鎮守府商売   作:黄身白身

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 他では書いてましたが、ここでは初投稿です

「艦隊これくしょん」好きです。
「剣客商売」も好きです。何度読み返したか。

 混ぜました。ええ、無謀です。無茶は承知です。無茶です

 両者の設定を色々弄ってます。

 物語は「剣客商売」の各話を元にしようと思っていますが、全く同じにはならないようになんとか工夫したいです。

 では初回は、剣客商売一巻「女武芸者」より

 どうぞ、ご笑覧ください



艦娘長門

 

 

 

 町の外れからさらにしばらく歩いた場所に、その鎮守府はあった。

 ただし鎮守府とは言っても今はまだ形ばかりで、所属する艦娘も秘書艦一人しかいない。つまり提督と艦娘、二人だけの鎮守府ということになる。

 二人は今、向かい合って食事を摂っていた。

 大柄な男と、艦娘が一人。

 

 無言で飯の入った丼を持ち上げ、皿の上に置かれた干し魚を箸先でむしっては飯と交互に口に運ぶ。三往復ほどすると今度は丼を置き、汁の入った椀を手にして一口。

 汁とは言っても具のほとんどない、申し訳程度に季節の菜が浮いただけのもの。

 

 二人は言葉こそないが、満足な様子で食事を続けていた。それは気詰まりな沈黙ではなく、礼儀による静けさであった。

 秘書艦のほうは時々、傍らで鋼屑を齧っている二台の艤装生物の世話をしていた。

 防空駆逐艦秋月。そしてその相棒ともいえる艤装生物、長十糎砲ちゃん。秋月によって「せんちゃん」「せいちゃん」と名付けられている二台である。

 

「ごちそうさまでした」

 

「はい、お粗末さまでした」

 

 やがて食事を終えると秋月は食器を集め、部屋の隅の小さな台所へと運び、洗う。

 

「さて」

 

 食事への満足感を表情に見せながら、男は立ち上がった。

 男は、つい先日鎮守府を立ち上げたばかりの年若い新人提督であった。

 名を秋山大治郎という。

 

「秋月殿、私が洗おう」

 

「大丈夫ですよ、司令。二人分だけですから」

 

「いや、秋月殿には食事の支度を任せている。ならば、後始末は私の番だろう」

 

「提督のお世話も秘書艦の務めです」

 

「しかし」

 

「提督のお仕事は食器を洗うことじゃありません、まずは鎮守府を調えてください」

 

 こう言われると返す言葉はない。確かに秋月の言う通りだ。

 そして今、鎮守府を調えるという意味では大治郎にまともな仕事はできていない。なにしろ、艦娘が秋月一人しかいないのだ。

 それでも大治郎に慌てた様子はない。数を揃えるだけでは意味が無い、と大治郎は思っている。ただ闇雲に数を揃えただけの艦娘など、深海棲艦が現れればたちまち餌食になるだけだ、と。

 

「では、心当たりを回ってみようか」

 

「お供します」

 

 食器を洗い終えた秋月は前掛けで手を拭くと身支度を始めた。もともと華美な恰好をする性格ではないし、常在戦場の考え方も染みついている。身支度はごく簡単なものだった。

 

「では、参りましょう」

 

 艦娘としての制服姿となった秋月。その両脇に付き従う長十糎砲ちゃん。

 

 大治郎は愛用の刀を腰に吊すとそのまま表へと出る。鎮守府正面から町へと伸びる道には、まだ明るいというのに人通りは疎らだった。

 しっかりとした足どりで町へと歩き始めた大治郎。その後ろを秋月が従っていた。

 

「司令、今日はどちらへ行かれるのですか?」

 

「無駄かも知れないが、一応は口入れ屋を当たろうと思っている」

 

 人間用の就職斡旋所ではあるが、艦娘に門戸を開いていないわけではない。職を探している艦娘が見つかる場合もあるのだ。

 

「建造申請はなさらないのですか?」

 

「申請をしてはいる」

 

「では、許可が下りないのですね」

 

「大戦中ならば即座の申請許可どころか、無断建造も目こぼしされていたと聞くが今は時勢が違う」

 

「私たちのような艦娘を無闇に増やすのも考えもの、ということですか」

 

「少なくとも、政府はそう考えているようだな」

 

 話しながら歩く二人は、いくつかの橋を渡り、街の中心へと近づいていった。

 人通りは増え、二人に目を向ける者も出てくるがそれも一瞬。提督と艦娘など珍しい存在でもない。

 

 既に顔馴染みの口入れ屋に入った大治郎は、二三言葉を交わすとすぐに店を出た。

 艦娘の斡旋自体はあるが、大治郎の鎮守府では条件が折り合わないというのだ。

 

「贅沢ですね。贅沢は敵です」

 

「駆け出しの鎮守府だ。そういうこともあるだろう」

 

 口を歪める秋月に、大治郎は静かに答えた。

 待遇面だけの問題ではない。知名度の問題もある。

 それなりの艦娘であれば、やはりそれなりの実績を持つ鎮守府から声がかかるのだ。

 もっとも、艦娘一人しかいない鎮守府に名をあげろと言ってもそれはそれで厳しいものがある。

 

「待遇を良くするか、あるいは名をあげるか」

 

「司令の腕が確かなことは、この秋月が保障します」

 

「ありがとう」

 

「そもそも、鎮守府とは深海棲艦と戦うための拠点。それなのに自身の待遇がどうだなんて」

 

「大戦中とは違って、今は戦う気概だけでは鎮守府を成り立たせることも難しい」

 

 秋月はじっと、大治郎の顔を眺める。

 

「司令は、そんなお歳には見えません」

 

 大戦中から生きているようには見えない。と秋月は言っていた。

 

「鎮守府を立てると父に話したとき、そう言われた」

 

「司令のお父上ですか」

 

「提督として、剣士としての修行を積み、そして鎮守府を立てる。そう決め、父に伝えた」

 

「秋月は、建造されたとき言われました。『お前は、友の息子の秘書艦になる』と」

 

 秋月は、大治郎の父の旧友が友の息子である大治郎のために贈った艦娘であった。

 

「修行に出る前に、秘書艦を預かる約束をしていた。そのために秋月殿を建造してくださったのだろう」

 

「ですから秋月は、大治郎様の秘書艦となるために生まれてきたのです」

 

「私がどうであれ、秋月殿は秋月殿。だが私も今は秘書艦として頼りにしている」

 

「秋月、頑張ります」

 

 秋月の言葉に大治郎が頷いたとき、突然叫び声が響いた。

 

「暴れ艦だ!」

 

 その言葉に厳しく引き締まる秋月の表情。

 彼女に言わせれば暴れ艦とは、自身を律することのない恥知らずな艦娘の総称である。そして、秋月がもっとも嫌うものだ。

 

「せいちゃん、せんちゃん!」

 

 二台の長十糎砲ちゃんが秋月の両脇を固め、その砲身をあげた。

 

「秋月、町中での無闇な砲撃は御法度だ」

 

 その秋月を制するように前へと出、腰の刀に手をやる大治郎。

 

「向こうが艦載機を出すような艦娘なら、対空は頼む」

 

「はい」

 

 対空防衛は秋月の十八番だ。

 

「何があった」

 

 逃げてくる男の一人を捕まえ、大治郎は手早く尋ねた。

 

「戦艦だよ、暴れ艦だ。酔って暴れてやがるっ」

 

 暴れ艦と呼ばれた艦娘は、数人の男を弾き飛ばすようにして居酒屋の中から飛び出してきた。

 その姿は男の言葉通り、戦艦の艦娘であった。

 

「どけっ!」

 

「この、恥知らずっ!」

 

 叫ぶ暴れ艦に秋月が怒鳴り返した。

 

「駆逐風情が!」

 

 そこへ、刀に手を掛けたままの大治郎が走り出した。

 秋月に視線を向け、身体を運ぼうとした暴れ艦の前へと入り込んだ大治郎は、突き出された腕をかいくぐり、艦娘の横を通り過ぎた。

 そして通り過ぎた後、いつの間にか抜かれていた刀を 両手に構え直し、振り向いた。

 それを追うように振りむいて大治郎を睨み付ける艦娘は、これもまたいつの間にか斬られていた片腕を押さえ、痛みに呻いていた。

 

「……貴様」

 

「地上とはいえ轟沈しなければ、入渠でどうとでもなるだろう。引け」

 

「提督か」

 

「いかにも」

 

 戦艦娘が無傷の片腕を大治郎へと向けた。

 

「ぶっ殺す」

 

 夏の日の陽炎のような揺らぎが片腕を覆い、瞬時に形成される艦娘の艤装たる砲塔。

 艦娘による艤装の発現であった。

 

「人間ごときが、艦娘に、この戦艦長門に勝てると思ってか!」

 

 艦娘とは、かつての戦船の魂を宿したある種人外の存在である。その力は人間の及ぶべきものではない。

 艤装を自在に発現させ身にまとい、海上を自由に駆け抜けるその優雅と偉容は、まさに戦女神と呼ばれるにふさわしい姿であった。

 だがしかしその一方、提督と呼ばれる人間もある種人外の存在であるのだ。

 提督と呼ばれる者が持つ力。いや、その力を持つ者だけを提督と呼ばせる力。

 その力こそが、提督を人外に近い存在へとしていた。

 

 まず、艦娘は海上において、深海棲艦と唯一対抗できる存在である。

 

 深海棲艦、それはある日をきっかけに突如として現れた人外の化生。

 通常兵器のほぼ効かぬ深海棲艦によって当時の軍はなすすべも無く蹂躙され、人類はただ虐殺された。

 沖に集結した深海棲艦による砲撃で沿岸都市部は壊滅。さらには、大型河川を遡上した一部の深海棲艦によって川縁の都市も壊滅。

 人類は山へと、あるいは平地奥へと逃亡するしかなかった。

「水を見ると死ぬ」「水辺は地獄」と言われた時代が始まったのだ。

 

 深海棲艦はその艦載機で領空すら奪い、海外との物理的往来は途絶え、空と海を奪われた世界中の島国は鎖国を強制された。

 生産は壊滅、人口は激減。

 その混乱の中で、深海棲艦への有効な兵器に気づいた者がいた。

 近代兵器の類いは一切効かない深海棲艦には、近接兵器のみが有効だと。

 人が自ら携えた刀剣ならば、深海棲艦に有効な打撃を与えられるのだと。

 ただし、近づくことさえ出来れば。

 

 そして、かつて「神風」と呼ばれた特殊攻撃がこの国に復活した。

 人の命を散らす事を前提とした特攻ならば、深海棲艦に有効であると気づいたのだ。

 

 しかしそれは、人間にとっての希望ではなかった。人間一人が深海棲艦一隻と相殺することすら難しい。十数人の犠牲によって、初めて深海棲艦一隻を屠るというのだ。それでは、最後に残るのは人類ではない。

 それでも人は最後の瞬間を延ばそうとした。最後の訪れを一日でも遅らせようとした。

 人は足掻いた。もがいた。抗った。

 諦めぬと、屈せぬと、滅びぬと。

 

 その心に応じたのか、人類に予期せぬ希望が訪れる。

 

 それが、艦娘。

 それが、艦娘の選んだ提督。

 

 提督に率いられた艦娘によって逆襲に転じた人類は、沿岸部から深海棲艦を撤退させることに成功。

 のちに「深海大戦」と呼ばれる戦争が始まる。

 

 それが数十年前の話。

 

 深海棲艦の絶滅にこそ成功していないが、今の世界は小康状態を保っている。

 生活レベルはかつての世界には及ばないものの、当面の平和は保たれている。

 

 大戦時、提督は艦娘によって選ばれていた。今では、人間が自ら提督を名乗っている。

 どちらにしろ提督になる者は皆、それなりの力を持っている。

 どのような力を持つかは提督によって異なる。しかし、一番多いのは純粋な「力」であった。

 それは、地上においてのみ艦娘と同等に戦える力。

 地上で艤装を外した艦娘と同等、あるいはそれを圧倒する力。

 近接戦闘に限定すれば、艦娘並びに深海棲艦と同等に戦えるだけの秀でた力を持つ者。

 ここ日本においては、近接戦闘は刀剣による戦闘を主としている。

 すなわち、かつての日本における剣客。それが、今の提督の持つ力であった。

 

 提督はまっとうな手段で艦娘に勝利する可能性を持つ、唯一の人間であるのだ。

 

 暴れ艦長門は自分の力を知っていた。平均以上の力を持つ艦娘であると自覚していた。

 ゆえに、並の提督では地上戦でも敵ではないと。

 

 地上で艤装発現した砲塔は海上でのそれほどの力は無いが、人間一人を殺傷するには十分である。

 その艤装……砲塔を大治郎に向け、暴れ艦長門は笑う。

 笑う長門へと走る秋月。

 

 さらに一歩早く。

 砲塔ごと蹴り上げられる暴れ艦長門の腕。

 悲鳴をあげるよりも早く、暴れ艦長門は別の何者かに喉笛を掴まれていた。

 

「艦娘の面汚し」

 

 暴れ艦と同型の艦娘。戦艦長門の登場であった。

 

「貴様は海を汚すな。地上で轟沈しろ」

 

 たたきつけられた衝撃で、暴れ艦の意識は一瞬にして刈り取られた。

 

「同型艦が済まないことをした」

 

 暴れ艦が連行されたのを見届け、長門は周囲に頭を下げた後に大治郎と秋月に話しかけた。

 

「見ず知らずのものとは言え、戦艦長門には違いない。代わって詫びよう」

 

「いや、取り押さえたのは貴殿でしょう。戦艦長門の矜恃、拝見しました」

 

「さすがは戦艦ですね」

 

 長門は大治郎の刀に目をやる。

 

「だが、腕に多少覚えがあるとは言え、無謀は感心しない。提督かつ地上といえど、戦艦長門にそう簡単に太刀打ちできるとは考えぬ事だ」

 

 秋月の表情が再び厳しいものになった。

 

「お言葉ですが……」

 

「秋月殿」

 

 大治郎に窘められ、秋月は口を閉じた。

 

「ご忠告感謝します。では、私たちはこれで」

 

 鎮守府へ向かって歩き出した大治郎に追いつき、秋月は言う。

 

「秋月は、ああいう物言いの人は嫌いです」

 

「戦艦長門。立派な艦娘が多いと聞いている。あの暴れ艦にはよほど腹に据えたのだろう」

 

「ですが、司令のことを悪く言いました」

 

「別に悪意を持って悪し様に言われたわけではないだろう」

 

「それでも、軽んじています」

 

「長門殿は事実を言ったまでだ。私だって、まともにやりあえば深海棲艦にも艦娘にも勝てない」

 

「そうですか?」

 

「そうだ」

 

「今の勝負、秋月には司令の勝ちに思えました」

 

「自分すら律することのできぬ暴れ艦相手ならば、勝てる提督は多いだろう。それだけのことだ」

 

 そもそも艦娘の本来の戦場である海上において、人間が艦娘に勝てる道理などない。勝てるのならば、艦娘に存在意義はない。

 

「司令」

 

「うむ」

 

「いつか長門型戦艦を迎える時が来ても、秋月は陸奥を希望します」

 

 己の秘書艦は割と根に持つ性格だと、この日大治郎は知った。

 

 その数日後のこと。

 一人歩いていた大治郎を襲うものがいた。

 暴れ艦であった長門である。

 白昼堂々の襲撃ではあったが、長門は艤装を発現させていなかった。

 意地や矜持ではない。単純に艤装を没収されたためである。

 代わりに、長門は大刀を手にしていた。普通の人間ならば持ち歩くのも困難であろう大きさであった。

 

 長門は大治郎の腕を知らなかった。

 油断があったわけではない。並の提督であれば斬り捨てるだけの力が長門にはある。

 ただ、相手が並の提督ではない、秋山大治郎であっただけのこと。

 襲いかかる長門に、まるで待ち受けていたかのように刀を抜いた大治郎は、振り下ろされる剣筋に逆らわず、横へとわずかに流した。

 初撃を外された長門は、それでも受け止められたのならその場から持ち直すこともできただろうが、力余った体勢をさらに崩され、前のめりに大治郎の横を過ぎようとした。

 これを逃す大治郎ではない。

 即座に振り向くと、下段を横なぎに長門の両足を斬ったのだ。

 しかし、さすがに戦艦と大治郎に冷や汗を流させたのは次の瞬間、それでも振り向いた長門であった。

 その大上段に振り上げた大刀をおろされるより早く戻した刀で、大治郎は長門を突いた。

 ものも言わず、倒れる長門。

 

「お見事お見事」

 

 構えを解かず刀をそのままに、大治郎は新たな声の主を見やった。

 声の主に覚えはなかった。なかったが、長門が現れてより後、感じていた視線があった。

 

「何故、見ていたのです」

 

 男の表情に一瞬、狡猾なものが映ったような気がして大治郎は顔をしかめた。

 

「失礼ながら、腕を拝見しておりました」

 

「私程度の腕など、珍しくもないでしょう」

 

「ご謙遜を」

 

「用向きがあるなら手早く願いたい。これから、人と会う約束があります」

 

 失礼、と男は言い、

 

「その腕を見込んで、お願いしたいことがありましてな」

 

「指導をお望みなら、鎮守府のほうに来てください」

 

「不良艦娘を一人、懲らしめていただきたく」

 

「懲らしめる、とは?」

 

「殺せ、とはさすがに言えませんが、腕や足の一本くらいなら」

 

「物騒な話だ」

 

「それなりの艦娘でございます」

 

 しかし、と男の言葉は続けられる。

 

「貴方様の腕ならば、造作も無いことかと」

 

「艦種くらいは聞かせてもらえますか」

 

「お引き受けくださるので?」

 

「それはまだ決めかねます」

 

「戦艦、長門」

 

 決めつけるような男の言葉に、妙な縁だなと大治郎は思った。

 

 しばらく後、大治郎は自らの鎮守府とは別方向の町外れへと進んでいた。

 やがて道幅が広がり、やや川をそれたところに一軒の屋敷が見えてきた。

 屋敷の前では、一人の老人が縁台に座り、飼い鶏に餌を与えている。

 

「おう、来たか」

 

 老人は言うと立ち上がり、客を迎え入れるような仕草で屋敷へと入っていった。

 老人の名は秋山小兵衛。大治郎の父親であり、彼もまた元提督であった。

 

 大治郎が頭を下げ、古ぼけた門をくぐると、客を出迎える声がした。

 

「お、君、ようやく来たんか」

 

「お久しぶりです」

 

 大治郎は再び声の主に頭を下げた。

 大柄な大治郎の胸ほどもない身長の娘がそこにいた。とは言っても、その隣に並ぶ小兵衛もかなりの小柄であり、二人が並んでいる場合にはそれほど小柄には見えないのだが。

 

「そこがええんや。そやからウチはこの人の所におるんや」とは、この娘の言であった。

 娘の名は、いや、艦娘としての名は龍驤。陰陽系召喚型軽空母艦娘である。

 

 この龍驤、かつては小兵衛の秘書艦だったというわけではない。それどころか、小兵衛の鎮守府に所属していたわけでもない。

 それでも、今の小兵衛の側に居る艦娘は龍驤ただ一人だ。

 

「気が付いたら、居つかれておってな。まあ、ワシはいっこうに構わんが」

 

 あるとき、息子の問いに小兵衛はそう答えたという。息子は呆れたが、何も言い返さなかった。

 

「艦娘に不思議な好かれ方をする提督というのはいる。それは当人同士でないとわからんよ」

 そう大治郎に教えたのは、提督候補として学んだときの教官であったか。

 まだ若い大治郎に実感はないが、知識として知ってはいるのだ。そのような艦娘と提督の在り方を。

 

「龍驤、茶を頼む」

 

「あいあーい」

 

 茶と一緒に出された菓子は、普段の大治郎の食事内容からすれば論外とも言える質のものであった。単純に値段を問えば、大治郎と秋月の食事の何食分になるか。

 

 それに気づいているのかどうか、何の気負いもないように菓子を口にすると、言った。

 

「美味い菓子です」

 

「昔、ワシの所にいた艦娘が訪ねてきてな。ほれ、お前も知っとる、那智じゃ」

 

「那智さんが、これを?」

 

「皆、ワシの好物をよう覚えておいてくれるわ」

 

「父上の薫陶の賜物でしょう」

 

「ふふ、父をおだててどうする」

 

「常日頃より、模範と考えております故」

 

「余所の提督を教官と仰いでおいてよく言うわ」

 

「身内では、甘さが出ます」

 

「はっ、違いない」

 

 二人のやりとりに、龍驤が笑った。

 

「なんや君ら、仲良えな。なかなか来んから、仲悪いんか思とったわ」

 

 三人は茶を飲み、ゆっくりと菓子を食べる。

 

「さて」

 

 茶のお代わりを龍驤に頼むと、小兵衛が問うた。

 

「何があった?」

 

 用向きはすでに先日のうちに伝えてある。

 艦娘の当てだ。

 しかし小兵衛はそれとは別のことを尋ねていた。

 

「わかりますか」

 

「妙な、顔つきをしておる」

 

「顔に出ていますか……未熟です」

 

「何があった?」

 

「妙な男に出会いました」

 

「ほう」

 

 先日からの暴れ艦との出遭いから話し始める大治郎。

 

「艦娘を一人成敗せぬか、と持ち掛けられ」

 

「艦娘、とは?」

 

「戦艦長門」

 

「いや、君、死ぬ気か?」

 

 そこまで聞いたところで龍驤が呆れ声を出した。

 

「しょうもない小物やったら知らんけど、まともな戦艦長門とタイマンなんか死ぬやろ、自分」

 

「死にますか」

 

「死ぬ死ぬ。そんなんウチかて嫌や。ビッグセブンに本気で殴られたら、首から先、無くなってまうで」

 

 地上で艤装無しとはいえ、長門とまともに戦うのは同じ戦艦でないと無理だ、というのが龍驤の意見であった。

 

「小兵衛はんもそう思うやろ?」

 

 ふむ。と小兵衛は頷いた。

 

「龍驤や」

 

「なぁに?」

 

「今の話、ワシが受けるとしたらどう思う?」

 

「あー」

 

 龍驤は宙を睨みながら首を傾げる。

 

「長門にもよるけど地上で艤装無しやったら五分五分かなぁ。闇討ちやったら五分以上かも知らへん」

 

 長門という名前だけではわからない。

 艦娘には同種の艦がある。同種艦であれば全て長門と呼ばれ、区別をつけるために所属鎮守府の提督の姓を名乗ったりする。

 小兵衛や大治郎の所に長門が居るならば、「秋山長門」と名乗る場合がある、ということだ。

 あるいは、同艦との区別をつけるためだけに別の愛称や通称名を名乗るか。

 

 もっとも、龍驤は「秋山龍驤」とは名乗らないのだが。

 

 そして同じ長門だからといって同じ強さだとは限らないのだ。

 勿論、傾向としての強弱はあるが、それも絶対的なものではない。

 

「であれば、倅も五分には持ち込める」

 

「闇討ちで?」

 

「闇討ちで」

 

「ふーん」

 

 龍驤は納得していない顔で大治郎を睨んだ。

 

「君ぃ? 強いんか?」

 

「鍛錬は欠かさないようにしていますが」

 

「まあ、考えてみたら小兵衛さんの息子やもんなぁ」

 

 一人合点してうなずきながら龍驤は台所へと姿を消す。

 

「で、その話。受けたのか?」

 

 小兵衛の問いに息子は首を振る。

 

「いえ、断りました」

 

「何故」

 

 聞き返された大治郎が怪訝な表情になった。

 

「何故、と言いますと?」

 

 大治郎にしてみればこのような胡散臭い話、断るのが当然である。

 

「鎮守府運営の当て、無いのじゃろう?」

 

 言葉に詰まる大治郎。

 

「そこはおいおい考えるにしろ、当面の費えはどうする」

 

 もっとも小兵衛とて、訳もなく艦娘を闇討ちするような息子など望んではいない。

 

「艦娘を揃えて深海棲艦を狩る。さもなくば任務を受ける。それが昨今の鎮守府の定番じゃ」

「大戦中にお前ほどの腕があれば、黙っていても中規模鎮守府の一つも預けられたろうよ」

「深海棲艦どもを狩り立ててさえいれば、どこからも文句はなかったよ」

 

 しかし、と小兵衛は続けた。

 

「時勢は変わって、強いだけではどうにもならん。提督も艦娘も、なんとかして自分を売り込まねばならん」

 

 お前にそれができるのか? と目が問うていた。

 

「ま、やれるところまでやってみるがいいさ」

 

 しばらくしてから龍驤が戻ると、大治郎の姿はなかった。

 

「帰ったん?」

 

「あいつもあいつで忙しい。なにしろ、新米提督じゃ」

 

「艦娘の当て、うちの古馴染みに聞いてみよか? フリーの隼鷹とかおるよ?」

 

「いきなり空母は、軽とはいえ、新米には荷が重いわ」

 

「うーん、駆逐艦やったら……確か出戻りやけど、曙と霞がおったかな」

 

「今のうちは、倅の様子見よ。進退窮まるときはまた手を貸してもらおうかの」

 

「早よ、一人前になってくれへんとな」

 

「そんなに大治郎が気になるか」

 

「あんまし来られると、うちと小兵衛はんの仲良うする時間が減ってまうやんか」

 

「なるほど、それは困ったな」

 

「せやろ」

 

 ふむ、ともう一度言うと小兵衛は立ち上がった。

 

「ちょいと出かけてくる、晩飯には帰るよ」

 

 門を抜け、小兵衛が向かったのは川沿いに設けられた自警団の詰所であった。

 

 深海棲艦の悪夢の記憶から、水辺を嫌うものは多かった。

 しかしだからこそ、川辺には例外なくこのような詰所が作られ、下流から遡上してくるモノがないかを見張っていた。

 詰めているのはほとんどがそれぞれの地域で雇われた艦娘であり、中でも空母が多い。これはいざというときの緊急連絡を艦載機で行えるためだ。 

 大戦中に地上の通信網は破壊され尽くしている。無線に関しては深海棲艦の仕業か、ほぼ使い物にならないレベルの妨害が今でも入り、それを完全除去する手段は未だ見つかっていない。

 今の通信の主流は比較的妨害を受けにくい艦娘同士の通信か、有線通信である。

 前者は互いに周波数をあらかじめ合わせておく必要があり、とっさに使えるわけではない。後者は、いざ戦闘となれば真っ先に設備が破壊される。

 よって、緊急連絡としては物理的な接触、艦載機による往来がもっとも手堅く、早いのだ。

 基本的に町中での艦載機利用は禁じられているのだが、緊急事態においては無論その限りではない。

 ただ、今の詰所は深海棲艦に対する警戒よりも街の自警としての役割が色濃くなっているのだが。

 大戦の傷跡はまだまだ深く、深海棲艦も絶滅したわけではないが、実際に川を遡上して奥深くまで攻め込まれることは殆どない。大規模鎮守府を擁している都市であれば皆無と言って良いだろう。

 そして今、政府の力は復興と対深海棲艦に主に向けられている。そのような情勢で治安維持を民間におりた艦娘が請け負うのは、歓迎すべき事でもあるのだ。

 

 途中で立ち寄った店で買い求めた菓子を携え、小兵衛は詰所の門を叩く。

 

「はい」

 

 顔を出したのは揚陸艦あきつ丸だった。

 

「先生ではありませんか」

 

 提督としてではなく、一人の剣士としての小兵衛の教え子がこのあきつ丸であった。

 

「こんな時にばかり顔を出してすまんが、ちと尋ねたいことがあってな」

 

「なんなりとお尋ねくださいであります」

 

「戦艦長門、と聞いて何かあるかね」

 

 ほう、とあきつ丸は息を吐くとニヤリと笑った。

 

「まさか先生からその名前を聞くとは……御子息の艦娘でありますか?」

 

「その話、詳しく聞こうか」

 

 あきつ丸は小兵衛を詰所に入れ、茶を出すと、さて、と語りはじめた。

「田沼提督の建造艦、秘蔵っ子でありますな」

 

 田沼の名は小兵衛も知っている。

 政府直轄の鎮守府の一つを預かる、押しも押されぬ大提督が一人だ。

 己が権勢のために艦娘を操る、従わぬ提督を排除する、挙句の果ては深海勢力に通じているなどと、世間の評判は決して良くないが、実力者であり権力者であることは間違いない。

 それに、誹られるのは上に立つ者の宿命のようなものだと小兵衛は思っていた。

 

 あきつ丸は続けた。

 その田沼の鎮守府から、暇を出された戦艦長門がいると。

 

 もっともこれは単なる放逐ではなく、世間を見ろとのことらしいが。

 なるほど、大規模鎮守府ともなれば世情を真っ向無視した運営もできぬ。実際に周囲との無用の軋轢に神経を悩ます提督や艦娘も少なくない。

 世間を見ることは、確かに有用であろう。

 つまり期間は不明としても、いずれ長門は田沼鎮守府に戻るのだ。それでも、その期間だけでも長門を迎え入れたい、ひいては田沼との関係を築きたいと考える者もいる。

 

 とりたてておかしな話というほどではない。が、大治郎周辺の出来事とは繋がらない話ではある。

 

「ですがこの長門、妙な噂があるのであります」

 

「妙な、とは?」

 

「提督の、実の娘ではないかと」

 

「なんと……」

 

 あり得ない、とは小兵衛も言いきれぬ。

 無論、人間は艦娘を産めない。だが、艦娘が艦娘を産んだとすれば。

 例はあるのだ。

 艦娘は幸か不幸か、皆が美しい外見を持っている。相思相愛に結ばれる者もいれば、けしからぬ行為に及ぶ者もいる。

 そして稀ごととはいえ、艦娘が人間の子を孕むこともある。

 

「とはいえ、田沼の奥方は歴とした人間でありますが」

 

「妾の子、か」

 

「言うなれば」

 

 ない話ではない。

 見ようによっては始末に困り放逐したとも見えるだろう。

 では、その長門を狙う者とは。

 

「長門に触れれば田沼の歓心を買うか不興を買うか、悩みどころというわけでありますな」

 

「うかつに触れぬ不発弾扱い、じゃな」

 

「先生はどう思われます?」

 

「ばかばかしいな」

 

 吐き捨てるように小兵衛は言った。

 

「田沼ほどの規模の鎮守府ならば、艦娘一人の始末などいくらでもつけられよう」

「しかも、建造でないということは普通に育てたということ。妾の子を理由に放逐するならわざわざ艦娘となるのを待つ必要もないわ」

 

「確かに」

 

「ただの町人なら知らず、その程度の判断もつかぬ提督どもか、近頃は」

「あきつ、お前のほうがよっぽど上等な提督になれる」

 

「提督などとは荷が重い。それよりも御用とあれば、御子息の艦娘としてこのあきつ丸、いかように使っていただいても結構であります」

 

「気持ちは嬉しいが、倅ではお前さんに役不足じゃ。そも、頼れる詰所の番人が消えては町の者たちにワシが恨まれてしまう」

 

 ただの見張り番だけではなく町の治安を預かると自負し、行動でそれを示しているのが、このあきつ丸であった。ゆえに人々からの信頼もあつく、慕われており、町の様々な噂を耳にもする。

 

「先生の教えであります」

 

 一瞬小兵衛は照れ臭げに笑って、言った。

 

「年寄りをおだてるでないわ。ああ、そうだ、聞きついでにもう一つ」

 

「なんなりと」

 

 しばらくの後、小兵衛の姿はとある鎮守府の公開演習場近くにあった。

 

(あれか)

 

 小兵衛の視線の先には戦艦長門の姿。長門は演習中の艦隊ではなく、演習場の中で演習を見学していた。

 

「どうですか、長門さん」

 

 よく見ると、長門の横には小さな駆逐艦娘が侍っていた。

 この鎮守府の艦娘だろうか、駆逐艦雪風であった。

 

「悪くない仕上がりだな」

 

「はい、伊勢さん自慢の艦隊です」

 

「伊勢の艦隊と一戦交えてみたいな」

 

「わかりました! しれぇにお伝えします!」

 

「無用だ」

 

「え?」

 

「戦艦長門、推して参る!」

 

 小兵衛、雪風だけでなく見物人たちも驚いたことに、長門は艤装を発現させながら演習場へと飛び込んだ。

 そして伊勢に対する、金剛率いる艦隊に向かって叫ぶ。

 

「すまんが、僚艦をお願いしたい。駆逐艦2と軽空母1、あとは自由だ!」

 

 慌てたのは伊勢だけではない。金剛も当然であった。

 

「なにしますカ!」

 

 旗艦金剛は怒気を隠そうともせずに叫んだが、提督の制止を受けてすぐに感情を引っ込めた。

 

「もー、提督が言うなら仕方ないネ」

「満潮、大潮、千代田、衣笠、フォローミー! ワタシについてきてクダサーイ」

 

「お姉さま?」

 

「比叡はお休みデス」

 

「そんなぁ、お姉さまと一緒がいいです」

 

「比叡はしっかりと、あの長門を見てるネ。おかしなところはビシバシと指摘してあげてクダサイ」

 

「気合、入れて、チェックします!」

 

「……霧島が交ざってマース」

 

 演習は長門側のA勝利で終わった。

 長門が単独で伊勢を含めた三艦を大破判定に追い込み、金剛は二艦、衣笠が一艦をそれぞれ中破させたのだ。

 長門側の被害は、最大でも千代田の中破だけであった。

 

 流石はビッグセブン、と見物人たちも声を上げていた。

 

(この金剛……なかなか老練と見える)

 

 小兵衛、そして伊勢の提督を含めた数人はこの状況から混乱を起こさせなかった金剛の指揮能力に評価を与えていたのだが、それは長門の知るところではない。

 

(個々の能力だけを見れば、確かに頭一つ抜けておるな)

 

 今演習場に出ている中で一番強い艦娘と問われれば、間違いなく長門であると答えるだろう。

 しかし、提督として艦隊に必要な艦娘を選べと言われたのならば、小兵衛は金剛を選ぶ。

 田沼長門には武人としての強さはあるが、旗艦としての強さはない。小兵衛はそう見ていた。

 

 そしてだからこそ、今の長門には世間を見る目が必要なのだろう。

 

 そこまで考えてふと、小兵衛は一人の男に目を留めた。

 あとからゆっくり思えば、周囲の者たちとの温度差、ただの野次馬とも見えぬ視線の鋭さ、そして大治郎から聞いた年恰好との類似など、不審な点はいくつかあった。しかしその瞬間の小兵衛はそこまで考えていたわけではない。

 ただ、怪しい。そう思っただけなのだ。

 小兵衛だけでなく、大戦を戦って生き延びた者には大なり小なりそのような感覚がある。逆にそれを持っている者でなければ、幾度の死線をくぐり抜けることは難しかっただろう。

 

 声をかけることもなく、小兵衛はその場を離れる男の後をつけていた。

 男は鎮守府を離れると人気のない道へと入り込み、一軒の空家らしき古屋の前、あらかじめ待たせていたらしい男に声をかけた。

 

「手はず通りだ、行ってくれ」

 

「本当に大丈夫なんだろうな。例のでかぶつはどうした」

 

「見掛け倒しのとんだ腰抜けだ。あんなもんいなくてもなんとかなる。分け前は多いほうがいいだろう?」

 

「そりゃま、そうだが」

 

 でかぶつとは大治郎のことか、と二人の会話がギリギリ聞こえる位置に隠れた小兵衛は声もなく笑った。

 

 待っていたほうの男が小兵衛の潜む路地の前を通り、小兵衛たちがもと来たほうへと小走りで駆けていく。

 それを横目で見送った小兵衛は、尾行していた男が空家に入ろうとした背後に音もなく駆け寄ると、まるで以前からの知り合いであるように気安く肩をたたいた。

 

「お前さん、田沼さまの長門をどうするつもりかね?」

 

 愕然と振り向いた男に当て身をくらわすと、小兵衛はくずれ落ちた男を引きずり、そのまま空家へと入っていった。

 すぐに男に活を入れると、真正面から向き合うように中腰の姿勢となり、再び尋ねた。

 

「田沼さまの長門をどうするつもりかね?」

 

 男は縛られているわけではない。ただ、真正面から向き合っているだけである。

 しかし、動けなかった。

 奇妙な老人に睨まれている。それだけで動けない。

 

 ふざけるな、と言いかけた男が息をのんだ。

 小兵衛の手が刀の柄に伸びていた。

 次の瞬間、しゃっ、と金気の滑る音、同時に男の前髪が数本はらりと舞い、赤く細い筋が男の額に生まれた。

 

「三度は聞かぬ」

 

 小兵衛は静かに言った。

 

 それからややあって、先ほど小兵衛が身を潜めていた路地の前を、男に案内された長門が通った。

 

「こっちです、長門さん」

 

 言った男の腹に、飛来した何かが殴りつけるようにぶつかった。

 

 ぐぅと呻き腹を抱え崩れる男、その場へ駆け寄る長門。

 

「おい、どうした」

 

「なんで、俺に……」

 

 その頭上より投下される投網。平常のものではなく、あらかじめ艦娘に向けられるとわかったうえで準備されたものだ。

 だとしても避けられぬ長門ではない、ないがこの場合、うずくまる男を介抱しようとした状態ではおのずと無理があった。さらにこの状態では艤装を発現させることもままならない。

 長門は網に絡まれ身動きとれぬまま、近づいてくる人影を睨みつけていた。

 

「なるほどこういう仕掛けか」

 

 近づいてきた人影……老人はいうと、長門にかぶせられた網を外し始めた。

 

 睨み付けていた長門の視線が訝しげなものに変わった。

 

「貴方は……?」

 

「ビッグセブンほどの艦娘をどうやって捕らえるつもりであったか気になってな、つい仕掛けを見過ごしてしまったわ。すまんすまん」

 

 それは、男に仕掛けの内容をすべて吐かせたうえ、実演させた小兵衛であった。

 ただし本来の仕掛けであれば案内役に放たれるのは小兵衛の投げた棒切れではなく、殺すための矢であった。

 

 小兵衛がいなければ仕掛けは存分にその役目を果たしていただろうことは、長門にも理解できていた。

 そして、地上で身動きできない自分であれば、つけいる隙はいくらでも、それこそ殺すことも難しくはないと。

 自分はつまり、この老人に助けられたのだということも。

 

「助けられたこと、感謝する」

 

「大方、そこで腹を押さえている男に助けを求められでもしたか」

 

「崩れた荷物に押しつぶされそうな娘がいると言われ……」

 

「伊勢も金剛もいただろう。あんたより足の速い高速戦艦や駆逐も」

 

「私が助けを求められたのだ」

 

「演習を一人で戦ったように、助けも一人で十分と思ったかい?」

 

 長門は口をつぐんだ。

 

「こやつらは、あんたが一人で来ると思っていた。事実、あんたは一人で来た」

「一人で演習は勝てるかもしれんが、一人で勝てる戦などないし、一人で運営できる鎮守府もない」

 

 おう、と小兵衛は初めて自分の言葉に気づいたように笑う。

 

「これは失礼。いかんな、年をとると説教好きになってしまうわ」

 

 

 

 

 

 

 その後、隠宅の縁側で茶を飲みながら、大治郎とあきつ丸に語る小兵衛の姿がある。

 

 小兵衛が聞き出した話では、案内の男はその場で射殺される予定だった。口封じと長門の足枷、あわよくば男の死の責任すら押し付けようとした企みであったのだ。

 

「しかし、誰が何故そのようなことを」

 

大治郎の問いに、小兵衛はつまらなそうに答えた。

 

「始末に困って妾の子殺し。そんな噂を立てられては、さすがの田沼も進退窮まるわ」

 

「では、田沼様の敵が?」

 

「……敵か……そうだな」

 

「深海がそのような……」

 

「深海とは限らんわ。田沼様を蹴落とせば、得をする人間はいくらでもおる」

「もっとも、この度捕まった連中が雇った連中の正体を知っておるかどうかはわからんがな」

 

 名を隠して金だけで雇えば、何も知らないのが当然である。

 

「ですが、この企みがそううまくいくものでしょうか?」

 

「いかんな」

 

 大治郎の問いにきっぱりという小兵衛。

 

「が、行くと思いこんだ戯けがおった」

 

 鼻で笑うあきつ丸。

 

「深海どもがそれくらいの阿呆揃いであれば、大戦も楽でありましたのに」

 

「であれば、お前さんたちも生まれてはおらんじゃろう」

 

「それならそれで構わないでありますが、先生にお会いできぬは寂しいでありますな」

 

「ほっほー、あきつはん、それはうちに喧嘩売ってるんかな?」

 

 茶を運んだ龍驤があきつ丸を横目で睨み、小兵衛の横に付いた。

 

「そや、小兵衛はん、お客さん来とるで」

 

「客?」

 

「ビッグセブンや。この前の礼や言うてる」

 

「ほお、探し当ててきたか」

 

「小兵衛はんの名前知らんとこの辺で暮らしとるんは、モグリや」

 

 やがて、龍驤の案内で現れた姿に大治郎が挨拶をすると長門は驚き、先日の非礼を詫びた。

 

 長門はその場で正式に名と所属を告げ、それからしばらくの間は、何かと小兵衛の隠宅へ顔を出すようになった。

 龍驤はこれについてあまりいい顔をしないが、長門の態度が異性というよりも提督に対する毅然としたものであるため何も言えず、時折あきつ丸を見つけては愚痴るという。

 

 未だ、大治郎の鎮守府には艦娘は秋月のみである。

 

「この鎮守府に戦艦長門など必要ありませんから」

 

 秋月は、そう言い張っている。

 

 




 以上、お粗末さまでした


 二つ目はいつ書けるか。
 
 書きたいですね。書けたら良いな。書けるんじゃないかな。
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