東方自探録   作:おにぎり(鮭)

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遅くなってしまいました。話がうまくまとまらず、モチベーションもガタ落ちしていたのでなかなかかけずにいた結果です。
 まぁ、それでもクオリティはイマイチですが……サブタイトルも思いつかなかったし……

 それでは第7話、どうぞ


第7話 意外な一面

 不本意ながら寺子屋で臨時の講師をやる羽目になったこと以外特に変化の無い一日が無事に終わり、霊夢は縁側に腰掛け月を見ながら茶を啜っていた。勿論、今日新しく買い足した少し高価な茶葉を使っている。

 

「ふぅ……ちょっと高いのを買うだけでこんなにおいしくなるものなのね」

「そうねぇ。貴女がいつも入れる三番煎じのお茶と比べると何倍もおいしく感じるわ」

「あぁ、いつも茶葉を使いまわしてるからそう感じる……って紫、何勝手にお茶飲んでるのよ」

 

 あたかも当たり前のように霊夢の隣に腰かけ、茶を啜っている紫にやや不機嫌そうな表情をする霊夢。無論、折角の新しい茶を一人で楽しんでいるところに水を差されたからである。ついでに言うと、自分の分の茶が減ったから、と言う理由も混ざっていたりする。

 そんな霊夢のことなど大して気に留めず、おいしそうに茶をすする紫。実際、おいしいのだろう。湯呑の中の茶が無くなったことに気づくと、少々残念そうな表情をした後、さも当然のように急須の中に残っている茶を自分の湯呑に注いだ。

 そんな紫を見て、もはやため息しか出ない霊夢。紫のこういった振る舞いは、今に始まったことではない。一々彼女の自分勝手な行動に目くじらを立てていたらこちらの身が持たなくなってしまう。それに、いずれ魔理沙を始めとする神社の訪問者の胃袋に消えて行ってしまうのだ。気にするだけ無駄だろう。

 そう結論付けた霊夢は、紫の態度にツッコむことをあきらめ、自らも茶を啜る。そして、湯呑を横に置きながら紫に問うた。

 

「で、何の用?」

「あら、よく分かったわね。私が話したいことがあるってこと」

「アンタが私の所に来るときは大抵何かしら用事がある時でしょ」

「うふふ。確かに、そうかもしれないわね」

 

 霊夢の言葉に対し静かに笑う紫は、しかし真剣な眼つきをしていた。彼女の眼つきを見て、霊夢も多少真剣な目をする。どうやら、それなりに真面目な話のようだ。

 

「何故、あの外来人を外に帰さなかったの?」

「アイツが拒否したのよ。一度言い出したらテコでも動かなそうな感じだったし、神社の外が危険だと警告もちゃんとしたわ」

「でも、彼は生き残ったわ。まぁ、どこかの天狗が気まぐれを起こして助けたからだけど」

 

 どこかの天狗、とは言わずもがな文のことである。その紫の言葉にどこか納得したような表情をする霊夢。

 

「なるほど。それで今日文がやけにご機嫌だったのね。あの外来人に取材できるから」

「ネタになるなら何でもやるっていうのはあながちウソでもないかもしれないわね。こっちからしたらいい迷惑だわ。おかげで監視対象が出来ちゃったんですもの」

「アンタはどうせ藍に任せっきりでしょ」

「あら、バレた?」

 

 扇子で口元を隠しながら微笑(わら)う紫を呆れたように見る霊夢。だが、二人ともすぐに真剣な表情に戻った。

 

「まだよく分からないけど……彼、能力持ちみたいね」

「……あの馬鹿が?」

「えぇ。それも結構厄介なやつみたい」

 

 そう言いながら紫はつい先刻のことを思い出す。尹を中心に発生した風圧を受けた直後、ほんのひと時だったとはいえ自分の能力が使えなくなってしまったあの瞬間のことを。

 もう千年近く生き続けてきた紫ではあるが、尹のような能力を見たことはなかった。最初に彼の能力が発現したのは、低級の妖怪との戦闘時。妖怪の攻撃が当たる正にその瞬間、異質な音が辺りに響き妖怪たちが吹き飛ばされた。

 二度目は先程紫が尹と対峙した時。今度は、彼の周囲の物は何も吹き飛ばなかったがその代わりに紫は能力が使えなくなってしまった。これまで一度も自らの能力を破られたことのない紫にとっては屈辱的ですらあったあの一瞬。だが、十数秒経つ頃にはスキマも開けるようになっていたし、弾を生成できたことから妖力を封じられたわけではないようだ。

 それでは一体、彼の能力の何が彼女の能力を奪ったのか? それが分からなかった。そして、そのことが余計に紫を苛立たせる。

 

「……紫? ちょっと、紫!」

「……え、あ……何かしら?」

「何かしら、じゃないわよ。どうしたの? そんな怖い顔して。紫らしくもない」

 

 霊夢のその言葉にはっとする紫。どうやら相当に剣呑な表情をしていたようである。慌てて取り繕うように笑った紫は、しかしまだ苛立っていた。余程、先刻の出来事が屈辱的だったようだ。

 そんな紫を見て、茶菓子を取りに行く霊夢。こういう時の彼女はあまり下手に絡まないほうが良いことを知っているからだ。天人の娘である比那名居天子(ひななゐてんし)が異変を起こした時の紫は、彼女をよく知っている霊夢ですら若干恐怖を抱くほど怒っていた。正に触らぬ神に祟りなしと言う言葉がぴったりの状態だったのである。

 今回はその時には遠く及ばないにしろ、やはり下手に突っつきまわすのは良くないと持ち前の直感で察した霊夢。故に茶菓子を取りに行くというお題目でその場をいったん離れたのだ。丁度、彼女が用意していた茶も急須に残っていなかったから、と言うのもあるが。

 

 茶を淹れている間、霊夢は尹について考えていた。紫をあそこまで不機嫌にさせた彼の能力に興味が沸いたのだ。最も、興味が沸いただけでそれについて調べる気にはならなかったが。

 いずれ、誰かが彼女の元にソレを知らせに来ることはわかっていたし、あんな短気な輩と付き合っていたらこちらの命がいくつあっても足りない。お賽銭を納めてくれたことには感謝しなければならないが、出来ればこれ以上尹と関わるのは御免被りたいと感じていた。彼と関わっていればいらぬ争いに巻き込まれかねないのは目に見えていたからだ。

 だが、彼女の勘は近いうちに再び彼と会うことになると告げていた。

 

 

     ☆

 

 

 尹が目を覚ました時、辺りは既に明るくなりかかっていた。どうやら、あの戦闘行為の後気を失っていたらしい。

 まだ靄がかかったようにぼんやりとした意識のまま、体を起こす。体がとても重い。まるで、文字通り鉛でも詰め込まれたかのような感覚だった。

 だが、今日から早速寺子屋で講師として働かなければならない。たかが体が重く感じるくらいで休むわけにはいかなかった。

 再び寝転がりたいという願望を無理やりねじ伏せ立ち上がる。足元がいまいちおぼつかないが、一歩ずつ確実に歩を進めて部屋を出た。気絶した彼を布団に寝かせてくれたのは慧音だろうが、まだ完全に日が昇ったわけではない。彼女はまだ寝ているだろうから挨拶は後回しで構わないだろうと思った尹はまず顔を洗った。

 冷たい水で顔を洗ったことでぼやけていた意識が覚醒する。だが、体のだるさまではどうしても取れなかった。どうやら、思った以上に昨日の出来事が堪えているらしい。

 この程度で、と舌打ちをしながら振り返ると一人の少女が彼の前に現れた。妹紅である。

 

「お、目が覚めたんだな」

「……アンタは」

「昨日寺子屋の中ですれ違っただろ? あぁ、名前は藤原妹紅だ」

藤原(ふじわらの)? 藤原(ふじわら)じゃないのか」

「いや、藤原(ふじわらの)だよ。最近じゃあ『の』がつかないらしいけどね」

 

 まるで昔の時代の人間だと言っているようなその言葉に、尹は怪訝な顔をする。この時点では勿論妹紅が不老不死であることを彼は知らない。

 となれば、彼女の名前に違和感を感じるのは避けられないことだった。彼の世界に藤原(ふじわら)と読む姓の者は多くいたのだが、藤原(ふじわらの)と読む者はいない。かつて学校で昔の時代の藤原姓は藤原(ふじわらの)と言われていたことは習ったものの、所詮はテストを切り抜けるための知識程度でしかなく本当にそう呼ばれていたのかどうかは知らなった。資料で見る以外に知る方法もなかったが。

 だが、今現在目の前には実際に昔の藤原姓を名乗る少女がいる。自ら名乗る時点で偽名を使う意義はないだろうし、嘘を言っているようにも見えない。となれば、彼女はタイムトラベルでもしたのだろうか。

 そんなことを尹が考えていると、妹紅が居心地が悪そうな顔をした。

 

「私に何かおかしなものでもくっついてるか? あんまりじろじろ見られるのは好きじゃないんだけど……」

「……いや、なんでもない」

「そうか? それならいいけど」

 

 どうやら、不快感を与えるほど相手を凝視してしまったようだ。誤魔化すようにガリガリと頭をかきながら妹紅の横を通り過ぎようとした時、背後から声がかけられる。

 

「アンタ、名前は?」

「……木野尹」

「尹か。ま、これからよろしくな」

「…………」

 

 妹紅の言葉に対して特に返事をすることなく、尹はその場を後にした。そんな彼を見て、妹紅はどこか暗い表情をする。

 それは、かつての……いや、現在の自分と被るからだろうか。明らかに他人との距離を取ろうとする尹を見て、まるで自分のようだと思わずにはいられなかった妹紅。彼女も、以前ほどではないにしろまだ他人と距離をとってしまう。宿敵であり悪友の輝夜や親友の慧音とは親しくできるものの、そうではない里の人とはやはり距離を取りがちなのだ。

 自分のような常軌を逸した存在が恐れられないとはいえ、やはり自分は普通の人間ではないと言うことがそうさせてしまうのだろう。反面、慧音のような半人半妖と言った特殊な存在とは気兼ねなく付き合うことが出来た。博麗の巫女こと霊夢や魔理沙も人間ではあるが、彼女たちも明らかに里にいる普通の人間とは一線を画す存在である。故に彼女たちともそれなりに友好関係を築くことが可能だった。

 

 だが、尹はどうだろう? 彼はこれと言って特殊な人種でもなさそうだし、霊夢たちのように何か力を持っているわけでもないように見える。それに、慧音から聞いた話では人妖問わず友好的ではないらしい。

それは、昨日すれ違った時に彼から送られた視線からも分かることだった。あの眼は、明らかに他人を遠ざけようとする眼だったのだ。

 いつだったかスキマ妖怪が言った言葉がある。『幻想郷はすべてを受け入れる』と。実際その通りだった。外の世界で忌み嫌われる妖怪たちや、自分のようなイレギュラーをも受け入れこの世界は何事もなかったのように回り続けている。だが尹が幻想郷と言う場所を受け入れない限り、彼に居場所はないのではないだろうか。最も、そう思われている本人は自分の居場所などどこにもないと諦観していたが。

 

 

     ☆

 

 

 尹が妹紅と出会った後、慧音も起きだしてきて朝食を済ませることになった。相変わらず不愛想な尹だったが、朝食が済んだあとに彼の意外な一面が垣間見られることになる。

 

「それじゃあ木野、この紙を教室に持って行ってくれないか?」

「…………」

 

 無言でプリントを受け取り、黙々と仕事をこなす彼の姿はまさに機械だった。子供達を相手にするには少々人格に問題ありだが大丈夫だろうか、と不安に思う慧音だったがそれは次に彼を見たとき少しだけ解消されることになる。

 

「にゃ~ん」

「……猫?」

 

 いったいどこから入り込んだのか、尹の前に黒猫が一匹現れた。普通と違うのは尻尾が二本ある、と言うことだろうか。池にでも落ちたのか、ずぶ濡れである。

 猫がいることに気づいた瞬間の尹の眼つきはいつも通り鋭すぎるそれだったが、次の瞬間その鋭さは影をひそめていた。そして、おもむろに黒猫の前にしゃがみ込むと右手を差し出す。黒猫は、それに合わせるように彼に近づいて行った。

 十分近くまで黒猫が寄ったことを確認した尹は、なんと黒猫を抱き上げるとそのまま慧音の元へと向かった。

 当然、慧音と妹紅がそのミスマッチな姿に驚いたのは言うまでもない。

 

「き、木野……その猫は?」

「知らん。気が付いたら近くにいた。で、こいつずぶ濡れなんでタオルを貸してほしいんだが」

「あ、あぁ……ちょっと待っててくれ」

 

 驚きを隠せぬままタオルを尹に手渡すと、彼は胡坐をかいてその上に黒猫を乗せる。そして、優しくその体をふき始めた。

 

「意外だな……尹、お前動物が好きなのか?」

「人間と比べて裏表がないからな」

「そうか」

 

 そういった尹だったが、それがただの建前であることは明らかだった。その証拠に今の彼の表情はとても穏やかなものであり、体を拭かれている黒猫も気持ちよさそうにしていたからだ。……ただ、その黒猫の正体を二人は知っているが故に少々険しい表情をする。

 その猫は、間違いなく八雲紫の式である八雲藍が扱う式の橙だった。濡れているところから察するに、池か何かに落ちて式が剥がれ、一時的に猫の姿になってしまったのだろう。

 式が剥がれても記憶は式神の状態から引き継がれるはずなので、昨日紫が来た以上橙も尹の存在を知っているはずである。昨日の様子からすると、明らかに尹は紫と敵対していたようなので彼に気を許すようなことは普通しないだろうが、尹の膝の上にいる橙はこれと言って暴れる気配も見せない。

 だから、二人はやや警戒をしていた。紫が一体何を考えているのかが読めないからだ。彼女は策士であるから、いろいろな人物を駒や囮に使うことが多い。だが、友人や家族同然の式たちを利用することこそすれ、捨て駒として扱うようなことはしない人物でもある。

 そのため、何か目的があって橙をここに送り込んだと二人は推測を立てていた。もしくは、単なる偶然か。あるいは、その両方か。

 それは、すぐに明らかになった。……寺子屋に半狂乱になって橙の名前を叫びながら八雲藍が飛び込んできたことによって。

 

 つまり、ただの偶然だった。ちなみに、半狂乱の藍を見て尹が思わず戦闘態勢を取ってしまい話がこじれたことをここに記しておく。

 

 

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