赤井直正「はあぁっ!」
精細な腕から放たれる赤井直正の十字槍の突き、それは風を切るように素早い一撃でその一撃一撃には重みを感じる。
それを歩夢は抜刀した支給された刀で突きに反応して受け流していく。
歩夢は防ぐことも可能だがそれは最後、腕が痺れ反応が鈍り、討たれるとわかっていての行動であり、最小限で防げる受け流しの方法を直ぐ様取ったのである。
赤井直正「ほぉ…私の一撃を受け流すか…どうやら、唯の一介の武将ではないようですね…改めて、我が名は赤井悪右衛門直正、お主は?」
歩夢「……黒崎歩夢」
予想外な自己紹介に内心で少々たじろぐ歩夢。
だが、直ぐに赤井直正は十字槍を構え直す。
赤井直正「黒崎殿…見たところ奇妙な着物を着ている…それに何故、別所家に仕えているのですか?よければ教えていただきたい」
歩夢(これは少しは時間稼ぎができるか)
歩夢「自分は右も左もわからない地にて別所家に拾われた身、もし、拾われていなかったら俺は野倒れ死んでいた、別所就治様から与えられたその恩は返さないといけない」
赤井直正「自らを生かしてもらった主のため…か」
赤井直正「中々、見所があるお人…本当に殺すのが惜しいくらい…ですがこれも戦国の習い…討たれてもらいます!」
足をバネに踏み込む赤井直正、その足腰を使って繰り出される突き
一つ一つが洗練られた突きが歩夢を襲いかかってきてそれを刀で受け流していく。
あまりにも防戦一方な戦い。なんとか防いでいるが、いつ攻撃が当たるかわからない。
その死と隣り合わせの状況により、歩夢は弱腰で刀を持つても完全に震えていた。
赤井直正「…手が震えていますよ、戦は始めてだったようですね」
歩夢「…今に思っても…真剣で戦うなんておもいもしなかったことだった…」
赤井直正「動きを見るだけでわかります、あなたはお強い…ですが、場数がなかったことが仇でしたね…」
場数を踏んで波多野家ではかなりの有能な武将である、赤井直正。それと対象に、実力はあるが戦争を知らない歩夢、軍配は明らかに赤井直正が優勢であった。
赤井直正「あなたとは、出来れば別の出会い方でお会いしたかった、さらばです!」
止めを刺そうと渾身の一撃を繰り出そうと構えをとる赤井直正。
歩夢「俺は…死ねない…死にたくない!帰るんだ…俺は…!」
歩夢は必死にもとの時代に帰ると自分に言い聞かせると先程とは違う構えをとる。
赤井直正(構えが変わった…何をしようと腰が抜けている黒崎殿では!)
赤井直正「これで終わりです!」
足を踏み込み、思いっきり突き出された赤井直正の十字槍の一撃が歩夢の胸元へと目掛けて迫りくる。
歩夢(やるしかない)
歩夢「受け継がれし巌流の剣技…その、繰り出される一撃は燕さえも斬り倒す…佐々木小次郎が編みだし秘剣!」
深呼吸して、脱力と息を整えて、歩夢は受け継がれた、剣技を放つ。
歩夢「燕返し!!」
繰り出されたのは高速とも呼べるであろう剣速…燕返しは突きをはなつ赤井直正の十字槍を弾きとばしたあと直ぐ様次の太刀が繰り出されそれの軌道は赤井直正の腹をとらえていた。
赤井直正(駄目だ、かわせない…!)
もう駄目だと思った赤井直正だったが、歩夢は即座に刀の振るう向きを刃から峰に素早く切り替えて峰が赤井直正の腹を捉え、後方に飛ばされた。
赤井直正「な、何故…今のは…私を…殺せた…はず」
歩夢「…俺は人を殺したくない…」
現代から来た歩夢だからこそ、この世界に来て半年にも満たない歩夢は殺すことに躊躇してしまう、それはこの時代にいきる赤井直正にはわからないことであった。
伝令兵「黒崎殿!」
そんなとき後方から味方でる別所家の足軽がやって来る。
伝令兵「申し上げます!間もなく、本隊は篠山口を通過するとのこと!急ぎ黒崎殿も引かれよとの申したちです!」
歩夢「そうか…撤収だ!急いで戦線から離脱する!」
役目を終えたのがわかると直ぐに撤退の命令を出すと、歩夢の率いる兵達も赤井直正の兵士を気にしながらも後退していき撤退を開始していった。
そして歩夢達が遠く見えるようになったとき、赤井直正率いる、部隊は未だにその場から動かなかった。
直正兵「殿!急ぎ追撃をいたしましょう!」
赤井直正「なりません!深追いは禁物です、別所家を丹波から追い返せただけでもよしとしましょう」
追撃を求める兵士達を赤井直正はいさしめる。
赤井直正(黒崎歩夢…本当に優しくて奇妙な人…この時代で生きていたとは思えない…)
この殺伐としたこの世ではあれほどの男をみれるだろうか…いや、無理だと赤井直正の頭のなかでそううなずく。
赤井直正「また、会うときまで…」
そう、呟き、赤井直正は追撃せず赤井直正の居城の黒井城に引き返すのであった。