大鴉の羽搏き   作:カバ

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第四話

 母譲りの金髪を持ち、十七歳にして抜群のスタイルを誇る少女『ルーシィ・ハートフィリア』。彼女はこの日、高鳴る気持ちを抑えて街中(マグノリア)を進んでいた。

 

(――やっと、ここまで来れた! 絶対に入れてもらうんだから……!)

 

 若干の興奮と緊張を綯い交ぜにし目的地の建物を目指す彼女の服装は、ノースリーブのシャツにミニスカ、ブーツと言った今風の格好であり普段は何をしている人物なのか若干分かりにくい。

 しかし、見る人によって彼女の正体はすぐに分かるだろう。

 

(でも加入するにはやっぱり、強力な魔法とか覚えてなくちゃダメかな?

 いやいや! 星霊魔導士で黄道十二門の鍵を三つも持ってる私がそんな弱気でどうする!

 ファイトよ、ルーシィ(あたし)! 貴方はやれば出来る子よ!)

 

 内心で強がりながら、腰のベルトにぶら下げた鍵を握りしめる。彼女が手に持つ鍵こそ、彼女が何者であるのか教えてくれる。

 彼女の正体は『星霊魔導士』。異界の住む『星霊』を特殊な鍵を用いて現世に呼び出し、様々な用途に応じて使役する所有(ホルダー)系の魔導士。一般的に女性が多い傾向のある魔導士とされている。

 

 大荷物を持って移動する魔導士(しんじん)が、この街(マグノリア)で目指す場所など決まっている。

 

 

 ――魔導士ギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

 

 世間を大いに騒がす今最も人気な集団(ギルド)。彼女も彼等の一員(かぞく)となるべくこうして足を運んだのだ。

 ルーシィは建物(ギルド)を目前に再度、自分に言い聞かせるように告げる。

 

「――良し! 気合十分! 元気十分! 今日の私は絶好調!!

 どんな試練(もん)でもかかってらっしゃい!!」

 

 方向性を間違えて気合を入れたルーシィが、若干大股気味に建物内へと入っていく。

 そして念願のギルドへ足を踏み入れた彼女が最初に目にした光景とは――

 

 

 

「「死ねやオラァ!!!」」

 

 

 

 桜髪の青年と黒髪の半裸青年、二人の男が汗と血を流す本気勝負(ガチンコバトル)だった。

 

「……………………はっ?」

 

 予想していた光景と違って暫し放心するルーシィ。彼女が見つめる先で、桜髪の青年が手や足に炎を纏って攻撃するに対し、黒髪の青年が様々な形状をした氷を発生させそれらを迎撃していく。彼等の魔法(こうげき)は一定の範囲からは見えない壁が立ちはだかるよう遮られており、周囲に居る人や物に被害は一切及んでいなかった。

 

 ルーシィは”あっ、(コレ)があるから安全に戦いを観戦できるんだ”と呆けた思考で納得する。彼女の心境などお構いなく、二人の闘争は激しさを増していく。

 桜髪の青年『ナツ』と黒髪の青年『グレイ』は仕切り直しとばかりに互いに一定の距離を取る。ナツが見えない壁に刻まれた文字を読み取る。

 

 

『ナツ・ドラグニル』vs『グレイ・フルバスター』

 

『ナツ・ドラグニル』

 373戦 169勝 170敗 34引き分け

 

『グレイ・フルバスター』

 373戦 170勝 169敗 34引き分け

 

 

 そこにはこの様な勝敗結果が浮かび上がっていた。だがナツはその勝敗結果に納得できず表情に苛立ちを募らせながら対戦相手であるグレイに対して吠える。

 

「がァー!! 納得できねェ!! 俺がグレイに負け越すなんて何かの間違いだァ!!」

 

 傍から見ても情けない(ナツ)の姿にグレイは小ばかにした笑みを浮かべる。

 

「おいおい、ナツともあろうものが随分と情けねぇこと言うじゃねぇか?

 こりゃあ、明日は炎でも降ってくるんじゃないのか?」

 

「んだとぉコラァ!?」

 

 ナツはグレイの安い挑発に乗せられ、単調な攻撃を仕掛け続ける。だがその攻撃は威力と速さが上がっている為、総合的に見れば先程の攻撃よりも厄介なモノになっている。ナツの燃え上がった闘志はそのまま攻撃(ほのお)に変換し、グレイに繰り出される。

 

「グレイ!! 今日こそお前をぶっ飛ばす!!」

 

「いいや! 今回も俺が勝ち星を上げさせてもらうぞ、ナツ!!」

 

 ルーシィが茫然と立ち尽くす中、周囲は二人の決闘を応援する者や観戦する者で賑わっていた。彼女は二人を応援する者の中で、特に力を入れて応援する女性達の姿が自然と目に留まる。

 

「グレイ様ー、ファイトです!! 貴方の愛しい恋人(ジュビア)が応援してますよー!!」

 

「頑張ってー、ナツ!! 勝ったら手料理を作ってあげるからー!!」

 

「なっ!? リサーナさん、何て大胆なアピールを……!!

 こうなったらジュビアも負けてられない!!

 グレイ様~!! 勝ったらお祝いに二人で(しんこん)旅行へ行きましょうね~!!」

 

 

 

『――憎しみだけで、人を殺せたらどんなに幸せだろうか……!!』

 

 

 

「……うわぁ」

 

 ルーシィの目に留まると言うよりも彼女の周りに居る人達の視線に釣られ、ついつい桃色空間(そちら)の方向を見てしまうのだ。

 女性達の応援で戦っている二人の動きに乱れが生じ始める。

 

「うっ!? リサーナのヤツ、あんなこと大声で……! 気恥ずかしいじゃねぇか……!」

 

「――旅行……だと?

 もう家に押しかけられて、半ば同棲してるって言うのに、二人だけで(ハネムーン)旅行だって……?

 い、嫌だ! この年で人生の墓場に片足突っ込むなんざゴメンだっ!!

 でも……ワザとナツに負けるなんざ考えられねぇ……一体どうする、オレェ!?」

 

 気恥ずかしさで多少動きが鈍るナツ、色んな意味で思考と動きが鈍りに鈍ったグレイ。

 ……どうやら、今回の勝者は決まりらしい。

 

「隙ありだァ!! グレイィ!!」

 

「っ!? しまっ……!!」

 

 グレイはナツの接近にワンテンポ遅れて気付くが、時すでに遅かった。ナツは炎を纏った右手でグレイの胴体を振り抜くように拳を放つ。

 

 

 

『――火竜の鉄拳!!』

 

 

 

「ぐぅっっっ!!?」

 

 グレイはナツの拳が身体に当たる寸前に後ろへ飛び退き、身体と拳の間に即席ではあるが氷の(シールド)を生み出すことに成功する。しかし、それらはあくまでダメージを多少軽減するだけであり、大きなダメージを受けたことに変わりはない。

 グレイは勢いよく吹っ飛ばされて、見えない壁から弾き出される。

 

 彼が弾き出された瞬間、その辺り一帯にブザー音が鳴り響き勝敗結果を映し出していた場所に、新たな文字が浮かび上がる。

 

 

『ナツ・ドラグニル』vs『グレイ・フルバスター』

 

 勝者!! ナツ・ドラグニル!!

 

 

 その文字を見届けたナツは天に向かって、勝利の雄叫びを上げる。

 

「うぉぉぉぉぉぉっっっっっっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 ナツは口から炎を噴射しながらそこらを走り回る。

 逆に負けたグレイは床に手をつけながら怒号する。

 

「嘘だ!! あり得ねぇ!! あんな初歩的なミスを犯すなんざ冗談じゃねえぞ!?

 クソォ……!! 畜生ゥ!!」

 

 そんな色々と現状を受け入れられない彼に一人の女性が女性が近づいてくる。

 近づいてくるその女性は、鼻息荒い変態(ジュビア・ロクサー)。何を勘違いしたのか彼女は高揚とした表情でグレイにどんどん接近していく。

 

「――グレイ様、ジュビアは今猛烈に感激しています……!

 恋人(ジュビア)と一緒に旅行へ行けないことをそんなに悲しんでくれるなんて!

 ジュビアは……ジュビアは嬉しです!!!」

 

 すぐそこまで迫っていた彼女はそう言って、愛しの彼(グレイ)へと飛びつく。

 そんな彼女の抱擁を――

 

「おい!! もっかい勝負すんぞ!! さっきのは邪魔(ジュビア)が入ったから無し(ノーカン)だ!!」

 

 眼中に収めず、見事にスルーする。

 ジュビアは冷たい床へ一人ダイブする。その一連の流れを見ていたルーシィがジュビアのことを心配し、彼女に声掛けようと近寄る。するとうつ伏せになっている彼女から声が漏れてくる。

 

「――うへへへぇ……!! グレイ様、ジュビアは綺麗な丘に一軒家を建てたいです~!!」

 

 ……ルーシィはそっと彼女から距離を取った。

 その時になってやっとルーシィの存在に気が付いた、銀髪のウェイトレスが声を掛けてくる。

 

「あら、いらっしゃい! 貴女、初めて見る顔よね?

 妖精の尻尾(ここ)には加入しに来たのかしら?」

 

 笑顔で告げるウェイトレスにルーシィも笑顔で告げる。

 

「――観光しにやって来ました!!」

 

 ……このギルドにへ入るのを少し躊躇する乙女(ルーシィ)の姿が、そこにはあった。

 

 

 

 

 

 ――召喚士は、始まりに戸惑う

 

 

 

 

 

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