クロノスからの贈り物 ~ Story of Umi 作:Kohya S.
数日後。部員たちは穂乃果の自宅を訪れ、ラブライブ欠場を決めたことを穂乃果に告げた。穂乃果は表面上は静かに、それを受け入れた。
その翌日、穂乃果は学院に復帰した。病み上がりということを考えても穂乃果の口数はすくなく、海未は穂乃果の受けたショックを思わずにはいられなかった。
「それじゃ、穂乃果、今日は練習お休みして、先に帰るね」
放課後、穂乃果はそういって鞄を手にして立ち上がった。
「あの、穂乃果ちゃん」
ことりが呼び止める。
「ん、なあに、ことりちゃん」
穂乃果はわざとらしく笑ってみせた。
「ちょっと、お話があるの……」
穂乃果は椅子に座りなおした。
海未は
「海未ちゃんと毬穂ちゃんも、いっしょに聞いて」とことり。
席を立ちかけていたふたりはその場にとどまる。
「あのね、穂乃果ちゃん。わたし……留学、することにしたんだ」
ことりは目を落として静かに話した。海未は目の前が暗くなる。
ああ、やはりそうなのですね。でも、ことりの決断ですから、尊重すべきなのでしょうね……。
「留学……それって、どういうこと」
穂乃果は無表情でことりを見つめる。
「前から、服飾の勉強したいって思ってて……。そしたら、お母さんの知り合いの学校の人が、来てみないかって……。ごめんね、もっと早く話そうって思っていたんだけど」
ことりはぽつりぽつりと話した。
「いったきり戻ってこないの?」
「高校を卒業するまでは、たぶん……」
ことりは小さくうなずいた。
穂乃果はつらそうに視線を外した。
「もう決めたんだ」
「うん。今日、先生に休学を申し込むつもり」
ことりはゆっくりと立ち上がった。
「……そっか。穂乃果が悪いんだよね。倒れたりして。だからことりちゃんの相談に、乗ってあげられなかった」
「ううん、穂乃果ちゃんは関係ないよ。気にしないで。わたしが決めたんだから」
その言葉は穂乃果に衝撃を与えたようだった。
穂乃果はなにかいいたそうに口を開きかけたが――結局なにもいわず、悔しそうに下を向いた。
「それじゃあ、ね」
ことりは寂しそうに笑うと教室から出ていった。
「穂乃果さん、それでいいんですか」
毬穂が穂乃果に詰め寄った。
「ことりちゃん、とてもいきたいと思ってるように、見えないです」
「ううん、いいの」穂乃果は首を振る。「ことりちゃん、きっと、学園祭のあと、相談しようとしてたんだよ。でも、穂乃果が倒れたりして……それでラブライブ欠場が決まったりして……。ひとつの区切り、なのかな」
「そんな……」
毬穂の顔が青ざめる。
やはり穂乃果に事前に留学を知られてしまったのは……悪い方向に転がってしまいましたね。もし知らなければ、たとえ学園祭で倒れたとしても、どうして相談してくれなかったのかと、ことりを説得していたことでしょう。へんに知っていたから、ことりの相談に乗れなかった自分を、責めてしまってるのですね……。
「海未さん。海未さんはそれでいいんですか?」
毬穂は海未に向き直る。
「ことりちゃんと、お別れなんですよ!」
毬穂は必死の表情で大きく首を振った。
はっと海未は我に返る。
私? 私は……。そうですね、忘れていました。私は……穂乃果とことりが、こんな形で終止符を打ってしまうのは、たまらなく嫌です。
海未の心に、幼い頃の思い出が、学院での毎日が、三人での練習が浮かんだ。その三人がばらばらになる。急にそれが現実感を帯びて迫ってきた。
海未は数回、かぶりを振る。
穂乃果のこと、ことりのことを思っているように、自分を納得させていましたが……実はそれは、すごく表面的だったのですね。ふたりが本当はどう思っているのか、なにを望んでいるのか……それを考えなけば、いけなかったんです。それに、私自身が、どう思っているのかも。
一番、無責任だったのは、私なのですね。
海未は顔をあげた。
「毬穂。ありがとうございます」
そういって毬穂に微笑む。
「穂乃果、毬穂、ついてきてください」
穂乃果は暗い顔で、毬穂はあせりながらも不思議そうに、海未にしたがった。海未は速足で校内を横切っていく。
海未が向かった先は講堂だった。付いてきたふたりをうながして舞台に立つ。
誰もいない客席が目の前に広がった。
「覚えていますか、穂乃果。最初に三人で、ここに立ったときのことを」
「うん。こんな感じで……誰もいなかったよね」
「でも、いまはμ'sの九人がいて、毬穂がいます。学園祭のライブも、オープンキャンパスも、大勢の人が、来てくれました」
隣で毬穂がうなずいていた。
「最初、私は、すごく嫌だったんですよ。あんな恥ずかしい衣装で、みんなの前に立つなんて……」
海未は最初のステージを思い出して胸が熱くなる。
「でも、いまは穂乃果に、感謝しているんです。いろいろなことを巻き起こしてくれて。後悔なんて、していません」
海未は穂乃果に微笑んだ。
「きっとことりも、同じですよ。穂乃果はいつも、私たちを知らないところに連れていってくれるんです。それを……こんなところで、終わりにしないでください。私も、ことりがいなくなるのは、たまらなく嫌なのです」
「海未ちゃん……」
「さあ、穂乃果。自分を責めるのはやめて、自分に素直になって……いつもの無茶を取り戻してください。そして、ことりを引き留めてきてください!」
海未は右手を大きく振り上げて、講堂の出口を示した。
きっと穂乃果なら、わかってくれますよね。
穂乃果はしばらく呆然としていたが、やがて大きくうなずいた。
「うん、そうだよね……。穂乃果、行ってくる!」
穂乃果は舞台からぴょんと飛び降りた。
「ありがと、海未ちゃん」
そういって通路を駆け出した。
海未はそれを見送っていたが――わきから毬穂がいった。
「海未さん、いきましょう。感動のシーン、見逃す手は、ないですよ!」
毬穂は穂乃果と同じように飛び降りた。
「さあ、早く早く」
入口のところで振り返る。
もう、
職員室。
「ことりちゃん、待って!」
穂乃果の声が聞こえた。入り口でなかをのぞき込む毬穂に、海未は加わった。
担任の山田を前に立つことりを、背中から穂乃果が抱きしめていた。
「さっき、ことりちゃん、関係ないっていったけど……関係なくないよ! だって、だって……私が嫌なんだもん!」
「穂乃果ちゃん……」
「スクールアイドル、やりたいの。ことりちゃんと一緒に、やりたいの! お願い、ことりちゃん、いかないで!」
ことりは穂乃果と目をあわせられないのか、あえて遠くを見ていて――その目は潤んでいた。
「わたし……ずっとずっと、悩んでた。留学、どうしようかなって。でも、いま気づいたけど……本当は、穂乃果ちゃんと一緒にいたかった」
ことりは視線をそらしたまま、絞り出すように話した。
「だって、小さいころから、ずーっと一緒だったんだよ。それに、三人でがんばろうって、誓ったんだもん。それなのに……穂乃果ちゃんを、試すようなことしちゃって、ごめんね」
ことりは穂乃果の手をほどき、ゆっくりと振り返った。今度はことりが穂乃果に両手を回す。
「ありがと、穂乃果ちゃん」
「ことりちゃん、それじゃ……」
「うん、よろしくお願いします、穂乃果ちゃん。これからも、ずっと」
穂乃果がもう一度、ことりを抱きしめた。ことりの目から一筋の涙がこぼれ落ちた。
「うん、よかったです」
毬穂が涙声でつぶやいた。
「ええ、そうですね」
海未も目頭が熱くなるのを抑えられなかった。
「これで、きっと歴史が変わります……」
こほん、と山田が咳払いをした。穂乃果はことりを開放する。
「それじゃ、これは返すぞ」
休学届だった。ことりはそれを受け取ると胸の前で抱いた。
「あの、お騒がせしました」
「しました!」
ことりと穂乃果はふたりそろってお辞儀をした。山田は思わずといったようすで吹き出した。
海未と毬穂はあわてて職員室の入り口から離れた。
「あ、海未ちゃん、毬穂ちゃん」
穂乃果が出てきた。目が赤くなっている。穂乃果はあわてたようすで目をぬぐった。
「一件落着、ですか?」
海未はいたずらっぽく笑う。
「うん、明日からまた、ばりばりがんばるよ」
「今度は、無茶しないでくださいね」
「わかってるよ、もう。海未ちゃんてば……」
そのうしろでことりが毬穂にささやいた。
「毬穂ちゃん、もしかして、見てました?」
「えへへ、ごめんなさい」
毬穂は舌を出す。
「もう、趣味が悪いんだから」
ことりは毬穂のひたいを中指で軽くはじいた。
仲良くおしゃべりをしながら教室へ戻る三人を見ながら、海未は思う。
本当に、ぎりぎりでした。毬穂には、感謝ですね。私も、反省しなくてはなりませんね……。
・
数日後。来年度も入学者を募集する旨の掲示が、学院に貼り出された。花陽の報告で掲示板に集まったメンバーは手を取り、肩を抱きあって喜んだ。
翌日には学院の存続を祝うパーティを部室でおこなうことになった。
部長のにこの挨拶で始まったパーティは大いに盛り上がった。
ジュースで祝杯をあげると、花陽の用意した米で炊いたご飯と、各自が持ち寄ったおかずとに舌鼓を打った。
途中、海未はことりに確認する。
「例の件、お話ししていいですか」
「うん」
ことりはすこし恥ずかしそうに微笑んだ。
海未は雑談めかしてことりの留学の件を明かすことにした。
「実は……ここしばらく、ことりが留学するかどうか、悩んでいたのです」
「えーっ、留学って、海外にいくことだよね」
凛が驚く。
「はい。服飾の専門学校で勉強しないか、と誘われていたそうです」
「だから最近、なにか落ち込んでいたように見えたのね。希と心配していたのよ」
絵里がそういうと希もうなずいた。
「でも、過去形、っていうことは……」と真姫。
「うん、みんなにも相談して……」ことりは海未、穂乃果、毬穂を順に見やった。「まだここでやりたいことがあるし……もうすこし落ち着いたら、って決めたんだ」
「みなさんにはご心配をおかけして、すみませんでした」
海未は四人を代表するつもりで頭を下げた。
「よかった。ことりちゃん、一緒にがんばろうね」
花陽がことりの手を握りしめる。
「安心したにゃー」
花陽とことりを凛が両手で抱き寄せた。
「うん、ありがと、花陽ちゃん、凛ちゃん」
そのようすを残りの部員は暖かく見守っていた。
「学園祭が終わって、あとは生徒会役員の改選が来週……。それが終われば、学院の行事も落ち着くわね。そうしたら、μ'sも本格的に再始動かしら」
ふたたび一年生たちと騒ぎ始めた穂乃果を見ながら、絵里が希にいう。海未はとなりでそれに耳を傾けた。
「そうやね」
「今度は穂乃果も、もうすこし落ち着いてくれるといいんだけど……」
「うーん、それはどうやろ……」
希は苦笑する。どこからかカードの
「……どうしたの?」
希が示したカードには雷を受けてくずれる塔が描かれていた。
「タワー。暗示するものは、災難、転落、破滅……不吉やね」
「気を付けて進まないと、いけないわね」
絵里がごくりと唾をのむのが、海未に聞こえた。
・
その日の夜。夕食の席で海未は母に、廃校が回避されたことを伝えた。
「あらまあ、よかったわね」
海未の母も音ノ木坂学院の出身であり、廃校には心を痛めていたのだろう、母の顔には喜びがあふれていた。海未はそれを見て誇らしさがわいてくるのを感じた。
「それで、アイドル活動は、どうするのですか」
「はい。穂乃果やことりとも話したのですが、もうすこし続けようと思います」
「そうですか。お友達にも恵まれて……部活動としては悪くないですね。ぜひがんばってください」
「ありがとうございます」
海未は頭を下げた。
「でも、海未さん。……勉学も、おろそかにしてはいけませんよ」
母は釘をさすのも忘れなかった。ただその顔は決して厳しくはなかった。
「はい、肝に銘じます」
食事を終えて自室に戻った海未は考える。
そうですね、学園祭に、ことりの留学といろいろありました。すこし勉強が片手間になっていたのは、否定できないかもしれません。それに、二年生の二学期ともなると、そろそろ進学のことも、考えなくてはなりませんね。
穂乃果は大丈夫でしょうか、そう考えてから思い直す。いえ、まずは自分から、ですね。
ふと学園祭で見た
そういえばいろいろあって田辺さんに、学園祭に来ていただいたお礼もしていませんでした。お礼と一緒に……家庭教師、頼んでみてもいいかもしれませんね。もちろん、お母さまとお父さまの了解を得てから、ですが……。
海未は自室の時計を見る。まだそれほど遅い時間ではなかった。善は急げ、といいますね。
海未は携帯電話を手に取り、連絡先から田辺を選び――しばらく固まった。
あのときはなにも考えていませんでしたが、家族以外で男性の連絡先を入力したのは、田辺さんが初めてでした。そしていま私は、あろうことかお電話を差し上げようとしています。こ、こんなこと、許されるのでしょうか……。
いえ、田辺さんはあくまでも先生です。それに、感謝を伝えなくては礼を失します……。
海未は震える指でボタンを押した。
数コールですぐに宏未が出た。
『はい、宏未です』
「そ、園田海未です。お世話になっております」
海未は電話口で思わず頭を下げていた。
『あ、お久しぶりです。お元気でしたか』
宏未の声は明るかった。
「ええ、おかげさまで。田辺さんはいかがですか」
『え、あ、はい、元気ですよ』
「それは幸いです。あの、いま、お時間、よろしいですか」
『ええ、大丈夫です』
「その、先日は学園祭に来てくださり、ありがとうございました。それに、あんなことになってしまい、申し訳ありません」
『ああ、いえ、すみません』宏未はそういってしばらく口ごもった。気を取り直したように続ける。『……あのときは、たいへんでしたね。高坂さん、大丈夫でしたか』
「はい、もう、すっかり元気です」
『それはよかった。……ライブ、一曲だけでしたが、とてもよかったです。う……園田さん、すごくかわいかったですよ』
海未は顔を真っ赤に染めた。胸がどきどきと弾むのがわかる。
そ、そんな面と向かって……。いえ、向かってないですが……。直接、いわれたら、私、どうしたらいいのでしょう。
『……園田さん。園田さん、もしもし』
「あっ、はい、すみません」海未はようやく我に返った。「あの、ありがとうございます」
そう小声でいう。宏未は電話の向こうで笑っているようだった。
海未は気を取り直して続ける。
「それで、お願いがあるのですが……。先日、お話しいただいた家庭教師の件、もうすこし詳しく、ご相談させていただけないでしょうか」
『ええ、かまいませんよ。私も暇ですから、ありがたいです。……ご自宅にいきましょうか?』
「いえっ、それは……」いきなりお招きするのはさすがにちょっと……。「あの、この前の喫茶店で、いかがでしょうか」
『わかりました。私はいつでもいいですよ』
「それでは……明日の放課後、六時くらいでよろしいでしょうか。急で恐縮ですが」
『はい、おうかがいします』
「よろしくお願いいたします」
海未は電話を切った。胸の鼓動がおさまるまで、海未はしばらく携帯電話を握りしめていた。
就寝前、海未が母に家庭教師を考えていることを伝えると、母は喜んで賛成してくれた。
・
翌日、海未は真姫に、さりげなく家庭教師の謝礼の相場を聞いておいた。真姫は「相手にもよるけど……」といいながら親切に教えてくれた。
練習を終えて、海未は穂乃果たちに断って先日のカフェに向かった。
五分ほど前に店についた。店の前で、ガラスに自分の姿を映してみる。髪も落ち着いているし服も乱れていない。にっこりと微笑んでみる。
はい、よさそうですね。
店内に入って店員に待ち合わせであることを告げた。店内を見ると入り口から遠くない席に宏未が来ているのが見えた。
「田辺さん」
海未は声をかける。宏未が顔を上げた。
「すみません、お待たせいたしました」
「いえ、いま来たところです」
宏未はそういって笑った。
この会話、まるでデートの待ち合わせみたいですね。海未は昨日のどきどきがふたたび戻ってくるのを感じた。深呼吸して落ち着かせる。
今日は、勉強の相談、なのですよ、海未。
やってきた店員に飲み物を――今回は抹茶オレにする――注文した。
「わざわざすみません、田辺さん」
海未がそういうとなぜか宏未は苦笑した。
「あの、ぶしつけなお願いで恐縮ですが……」と切り出す。
「はい?」
「よかったら、名前で呼んでいただけますか?」
「な、名前、ですか」
突然の申し出に海未は目を白黒させる。
い、いきなりですか。まだ正式にお付き合いもしていないのに、それは、あまりにも破廉恥ではないでしょうか。
海未のあわてぶりを見たのか宏未は急いで続けた。
「あの、海外が長かったので、苗字で呼ばれるのに、慣れてないんです。どうも落ち着かなくて……」
ああ、なるほど、そういうことですね。
特別な意味はないらしいと知って海未は胸をなでおろした。ただ、すこしだけ残念に思ったのは否めなかった。
「園田さんさえよければ、宏未って呼んでもらえると、ありがたいのですが」
「わかりました。ひ、宏未さん」
海未がぎこちなく微笑むと、宏未も笑った。
「先日は学園祭、ご足労いただき、ありがとうございました」
電話でも話したものの、あらためて海未はいった。
「いいえ。楽しかったですよ。でも、高坂さんが無事でよかった」
「すみません、ご心配をおかけして」
「屋上でのライブ、あいにくの雨で、たいへんだったでしょう。あそこは、くじ引きで?」
「はい。部長が引いて……」
「そうでしたか、すみません。私がへんなことをいったから……」
宏未は恐縮してみせた。
「いいえ、誰が引いても、同じですよ」海未は手を振って否定した。「それに、ステージも準備できましたし」
「あれは、学校でなくて、部活で用意したんですか?」
「はい、新しくはいったマネージャが敏腕なんです」
海未はにこりと笑う。
「そうですか……」
宏未は感心と心配が入り混じったような複雑な顔をしていた。
「それに、留学の相談にも乗っていただいて……」
「いえいえ。お友達はどうするか、決めたんですか?」
「ええ、結局、留学はいったん見送りました」
「そうですか……。そのお友達が自分で決めたのなら、それが一番いいと思います」
宏未はうなずいた。
「それで、家庭教師の件ですが……」
海未は本題に入った。海未は週に一回、一、二時間、数学と英語を見てほしいと頼んだ。宏未は喜んで、と答えた。
また宏未は神田橋大学の学生証を海未に示してみせた。
「それで、お礼ですが……」
海未が真姫に教わった金額を伝えると、宏未は首を振った。
「それじゃ、いただきすぎです」
「でも、友人はこのくらいだと……」
「きっと、ご友人はどこかの会社を通しているんですよ。私は直接ですし、プロでもありませんから……」
ふたりはしばらく押し問答をして、最初の金額の半分強で落ち着いた。そして初回の予定も決めた。
「あの、今日はわざわざ、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」
海未がテーブルを見ると伝票は消えていた。
「今日は私が払います」
宏未はウインクをした。
「はい、お願いします」
あまり無理をいっても、かえって悪いでしょうね。
「ごちそうさまでした」
店を出て、海未は丁寧に頭を下げた。
「いいえ。……ここのガラス、よく映りますよね」
宏未はそういって笑った。海未は耳の先まで真っ赤になる。
「それでは、また」
宏未は笑みを浮かべたまま軽く会釈して去っていった。
まさか、見られていたなんて……。もう、知りませんっ。
次話以降の推敲のため、一日ほど更新をお休みするかもしれません。