アーカディアの魔工学士   作:愛及屋烏

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第25話 鋼の怪鳥

「――態々、相手の射程距離に入るのを待っている必要はない、か」

 

十機の機兵から発射されるレーザーを回避しながら、更にミサイルの雨を掻い潜る、というのは流石に無理がある。

 

どんなに風の魔術で速度を上げようとも、それは光の速さには届かない。

一応、背中の羽は飾りではないので、飛翔や瞬間的に速力を得るのも可能ではあるが、それでも自由自在に空を飛べる訳ではない。

 

なら、解決策は先手必勝、撃たれる前に撃て、だ。

 

風ノ槍(ウインドスピア)!!!」

 

射程の長い『風ノ槍』を先頭の機兵に向けて射出する。

 

ドガッ!

 

鋭く束ねられた風の槍が円盤状の機兵を弾き飛ばすが、破壊には至らない。

『槍《スピア》』型の術の貫通力は他の形態に比べて高めだが、それでも鋼鉄を貫くには足りないようだ。

 

「やっぱり、風の魔術を単体で使っても威力が弱いっ……!」

 

魔獣が相手であれば牽制としての効果も見込めるが、万全な機兵の装甲を抜くには初級の攻撃魔法では厳しい。

無論、中級の魔術や詠唱や想像(イメージ)補強等の『溜め』で術の威力を上げれば風属性でも効果はあるだろうが、一対多数の戦闘中に機動力を損なうのは得策とは言えない。

 

「(なら、それなりの工夫をして見せないと!)」

 

発想のヒントは、この戦いの様子を現実世界で見ている年下の修行仲間が与えてくれている。

それを活かす実例を披露してみせるぐらいの事はやってのけなければならないのだ――年上の矜持として。

 

水ノ球(ウォーターボール)多重展開――形態移行(モードシフト)――『薄ク』『鋭ク』『回転セヨ』」

 

(ヴィオレッタ)の周囲に水泡が浮かび上がり、まるでピザの生地を薄く広げるように回転し、向かってくる機兵に似た円盤状へ形状を変える。

 

――出の速い初級魔術を発動させ、そこから形態を変化させる事で術の効果を高める戦法。

 

悠二のままでは、ぶっつけ本番で魔術の形態を変化させるのは難しかっただろう。

だがフェルミと一体化し、その存在が精霊に近づいている現状なら、魔術の運用は更にスムーズになる。

 

「切り裂け、水ノ斬盤(ウォーターソーサー)!!」

 

高速回転する水の円盤が、前方に展開していた機兵の半数を上下に分断した。

 

「もう一撃!」

 

逃げ場を塞ぐように射出された、第二陣の斬盤が残りの機兵達を真っ二つに両断していく。

 

「よし――これなら」

 

20の機兵を一掃し、安堵の息を吐く。

だが、ここは電脳空間(サイバースペース)……一度、敵を撃退した程度では終わらない。

 

今、撃破したばかりの機兵と同じ数の増援。

 

「……げっ」

 

理不尽な目の前の光景に思考も女性的に変化しているにも関わらず、そんな声が出る。

敵の補充速度は襲来、というよりも召喚に近い。

 

「(でも、逆に目的地が分かりやすい)」

 

続々と機兵がやってくる方角に自分が目指すべき場所がある。

 

「なら、最短距離を正面突破っ!!」

 

出現する敵勢力を駆逐する事でメインコンピューターに負荷を与えつつ進撃し、防壁を突破。

そのまま管理権限を書き換えられる最深部にまで到達できれば、こちらの勝利である。

 

 

◇◆◇◆

 

 

面制圧力の高い『水ノ斬盤』で複数の機兵を同時に破壊。

隊列が乱れた所を近接用の魔法戦技《マジックアーツ》で強襲、というのが(ヴィオレッタ)の選んだ戦法だった。

 

「――断空脚っ!!」

 

機兵の砲門から逃れるように上空へと跳躍。

そのまま空中で回転し、風を纏った脚を振り下ろした。

 

スパンッ!!

 

軽快な音と共に今度は機兵が左右に両断される。

殺戮熊に放った時のように小さな竜巻を纏うのではなく、脚に宿るのは薄く鋭く研ぎ澄まされた風。

 

「続けて、裂空脚っ!!」

 

着地によって、低くなった姿勢からのサマーソルトキック。

だが、蹴撃技である筈のそれは斬撃技であるかのような結果を齎していく。

 

「現実世界よりも身体が軽い……!」

 

そんな実感と共にデータ化されている事による恩恵を理解する。

現実世界であれば、自然と備わっている肉体への配慮や抑圧。それらから解放される事の意味。

 

「(今なら、出来得る事の全てが出来る)」

 

これは、電子の精霊であるフェルミとの融合によって得られた恩恵の一つ。

 

身体の持っている性能(スペック)を最大限かつ、安定的に活用する事が出来る。

意識しなくても、十の力を引き出す事が可能だからこそ、思い描いた技のイメージ通りに身体が動く。

 

しかも、背中の羽の影響か滞空時間が伸びている為、わざわざ『風ノ羽衣』で調節するまでもなく、前宙もバク宙も自由自在だった。

 

その一方で不利な条件もある。

 

電脳空間では外気の魔素を取り込む事が出来ないので、体内魔素保有量が倍の現状では、やはり魔術の使用には限度があるのだ。

だからこそ、身体機能で補える部分が増える事は、この閉鎖された空間での戦闘においてかなりの有利だ。

 

「とは言え、何時までも戦ってる訳には……!?」

 

増援を一掃し、更なる敵の姿を探す。

すると、これまでとは規模の違うデータの増大を感知した。

 

反応があるのは、現在位置から右手に数百メートルの場所。乱立するキューブ状の障害物の迷路を抜けた先にある。

 

「……ボスのご登場、かな」

 

少しの不安と大きな期待を胸に(ヴィオレッタ)は先を急ぐ。

 

「――塔?」

 

迷路を抜けると、そこには電子回路の集合体を縦に伸ばしたような奇妙な建造物。

だが、その塔の姿は上空に望めるだけで、下層部分は白亜の壁に隠されている。

 

「壁……いや、城門か」

 

門の奥にあるのは城ではなく塔だが、本丸を守る障害物、という意味では正しく城門である。

 

ギシッ! ギシッ!

 

「っ!?」

 

城門を見上げる(ヴィオレッタ)の耳に届くのは羽音と呼ぶには機械的過ぎる金属音。

 

「うわぁ……なんか、凄いのが出て来た」

 

最終防衛ラインである城門の上空――そこに居たのは、一羽の鷲。

 

鋼の翼が羽撃き、鋼の嘴が打ち鳴らされる。

形式番号ASA-001――つまり、『強襲偵察用獣型機』の一番機。

 

設計者から与えられた開発コードは大鷲(フレスベルク)『死者を呑み込むモノ』。

 

実際に製造される事は無かった設計図のみ存在する機体。

だが、幻の大鷲は侵入者を排除する為、この電子の世界で生を受けた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「ギギッ!」

 

金属の擦れたような鳴き声を上げ、大鷲(フレスベルク)はその両翼を(ヴィオレッタ)へと向ける。

その砲門を向けるような動作から齎される結果を想像し、咄嗟に『風ノ防壁(ウインドバリア)』を発動させる。

 

 

――『フェザーレイン』

 

 

羽撃きと同時に無数の鋼鉄の羽根が雨のように降り注ぐ。

 

「(不味いっ!)」

 

大多数が風の防壁に弾き返されるが、それでも幾つかの羽根が防御を抜け、(ヴィオレッタ)の四肢を傷付けていく。

前方展開の『壁《ウォール》』に比べて全天展開の『防壁《バリア》』は防御範囲こそ広いが、強度が低い。

 

「くっ、あっ!」

 

この電脳世界では、現実世界で装備している衣服の防御力までは反映されない。

つまり、相手の攻撃を受けた場合、フェルミと融合している事で多少は向上しているとはいえ、素の状態で受け止める羽目になる。

 

今の所は刃物による掠り傷程度だが、それでも蓄積されれば致命的だ。

 

シャゴッ!

 

「(再装填!?)」

 

攻撃によって消費された翼の質量が一度の動作で元の状態へと戻る。

足を止めていると、鋼鉄の雨の餌食になるのは避けられない。故に防御よりも回避を優先させるべく機動力を上げる。

 

「ギーギッ!」

「っ!」

 

だが、回避運動に移った(ヴィオレッタ)に対して、大鷲(フレスベルク)が選択した攻撃は高度を上げてからの強襲だった。

自らが捕食される姿を幻視し、(ヴィオレッタ)は緊急回避を図る。方法は先日の殺戮熊との戦闘以来、気に入りつつある『風ノ球(ウインドボール)』の炸裂反動による急加速(ブースト)

 

「くっ」

 

強引な動きに体が悲鳴を上げるが、無理をした御蔭で大鷲(フレスベルク)に捕まる事は防げた。

 

「あのスピード……!」

 

鋼鉄の機兵ではあっても、流石に猛禽の鳥獣を模しているだけあって、その攻撃は野生の発露に他ならない。

下手に捕まろうものなら、臓腑を嘴に抉られ、皮膚は爪に切り刻まれるだろう。

 

「攻め手を見つけないと……!」

 

思い出すのは、この世界に来てから最初の戦闘。

そう、必要なのは相手の観察。

 

「ギギッ!」

 

再び、鋼鉄の羽根が降り注ぐ。

今度は魔術による防御ではなく、前方へと急加速する事で着弾点から逃れる。

 

強襲攻撃に対しては、高度を上げる予備動作があるので周囲の障害物を壁にするように立ち回る余裕があった。

 

「(……攻撃手段は多くない、のか?)」

 

防御と回避に意識を割きながらも、視線と思考は大鷲から外さない。

 

――そして、気付く。

 

羽根の雨、装填、強襲の三つが基本的な攻撃動作であり、タイミングには多少のズレがあるが、そのローテーションがパターン化されている。

 

「なら、見切れる……!」

 

要は自分という自機を使ったアクションゲームのような物だ。

パターン化された敵の動きを見極め、その隙を狙って攻撃を加える。

 

攻撃の好機(チャンス)は羽根の装填時と強襲攻撃を交差回避した瞬間。

だが、高速戦闘の最中に大鷲の装甲を抜く威力の攻撃を放つのは現状では困難でもある。

 

「(それこそ、ゲームみたいに弱点を突く武器でもあれば……)」

 

だが、そんな都合の良い話が――あった。

 

データ上ではあるが、相手は精密機械。

それを踏まえれば、今の自分には二つの手段がある。

 

一つは攻撃力以前に単純に相手を『濡らす』事が出来る水属性の魔術。

 

もう一つは、フェルミの持っている雷を操る能力(スキル)

正確に言えば、電気エネルギーの吸収と放出だ。

 

「(威力の事を考えると……決め手にするべきは雷撃!)」

 

思い描くのは勝利への軌跡。

突撃してくる大鷲(フレスベルク)の軌道上に『水ノ球(ウォーターボール)』を配置し、ギリギリまで引き付けてから回避する。

 

バシャン!

 

大鷲(フレスベルク)との接触と同時に水球は破裂し、その鋼の体躯に水を被せる。

そして、相手が体勢を整える前に攻撃に最適の位置取りを狙う。

 

これまでは攻撃の為の加速か四方への回避にしか使っていなかった『風ノ球(ウインドボール)』による急加速(ブースト)

そのベクトルを天へと変え、文字通りの爆発的な加速と背中の羽の動きと併せて、(ヴィオレッタ)は上空へと舞い上がった。

 

「野生の鳥獣なら兎も角、それを模した機械なら――」

 

上空から獲物を狙う動きや地上からの攻撃に対しての対抗策は持っているだろう。

 

――しかし、その更に上空からの襲撃には?

 

バンッと空中でありながら足元で『風ノ球(ウインドボール)』が再度、炸裂する。

それによって実現する三次元的な空中機動(エアライド)

 

人間には不可能な筈の動きによって、(ヴィオレッタ)大鷲(フレスベルク)の『上』を取った。

 

充電開始(チャージ・アップ)

 

魔素による術の発動から現象の発生、言わば通常の魔術の過程(プロセス)とは異なり、自身の中の魔素がダイレクトに雷のエネルギーへと変換されていく。

そして、体内で高められたエネルギーが逃げ場を求めるように(ヴィオレッタ)の両の掌に集約された。

 

ある程度の習熟している魔術と違い、体の一部に帯電させるか前方に放出するぐらいしか活用法が無いので、(ヴィオレッタ)はより確実性のある帯電を選択したのだ。

 

「叩き落とすッ!」

 

帯電状態の両手を組み、形作るのは敵を粉砕する鉄鎚。

それを上空からの降下の勢いと併せて、容赦なく大鷲の背面へと叩きつけた。

 

「『雷神ノ鉄鎚(トールハンマー)』!!!」

 

打撃と同時に蓄えられたエネルギーが雷光と共に炸裂する。

渾身の一撃が大鷲を地面へと急降下させ、そのまま大地へと激突させた。

 

羽根を動かして、(ヴィオレッタ)もゆっくりと降下する。

 

「手応えはあったけど……致命傷には届かない、か」

 

墜落の衝撃で舞い上がった電子の残骸の土煙の向こう側の標的。

警戒しながら観察すると、バチン、と雷撃の残滓が奔る度に大鷲が痙攣する様に震えている。

 

「なら、次で決める」

 

今度の電気エネルギーの収束地点は脚部。

眼前の大鷲と奥に見える城門を『まとめてブチ抜く』つもりで力を溜める。

 

風の噴出点を両肩背面部に指定。

うねりを上げる風が前へ前へと体を押す。

 

「ふっ!」

 

そして――跳躍。

 

地に落ちた大鷲へと旋風を背負った雷の矢が放たれる。

 

「いっけえええええええええええええええ!!!」

 

着弾の瞬間、背面からの風の出力を一気に引き上げた。

 

データの大地を抉りながら、大鷲(フレスベルク)の巨体を『連れて行く』。

翼が曲がり、爪が砕かれ、嘴が爆ぜる。だが、止まらない。

 

勢いを減衰する事なく大鷲(フレスベルク)を射抜いた矢は、獲物を城門に貼り付けにした直後、諸共に全ての障害を粉砕した。

 

「これぞ、疾風迅雷脚(ライトニングソニック)……なんてね」

 

クスクスと笑いながら、体に付いた土埃を払うかのよう腕や足を叩く。

無論、現実世界とは違って実際に体が汚れたりはしないのだが。

 

「ゲームだったら、ボス撃破で経験値大量獲得な場面だけど」

 

そんな都合の良い話もなく、得られるのは達成感と疲労感だけである。

やれやれ、と嘆息していると、大鷲(フレスベルク)がデータの残骸へと還る。

それを尻目に(ヴィオレッタ)は、眼前の巨塔へと手をかざし、『制圧』を開始した。

 

 

◇◆◇◆

 

 

(ヴィオレッタ)が現実世界に帰還するのと同時に悠二とフェルミの『精霊融合(エレメント・ユニゾン)』は解除された。

 

「おっと……元に戻ったみたいだな……うん、元通りだ」

「そうみたいね……って、こら! 変な所確認しないの!」

 

ズボンの中を覗きこんで安堵の溜息をついている悠二の姿にフェルミが顔を赤くしながら抗議する。

 

「あの喪失感を考えれば確認しない訳にはいかないだろ……マルクも男なら分かってくれるよな?」

「そ、そこで僕に同意を求められても……とりあえず、ユージさんもフェルミ様もお帰りなさい」

 

機械の中で怪我をしてましたけど、平気ですか?とマルクは続けて気遣った。

 

「……そういえば、傷が消えてるな」

 

目に見えた体の裂傷等のダメージが消え、その代わり全身を疲労感が襲っている。

 

「成程、向こう側の損傷は生命力その物の減少に置換されるのか……フェルミは?」

「肉体のメインはユージだから、私の方は特に疲労は無いわ」

 

それは良かったと悠二は安心したが、フェルミに向けた意識の中で彼女との間に存在する何かに気付いた。

 

「……フェルミ、融合する前に言ってた霊的な経路(パス)?とやらが強化されているような気がするんだが」

 

先程までが糸電話の『糸』程度だとすると今は、水道を繋ぐ『ホース』並に太くなった印象を受けた。

 

「あー、融合した所為というか、融合した御蔭でユージとの繋がりが強化されたみたいね」

「悪影響は無い……よな?」

「そうね。媒介とは別に私の存在の安定に繋がるし……この強度なら、遠距離間で双方向性の念話が使えると思うわ」

 

私には得ばかりだけど、ユージが損をしたりはしない、との事だった。

とりあえず、施設の制圧の成功と経路(パス)という成果を考えれば、融合するだけの価値はあったのだろう。

 

「けど……当面、融合は封印した方が良いと思うわ」

「まぁ、俺だって女体化は嫌だし」

「(問題はそうなってしまう、悠二の精神的背景なんだけど)」

 

だが、それも時間が解決してくれるだろうし、そもそも融合による一時強化が必要になる程、危機的な場面も来ない筈だ。

現時点で悠二の魔術の技量は中々であるし、多少の無茶や過激な修行もするが実戦で無謀に走るタイプではない。

 

「今回は遺跡(フォボス)を支配下に置けただけで御の字……って、所で良いか」

 

そんな風にまとめながら、悠二は正面の設備を慣れた手つきで操作していく。

潜入(ダイブ)中に操作の方法についてもフェルミと共有していた為、キー操作も楽々だった。

 

「――これでよし、と」

 

最後にパチン、とキーを弾くとモニター下の機械群の一画から二枚の硬質なカードが吐き出された。

 

「はい、マルクにも」

「えっと……何ですか、このカード?」

 

マルクはカードの裏を眺めたり、感触を確かめたりと見慣れない品に興味津々の様子である。

 

「この遺跡(フォボス)で使えるカードキー……入り口や部屋の扉を開ける為の鍵、かな」

 

カードキーだけだと紛失や盗難の危険性があるので指紋認証システムや網膜認識等の他の防犯設備との併用が望ましいが、今日の所はカードキーの発行だけで問題ないだろう。

 

「鍵って……いいんですか?」

 

マルクにしてみれば、そんな重要な物を自分に預けても問題ないのか不安になる。

 

「施設の設備の使い方は今後、一緒に調べながら説明するとしても……とりあえず、鍵だけでも渡しておかないとな」

「使い方……?」

 

異世界トリップ初日に読んだ、この施設の生き残りの手記の内容を鑑みれば、個人での施設運用は不可能に近い。

悠二の場合だと施設で生活を送る訳ではないので、当時よりは楽だろうが、それでも人手は必要になる。

 

「この場所の技術は宝であると同時に危険物でもあるから、信用できる相手にしか鍵は渡せない」

 

マルクはまだ若い……というよりも幼い訳だが、その手の信用に関しては十二分だ。

悠二にしてみれば、こうやって信用している事を敢えて口にする事でマルクがより一層、それに応えようとしてくれる性格である事も踏まえている。

 

「それに俺が村を出発した後も何かあった時、この施設を使える人間がいた方が良いと思わないか?」

 

有事の際は元の用途である避難所(シェルター)としても利用できるし、中に蓄えられた資材も有用だ。

 

「ユージさんが村を出た後……そっか、一週間後には王都へ行っちゃうんですよね」

 

予定自体は村を訪れた最初の日の時点でマルクも知っていた筈だが、今更ながらに別れの時が迫っている事を実感したようだった。

 

「まぁ、冒険者志望なら村の支部で登録して貰って、もう暫く滞在しても良かったんだが……」

 

戦闘能力、という意味では相応の物を獲得した悠二ではあるが、やはりそれは魔術ありきのモノ。

野生動物が凶暴化した程度の魔獣相手なら、拳銃もそれなりに有効だが、それ以上の怪物や熟練の人間相手ともなると、かなり怪しい。

 

「どうも、新しい魔法を考えたり、魔道具を作ったりしてる方が向いてる気がするんだよな」

 

自分の在り方は戦闘者のそれではなく、何かしらの開発者であり、考案者であるように感じていた。

他は学術的な好奇心か商売への期待が次点だろうか。

 

「そうね。ユージの場合、そっちの方が成功しそうね」

「……ですね」

 

フェルミの言葉にマルクが頷くが、どこか表情が冴えない。

悠二もフェルミも、その事には気付いていたが、わざわざ指摘しようとは思わなかった。

 

「――よし、村に帰ろうか」

 

殊更に明るく振る舞うような真似はしない。

ただ、今の時間を大切にするように。

 

友人として修行仲間として、悠二はマルクに変わらぬ親愛と笑顔を向ける。

 

「……はい!」

 

それを受けて、マルクも少年らしい純真さを滲ませて、笑顔を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

その後、村へと戻った悠二達は族長であるヘルムホルツから、思わぬ事を聞かされる。

 

――マグノリア王家からの招聘に応じて、村を暫くの間、留守にする事になる、と。

 

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