大鴉の羽搏き   作:カバ

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第二話

 擬似竜(デミドラゴン)が住まう森から霊草を採取する依頼(クエスト)を終えたイワンは、事後処理をドランバルトに任せて早々にギルドへと帰還していた。予定よりも早く終わった為、イワンとしては有り難かった。

 

 余談だが、ドランバルトに竜を眠らせた過程を話したが何故か信じてもらえなかったらしい。

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

「お~い。オジサンが帰ってきたぞ~」

 

 イワンは気だるそうに欠伸をしながら建物(ギルド)内へ入っていく。彼の帰還した姿にギルドメンバーが次々に言葉を交わしてくる。

 

「あら? イワンさん帰ってきたの? なら、いつもの席にお酒を用意しておくわね」

 

「イワンのオジサン! 今度、俺に魔法を教えてよ!」

 

「中年のオッサンが放つ鎖に身体を雁字搦めにされる……デュフフwww」

 

「……おい、いま変な奴がギルドに紛れ込んでなかったか?」

 

 イワンは新顔と古顔が入り乱れるメンバーの顔を眺めながらギルド内を進んでいく。そんな彼に昔からの馴染みである人物が酒を飲み合いながら話し掛けてくる。

 

「おぉ! イワンのおっさん、依頼はどうだったんだ?」

 

「旦那にかかりゃあ、10年クエストも簡単だったんじゃねぇか?」

 

 そう問い掛けてくるのは、『マカオ・コンボルト』と『ワカバ・ミネ』の中年二人組。彼等は妖精の尻尾(フェアリーテイル)に残っているメンバーの中でもイワンとそれなりの付き合いがある存在だった。

 その為、イワンも年が離れた友達感覚で彼等と接していた。

 

「ありゃあ大変だったぞ。何しろ、オジサンが汗を掻いた位だからな」

 

「「………………」」

 

 イワンの言葉を聞いた二人は、互いの顔を見合わせ渇いた笑みを浮かべる。互いに考えることは同じことだった。二人は口を揃えて告げる。

 

「「化け物すぎんだろ、アンタ」」

 

「あぁ? オジサンを怒らせたのか、クソガキ?」

 

 多少イラッとしたイワンは、二人の頭部を優しく床に埋める。中年二人の末路を見届けた周りのメンバーは心中で同じ感想を懐いたが、口には出さずにそっと忘れる。

 そんなイワンに多数の少年少女が近づいてくる。

 

「何だオッサン、死ななかったのかよ?」

 

「イワンのオッサンに対してミラ姉は相変わらずだな。それでこそ、漢だァッ!!」

 

「……エルフ兄、ミラ姉が怒りそうだから謝った方が良いよ?」

 

 次に話したのは銀髪が特徴の『ミラジェーン』『エルフマン』『リサーナ』ストラウス三姉弟。彼等はイワンが受けた悪魔討伐の依頼で出会った兄妹であり、行き場をなくしていた所をイワンがギルドへ誘った。その際に多少の面倒を見て他の皆より親しくなった。

 彼等の姿を見たイワンの表情が自然と緩む。

 

「相変わらずお転婆してるな、ミラ。リサーナも元気そうで何よりだ」

 

 視界の端でミラに折檻されているエルフマンを無視しながら二人に話し掛ける。イワンの言葉にリサーナは元気良く返事を返し、ミラは軽い悪態をつく。

 

「はっ、アンタと違ってアタシ等の方が若いんだから元気なのだ当然だろ」

 

「おいおい、幾らオジサンが年だからってその物言いはあんまりだろ?」

 

 イワンはミラの辛口コメントに若干傷つくする。そんな(ミラ)の姿を見た(リサーナ)は笑みを浮かべる。

 リサーナの笑みを見たミラが嫌な予感を覚えて、その予感はすぐに的中する。

 

「そうだよね~、ミラ姉はイワンがオジサンだから心配してるんだよね~?

 10年クエストに行ってからいつもソワソワしてたもんね~?」

 

「なっ!? ばっ、何言ってだリサーナ!? 変な嘘つくんじゃないよ!!」

 

「え~? 私はホントのことしか言ってないよ~?」

 

「リサーナ!!」

 

 二人の姉妹は仲良く喧嘩する。傍から見ると微笑ましい光景なのだが、ミラの感情に左右されて折檻されるエルフマンがそろそろ限界を迎えようとしていた。

 

「………………」

 

 寧ろ逝っていた。これ以上彼を無視すると身が持たないと感じて、イワンはミラに注意を促す。

 

「……ミラ。……お~い、ミラさんや~。……ミラちゃ~ん?」

 

「何だよオッサン!? 今忙しいんだよ!! 後にしろ!」

 

 彼女は横で名前を連呼するイワンにキレながら対応する。その間にも折檻は続き、エルフマンが黄泉の国へ旅立ってしまいそうだ。イワンは顔を引き攣らせながら哀れな存在を指差す。

 

「……いや、そろそろエルフマンのアームロックを外してやれ。ソイツ白目むいてるぞ」

 

「えっ? わっ!? エルフマン、大丈夫か!? しっかりしろ!! おい!!」

 

「ミラ姉、それ止めを刺してるだけだから」

 

 指摘を受け初めて弟の状況を理解する姉。無事を確かめる為に彼の身体を思いっきり揺さぶる。それが止めの一撃になっていることを冷静に分析する妹。

 元気な姉弟姉妹の姿を見て満足(無理やり)するイワンに、一人の少年が突進してくる。

 

「イワン!! 俺と勝負しろッ!!」

 

 桜色の髪と鱗模様のマフラーが特徴の少年『ナツ・ドラグニル』が、イワンに対して突っ込む。少年の対応に慣れているイワンは、デコピンを放つ要領で少年に向け何かを弾く。

 

「ぷぎゃ!?」

 

 弾いた何かに当たりナツは凄いスピードで壁へ激突する。その時の衝撃でナツは敢え無く撃沈。ナツが近づいて来た付近から上半身裸の少年『グレイ・フルバスター』が笑い声を上げる。

 

「はっはっはっはっは!! なっさけねーなぁ、ナツ。

 今日だけで何回やられてんだよ?」

 

「……グレイ。ナツを笑う前に、お前はまず服を着ろ」

 

「よぉ、イワンのオッサン。今日は元から服を着てないんだ、だからそこんとこは大丈夫だ」

 

「……いや、寧ろその言葉にオジサン、心配しか感じないんだが……?」

 

 最近、若者との思考に大きな隔たりを感じることが多くなった五十代(イワン)

 皆がいつも通り?なのを見て一安心する。イワンはギルドの奥へ進み目的の人物を探す。そしてその人物が奥の受付席(カウンター)に陣取っているのを見つける。

 

「よっ、親父(マスター)。無事に依頼を完遂してきたぞ」

 

 受付席(カウンター)に陣取る小柄な老人『マカロフ・ドレアー』は『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の三代目マスターであり、イワンの実の父である。聖十の称号(序列5位)を持ち、ギルド内では四強の一人に数えられる。

 父親(マカロフ)息子(イワン)の無事な姿を見て穏やかな笑みを浮かべた。

 

「うむ、評議会からは先に連絡が入っておる。御苦労じゃったの、イワン」

 

 マカロフの労いの言葉にイワンは苦笑気味に答える。

 

「これでも聖十の称号を預かってる身だ。早々に後れは取らんさ。

 それより、ラクサスの姿が見えないが依頼か?」

 

「ラクサスはいつも通り一人で依頼に出掛けておる。

 なんじゃ? 心配事でもあるのか?」

 

「……いや、最近は反抗期気味であまり喋ってなかったからな。

 アイツが元気そうならそれで良い」

 

 イワンは息子(ラクサス)を一応は心配するが、聞いた限りでは元気にやってるようなので、それ以上は気にしない事にした。あまり干渉しすぎると嫌がられると考えたからだ。

 イワンが子供との距離感を掴みかねている様子をマカロフは生暖かい瞳で見つめていた。

 

 悩む父親(イワン)の下に一人の父親(バカ)が近づいてくる。

 

「――何だ、息子(ラクサス)のことで悩みでもあるのか?

 なら(カナちゃん)と仲良しすぎる父親(オレ)に一つ相談でもしてみるか?」

 

 声をかけてくるのは、オールバックの髪型に髭面が特徴の中年男性『ギルダーツ・クライヴ』。S級魔導士の称号と聖十の称号(序列8位)持つ、ギルド四強の一人。そして重度の親バカ。

 何かと昔から衝突する二人がこんなことでも張り合うのは必然だった。

 

「――ギルダーツ。てめぇ、まだギルドに居たのか。

 さっさと依頼(しごと)に行って来いってんだ」

 

 イワンは苦虫を噛み潰したような表情をしながらギルダーツを追い払う。どや顔を浮かべながらギルダーツは自身とカナの仲良しさをアピールする。

 

「そう邪険にするなよぉ~。俺は仲良しのカナちゃんと一緒に居たいだけなんだぜ?

 カナちゃんもパパと一緒がイイよねぇ~!」

 

 ギルダーツは先程まで自分が座っていた席に満面の笑みを向ける。しかしそこには誰も居ない。彼は呆けた表情を浮かべながら辺りを見渡すが、自身の愛娘を見つけることが出来なかった。

 微妙な雰囲気が流れる中、マカオの息子『ロメオ』がギルダーツの下に一枚の紙を持ってくる。

 

「ギルダーツのオジサン。コレ、カナ姉が渡してくれって」

 

「カナちゃんが!? 貸してくれ!!」

 

 ロメオから奪い取るようにその紙を読む。紙にはこう書いてあった。

 

『バカ親父、仕事に行ってきます。

 後、ベタベタ引っ付くな鬱陶しい! byカナ』

 

 読み終わったギルダーツがギルドの隅っこで泣き崩れる。

 

「どうしてだァ、カナちゃん!? パパのことが嫌いになったのか!?

 頬ずりは駄目だったか!? お姫様だっこはやり過ぎたか!?

 でも仕方なかったんだァ!! カナちゃんが可愛すぎるのがダメなんだァ!!」

 

 

『(……コイツ、マジでヤベェ……!!?)』

 

 

 この場に居るギルドメンバー全員の心が一つになる。

 漫才(コント)を繰り広げていると二階から声が響く。

 

「――全く、私の至福の時が台無しじゃありませんか?

 紅茶は静かに飲ませて欲しいものですね」

 

 声の主は、魔導士ギルド『幽鬼の支配者(ファントムロード)』のマスターを務めていた『ジョゼ・ポーラ』その人。現在はS級魔導士の称号と聖十の称号(序列7位)持つ、ギルド四強の一人。

 現在は様々な経緯を経て、宿敵(ライバル)関係にあった妖精の尻尾(フェアリーテイル)に籍を置いている。

 

 ギルダーツは恨みがましい視線をジョゼに向ける。

 

「へっ! イイよな~独身はこういった悩みが無くてよ」

 

「はぁ……八つ当たりは見苦しいですよ、ギルダーツさん。

 貴方がもう少しカナさんと距離を置けば済む問題でしょう?」

 

「お前は俺に死ねっていうのかッ!?」

 

「……これは手に負えない。カナさんもコレ(・・)が親だとは同情を禁じ得ませんね」

 

 ジョゼは”やれやれ”と首と振る。その態度にギルダーツの額に青筋が浮かぶ。

 

「――似非紳士(ジョゼ)……ここいらでどっちが上か白黒ハッキリつけないか?

 お前より聖十の順位が低いのどうにも納得がいかねぇ。

 それに、カナちゃんにも示しがつかねぇと考えてた所だ」

 

「――聖十の称号は年齢も考慮されている節があるので、貴方の発言は強ち間違っていません。

 だからと言って、私が貴方より下という考えには賛同しませんがね」

 

 ギルダーツとジョゼは互いに闘志を滾らせる。それだけで周りに居るギルドの面々が顔面蒼白になりながら気絶する。両者が発する魔力が空気の波となって辺りの物を”カタカタ”と揺さぶる。

 今まで静観していたマカロフが流石にやり過ぎだと感じて止めに入る。

 

「これ、止めんか!! お主らが戦ったらギルドが壊れるじゃろうが!!

 やるならマグノリアの郊外で戦ってこい!!」

 

「「応よ!」」

 

 二人はマカロフの言葉を聞いて飛び出して行った。

 それを見届けた後、マカロフは自身の発言に”はっ”となる。

 

「あっ! いや、待て! 元々お主らが戦うこと自体ダメじゃ!!

 評議会から止められておったのをすっかり忘れておった!! 戻って来い!!」

 

 しかしマカロフの叫び虚しく、両者は既に目に見えない所まで駆けていた。

 マカロフはボケっと突っ立っているイワンに視線を向け訴えかける。

 

「イワン!! 今すぐあの二人を連れ戻して来い!!

 ワシがまた評議会から大目玉を食らう!!」

 

「えぇ~、別に良いんじゃないか?」

 

 ついさっき帰ってきたイワンはその場を動きたくないらしく、マカロフの言葉を聞き流す。

 

「あの二人を止められるのはお主とワシ位じゃろうがっ!!」

 

「なら親父が止めればいいじゃないか?

 この勝負だって親父が後押ししたようなもんだし」

 

 イワンの言葉を聞いたマカロフが急に胸を抑え始めた。

 

「うぅ……! 持病の心臓病が……!

 ワシも戦いたいが、この状態では……!(チラッ)」

 

 か弱い老人のふりをしながらマカロフが”チラチラ”とイワンに視線を送る。

 

「オイ、面倒だからって俺に押し付けるのは流石に納得出来ねぇぞ?」

 

 イワンの額にも青筋が浮かび上がる。それを見たマカロフが素直に助力を求める。

 

「……ハァ、分かった。ワシも参戦するから主も手伝ってくれんか?」

 

「……酒代一年分で良いぞ?」

 

「一年分!? 高いじゃろうがっ!! てか、報酬を要求するんかい!!」

 

 マカロフは身内(イワン)の法外な要求に度肝を抜かれる。イワンは”寧ろ当然だろ”と告げる。

 

「聖十大魔道の喧嘩を止めるんだ。依頼報酬としては妥当だろ?」

 

「ぐぬぬ……! 手加減はしてくれるんじゃろうな……!?」

 

「さて、カナやマカオ達みたいに毎日飲むわけじゃないからなぁ~」

 

「……えぇい!! 分かった!! その報酬で良かろう!!

 その分、しっかりと働いてもらうぞ!!」

 

「”毎度あり~”ってね」

 

 ヤケクソ気味にマカロフは報酬の件を承諾する。

 

「行くぞ! イワン!」

 

「オーケー、ちゃっちゃと終わらせて一杯やりますかねぇ」

 

 父親(マカロフ)息子(イワン)が爆音を響かせる郊外(せんじょう)へ駆け出す。

 

 

 

 

 

 ――大鴉の一日は、まだまだ終わらない。

 

 

 

 

 

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