アーカディアの魔工学士   作:愛及屋烏

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挿話③ 空から来た少女

悠二達が遺跡の掌握に成功したのと時を同じくして、一人の少女がミュルクの集落を訪れていた。

 

「新大陸での初仕事が、まさか王家からの依頼になるなんてねー……うわっ、改めて考えたら緊張してきた」

 

結構な声量での独り言だったが、少女は特に気にしない。

周囲の人目や魔獣への警戒など必要のない場所に自分が居るからである。

 

 

――少女は空を飛んでいた。

 

 

しかも、普通の民家にもありそうな『箒』に跨って。

 

その姿を悠二を含める現代人が見れば、まるで『魔女』だと思うだろう。

それ対し、魔術による飛行法が確立されていない異世界《アーカディア》の人間が見れば、鳥の獣人である『鳥人族』や過去に侵略戦争を仕掛けてきた『魔族』や『天使』と勘違いしただろう。

 

だが、この少女は魔術を嗜む訳でも無いし、有翼の異種族という訳でもない。

少々、特殊な技術を有しているが……生粋の人族である。

 

「七星の一人と直で会える幸運を喜ぶべきか……大物相手の仕事に萎縮するべきか……」

 

幼少期に家族から寝物語に聞かされるような伝承の登場人物……その本人と仕事上とはいえ邂逅する事が出来る。

街一番のイケメンや近頃話題の人物等には特に食指の動かない少女ではあったが、流石に七星ともなると別格だった。

 

それは少女の『同僚』達も同様で、出発の前には色々と悶着があった。

伝記にサインを貰って来て欲しい等と言われても、少女が要求出来るのは職務上、受領のサインだけある。

まぁ、聞く所に依ると、当の七星様は温厚な人柄らしいが、それでもサインを強請るのは如何なものか。

 

「でも、今後のマグノリアでの活動を考えると失敗は厳禁なのよねー」

 

問題は失敗の可能性が道中の危険ではなく、受け渡し時に集約されている点である。

要するに不敬で相手を怒らせてしまうのが一番の危険なのだ。

 

「(空を飛んでるんだから、道中は荷物を落とすぐらいしか危険は無いし)」

 

マグノリア地方には鳥系の魔獣は少なく、それこそ山岳地帯まで足を伸ばさないと、その姿を見る事は叶わない。

加えて、最近この辺りを騒がせている盗賊団も空中の相手を襲うことは困難だろう。

 

事実上、行って帰ってくるだけである。

 

「仕事の重要性に対して、仕事自体が楽勝過ぎるのも考えものよねー……あ、見えてきた」

 

目的の集落を視認すると、少女は少しずつ高度を下げて、集落手前の林道に降り立った。

襲撃か何かと勘違いされる恐れがあるので、直接(ダイレクト)に村の中に入るような真似はしない。

 

「さてと……あらら、やっぱり驚いてる」

 

空からやってきた不審人物に対して、村の入口の所にいる門番らしき若者二人が慌てているのが見えた。

軽く一礼して、こちらに敵意がないことをアピールする。その上でゆっくりと歩み寄っていく。

 

「こんにちは!」

「「こんにちは」」

 

こちらを警戒するような――観察するような視線が気になるが、門番としては当然だろう。

 

「ふむ。害意は無いようだが……空からの来客は初めてだな。貴女の名前と用向きを伺っても?」

「運送を生業とする『配達人組合(トレーガーギルド)』のマグノリア支部から参りました――アリッサ・アグスタです」

 

快活な笑顔と一緒に齎された自己紹介。

だが、門番の二人は聞き慣れないギルドの名前に互いの顔を見合わせて疑問符を浮かべた。

 

「マグノリア王家からの書状を族長のヘルムホルツ様にお届けに上がりました!」

 

――数時間後、村へと戻ってきた悠二がこの少女の話を門番の二人や族長から聞いた時、某有名アニメ映画を連想したのは言うまでもない。

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