アーカディアの魔工学士   作:愛及屋烏

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幕間③ とある少年の日記

父上が不在の間、どんな事があったのか後で話す為に簡単な日記をつけようと思う。

ユージさんにそう告げると、とても綺麗な紙を何枚かくれた。

……羊皮紙や出回っている紙とは比べられない品質に驚愕した。

遺跡から持ち出した、とユージさんは言っていたけど……?

少し気にはなるけど、有難く使わせてもらう事にした。

 

 

○月#日

 

 

遺跡(フォボス)から僕達が村へと帰ると、門番のダイロンさんとアムロドさんから奇妙な来客の話を聞いた。

その来客は十代の少女で僕達が不在の間に空(!)から来て、父上への手紙を持ってきたらしい。

その手紙の内容がマグノリア王家から招聘の旨を(したた)めたの書状というのにユージさんは驚いていたけど、僕が王家の最初の女王様が亡くなった僕の叔母(父上の妹)である事、ミュルクの集落との人材徴用を含んだ友好的な相互関係から父上が王都へ足を運ぶ機会が少なくない事を告げると納得したようだった。

 

父上が集落を離れるのは珍しくないから、僕としても寂しいとか、甘ったれた事は言わない。

食事は宿屋で取らせてもらう事になっているので生活面では困らないし。

 

けど、ユージさんが出立してしまう日までに父上が帰って来れないともなると多少は不満がある。

父上もユージさんを見送れないのは残念なようで、ユージさんに謝っていた。

ただ、もしかしたら王都で顔を合わせるかも知れないから単純にお別れにはならないだろう、と父上は付け加えていた。

 

……何故か、父上の不在の話の最中、ユージさんの顔色は悪かった。

 

何か気になる事があるのだろうか、と注意して観察しているとフェルミ様と色々と相談している様だった。

微かに漏れ聞こえてきた内容は『最大戦力の不在』『タイミング』『明らかなフラグ』等と言葉の意味は別にしても、僕には分からないような内容だった。

 

後々、この時の事を聞いてみると父上の不在とユージさんの出立が「物語によくある嫌な事象が起きる『よりにもよって』という時機に思えた」らしい。

うーん? でも、そうそう困った事なんて起こらないと思う。

 

追記:ユージさんはやっぱり凄い。予知の技能(スキル)でも持ってるんだろうか……?

 

 

○月$日

 

 

ユージさんの出立まで、一週間を切った。

その関係か、或は父上の不在への懸念なのか、ユージさんは修行の方針を変えた。

 

修行の場所を村の広場や森の中から遺跡(フォボス)へと移し、修行の為の特殊な環境を人工的に作り出したのだ。

 

なんでも遺跡(フォボス)には過去にあった戦いの中で使用された『魔素に反応する化学兵器』への対策として、大気を含む周囲の魔素を人工的に施設外に排出する機構が存在しているらしい。ユージさんが最初に遺跡を探索した時に見つけた手記に書かれていた、との事。

 

そして見つけたのが排気設備?の中に刻印された、文章よりも文様に近い破魔の呪文。

魔素を弾く、或いはその結合を乱すような効果があるらしい、この呪文は長い年月が過ぎた現在でも損なわれる事なかった。

 

そこで施設の特性を利用した新たな修行方法をユージさんが思いついてしまったのが、僕達(?)の運の尽きだった。

 

――意図的に『魔素が欠乏した状況』を作り出し、その中で多くの魔素を掌握する鍛錬。

 

手法としては設備を稼動させて適当な室内の魔素を排出後、設備を停止してから体内か魔石の魔素を使用して魔術を使用、拡散した残留魔素を再掌握し、限界まで魔術を使用するというもの。

 

言わば酸素の薄い高地で、自分が吐き出した呼気の中の僅かな酸素を再利用(リサイクル)するような荒行とはユージさんの弁。

意味は分からないけど、その荒行を率先してやるユージさんも特に抵抗もなくそれに追従する僕も感覚が麻痺している可能性が高い。

 

……何をどうすればこんな鬼畜な修行を思い付くんだろう? 

 

でも、数時間の鍛錬でも効果は明らかだった。

遺跡を出て、森の中での魔術行使。瞬間的に収束していく魔素の量が修行前とは――桁が違う。

 

全能感、とでも言えばいいのだろうか。

ユージさんは「これは――霊子の隷属……!」と何かの物真似をしてフェルミ様に叩かれていた。

確かにこのまま修練すれば最終的には魔素を掌握していると言うよりも隷属させる、と言う方が正しい様な感触がある。

 

これなら環境魔素が少ないミュルクの森の外でも、安定して魔術を使用出来そうだ。

一般的な魔術士に比べて、この魔素掌握力?が高いのはそれだけでも有利になる。

どうやらユージさんは手持ちの手札の弱点を出来るだけ減らそうとしているみたいだ。

 

僕も僕なりにもっと自分の手札を活かす方法なりを考えてみようかな……。

 

 

○月%日

 

 

ユージさんの修行の基礎になっている考えは持ち味を活かしながら、同時に弱点を減らすという堅実な物。

これは無理のない正しい考え方だと思うし、僕もそれで強くなっている。

ならば、それを自分なりに実践するのが強くなる近道なのだろうと思う。

 

では、僕の持ち味と弱点は何だろう?

 

まず、僕はエルフなので体内に保有可能な魔素の量が普通の人間に比べて多い。(人間なのに保有量がエルフに並ぶユージさんも大概だけど)けど、その一方でエルフであるからこそ、肉体的な頑強さや屈強さとは縁遠い。

だからこそ、エルフには魔術や弓術を中心に戦う者が多い訳で……ただ、僕の場合は魔術の適性が火と地だし、何故か弓よりも近接格闘の方がしっくり来る。

これは自分でも不思議な事で弓が苦手、という感じではない。

伝説的な弓兵の父上の血なのか目は良いし、手先も相応に器用だと思う。

 

にも関わらず、これだ!と感じた戦法は中距離では魔術で『面』を攻め、強化魔法で一気に距離を詰めてからの拳打だった。

うん、ユージさんにも指摘されたけど……自分の事ながら実にエルフっぽくない。

 

改めて、考えてみると……僕は弱点とも言うべき、エルフとしての身体的不利を強化魔法で補う事で近接戦闘を可能にしているのだろう。

何しろ、火と地の強化魔法はより直接的な肉体強化に特化している。他のエルフに比べれば火と地に適性のある僕は攻撃力も防御力も高い。

けど、考え様によっては僕がエルフである事が術の利点を潰してしまっている事になる。

これは拳士としての鍛錬を積めば、将来的には解消される問題だとは思う。

 

――でも、現状では『決め手』に欠ける。

 

そこまで考えて、弱点は無いけど持ち味がないのが自分の状態なのだと気付く。

加えて、ユージさんも似たような結論に至った上で独自の戦闘法を確立している事も理解する。

 

水と風の魔術は様々ある属性の中でも特に応用力に長ずる。

火と地に比べて単純な攻防力は低いが術者の工夫次第では、これらを凌駕し得る。

 

時に研ぎ澄まし、時に収め束ねる事で。

 

ユージさんは、この手の工夫に長けているのだ。

元々が弱点の少ない属性なのだから、足りない攻撃力を補填するだけで強力な手札になる。

 

そして、辿るべき道程こそ違うが僕が目指すべき場所もそこなのだろう。

肉体的な欠点を補う事に甘んじている火と地の魔術を活用して、『決め手』になる攻撃力を得る事。

 

防御力は優れた装備なり、地の魔術の工夫なりで簡単に高められる。

だが、強大な敵を粉砕するような爆発力とも言うべき攻撃力は簡単には……?

 

そんな事を考えている時に思い出したのはユージさんが僕を助けてくれた時に使っていた武器。

するとどうだろうか、精密な木細工が組み上がるように目指すべき終着点への道筋が見えてくる。

 

――今日の修行が終わったら、改めて見せてもらう事にしよう。

 

 

○月&日

 

まず、自らの肉体が傷付かないように肉体の強化と活性は最大限。

 

更に想像(イメージ)する。

 

肘が撃鉄、腕が銃身、拳は銃口。

 

――そして、込めるのは魔弾。

 

使用するのは『火ノ弾丸(ファイアバレット)』を計六発。

強化魔術の要領で、腕に集約――否、装填されたそれらは爆発の時を今か今かと待ち構える。

 

標的は無理を言って用意してもらった攻撃手段を持たない機兵……言わば、鋼の案山子。

 

強化された脚力で一気に距離を詰め――標的を捉え――拳で撃ち抜く!

 

衝撃(インパクト)と同時に開放された『火ノ弾丸(ファイアバレット)』が炸裂し、鋼を貫く破壊力を生む。

 

そう、参考(モデル)にしたのはユージさんが持っていた拳銃と呼ばれる火器。

自分の利き腕を銃に見立て、魔術と併用する事で破壊力を得る技。

 

この戦法もユージさんの言う所の魔法戦技(マジックアーツ)という事になるのだろう。銃拳術(ガンズナックル)とでも名付けようか。

「どうしてそんな、でぃんジャラス……じゃなくて、漢前な戦法を考え付くかなぁ……」とユージさんには少し呆れられた感想を貰ったけど自分としては中々の技だと思っている。

その他にも『まぎ○えれべあ』とか『し○こんがったい』とか『しぇ○ぶりっと』とか呟いていたけど何の事だろう? 

 

ただ、最初に魔弾を装填するのに多少の時間が必要なので、そこが隙になりそうだと告げるとユージさんは新しい案を出してくれた。

「右腕=銃でイメージしているなら、装填のイメージに該当する動作を関連付けすればどうか?」と。

その言葉の意味が理解出来なくて、首を傾げているとユージさんは『動作の関連付け』を実演してくれた。

 

パチン。

 

自然体の姿勢から、ユージさんが何気なく見せたのは軽く指を弾く動作。

つまりは、何の変哲もないフィンガースナップ。

 

だが、その直後。

僕に打ち貫かれて、床に転がっていた機兵が更に両断された。

 

い、今のは『風ノ刃(ウインドカッター)』!?

 

詠唱破棄から放たれた『風ノ刃(ウインドカッター)』とは威力、速度、精度、全てにおいて比べ物にならない驚異的な性能。

しかも、詠唱破棄時との違いは指を弾く一動作(ワンアクション)のみ。たったそれだけで、こんなにも魔術は変わる物なんだろうか。

 

何でもユージさんの知っている物語には指を弾くだけで人間だろうが、巨大な機兵だろうが『真っ二つ』にしてしまう素晴らしき?敵役がいるのだとか。

……つまりは、そのとんでもない登場人物のイメージの強さがユージさんのこの術に対する想像力に直結しているらしい。

 

その気になれば、両手で連発も可能だとか……お願いですから、止めてください。

 

取り敢えず、動作に術のイメージを連動させる事で詠唱破棄でも安定した威力を維持する事が出来る、という事か。

ユージさんの場合、『技』として術の発動の一連の流れをイメージする為に「詠唱破棄+動作+技の名前」で魔法戦技を発動しているそうだ。

そういえば、フェルミ様と合体して機械の中で戦っていた時、ユージさんは術だけじゃなくて技の名前も言っていた気がする。

その辺りを掘り下げて聞いてみると「合体によるパワーアップでテンションが上がって格好付けてた」だけでは無く、技の名前を言っていれば詠唱破棄を使える事を隠蔽(カモフラージュ)する事が出来るから、というのが基本的な理由なんだとか。

 

さ、流石はユージさん……えげつない。

魔術士としては一流の証、或は大きな利点である詠唱破棄を隠し札にする気は満々らしい。

はい、確かに詠唱破棄が可能な事が知られてなければ『口を塞がれ、拘禁される』ような状況下でも安心ですよね!

 

いや、安心なんだけど……平時からそんな状況を想定しているユージさんの発想が怖い。

つい「ユージさんは何と戦っているんですか?」とツッコンでしまった僕は悪くないと思います。

 

追記:ちなみに魔弾装填の動作は撃鉄を上げるように右腕を構える動きが良いとユージさんが勧めてくれたので、それにしました。

 

 

○月Л日

 

 

魔素の少ない環境での鍛錬は確実に僕らの魔術士としての基礎を強固な物へと変えていっている。

ユージさんは「魔素の多い環境」と「魔素の少ない環境」を交互に利用すれば、どんな人間だって魔術の技量(魔術熟練度&魔素掌握力)を上げられるだろうと言っていた。

 

要は思い付いた者が勝ち、という事か。そんなに難しい話ではないんだけど、と苦笑していたけど……。

そもそも、そんな都合の良い環境が両立している場所が皆無な上、魔術そのものが衰退期なのだから仕方がないと僕は思う。

 

そういえば、この鍛錬をしていると体内だけでなく周囲の『魔素の流れ』の様な物を感じ取れる力も高くなっているような気がする。

鍛錬の要点を考えれば、この手の能力が伸びるのは当然なんだけど……これを聞いて、またしてもユージさんが変な事を思い付いた。

 

――結果、僕とユージさんが一緒にいる時だけ使える、とんでもない切り札が出来てしまった。

 

……何だろう、色々と複雑だけど僕とユージさんがこれまで一緒に修行してきた『努力』が形になったみたいで嬉しい。

でも、ユージさんとの別れの時は近づいている。この切り札を使う機会なんて、下手をすると二度と無いのかも……。

 

そんな考えが脳裏を過った直後、感情に促されるままに僕は「一緒に連れて行ってほしい」とユージさんに懇願していた。

 

今になって考えると、僕はユージさんに依存しつつあった。

ユージさんと出会ってから、森の中だけだった『僕の世界』は目まぐるしく変化した。

 

魔術を学び、戦闘を知り、実力を伸ばした。

友人のようで兄のようで仲間みたいなユージさんと一緒にいる事が楽しかった。

 

このままユージさんと共にあれば、僕は遠くまで行けるんじゃないか?

……それこそ父上のいる領域まで。

 

打算、執着、期待、確信、感傷、好意、不安……僕の中に渦巻いていた、ぐちゃぐちゃのそれらを自覚する事もしなかった。

 

「――まぁ、そう言い出す事もあるかとは思っていたけど」

 

僕の願いに対して、ユージさんは困ったように笑った。

 

「俺が、旅の相棒として選んだのはフェルミだ。……けど、次に旅の仲間を選ぶなら最初の一人はマルクだと思う」

 

この先、どんな出会いがあるかは知らないが少なくとも今の時点で双葉悠二は既に僕を仲間として認めている、と。

……僕は受け入れられた。

……僕は認められた。

 

気が付けばポロポロと涙が零れていた。

 

でも。

 

「だが、俺の出立の時にマルクを連れていくってのは筋が通らない」

 

それでも、僕の願いは間違っていると断じられた。

何故、どうして、と混乱する僕にユージさんは単純な答えを告げた。

 

「親の許可も取らずに旅に出るつもりなのか?」

 

――恥ずかしさのあまり、死にそうになった。

 

 

○月#日

 

 

僕の愚考がユージさんに一刀両断された後、僕達は色々と相談をした。

そして、僕の今後の行動方針が決まった。

 

①ユージさんの出立は大人しく見送る。

②父上が村に戻って来たら、旅に出る許可を得る。

③説得材料として、リンさんに頼んで冒険者ギルドに正式登録し、相応のランクを得る。

④それと並行しながら、修行に加えてユージさんが居ない状況での『一個人』としての実力を見つめ直す。

⑤父上とリンさんに太鼓判を貰えたら、王都にいるであろうユージさんを追って旅立つ。

 

ユージさんは「道中は兎も角、男の旅立ちは一人の方が良い」なんて事を言っていたけど……多分、僕の依存を見抜いていたんだと思う。

だから、一度は一人になる必要がある……そういう事なんだろう。

 

ユージさんは僕を仲間として認めている、と言ってくれた。

でも、こんな心配をされるのは仲間じゃなくて、ただの被保護者だ。……自分が情けない。

 

更にユージさんは僕に有用そうな修行計画(トレーニングプラン)が書かれた紙を渡し、装備に物足りなさを感じたならギルミア細工店に置いてある魔道具を購入すれば良いと教えてくれた。

 

……ギルさんの細工店に魔道具?

 

詳しく聞けば、ユージさんはここ数日の修行の合間にギルさんと合同で幾つかの魔道具を制作していたらしい。

それだけではなくて、武器屋や防具屋から購入した装備を魔道具に改良する作業もしていたそうだ。

 

まだ開発途中でユージさんが村に滞在している間は完成しなくても、僕が旅立つ頃には出来ている品もあるから必要そうなら自費で購入するように言われた。

まぁ、ギルドに登録してクエストをこなしていくんなら費用は問題ないだろう。既にユージさんの手伝いでそれなりの金額を稼いでいるし。

 

本当に至れり尽くせりだなぁ……本当に自分が情けない。

やっぱり、僕は一人で頑張る期間が必要なんだと強く自覚した。

 

 

そして――この日の午後、ついに行商人のエドワードさんが村にやって来た。

 

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