クロノスからの贈り物 ~ Story of Umi   作:Kohya S.

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19. 雪

 海未は、メンバーが考えた歌詞の欠片(かけら)を持ち帰り、それをひとつにまとめる作業に取りかかった。

 

 ちょうど音ノ木坂学院は二学期の期末試験の期間に入った。部活も休みになる。

 曲作りは試験勉強と並行する形になったが、海未には不安はなかった。

 希の部屋に集まって公園で一緒に空を見上げた、あの晩のことを思うと歌詞は自然にかたちになっていった。

 

 数日後、海未は一年生の教室まで行って真姫に封筒を手渡した。歌詞をつづった紙をおさめて。

「ありがとう、海未」

「どういたしまして。……曲のほう、よろしくお願いしますね」

 真姫はその場で確認しようとしたが、海未は懸命に押しとどめて早々に真姫の前をあとにした。

 

 みんなで作った歌詞ですが、やっぱり目の前で開かれると、恥ずかしいですからね。

 歌詞に曲をつけるほうが難しいと聞きますが、真姫ならきっと、なんとかしてくれるでしょう。

 

 また、点灯式のあとの最初の家庭教師のとき。宏未(ひろみ)はライブの件について話した。

 

「点灯式のライブ、いったよ」

「ど、どうでしたか……?」

 あれだけ自信があったはずなのに海未はどうしても不安になる。

「うん、とてもよかった」

「はあっ。それは……安心しました」

 海未は思わず安堵の吐息をついた。

 宏未はそんな海未を見てか、くすりと笑った。

「海未さん、すごく落ち着いてたし、歌も踊りも素晴らしかった。もちろん、みんなもね」

「それは、嬉しいです」

 海未は頬をほのかに赤く染めた。

 

「それに、衣装。あんな感じになったんだね。かわいくて……よく似合ってたよ」

「あっ、宏未さんのおかげです。ありがとうございます」

「いや、なにもしてないけど。あれは、ことりさんがデザインして?」

「はい、現代風にしてくれました」

「さすがだね。あと、間奏のところ……」

 思い出したのか宏未は微笑みを浮かべる。

「海未さん、真に迫っていて……その、呼びかけられたのかと、思ったよ」

「あ、はい、あの、がんばりました……」

 海未は小さな声でいった。耳の先まで真っ赤になっていた。

 

 実は宏未さんのことをちょっと考えてました、なんて、いえるわけないですよね。ああ、もう、私ったら……。

 

 海未が落ち着きを取り戻すまでにはしばらくかかった。そのあいだ、宏未は黙っていてくれた。

 

 また、宏未は観客席でA-RISEを見かけた、と話した。海未はそれを聞いて、一層、身が引き締まる思いだつた。

 

        ・

 

 期末試験が終わりμ'sの練習が再開された日。屋上に真姫が仮歌を収めたCD-Rを持参した。

 

「わっ、ついにできたんだね。なんていうタイトルなの?」と穂乃果。

「Snow halationよ」

 真姫がCD-Rを毬穂(まりほ)に手渡す。

「ハレーションって、写真の用語だよね? 光が入って、ぶわーってなる」

 凛が海未に向けて首をかしげる。

「はい、詳しいですね、凛」海未はうなずいて続ける。「なんとなく、としかいえないのですが……。雪のなか、恋の想いがはじけて、飽和(ほうわ)していく、そんなイメージが浮かんだのです」

「さすが、詩人やね、海未ちゃん」

 希が微笑んだ。

 

 毬穂がCD-RをCDプレイヤーにかけて再生ボタンを押した。

 ピアノの旋律から曲は始まった。抒情的(じょじょうてき)なメロディーに海未が作詞した歌詞が乗せられていた。

 海未は目を閉じて聞き入った。

 

 みんなが持ち寄ったイメージがこうして詞になり、曲になる……。本当に素晴らしいですね。

 

 曲が終わると部員たちから喝采が上がった。

「すごい、すごいよ、海未ちゃん」

 穂乃果が海未の手を握ってぶんぶんと振り回した。

「素敵な歌詞です!」と花陽。

「もう、海未ちゃん、やっぱりすみに置けませんね♪」

 ことりも微笑む。

「いいえ、みんなが歌詞を提供してくれたからですよ」

 海未はそう返した。

 

「完全にハレーションだにゃ!」

 はしゃぐ凛。

「やるじゃない、真姫」

 にこは真姫にウインクしてみせる。真姫もまんざらではなさそうだった。

 

「これなら予選突破、間違いなしやね」

 希は感慨深そうにいった。目の端に一粒、光るものが浮かんでいた。

「これでμ'sは安泰ですね」

 毬穂が希に語りかける。

「そうやね」

 希は目をぬぐい笑みを浮かべた。

 

「さあ、あと二週間、あまり時間はないわよ。さっさと練習、始めましょう」

 絵里がいつものように部員たちにはっぱをかけた。

 

        ・

 

 最終予選が近づいたある日。放課後、部員たちは屋上に集まっていた。

 

「あの、たいへんなことが……」

 最後にあらわれた毬穂――練習着姿もすっかりなじんでいる――が、いつになく深刻な表情でいった。

「どうしたの、毬穂ちゃん?」と穂乃果。

「予選の日ですけど、大雪になりそうなんです」

「えっ、そうなの?」

「でも、天気予報では、ちらつく程度、っていってたみたいだけど」

 絵里が首をかしげる。

「あの……ほら、修学旅行のときも、天気でたいへんだったじゃないですか」

「そういえば、そうだね」穂乃果は苦笑する。「ね、ことりちゃん、海未ちゃん」

「そうだね」

「そうでしたね」

 海未はあのときのことを思い出してうなずいた。

 

「だから、私、ホテルを予約しました! 会場のすぐ近くです!」

「ええっ、さすがに大袈裟(おおげさ)じゃない?」

 穂乃果が驚く。

「そうよ。みんなの家から会場まで、電車で数駅。歩いてもいけるくらいよ……」

 真姫もあきれたようにいった。

「毬穂、気持ちは嬉しいけど、ちょっと無理があるんじゃないかしら。部費にも限りがあるし」と絵里。

「いえ、実は私、ホテルのオーナーと知り合いで……事情を話したら、すごく安く泊めてもらえそうなんです」

 毬穂は必死にいった。

 

 海未は毬穂のようすに違和感を覚えた。

 

 どうしてそこまでこだわるのでしょうか。なにか理由がありそうですね。たしかに無理はありますが……それで毬穂がもし安心するなら、受け入れてあげるのがいいのかもしれません。

 

「あの……。いいのではありませんか、そういうことなら。特に悪いことも、ないでしょうし。記念になりますよ」

 海未がいうと部員たちの空気もすこし変化した。

 

「ホテルで前泊……。本物のアイドルみたいじゃない」

「そうですね!」

 にこが不敵に笑うと花陽も嬉しそうに同意した。

 

「そうね……。じゃ、そうしましょうか」

 絵里が諦めたように肩をすくめた。

 

「でも、ことりたちは、ライブの前に、いったん学院に戻らなきゃ」

 ことりがすこし残念そうにいう。

 

 そうでした。当日は日中、受験希望者のための説明会があって、生徒会役員は挨拶をするのでした。

 学院から会場へは、私たちの自宅から会場にいくよりもずっと近いですから、ホテルに泊まること自体には意味がありそうですが……。

 

「そっか。まあすぐ近くだし、時間にも余裕があるから、大丈夫だよね」

 穂乃果が笑った。

「あの、本当に、準備はしっかりしてくださいね」

 毬穂は心配そうに穂乃果に話した。

 

「ありがとうございます、海未さん」

 練習が一段落して毬穂がいう。

「ああ、さきほどの。いいえ。なにか事情がありそうでしたので」

 海未は微笑んでみせる。

「あの、決して後悔は、させませんから」

 毬穂は力強くうなずいた。

 

――――――――

 

 その日の夜、宏未は海未の自宅を訪れた。

 

「あの、おかげさまで期末試験も順調でした」

 海未は丁寧に頭を下げた。それを聞いて宏未は一安心する。

 

 μ'sのことも大事だけど、家庭教師が効果がなかったりしたら、本当に海未さんに悪いよな。

 

「そっか、安心したよ」

 宏未がそういうと海未ははにかむように微笑んだ。

 

 海未はしばらく迷っていたようだがやがて口を開いた。

「あの、今度、ラブライブの最終予選があるのです。それで、もしよかったら……」

 最後は消え入るようになる。

「うん、もちろんいくよ」

「あ、ありがとうございます」

 ぱあっと明るくなる海未の顔を宏未は微笑ましく思った。

「それで、いつなの?」

「あ、十二月の二十五日。クリスマスですね。午後六時からです。場所は……」

 海未は東京駅からほど近い通りの名前をあげた。

「わかった。予定しておくよ」

「はい、よろしくお願いします」

 

 頭を下げた海未はくすりと笑ってから続けた。

「そういえば、おかしいんです。毬穂が、大雪が降るからホテルに泊まろう、っていうんです。こんなに近いのに」

 

 宏未は毬穂の名前にどきりとする。そして大雪と聞いて思いついた。

 

 毬穂も……前回の台風の件にこりて、しっかり天気を調べたのかもしれないな。

 

「あ、そういえば、お友達がお天気に詳しいのでしたね。その、どうなのでしょうか……?」と海未。

「そうだね、今、聞いてみるよ」

「よろしいのですか? そんな急に……」

「うん、ちょっと待ってね」

 

 宏未は部屋のすみまで行って端末を操作した。海未に背中を向けて電話をかけるふりをする。

「あ、こんばんは。田辺ですけど。あの、来週の天気について、ちょっと教えてほしいんだけど……。うん、よろしく」

 宏未はいったん端末を耳から話して、ライブ当日の天気を調べた。

 

 海未の――毬穂のいう通り、当日は朝から雪で、夕方にかけては交通も完全に麻痺状態になるほどの記録的な降雪が記録されていた。

 

 宏未はもう一度、端末を耳に近づける。

「あ、どうも。それで……うん、わかった。気を付けるよ、ありがとう」

 

 宏未は海未に向き直った。

「雪になる確率が高いって。それもかなりの積雪になるみたい。その……マネージャさんの意見にしたがっても、いいかもしれない」

「そうなのですね」海未は驚きを浮かべた。「一応、泊まることにしたのです。正解でしたね」

「うん、そう思うよ」

「でも、困りました……。日中、学校行事で、いったん音ノ木坂に戻らなくてはならないのです」

「そっか……。しっかり準備、していったほうがよさそうだね」

「はい、そうします」

 

 海未はそうこたえたものの、宏未は不安だった。

 端末で確認した天気情報……。当日、なにか俺でもできること、考えたほうがよさそうだな。

 

――――――――

 

 最終予選当日の朝。

 ホテルのロビーに部員たちは集合した。にこを除いて。

 

 ロビーから外を眺めると、空から次々に雪が落ちてきていた。すでに積もり始めていて、ホテルの周辺はすっかり真っ白に染まっていた。

 

 毬穂の、宏未さんのいった通りですね、と海未は思う。その思いは全員が共通だったのだろう。

「毬穂ちゃんのいう通りになったね」

 凛が窓際に近づき、すこしはしゃいだ調子でいった。

「うん、すごい雪だね」

 隣で花陽もうなずいた

「泊まってよかったにゃ」

「うん!」

 

 やがてホテルの玄関にふたりの人影が見えた。なにか会話を交わしてから、ひとりだけがロビーへ入ってくる。

「はあ、ひどい目にあったわ」

 にこだった。誰かに送ってきてもらったらしい。

 ざっと払ったようだが、コートにはまだ雪が残っていた。彼女は弟妹の面倒を見るために、ひとり自宅ですごしたのだった。

 

「あーもう、どうして私だけ泊まれないのよ」

「でも、にこちゃんが来れて、よかったです」

 毬穂が微笑んだ。

 

 ようやく全員がそろい、部員たちにほっとしたような空気が流れた。

 

 続いて大型のSUVがホテルの車止めに止まった。真姫があわてたようすで走っていく。

 すぐに真姫は小ぶりのトートバッグを手に戻ってきた。バッグを突き出すようにしていう。

「これ、ママがお昼に食べなさいって。カツサンド、だって」

「あら、勝負に勝つ、とかけてるわけね」

 絵里がウインクする。

「ほんと、子ども扱いなんだから」

 真姫はそういったものの、海未にはどこか嬉しそうに見えた。

 

 部員たちは毬穂が予約していたホテル内のジムで、時間まで仕上げの練習を軽くおこなった。

 

        ・

 

「それじゃ、いってきます!」

 昼前、穂乃果が宣言した。

「大丈夫ですか、穂乃果さん、海未さん、ことりちゃん」

 毬穂が気遣わし気にいう。

「うん、ほら」

 穂乃果は足元を示してみせる。三人はスノーブーツをはいていた。

「気を付けてな」「足元、注意してね」「がんばって」

 部員たちが口々にいうなか、海未たちはホテルを出た。

 

 雪はしんしんと降り続いていた。傘に雪が積もり、三人はときどき払いながら歩いた。通りを走る車のチェーンの音が海未にはめずらしかった。

 

 電車を乗り継いで幸いなにごともなく学院についたものの、そこでトラブルが待っていた。

「ごめんなさいね」

 講堂のロビーで理事長はすまなそうに三人に告げた。この雪で受験希望者向けの説明会が、一時間、遅れるらしい。

 

「説明会、欠席してもいいけど……」

 それでもまだ十分間に合う時間ではあるものの、余裕がすくないのは否めなかった。

「いえ、やります」

 穂乃果は躊躇(ちゅうちょ)せず理事長に答えた。

 

「どうする、海未ちゃん、ことりちゃん。ふたりは先に戻る? なんなら、穂乃果抜きでも、ライブ、始めてよ」

 理事長が去って、穂乃果は心配そうに話した。

 海未はことりと顔を見合わせる。ことりはうなずいた。

「穂乃果、そんなことはいわないでください。最後まで、待ちますよ。そして九人で、ライブを成功させましょう」

 海未がいうと穂乃果は嬉しそうに微笑んだ。

 

 とりあえずホテルに残った部員に連絡をいれてから、海未たちはじりじりと待った。

 

 一時間遅れで説明会が始まった。理事長に続いて穂乃果が登壇した。穂乃果の挨拶は堂にいったものだった。

 

        ・

 

 穂乃果が挨拶を終え、三人は講堂のロビーへ戻った。

 雪はぐっと激しさを増していた。風も強まり、まるで吹雪のように吹き付けてきた。

 

 ことりがスマートフォンで電車の運行状況を確認する。

「どうしよう、電車、止まっちゃったみたい」

「それじゃ、お父さんに、車、出してもらえないか、頼んでみるよ」

 穂乃果は自宅に連絡を入れる。しばらく会話していた穂乃果は、電話を切り、首を振った。

「だめ、道路も積雪で、車は動かせないって!」

「ええっ、それでは移動手段が……」

 海未は目の前が暗くなる思いだった。

 

 ここまで来て……。せっかく毬穂が、ホテルまで用意してくれたというのに……。

 

「走っていくしかない!」

 穂乃果が自分にいい聞かせるように宣言した。

「穂乃果ちゃん」とことり。

「開演まで一時間ある。急げば間に合うよ!」

「でも、外は……」

 

 たしかに、外はこの雪です。穂乃果のいうことは、あまりにも無謀です。しかし……ほかに方法は、ありませんね。

 

「いま、考えている時間は、ありません」

 海未の言葉に、ことりもうなずいた。

 

 三人は講堂から校舎の昇降口まで急いだ。

 昇降口から校門への通路は深い雪におおわれていた。降る雪はあいかわらずで、校門も、そのさきの信号も白くかすんでいた。

 

「雪かきしたのに、もうこんなに……」

「しかも、激しくなってる」

 穂乃果とことりが顔を見合わせた。

「これでは……。たとえ向かったとしても、間に合うかどうか……」

 海未も思わず弱気をもらしていた。

 

「……いこう、穂乃果ちゃん!」

「ことりちゃん」

「死ぬ気でやれば、怖くなんかないよ! いこう!」いつになく、ことりは強い口調だった。「この日のために、がんばってきたんだよ。やれるよ!」

「ことり……」

 海未はことりの想いに心動かされる。

 穂乃果も大きくうなずいた。ことりは穂乃果にうなずき返した。

「うん、みんなが待ってる!」

 

 海未たちは気合を入れて傘を握りしめ、外へ踏み出した。飛ばされそうになる傘を必死で押さえながら、前傾姿勢でゆっくりと歩く。

 しかし現実は非情だった。

 

 一歩進むごとに、まとわりつく雪で足は重くなっていった。また、強い風と雪は容赦なく体温を奪っていった。

 傘は降り積もる雪ですぐに重くなっていく。

 

「ううっ……くっ……」

 穂乃果がつらそうにもらす。

「諦めちゃダメ!」ことりがはげます。「せっかく、せっかく……ここまで来たんだから!」

 海未もことりの言葉に背中を押される。

「私だって、そうです。ふたりの背中を追いかけてるだけじゃない! やりたいんです! 私だって、誰よりも、ラブライブに出たい!」

 それは海未の本音だった。

「九人で最高の結果を残したいのです。行きましょう!」

 穂乃果とことりは懸命に歩きながら、それでも笑顔を見せた。

 

 そろそろ校門でしょうか、と思ってちらっと前を見ると、まだ半分ほどしか来ていなかった。海未は絶望に襲われそうになる。

 

「海未さん!」

 そのとき、前から聞き覚えのある声がした。ゆっくりと近づいてくる人影。

「宏未さん……」

 明るい緑色のレインコート姿の宏未だった。

 

 宏未は塀のかげに三人を導いた。風がさえぎられてすこし楽になる。

 

「これ、よかったら着てよ」

 宏未は三人に服を差し出した。

「えっと、誰?」

 穂乃果が場違いな明るい笑顔で聞いた。

「あの、その、いまはそれどころではありませんよ」

 海未はごまかすように穂乃果に話す。

「うん、そうだね」

「お言葉に甘えましょう」

 ことりもうなずいた。

 

 三人は服を受け取り広げた。フード付きの丈の長いレインコートだった。

「多少、楽になると思うから」

「ありがとうございます、宏未さん」

「いや、ちょっと心配になってね」

 宏未は照れくさそうに笑った。

 

「傘も預かるよ。ウエストの紐を締めれば、ばたつかないから……。うん、そう」

 三人がコートを着たところで宏未がアドバイスする。

 

 四人は塀のかげから出た。あいかわらず雪と風はひどいものの、傘と格闘しなくてすむぶんだけ楽になっていた。

 

「一緒に会場までいくよ、海未さん」

 海未の隣で宏未がいう。

「え、よろしいのですか」

「もちろん。それに、ほら」

 宏未が示す先には、海未のクラスメイトたちが立っていた。

 

「遅いわよー」

「またすこし、積もっちゃったじゃない!」

 見れば学院の前の長い階段と、その下の通りは、歩道の雪があらかた片付けられていた。

 

「もしかして……。これ、みんなが?」と穂乃果。

「電車が止まったって聞いたから、みんなに呼びかけたの。穂乃果たちのために集まって、って」

「そしたら来たよ、全校生徒が」

「さあ、走って!」

 クラスメイト達の言葉に押されて、海未たちは走り出した。

 

 海未たち四人は静かな東京の街を走った。道路も深く雪におおわれて、車は一台も通らなかった。

 それでも交差点には音ノ木坂の生徒が立っていて、方向を教えてくれると同時に海未たちをはげましてくれた。

 

 会場に戻る道のりは長かった。

 

 しかし、ついに首都高速の高架の下、川を渡る橋の向こうに、いく人かの人影が見えた。

 

「穂乃果ちゃーん!」

 凛の声が聞こえた。

「間に合ったー!」「よかったー!」

 花陽の、希の声も。

 

 穂乃果は最後の数十メートルを走り、一番近くにいた絵里に抱きついた。

「みんなー! 絵里ちゃーん! うわーん!」

「よかった、間にあわないかと思ったわ」

「うわぁーん、寒かったよ、怖かったよー! これでおしまいなんて、絶対に嫌だったんだよーっ!」

 穂乃果は鼻水を垂らしながら絵里の胸で泣き叫んだ。

「みんなで結果を残せるのは、これが最後だし、こんなにがんばってきたのに、なんにも残らないなんて、悲しいよーっ! だから……」

「……ありがと」

 絵里は穂乃果を抱きしめた。

 

「ううっ、よかったです。間に合って。歴史は繰り返すかと、思っちゃいました」

 毬穂が目をぬぐいながら海未の肩を抱いた。

「ほんと、大袈裟ですね、毬穂は」

「大袈裟なんかじゃありませんよ、海未さん」

 毬穂は泣き笑いのような顔で海未にいった。

 

「もう、みんな泣いてる場合?」とにこ。

「目、うるうるしとるよ」

 希も目を赤くしていた。

「私は泣いてない。……希こそ」

「うふっ、もう」

 

「あれ、あの人は……」

 ことりが首をかしげる。宏未の姿はいつの間にか消えていた。

 橋の親柱に三本の傘が立てかけられていた。

 

 本当に、ありがとうございます。海未は心のなかで礼を述べた。

 宏未さん、奥ゆかしい方ですね。みんなに顔をあわせるのが、そんなに照れくさいのでしょうか。私なら……私なら……あ、宏未さんがいなくなってくれて、私、ほっとしていますね。

 ここで宏未さんをみなさんに紹介するのは……。とてもとても、その、恥ずかしかったことでしょう。私のこと、考えてくれたのかも、知れませんね。

 

 海未はひそかに顔を赤らめた。

 

 ひとあし遅れて、クラスメイトたちが海未たちのところに合流してくる。あとを追いかけてきてくれたのだろう。

 

「あ、みんな……」と穂乃果。

「みんなにお礼しなきゃね」

 絵里の言葉に全員がうなずいた。

 

 穂乃果はクラスメイトたちに向き直った。

「みんな、本当にありがとう。私たち、一生懸命、歌います! いまのこの気持ちをありのままに! 大好きを、大好きのまま、大好きって歌います!」

 いったん言葉を切り目を輝かせる。

「絶対、ライブ、成功させるね!」

 

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