アーカディアの魔工学士   作:愛及屋烏

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幕間② 否定の証明

私は彼を見誤っていた、とフェルミは結論付けた。

むしろ、出会ってから一週間程度で一人の人間を正確に理解する事が出来ると考える事自体が傲慢なのだ。

 

だが、彼と融合(ユニゾン)する事でハッキリと実感した。

 

『双葉悠二』の中には何かしらの『闇』がある。

 

時には異端とも狂気とも言われかねない、何か。

 

それは悪性の属する物、という訳ではない――むしろ、根源的で純粋な衝動に近い。

破滅願望とも逃避とも違う。

 

――自己否定?

 

電脳空間にいる事によって、表層人格である菫が感じているような『不快感』を双葉悠二は潜在的に内包していた。

 

あるべき場所に居ない、という不自然と不和。

恐らく彼は元の世界で本質的に満たされていなかった。

 

喜びもあっただろう。

悲しみもあっただろう。

 

だが、それは複製(コピー)され、貼り付け(ペースト)されたような紛い物だ。

 

自覚してはいなかっただろうが……本当は、どうしようもなく生き難い想いをしていたに違いない。

 

その衝動の矛先が世界の否定ではなく、自己の否定に向いたのは……当人の性格の問題か。

 

――でも。

 

本来であれば異郷である世界(アーカディア)に来てから、その違和感が解消されつつある。

 

共有されている彼の知識の中に『生まれてくる時代を間違えた』という表現があるが、双葉悠二は言わば『生まれてくる世界を間違えた』かのような人間だ。

本当に間違って生まれてきた訳ではないにしろ、彼の性質は元の世界では発揮される事も磨かれる事も無かった筈だ。

それこそが彼が、異なる世界へ渡ってきた理由のようにも感じるが、そこに関しては偶然だろう。

 

――まるで魔素(マナ)を得た精霊。

 

彼の世界の言葉で言えば……水を得た魚、だろうか。

良質な鉱石で作られた武具が長年の封印を解かれ、使い、研がれて、その鋭さを増すように。

 

生き生きと、洗練されていく。

 

だが、二十年に渡って蓄積されてきた、彼の衝動は中々に重い。

 

――その結果が、この融合事故。

 

融合自体が失敗しなかったのはフェルミが説明したように二人の相性と霊的な繋がりの御蔭。

 

女性化したのは単純にフェルミが雌型の精霊だったから。

例えば相手が火の精霊だったりしたら……あんまり、想像はしたくない。

 

――肉体の変化は自己否定と他者肯定の結果。

 

きっと、彼が他者に向ける優しさは、自己への嫌悪の裏返し。

 

――自分は嫌い。だから、そんな自分と関わってくれる人は好き。

 

戦いが得意な訳でもないのに修行に明け暮れるのは、理性よりも本能が叫ぶから。

 

――この世界(ばしょ)負けれ(死ね)ば、もう後はない。

 

元の世界への帰還を願わないのも、異世界を満喫するように振舞うのも、生きるべき場所を理解している為。

 

――剣が鞘に収まるように。

 

そういう意味では、(ヴィオレッタ)の容姿は、双葉悠二の抱える歪みとフェルミへの無条件の肯定の発露。

怒ればいいのか、喜べばいいのか、微妙なライン。

 

相棒(パートナー)として、自分を使役する権利を渡したと思えば、相手からは全存在を投売りされる現状。

 

――自分を低く見積もる、その反動で大事にされるというのは、かなり納得がいかない。

 

でも、それも今だけと思えば寛大に許す事も出来る。

彼は少しずつではあるが、報われ、救われているから。

 

燻っていた炎は、輝くべき場所を見つけ出した。

 

今回は自分の力不足を補う為の融合だったから、仕方が無い。

だが、次に彼と一つになる時は、こうはならない。そうはしない。

 

双葉悠二は魔術士として。

フェルミは精霊として。

 

互いに高みにある事を願い、私は勝手ながら、その未来を手繰り寄せる事を誓う。

 

彼の精神(こころ)が、この異世界に根付いた時――本来の風貌(カタチ)による、精霊融合が果たされる。

 

――楽しみにしてるからね?

 

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