東方自探録   作:おにぎり(鮭)

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なかなか上手く書けないものですね……もっと精進できるように頑張ります…!


第5話 抑えられない感情

 霊夢と慧音が教室で講義を行っている間、一人客間で待たされることとなった尹。無礼な態度をとったとはいえ、客は客だとでも言うのか慧音が茶菓子を出してくれた。が、尹はそれに手を付けることなく中庭を眺めがながら刀を抱いて座り込んでいた。流石に、茶菓子に毒物の類を混ぜるなどと言った無駄なことをするほど慧音が愚かでないことは彼自身分かってはいる。だが、かといって他人の好意に甘えようなどと言う気は毛ほども起きないようだ。

 

「静かなところだな……」

 

 中庭を眺めながら尹は一人そう呟く。勿論、すぐ近くの部屋で霊夢たちが講義をしているから彼女たちの声や子供たちの声、そして里から聞こえてくる音などがあるから決して静かなわけではない。

 にもかかわらず尹が静かだと言ったのは、彼の世界に比べれば幻想郷の喧騒など圧倒的に静かであることに他ならない。

 毎日のように救急車や消防車、飛行機などと言った乗り物の音を筆頭に、様々な音が飛び交う外の世界に比べれば、尹にとって幻想郷はとても静かな場所に感じられた。それこそ、この場所が楽園に感じられるほどにまで。

 

「ふっ……楽園か。くだらね」

 

 たとえこの場所が外の世界に比べ楽園に感じられようと、楽園になることはない。尹は、すぐにそう考えを改めた。

 確かに、もう彼を馬鹿にする鬱陶しい虫けらも居なければ、面倒なだけの学校に通う必要もない。巷で流行っていたゲームや漫画と言った娯楽に尹はそれほど興味を持たなかったから、それがないであろうこの世界で娯楽に関して物足りなさを感じることもないだろう。

 けれど、この世界を楽園と呼ぶには決定的に足りないものが一つあった。いや、足りないものという表現は間違っているだろう。正確には、『失ってしまった』ものだから。

 

 どこか悲しげな色をした瞳で尹は刀の鍔をほんの少しだけ押し上げる。鞘から僅かに顔を見せた白銀の刃は、そんな彼の顔を歪ませて彼の顔を映し出す。刃に映った尹の顔は、どこか怒っているかのように見えた。まるで、彼を叱るかのように。

 それを見た尹は、自嘲気味に刀を鞘にしまうと一転して中庭の方を睨みつける。

 

「盗み見とは、感心しないな。もう少しマシな趣味を持つことを進めるぜ?」

「あやや……バレてましたか」

 

 いかにもワザとらしく失敗しましたと言いたげな表情で物陰から出てきたのはところどころ服が破けてボロボロになった文だった。服などは深刻なダメージを食らっても、そこは妖怪。肉体面ではそれ程問題はないらしい。とは言え、流石に霊夢たちと弾幕ごっこをするだけの体力は残っていなかったが。

 しかし、彼女はこれでもプライドの高い天狗の一人である。間違ってもそれをたかが人間である尹に言うつもりも、ましてや悟られるつもりもなかった。もっと言えば、手負いの自分であっても尹程度の人間に勝つことなど赤子の手をひねるよりも楽だと確信していた。事実、彼は三対一という不利な状況に立たされていたとは言え低級の妖怪に殺されかかったのだから。

 

「で?」

「はい?」

「何の用だ。用が無いなら消えろ。目障りだ」

 

 目の前にいる人物がよもや自分の約千倍生きている天狗だとも知らずに、無礼(ナメ)た口を利く尹。最も、たとえそれを知っていたとしても年長者としての威厳のかけらも見受けられない文を敬おうなどとこれっぽっちも考えないだろうが。 

 文も文で、尹の無礼た態度は大して気に留めていないようだった。確かに文のプライドは高いが、それに見合うだけの実力を兼ね備えている。それ故か、弱者である尹の高圧的な態度に一々反応するほど安っぽいプライドは持ち合わせていないようだった。 

 

 そんな余裕たっぷりな態度をとる文が気に食わないのか、尹は刀の鍔を押し上げ暗に脅しをかける。これ以上無礼た態度をとったら斬るぞ、と。

 ところが、文はそんな尹を見てどこかおどけた様子で両手を前に出して弁解をし始めた。どうやら彼の脅しはまるで意味を為していないようだ。

 

「あやや!? ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 私は何もあなたを怒らせに来たのではないですって!」

「…………」

「いやいや! ほんとですから!! だからその刀を納めてくださいってば!!」

 

 どうにも信用できないが、このまま刀をちらつかせていても相手が立ち去ってくれないということを悟った尹は、刀を納める。

 それを確認した文は、セールスマンもびっくりの営業スマイルで尹に近づいておもむろに手帖とペンを取り出した。

 

「で、私はあなたにお話が聞きたいのですよ!」

「話?」

「あ、申し遅れました。私、ここ幻想郷で発行されている文々。(ぶんぶんまる)新聞の記者、清く正しい射命丸文と申します! 以後、お見知り置きを」

「ふぅん……」

 

 文の自己紹介に、冷たい目線を注ぐ尹。よくもそんな痛々しい自己紹介が出来るものだと呆れを隠すことすら馬鹿馬鹿しく感じられた。

 そんな尹の目線も何のその。文は自己紹介を済ませるや否や、早速本題に入った。そう、これこそが彼女が今日ご機嫌だった一番の原因である。馴れないことをしてまで、尹の命を救った文の目的は彼に取材すること。その時が、ようやく訪れたのだ。

 

「では、いくつか質問させていただきますね」

「断る」

 

 早速、壁にぶち当たる文。とは言え、これまでの尹の態度からこうなることはすでに予想済みだったのでそれ程驚くことはなかったが。

 しかし、ここで引き下がるつもりは毛頭ない。折角見つけた新聞のネタなのだ、断られて「はい、そうですか」と諦められるはずがなかった。

 

「まぁまぁ、そんなことを言わずに少しだけでも……」

 

 だが、何しろタイミングが悪かった。先程の一連の出来事のせいで、自分の思ったように事が運ばずストレスが溜まっていた尹の怒りがここにきてついに爆発してしまったのだ。

 

「しつけぇな! いい加減目障りなんだよ、さっさと消えろ!!」

 

 気づいたときには遅かった。尹は、自分ですら止めることが出来ずに刀を抜刀していたのだ。……それも文の首筋に向かって真っすぐと。

 彼女の首に刃が食い込まんとする瞬間、そこで初めて尹は己が何をしてしまったのかに気づく。だが手遅れだ。一度全力で振りぬかれたソレは止まることなど出来はしない。後はもう、目の前の少女の首をはねることしか出来ないのだ。

 しかし、刀が文の首をはねることはおろか掠ることすらなかった。尹にとっては信じられないことだが、文は彼の抜刀を避けたのだ。それも、予備動作なしかつ尹が視認できないような速さで。

 

 安堵と驚愕の入り混じった感情を抱えながら、辺りを見回す尹の頭上から突如声が降ってきた。

 

「初対面の人に、随分なことをしてくれますね! 私じゃなかったら死んでましたよ、今の」

「……!! こいつも飛行可能か……!」

 

 魔理沙の言葉の意味を少しだけ理解できたことで、忌々しげに顔をゆがめる尹。一方の文はそれほど怒っているようでも、慌てているようにも見えなかった。むしろ、どこか喜んでいるように見える。

 勿論、文が決して痛めつけられることを快楽としているような異常者と言う訳ではない。ただ単に、何の知識もなしに低級とは言え三匹もの妖怪を屠った彼の実力の片鱗をその眼で見ることが出来たからに他ならないのだ。

 

「純粋な人の身でありながらその抜刀速度、なかなか目を見張るものがありますね?」

「…………」

「お話、聞かせてもらえますか?」

「……ちっ!」

 

 その舌打ちが答えとなった。当然、それは肯定の意を表す舌打ちだ。

 尹にとってはいささか不満だが、相手は自身の恐らく最速であろうあの抜刀を軽々と避ける相手である。腕に自信が無いわけではないが、戦闘になれば彼に勝ち目は万に一つもないだろう。

 第一、相手は空を飛べるうえにどういった戦い方をするのかも分かっていない。そんな相手に刀一本で挑んだところで勝率は限りなく零に近いのは尹にだって分かっていた。

 となれば当然、相手の要求を呑むしかないのである。今この状況で最も自分にとって不利益を被らない選択肢はそれしかないのだから。

 

 

     ☆

 

 

「いやぁ、中々興味深い話でした。ご協力、感謝しますよ」

「要は済んだか? なら帰れ」

「あやや……冷たい方ですね。いいじゃありませんか、もう少し位お話を……」

「アンタは……また墜とされたいの?」

 

 もう少し話を聞かせてほしいと尹にせがむ文に向かって明確な脅しをかけたのは霊夢だった。どうやら、子供達への講義は終わったらしい。だが、彼女の隣に慧音はいなかった。

 

「おい、あの女はどこにいった?」

「あの女? あぁ、慧音なら子供たちの見送りよ」

「ちっ……ガキなんぞ放っておけばいいものを」

「まぁ、良くも悪くもしっかり者だから許してあげなさいよ」

 

 寺子屋を訪れたのは他でもない慧音に仕事の仲介を依頼するためだった。それなのに、先のスペルカード騒動に霊夢の講義、極めつけは鬱陶しいことこの上ない新聞記者の取材だ。なかなか進む気配を見せないこの状況にいい加減我慢の限界を感じていた。

 そんな尹を見た霊夢が、呆れたように声をかける。

 

「アンタ、何をそんなにイライラしてるの?」

「お前には関係の無い話だ」

「ふうん……意外と短気なのね。そんなに自分の思い通りに事が運ばないのが不満?」

「なんだと……?」

 

 勿論、霊夢は尹の心が読めるわけではない。しかし、そう確信するのに十分な要因はあった。

 

「アンタ、私が来る前にここに来てたんでしょ? で、なおかつ慧音に用があったと」

「…………」

「でも、私達がちょっと騒ぎを起こしたせいで目的は果たせなかったのね」

「…………」

 

 尹は何も言わない。ただ黙って、霊夢をにらみつけるだけだ。

 そんな彼をだるそうに見ながら霊夢は己の推理を淡々と述べていく。

 

「さらに慧音が私に話をしろと言ってきて、アンタは除け者。極めつけはそこのパパラッチの取材を受けた。で、ようやく終わったかと思えば私一人」

「…………」

「まるであからさまに避けられているように感じるかもね。でもまぁ、仕方ないんじゃない?」

「あぁ?」

 

 霊夢の言葉に、もはや殺気すら漂わせ始める尹。はっきり言って、彼は霊夢が気に入らなかった。何でも見透かしたようなその態度に、どこか自分を見下しているような眼。一瞬、それが彼の世界にいた馬鹿共と被って見えさえした。

 その瞬間、抑えがたいモノが彼の中で膨れ上がる。見たところこの世界に外の世界ほど法律は厳しくなさそうだ。ならいっそ、気に入らない奴はこの手で黙らせればいい。恐らく、外より面倒な事にはならないだろうと尹は考えた。

 それは、かつて彼が必死に抑え込み続けてきたもの。

 

『邪魔なら消す。五月蠅ければ黙らせる』

 

 極めて単純、かつ決して許されない問題の解決方法。即ち、暴力による解決だ。

 大抵、こう言った偉そうな奴ほど口だけで実際はただのこけおどしにしか過ぎない。それが、これまで尹が見てきた連中に共通していることだった。

 奴らは、こちらがすこしでも攻撃の意志を見せると途端に目が泳ぎ始め、おどおどし始める。口では威張っているものの、怯えているのが丸わかりだった。挙句の果てには教師や親と言った後ろ盾を使って逃げるのだ。それもあって、彼は今までこの解決方法が出来ないでいた。

 それを行うことはつまり、自分を社会的に破滅させるということだからである。流石に、自滅をするほど尹も愚かではない。

 

 ところがどうだ、目の前に立つ少女はまるで怯える素振りも見せない。むしろ、どこか呆れたような雰囲気すら漂わせている。尹には、それがこの上なく気に入らなかった。 

 一方、霊夢は面倒な奴が外から紛れ込んだものだと内心で大きなため息をついていた。この手の人間は、怒らせると手が付けられなくなるのだから。

 スペルカードルールを彼が知っているならば、彼を止めるのは容易い。だが、仮にそうでなかった場合はこれまた面倒なことになってしまう。

 どうしたものか、と霊夢が考えているところに慧音が戻ってきた。

 

「すまない、待たせたな……ってこら! 何をしている!?」

「あ? がぁっ!?」

「う、うわぁ……派手に決まりましたね……」

「文、アンタまだいたの?」

「勿論、なかなか面白いことになりそうでしたから!」

 

 いったい何が起こったのか?

 霊夢と睨み合っていた尹は、半ば無意識に鯉口を切っていたのだ。つまり、いつでも抜刀できる状態になっていた。

 そこに慧音が戻ってきた。慧音から見たら、尹が霊夢に斬りかかろうとしているように見えたに違いない。それゆえ、彼女は尹に渾身の頭突きを食らわせたのだ。

 

「あ……つっ………………」

「お前は! 一体今何をしようとしていた!?」

「慧音、落ち着きなさい。彼、気絶したわよ」

「はっ! 私としたことがつい……」

 

 緊急事態だと誤認した故か、手加減し損ねた慧音の頭突きの威力はただの人間の尹には強すぎるものだったようで、完全に気絶していた。

 それを見て頭を抱える慧音と、ため息をつく霊夢。文はいつの間にかその場から姿を消していた。大方新聞記事の作成のために帰ったんだろう。

 

「とにかく、この少年が目が覚めるまではしばらく待つしかないか……」

「そうね。じゃあ、後は任せたわよ慧音」

 

 そう言ってそそくさと帰る霊夢を見送り、慧音は(もんだいじ)を寝かせるために布団を引き始めた。彼が起きた後のことを考えてため息をつきながら。

 

 

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