プルルルッ、プルルルッ、ピッ。
『もしもし、マユか?』
「うん! お兄ちゃん、こんばんは~!」
『ああ、こんばんは。みんな元気にしてるか? 風邪ひいたりしてないよな?』
「大丈夫、マユもお父さんも、研究所のみんなも元気だよ! お兄ちゃんも怪我とかしてないよね?」
『もちろんさ。まあ、毎日のように頭は叩かれてるけど……』
「あー! お兄ちゃん、また授業中に居眠りしたんでしょ~。もー! 先生のお話はちゃんと聞かないとダメだよ!?」
『眠くなるから仕方ないだろ? マユだって、理科とか算数とかやってると眠くならないのか?』
「マユはそんなことないですよ~だ。反省しないと、今日作ったクッキーあ~げない」
『はは、分かった分かった。明日から気をつけるよ。クッキーは家で作ったのか?』
「ううん、家庭科の授業で作ったの。ラッピングも完璧で、先生から褒めてもらったもんね~」
『すごいじゃないか、マユ。それは明日貰うのが楽しみだな~』
「えへへ~。あ、でも、これから居眠りしちゃダメだからね?」
『大丈夫だって――ん、ああ。妹と電話してるんだ。顔がにやけてる? 余計なお世話だよっ!――ゴメン、マユ。ちょっとみんなに――』
「お兄ちゃんのお友達?」
『うん。今は食堂にいるからさ』
「お兄ちゃん、お友達とは仲良くしてる? ケンカしたりはしてない?」
『ほとんどみんな女子だから、俺の方がからかわれてばっかりだよ。マユの方こそ、友達と仲良くはしてるか?』
「うん! 今度はみんなでカラオケに行こって約束してるの!」
『それなら良かった。何か困ったことがあったら言えよ? 俺が飛んでいって、一言言ってやるから』
「お兄ちゃん、過保護~。ふふ、でもありがとねっ!」
『過保護って、そんなことないだろ?』
「じゃあ、お兄ちゃんシスコンだ~」
『し、シスコンっ!? こらマユっ! そんな言葉どこで覚えた!――そこ、笑うなよっ!――』
「本に書いてあったよ? 妹のこと大好きな人のこと、シスコンって言うんだって。お兄ちゃんはマユのこと大好きだもんね?」
『そんな本読んだらダメだっ! まったく……そりゃ、俺はマユのこと好きだぞ? だって大切な妹なんだから……マユ、ちょっとゴメンな?――シャル、どうかした? え、手?』
――ぎゅ~~――
『シャル、みんなの視線が痛いんだけど……はあ、仕方ないな――ああ、ゴメンな』
「またお友達?」
『ああ、大事な人なんだ――』
――ぎゅううう~~~~~♪――
『シャル、ちょっと強く握りすぎじゃないか?――それで、お兄ちゃんが妹のことを大事に思うのは当然だろ?』
「へへへ、そうだね。マユもお兄ちゃんのこと好き。マユは明日のデート、楽しみにしてるからね?」
『で、デートぉ?』
――ぎゅううう~~~~っ!――
『痛い、シャル。視線だけじゃなくて手が物理的に痛い。どうしたんだよ、もう――マユ、デートって言い方はなあ……』
「良いでしょ? 明日はお父さんも来れないから、二人きりなんだし。それともお兄ちゃん、マユとデートは嫌?」
『嫌じゃないよ。それじゃ、俺も張り切ってデートに――』
――ミシッ、ミシミシミシミシッ!――
『痛い痛い痛い! マジで痛いから止めてくれシャル!』
「……ねえ、お兄ちゃん。シャルって人もしかして、お兄ちゃんの彼女?」
『か、彼女ぉ!?』
――ざわざわっ!――
「だってさっき大切な人って言ってたし、何だか仲良さそうだし」
『違うって! 俺とシャルはそんなんじゃな――』
――バキバキバキバキッ!――
『いだだだだだだだっ! シャル、何で怒ってるんだよっ!?』
「……お兄ちゃんってやっぱり鈍いんだね」
『ハアハア……ゴメン、マユ、何か言った?』
「マユは何も言ってませ~ん。とにかく! 明日はしっかりエスコートしてよねっ!?」
『う、うん。明日は映画を観に行くんだよな?』
「うん! “ボクはホントはオンナのコっ!”の公開初日だよ! 明日行けば特典が貰えるの!」
『へ~、特典か。何が貰えるんだ? ストラップとか?』
「もげろっ! 健一くん特大ぬいぐるみ!」
『も、もげ? マユ、それってどういう……』
「えっとね、ちょっと待ってね? 確かこのチラシに……」
ごそごそ、ごそごそ。
「あ、あった。ええっと、『読者の皆様からのご要望にお応えして、遂にもげる健一くんのぬいぐるみが特大サイズで登場っ! 皆様、思う存分もいでやってくださいっ! 俺ももぐぜっ!』だって」
『ま、マユ……も、もげるのは、その、どこが……?』
「『※大変残念ながら、諸事情により健一くんからもぎ取れるのは頭部に変更されていますので、男性の方はご了承ください。だからといって、危険なので爆発もさせないでください。チクショウ!』だって」
『あ、そうなんだ……アハハ……』
「楽しみだね! 貸した本、ちゃんと読んでくれた?」
『ああ。健一くん鈍かったよな~。何で香菜ちゃんのことに気付か……な……』
「? お兄ちゃん?」
――ガチャンッ!――
ツー、ツー。
「あれ、切れちゃった。お兄ちゃん、どうしたのかな?」
プルルルッ、プルルルッ、ピッ。
「お兄ちゃん、今電話が切れちゃったけど、どうかしたの?」
『け、携帯落としちゃって……ま、マユ……ちょっと聞いていいかな……?』
「うん。けど、何を?」
『“ボクはホントはオンナのコっ!”の、あらすじを……』
「あ、お兄ちゃん、ホントはちゃんと読んでないんでしょ~?」
『いや、読んだから聞きたいんだ……頼むよ……』
「? じゃあ、言うね? えっと……『主人公の香菜ちゃんは高校一年生の女の子です。けど香菜ちゃんはお家の事情で男子校に通うことになりました』」
『…………』
「『高校のルームメイトになったのは、健一くんっていう男の子です。女の子ってバレたら大変なので、香菜ちゃんは一生懸命に正体を隠します』」
「『でも鈍くてたまらない健一くんは、お友達の昴輝くんや先輩の彰さんと一緒に楽しく学校生活を送っています。香菜ちゃんの正体になんてちっとも気付きません』」
『昴輝くん……一夏……彰さんは……アスラン……』
「『それでも、香菜ちゃんのことをとっても大事にしてくれる健一くん。香菜ちゃんは健一くんを騙していることが辛くなってきます』」
『…………』
「『そして最後! 遂に香菜ちゃんは自分が女の子であることを、健一くんに告白します!』」
『香菜ちゃんが……シャルで……』
「『健一くんはこれからずっと、香菜ちゃんを守ることを約束してくれるのでした!』っていうのがあらすじ」
『け、け、けけけけけ……お、おおおお……』
「お兄ちゃん、どうしたの? 変な声出したりして……」
『ゴメン、マユ、ちょっとだけ待っててくれ!――み、みんな。も、もしかしてだぞ? 俺って、いや、そんなわけないけど、俺って、そ、その、け、けけけ、健一くん並みに――』
――コックン――
――ピシピシピシピシッ!――
「お兄ちゃん? ひびが入ったみたいな音がしたけど、大丈夫?」
『ダ、ダイジョウブダヨ?』
「なんでカタコトなの?」
『ソンナコトナイゾ? ナアマユ、ドウシテコノホンヲエランダンダ?』
「? マユがこの本好きだから。だって――」
「――健一くん、お兄ちゃんにそっくりなんだもん」
――ピシピシピシピシッ、パッキーンッ!――
「とっても優しくて、かっこよくて、でも呆れるぐらい鈍くて――あれ? お兄ちゃん? お兄ちゃんってば」
『――大変だ、シンが倒れたぞっ! みんな、どうして放っておくんだよっ!? 自業自得っ!? 何のことだよっ!? 待ってろシン、今俺が保健室に運んでやるからな――』
「へ? へ? へ?」
『えっと、マユちゃん? 始めまして、僕はシンのクラスメートのシャルル・デュノア』
「あ、葛城マユです! お兄ちゃんがいつもお世話になってます!」
『こちらこそ、シンにはいつもお世話になっています。それでシンは今運ばれていったから、今日はもう電話できないんだ。何か用件があったら、伝えておくね』
「運ばれたっ!? お兄ちゃん、大丈夫なんですか!?」
『大丈夫。自分が鈍いことに気付いてショックを受けただけだから』
「あ、そうなんですか。なら心配しなくていいですね」
『そうだね。少しは反省するといいと思うよ』
「それじゃあ、後はお願いします」
『連絡は何かない?』
「大丈夫です。どうもありがとうございました! えっと、シャルルさん、これからもお兄ちゃんをよろしくお願いします!」
『うん、こちらこそ。それじゃあマユちゃん、僕は失礼するね』
「はーい」
ピッ。
「――お兄ちゃん、やっぱり激鈍だなあ……」
「シャルルさんって多分……でもお兄ちゃんのことだから、あれだけ言ってもまだ気付かないんだろなあ……」
「ふふっ、マユもお兄ちゃんのこと好きだからね?」
「だから、また明日ね? お兄ちゃん――」