言葉なのでしょうか、と海未は思う。

 

「私、あの場ではいわなかったけど……海未をイメージして、作っていた曲があるのよ」

 真姫もすこし恥ずかしそうだった。

「私を、ですか?」

「ええ」真姫はうなずく。「一見、清楚(せいそ)な大和撫子。でも、大胆なところも、お茶目なところも、芯の強いところもある。……μ'sに入って、作曲を始めて、そんな海未がすごいな、って思ってたのよ」

「あの……ありがとうございます」

 海未は気恥ずかしさと嬉しさに顔を伏せる。

 

「すこし手直しをしたいから……二、三日したら、渡せると思うわ」

「はい、わかりました」

 

 真姫がそんな風に思っていたなんて……。

 すごく恥ずかしいですが、私のことを考えて、曲を作ってくれていたなんて。真姫に感謝ですね。これは、しっかりと作詞しなくてはなりませんね。

 

        ・

 

 数日後。海未は約束通り、真姫から曲を入れたCD-Rを受け取っていた。

 はやる心を抑えて自宅に帰りプレイヤーにかける。

 

 真姫がラララで歌った仮歌は、和風なメロディーをロック調にアレンジした曲だった。伴奏も随所に琴や小太鼓などの和楽器が使われていた。

 静かなAメロから始まり、小刻みにビートを刻む旋律をはさんでから、ゆったりとしたBメロで次第に盛り上がる。そしてメロディアスで訴えかけるようなサビ。

 また間奏のギターも印象的だった。

 

 かっこいい曲ですね、と思う。とても素敵です。でも、これが私のイメージ、なのでしょうか。その、すごく照れますね。

 

 海未は深く感動すると同時に――頭を抱えた。

 こんな曲に……歌詞をつけられる自信は、ありません……。

 

 暗雲が垂れ込める思いだった。

 

 その晩は日付が変わるまで悩み、翌日も休み時間や部活の休憩中に頭をひねったものの、なかなか詞のイメージは浮かんでこなかった。

 

 そして夕方。宏未(ひろみ)の家庭教師の日だった。

 時間通りに来た宏未を海未は自室に案内した。あまり作詞のことばかり、考えてはいられませんね、と気分を切り替える。

 

「おかげさまで中間テストは、よい結果でした」

 挨拶を終えて海未は話した。

「それはよかった。海未さんもがんばったし……教え甲斐(がい)があったよ」

「いえ、宏未さんのご指導のおかげです」

「どういたしまして」

 宏未はにこりと微笑んだ。

 

 それから海未は勉強を始めた。それなりに集中できたとは思うものの、休憩になると自然に心は作詞のほうに流れていった。

 

「……なにか、悩んでいるみたいだね」

 宏未が聞く。

「あ、いえ、その……」

 海未は逡巡(しゅんじゅん)した。ちらりと宏未を見る。優しそうなその顔に背中を押されるように海未は口を開いた。

「実は、今度のμ'sのライブで披露する、新曲の作詞に悩んでいて……。すごくいい曲なのですが、詞のイメージが、わかないのです」

「……今までは、あまり悩まなかった?」

「そう、ですね。比較的、楽に……」

 海未は考え込む。

 

 「START:DASH!!」に「これからのSomeday」、「僕らのLIVE 君とのLIFE」、「No brand girls」、「ユメノトビラ」、そして「Love wing bell」……我ながら、がんばったものですね。今までは、どうしていたのでしょう。曲のイメージを得て……そうですね……。

 

「思えば、μ'sのだれかを……ひとりだったり、複数だったりを、なんとなく当てはめて、考えていたのかもしれません」

「なるほど……。曲は、もうできてるの?」

「はい。真姫から、受け取っています」

「俺、なにもアドバイスできないかもしれないけど、とりあえず聴かせてもらえるかな」

「わかりました」

 

 海未はCDを再生した。真姫の作った曲が流れる。

 

「うん、いい曲だね」

 曲が終わり宏未はうなずいた。

「和風な感じだけど、それだけじゃない。孤高のかっこよさ、というか」

「あ、その、ありがとうございます」

 海未は顔を赤らめた。

「そっか、こういう曲なのか……」

 宏未はつぶやく。

 

「ライブ、っていってたけど、どんなライブなのかな?」

「秋葉原の、冬のイルミネーションの点灯式です」

「……うん、曲調はあってる気がするね。すると、歌詞は……」

「はい、冬をイメージしてもいいかな、と思っています」

 

 宏未はしばらく黙ってから口を開いた。

「アイドルソングらしくないし、ちょっと点灯式にはあわないかもしれないけど……」

 そう前置きする。

「はい」

「出会いと別れ、とか、寂寥感(せきりょうかん)っていうのかな、さびしさとか……そういうのを表現しても、いいかなって思うんだけど」

「それは……意外ですね」

「うん、そうだよね。……ごめん、忘れてくれる?」

 宏未はばつが悪そうに笑った。

「いえ、面白いと思います。出会いと別れ、さびしさ、ですか」

 

 たしかに、いろいろ考えたことはあります。運命の男性と出会いながら、なにかの事情で……そう、たとえば、家柄の問題とか……別れなくてはならない悲劇。帰ってこないあの人を、いつまでも待つ女、とか……。

 それに、いままではだれかを当てはめていた……ああ、私がセンターですから、自分自身のことを考えるのを、無意識に避けていたのかもしれません。

 

「あの……海未さん?」

 海未は我に返った。

「あ、すみません。わ、私ったら、つい考え事を……」

 海未は頬を染めた。

 宏未がくすりと笑った気がした。

「でも、あの、その、参考になりそうです。……ありがとうございます」

「役に立ったなら、いいんだけど」

 宏未はどこか楽しそうに微笑んだ。

 

        ・

 

 宏未が帰ったあと、入浴中、ベッドのなかと、だんだんとイメージは形になっていった。そのままぐっすりと寝て、翌日から筆が進み始め――その日の晩には歌詞を書きあげた。

 表題は「だってだって噫無情(ああむじょう)」。

 

 でも、こんな歌詞でいいのでしょうか。みんなからへんに思われないでしょうか。それに、私がセンターなのです。

 

 海未は不安に襲われた。

 いつもなら一晩寝かせて、翌日もう一度、推敲をするのだが、それをしたら歌詞を破り捨ててしまいそうな気がした。

 海未は携帯電話で歌詞の写真を撮った。

 

 もう、なるようになれ、です。

 

 真姫へのメールに写真を添付(てんぷ)し、深呼吸して、送信ボタンを押した。

 

 はあ、送ってしまいました。……お風呂に入ってきましょう。

 

 入浴を終えて、母に先にいただきましたと挨拶し、髪を乾かしながら部屋に戻ってくると、携帯電話の着信LEDが輝いていた。

 

 海未は震える手で携帯電話を取り、真姫の返信を確認した。

 

『今までにない歌詞ね。とっても素敵。海未によく似合ってるわ。明日、みんなに披露しましょう』

 

 海未は安堵に襲われた。お礼と、真姫の曲がよかったから、と書いて返信した。

 明日はみんなの前で歌うことになるはずだが、もう不安は感じなかった。

 

        ・

 

 いつもこの瞬間は緊張します。いいえ、いつも以上ですね。

 

 新曲を部員に披露するとき、たいていは真姫が編曲をすませて、ひとりで歌った仮歌を持ってきてくれていた。ただ、今日は真姫にその時間がなく、海未と真姫とでCDにあわせて歌うことになりそうだった。

 

 放課後、部員たちは部室へ――学園祭から広くなって、合唱くらいならできるようになった――集まった。

 

「曲、できたんだって?」と穂乃果。

「ええ、海未が昨日、作詞してくれたわ」

 真姫が笑う。

「できたてほやほや、だね」

「湯気の立つ、ごはんみたいですね!」

 凛と花陽が目を輝かせる。

「ふたりの曲、いつも本当に素晴らしいですよね」

 毬穂もうなずいた。

 

 海未と真姫はここで歌うことを説明した。海未は歌詞を書いた紙をあらためて真姫に渡す。

 

「海未がセンターの曲ね。どんな感じなのかしら」

 絵里がウインクした。

 

 海未は歌詞をちらりと見た。思わず赤面しそうになる。

 真姫がそっと海未の(ひじ)をさわった。海未が目を向けると、真姫は微笑んだ。

 

 毬穂がCDを受け取りプレイヤーの再生ボタンを押した。

 

 イントロが終わり、ふたりはユニゾンで歌い始めた。愛した男性と別れなくてはならない女性の悲しみと決意をうたった歌詞。和風でロック調のメロディーに新しい解釈を加えるようだった。

 

 曲が終わり一瞬の時間をおいて、みなが一斉に話し始めた。拍手をしているメンバーもいる。

「すごい、かっこいい!」「海未ちゃんにぴったりですね」「いいやん」「こんな曲、聞いたことないです」「素敵です」

 

 賞賛の言葉に海未は今度こそ顔を赤らめた。

「あの、ありがとうございます」

「まあ、たいしたことないわ」

 真姫は右手の指先で髪をくるくるといじる。そっけないふりをしているが、やはり嬉しそうだった。

 

 パートわけは、振り付けは、衣装はと部員たちは早速、盛り上がった。

 

 そんななか、にこが真姫に近づいて話しかける。

「真姫、いい曲なのは認めるわ。だからあんた、今度は私がセンターの曲、作りなさいよね。歌詞は私が提供するから」

「なにそれ、どうして私がにこちゃんの曲、作らなきゃいけないのよ」

 真姫はつんと顔をそむけた。

「いいから作りなさいよ!」

「なにそれ、意味わかんない!」

 

 海未はそんなふたりを微笑ましく思いながら眺めていた。

 

――――――――

 

 海未から穂乃果が復活したと聞いてから、一週間ほどあと。宏未は外出から帰宅した。

 

 μ'sの未来についてはつねに気になっていたものの、できることも限られていた。そのため宏未はあまった時間を使い、散逸(さんいつ)した書籍を神保町で探してみたり、有名な教授の授業にもぐりこんだりしていた。

 

 また、過去を改変した場合の未来への影響を調査するために、ときどき小さな細工を施したりもしていた。新聞への投書とか、閉店するはずの店に通ってみるとか、ささいなことばかりだが、それでも未来に帰ったときにはなにかが変化しているかもしれなかった。

 

 ワンルームの部屋にはベッドと平面テレビ、それに小さなテーブルと、必要最低限の家具しかない。

 帰宅した宏未はテーブルの上に白い紙があるのに気付いた。

 

 あれ、こんなの、出ていくときにはなかったと思うんだけど……。ダイレクトメール、でもなさそうだし。海未さんの家庭教師の参考書にでも、はさまってたのかな。

 

 宏未は手に取った。それはつややかな紙でできた横開きの洋封筒で、表にも裏にも、なにも書かれていなかった。封もされていない。

 宏未が封筒を開けると、なかにはやはりつやつやとした一枚の紙が入っていた。宏未はそれを開いた。

 

「……?」

 そこに記されていたのは、一編の詩だった。手書きではなく、印刷かプリントアウトらしい。恋の詩――というには悲劇的で、男性との別れを覚悟した女性の心境をつづっていた。

 

 いい詩だけど……どうしてこんなところに? もしかして、海未さんのかな?

 

 宏未は疑問に思いながらも、その日は就寝した。詩は妙に宏未の心に残った。

 

 翌日。日中は適当に時間をつぶして、夕方から家庭教師のため海未の家へ向かった。

 海未は穂乃果がアイドル活動を再開してから、元通りに元気になっていた。

 μ'sが九人に戻り活躍することに、宏未は未来への不安を感じた。もしこのままいったら、μ'sが存続して、不幸な結果になるのかもしれない、と思う。

 とはいえ、海未が元気なことは宏未には嬉しかった。

 

 みんなが元気で、でも不幸にならない未来が選べれば、いいんだけどな……。

 

 ただ、その日の海未はなにかに悩んでいるようだった。宏未がさりげなく聞くと、海未は作詞について悩んでいると話した。

 先にできているという曲を聴かせてもらう。

 

 その曲を聴きながら、宏未は唐突に思いついた。

 そうだ。あの詩……。この曲の歌詞に違いない。ん、もしかして……。

 

 宏未は封筒の、そのなかの紙の手触りを思い出した。

 

 妙につるつるしていて……。馴染みだったから気づかなかったけど、あれは合成紙だ。この時代の……いまの紙じゃない。あの封筒、未来から来たのか。

 

 曲が終わり、期待に満ちた表情の海未に、宏未はどう伝えるべきか悩んだ。あまり具体的すぎてもへんだよな、と思う。

 

「出会いと別れ、とか、寂寥感(せきりょうかん)っていうのかな、さびしさとか……そういうのを表現しても、いいかなって思うんだけど」

 宏未がそういうと海未はなにか得るところがあったようだった。

 

 宏未が帰るとき、海未は重ねて礼を述べた。

 

 帰宅した宏未は封筒を探したが、どこにも見つからなかった。

 

 あの歌詞……俺が未来に帰ってから、過去に送ったってことだよな。海未さんが作詞した歌詞を写して。……ということは、あの歌詞を作ったのは、誰なんだろう?

 

 考えても結論は出そうになかった。

 

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