大鴉の羽搏き   作:カバ

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第三話

 フィオーレ王国東方の街『マグノリア』。そこに拠点を置く魔導士ギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』。

 この数年で急成長を遂げ、王国内で一番のギルドだと噂されている。近年、魔導士となった者の多くがこのギルドに加入。彼等の存在により総人口が爆発的は増加する。

 

 そしてマグノリアに、新たな仲間(かぞく)となるべく妖精の尻尾(フェアリーテイル)に向かう若者が一人居た。若者は長旅の疲れを癒すべく、目に付いた一軒の酒場に足を踏み入れる。

 酒場と聞くと、荒くれ者たちが屯している場を思い浮かべてしまうが、若者が見渡した店内には気さくそうな住民達が酒を飲んでいる光景しか映らなかった。席が空いているカウンターへと腰を下ろす。客の着席にマスターが注文を取るべく声を掛ける。

 

「いらっしゃい。ご注文は?」

 

 若者は簡単な料理(つまみ)と酒を注文。マスターは注文を受けるとお冷を渡して作業に取り掛かる。

 

「お客さん、もしかして魔導士の方ですかい?」

 

 慣れた手つきで酒を用意したマスターが若者に話し掛ける。若者は何で分かったのかマスターに問いを投げる。彼は苦笑しながら話す。

 

「最近お客さんみたいに、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入りたくてこの町(マグノリア)に来る人が多いんでさぁ。

 この街で見かけない顔を見たら、大抵あのギルド絡みのことなんですよ」

 

 魔導士の間で騒がれている妖精の尻尾(フェアリーテイル)なら、寧ろその反応は当然だと若者は考えた。

 マスターは愚痴をこぼすように続ける。

 

「この街に住んでる者として、人が増えるって傾向は喜ばしいことばかりじゃないんですわ。

 ガラの悪い人達が出入りしたり、変な噂なんかが飛び交ったりなんてね。

 あっ、でも別に人が増えること全部が悪いって言ってるんじゃないですよ?

 ただ本当に数が多いんですよ、数えるのがバカらしくなる位にね……」

 

 ため息を吐きながら注文の品を出すマスター。

 生まれ故郷を旅って早数年、そう言った地元関係のトラブルを味わっていない若者は”ふぅん”と曖昧に答えながら料理を口に運ぶ。

 若者が出された料理に舌鼓を打つ中、入り口付近から騒がしい声が響く。

 

「いやー惜しかったわー。マジで後もう一歩だったのになー。

 マスター達の介入が無かったら、勝敗は俺の勝ちで終わってたわ」

 

「はっ? 寝言をほざくのも大概にしなさい、ギルダーツさん。

 あの戦いの何処に貴方の勝ちがあったのですか。

 寧ろ私が最後の放とうとした攻撃を喰らっていたら、負けていたのは貴方なんですよ?」

 

 若者が声の方へ視線を送るとオッサン二人が何やら揉めていた。他の客は騒がしい二人に視線を向けるが”何だ、あの二人か”と視線を外す。マスターも我関せずと静観を決め込む。

 中年二人はそんな周りの雰囲気など気にも留めず言い合いを続ける。

 

「いやいや、俺があんな攻撃(もん)に当たっかよ。

 余裕で対応できたし、次の攻めもバッチリ決めてからな?」

 

「……負け惜しみも聞き慣れると心地の良いものですねぇ。

 強者が弱者に慈悲を与えたくなるのを理解できます」

 

 二人が額同士を擦り付けながらメンチを切り合う。

 

「――お゛? 俺はまだまだやれるんだぜ?

 テメェが”勘弁してください、ギルダーツ様!”って泣きつくまで戦ってやんぞ?」

 

「――其方こそ、(カナさん)にこれ以上情けない姿を晒し続けて良いんですか?

 親の威厳をこれ以上無くしたら、本当に嫌われてしまいますよ?」

 

 

「「………………」」

 

 

 無言のプレッシャーが場を支配する。

 そして二人は今さっき入って来た出入り口を指さしながら大声を上げる。

 

 

「「――(おもて)に出ろやゴラァ!!!」」

 

 

 ――ブチッ

 

 騒がしいオッサン共の傍ら居た小さい人物の切れてはいけない何かが切れた。

 小柄な人物『マカロフ』は腕を瞬時に巨大化させ、二人に対して加減なく振り下ろす。

 

 

「――喧しいわクソガキ共がァ!!!」

 

 

「「――グェ!?」」

 

 

 二人のオッサン、『ギルダーツ』と『ジョゼ』がカエルが潰れたような声を出しながら倒れる。

 それを傍らで眺めていた『イワン』が笑い声を上げる。

 

「ブァハハハハハ!! なぁにやってんだテメェ等。

 妖精の尻尾(うち)は劇団もやってなければ、お笑いでもねぇんだぞ。

 んな身体張ったコントは余所でやんな」

 

 イワンの物言いにイラつきながら倒れ伏した二人が反応する。

 

「イワン……テメェ一人だけ安全圏に逃げてんじゃねーぞ」

 

「貴方だけ高みの見物を決め込むのは頂けませんねぇ……」

 

 表情に苛立ちを募らせる二人にイワンがどや顔で話し掛ける。

 

「だって、俺の方がお前等より偉いもん(聖十の順位的な意味で)」

 

「「……あ゛あ゛?」」

 

 沸点が低くなっている二人はイワンの言葉によって表情が先程より険しくなる。

 やり取りを見届けていたマカロフはため息を吐いて、一人カウンター席へ移る。店のマスターはマカロフに労いの言葉を掛ける。

 

「八十は過ぎたのにいつも御苦労さまだねぇ、マスター」

 

「店主よ……そう思うんなら少しは仲裁を手伝ってくれても良いじゃろう?」

 

 マカロフの言葉にマスターは”ご冗談を”と首を横に振る。

 

「私が貴方達の仲裁に入った所で一蹴りされるのがオチでしょう?

 なら、静かに静観する方が得ってもんですよ」

 

「……はぁ、もちっと彼奴等は大人しくならんもんかのぉ……」

 

 マカロフが深く項垂れる。

 そんな雰囲気の中、今まで静観していた若者がマカロフに話し掛ける。

 

「んっ? お主、魔導士か? ワシに何用か?」

 

 若者が”貴方はマスターマカロフで合っていますか?”と疑問を問う。その問いにマカロフは軽い感じで肯定する。

 

「そうじゃよ。ワシは魔導士ギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』三代目ギルドマスター『マカロフ』。

 後ろで騒いでいる息子達(ばかども)(マスター)を務めておる」

 

 若者は視線をもう一度後ろへと向ける。

 さっきまで殴り合いをしていた三人の勝負は、何時からか酒の飲み合いに切り替わっていた。

 

「俺はよ、親として最低の部類に属してんのは自分でも分かってんだ。

 でも……それでも俺は、(カナ)にとって世界でたった一人の父親なんだ。

 そんなダメ親父がしてやれんのは、娘を守ってやることぐらいだ。

 だから俺は、大切な(カナちゃん)悪い虫(おとこ)が寄り付かなくなるように影ながら見守るんだ(ストーカーするんだ)……!」

 

「おいダメ親父(ギルダーツ)、それは流石に無いだろ。(カナ)から家族の縁を切られるぞ」

 

「そうですよ。流石にギルドから犯罪者を出す訳にはいきません」

 

「うるさいっ!! お前等に俺の何が分かるって言うんだ!?

 思春期の娘に『お父さん……臭い』って真顔で言われるあの辛さをっ!!」

 

「あぁ……まっ、それは娘を子供に授かった父親の定めだ。潔く諦めろ」

 

「ふんっ。ならば、私のように独り身(ここう)であれば良いのですよ。

 そうすれば、様々な柵から解放されますよ?」

 

 

「「いや、独身(それだけ)は無いわ。それは男としてあり得ないわ」」

 

 

「――私の半生が全否定された……だ、と……?」

 

 若者が見つめる先でオッサン三人の馬鹿な冗談(コント)を繰り広げられていた。

 隣で見ていたマカロフが穏やかな笑みを浮かべる。独り言を呟くように語り出す。

 

「――あの三人はな、昔っからあんな感じなんじゃ。

 一人がバカやって、もう一人がそれに釣られて、最後の一人がブレーキ役を買って出たり。

 一人が無茶すれば、残りも後に続いて無茶ばかりするんじゃよ。

 時に大喧嘩もすれば、三人揃って知恵を絞って悪巧みなんかもしてのぉ。

 一人の時は皆ギルドの先達として頼もしいのに、三人が一介に揃えば三馬鹿の誕生じゃよ」

 

「――いや~懐かしいもんですね」

 

 カウンターの向こうで聞いていたマスターがひょっこり顔を出す。

 

「イワンさんとジョゼさんがカルディア大聖堂を吹っ飛ばしたのは当時は驚きました。

 三人で王国の華灯宮メルクリアスを半壊させた時は、ギルドの解散を想像させましたねぇ」

 

「……それらの事は、あまり思い出させんでくれんか?

 あの時の事を思い出すだけで胃に穴が開きそうなんじゃが……」

 

 マカロフは表情を青くしながら懇願する。

 若者はマカロフの体調を心配するが、”大丈夫じゃよ”と苦々しい顔で告げる。

 

「はぁ……政務はイワンに一任しておるが、何時まで責任者(マスター)を続けねばならないんじゃ……」

 

 マカロフの独白にマスターが答える。

 

「そりゃあ文字通り、死ぬまでじゃないですか?」

 

「……隠居したい」

 

 マスターの無慈悲な言葉により、マカロフはカウンターに沈む。

 若者は一連の出来事を見てマカロフにこう尋ねた。

 

 ”何故、貴方はマスターを続けているんですか?”

 

 若者は頭の中で色々と考え、純粋な疑問としてこの質問が自然と零れた。

 不躾な質問だったがマカロフは若者に答える。

 

「――初めは唐突に託された。

 年を食って人生経験はあったが、先導者(マスター)としての経験など皆無じゃ。

 最初は二代目(せんだい)の姿を見よう見まねで一年、五年、十年と続けた。

 すると次第に、ワシ自身が求める姿(みち)が見えるようになっていった」

 

 ”子供(ガキ)を……家族(ギルド)を守りたい”

 

 お猪口に酒をトクトク注ぎながらマカロフは続ける。

 

「――好きなんじゃよ。心の底からどうしようもなく、ワシはギルド(ガキども)が大好きなんじゃ。

 評議員(うえ)から小言を言われるのは苦じゃが、それでもワシはギルド(かれら)の成長を見守っていきたい」

 

 そう若者にニッコリ笑顔で答える、マスターマカロフ。

 その間に店主(マスター)が一言呟く。

 

「……さっきと言ってることが真逆ですよ、マスター(じいさん)

 

「う、うるさいっ!! いま良いことを言ってるんじゃから余計な茶々は挿まんでくれ!?」

 

「それ、自分で言っちゃ駄目でしょ?」

 

 若者を差し置いてマカロフとマスターは後ろで繰り広げられる漫才(コント)のような会話を続けていく。若者が手持ち無沙汰になり後ろの会話に耳を傾けると先程の会話は既に終わり次の話のタネとして過去にどのような依頼(クエスト)完了(クリア)したかの自慢話に話題が変わっていた。

 

 若者は妖精の尻尾(イワンたち)を見つめる。若者の瞳に映る彼等の姿は、本当に楽しそうだった。

 

 ”……良いなぁ”

 

 若者は想った。若者(かれ)は感じた。若者(かのじょ)は考えた。

 

 (じこ)という存在を『妖精の尻尾(ここ)』でなら捜せるのではないのか……と。

 

 

 

 

 

 ――幼い小鳥は、羽根を休める大木を見つける

 

 

 

 

 

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