東方自探録   作:おにぎり(鮭)

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ご無沙汰してます。えー、久しぶりなんで上手くまとまってないです。次回も投稿時期は不明。


第9話 宴会にて

 日が完全に暮れ空に星が瞬き始めた頃、慧音は妹紅と共に博麗神社へと降り立った。

 既に準備はあらかた済まされており、他の参加者もそれなりに集まりつつある。恐らく、宴会が開始されるまでそれ程時間はかからないであろう。

 

「お、来たな二人とも」

「魔理沙か。……って、お前もう酒飲んでるのか? ちょっと早すぎだろう」

「堅いこと言うなって。宴会は楽しむもんだぜ、慧音?」

「そうよ。宴会はいつも騒いでなんぼなんだから」

 

 そう言いながら神社から酒瓶を持ってきたのは霊夢だ。きっと今回も準備のほとんどを彼女がしたのだろう。少々疲れた表情をしていた。また、魔理沙に同意するような言葉とは裏腹にどこか面倒くさそうにしている雰囲気もある。それもそうだろう。本来妖怪が来ないはずの博麗神社に一癖も二癖もある妖怪たちが集まってどんちゃん騒ぎをするのだから、面倒なことが起きないはずがない。

 それも、中には幻想郷のパワーバランスを担っているような大物までいるのだ。そんな大物が一か所に集まって平穏に過ごせたらばそれはそれで異変である。

 とは言え、自分が主催の宴会なのだからそんなに面倒くさそうな雰囲気を出すものではないのではないかと思ってしまう慧音だった。

 

「そういえば、あの外来人は連れてこなかったのね」

「ん? あぁ、木野は疲れてたみたいでな。確認したら『行かない』と即答されてしまったよ」

「ふうん? ま、アイツが来ると雰囲気ぶち壊されそうだったし、よかったわ」

「…………」

 

 霊夢の歯に衣着せぬ物言いに思わず声を荒げてそんなことはないと反論しそうになった慧音だったが、否定もできないので拳を握りしめることで我慢した。実際、彼を連れてきたところで参加者たちの輪の中に入れるかと聞かれたならば答えがNOなのは明らかである。それでも、今日一日木野尹という人物を見てきた慧音は決して彼が悪い人間だとは思えなかった。むしろ、本当は人と関わることが好きなのではないか、とすら思えたのだ。

 慧音とて、自分の人を見る目が確かであると確信できるほど自惚れているつもりは無い。けれど、子供達に教える時、気を使っていたのか冗談を交えながら教えていた(ただし真顔で物騒な冗談を言ったためそれと気づかなかった慧音に叩かれたが)尹の姿を見て、少なからず彼が他人とふれあうことを心の底から嫌っているわけではないということが分かった。

 そんな尹のことを考えている慧音の近くで魔理沙が霊夢に問う。

 

「なぁなぁ、その『木野』ってのはそんなにイカレてるやつなのか?」

「そうね、少なくとも自分の命を顧みずに境内から出ていく位イカレてるわ。というか、アンタアイツに会ったことなかったっけ?」

「そうだったか? ……あぁ、昨日寺子屋に入っていった外来人か」

「今は私が寺子屋で保護しているよ」

「へー。で、アイツはどこにいるんだ?」

 

 そんな魔理沙の問いに、さっき慧音達が付いてこなかったって言ったでしょうと霊夢が突っ込みを入れる。

それを聞いた魔理沙は少しばかり残念そうな顔をした。

 

「ちょっと残念だぜ。折角いろいろ聞いてみたかったんだがな」

「やめときなさい。アイツ、ちょっとしたことで怒り出すから」

「そんなに酷いのか?」

「ひょんなことでカッとなって刀振り回しそうになるくらいにね」

「口より手が先に動くタイプか……鬼たちと相性がよさそうだな」

 

 そう言って魔理沙は笑いながら酒を煽る。慧音は魔理沙の言葉に何とも言えない感情を抱いたが、これ以上ここにいない者のことを考えていても仕方がないと思い自分も酒を飲むことにした。

 

 

     ☆

 

 

 慧音達が博麗神社に到着したころ、尹は未だに部屋の隅で小さくなって眠っていた。慧音には夕食は台所の食材を使って何か作るか外食をしてくれと言われていたが、尹はそのどちらもやるつもりはなかった。

 つまり、彼は夕食を食べずにこのまま眠るつもりなのだ。慧音に知られたのならば間違いなくお小言をもらうことが確定してしまうだろうが、そんなものは今の彼にとって些細な問題でしかない。とにかく、今日の朝からずっと続いている体の倦怠感を早くなくすために休んでいたかった。

 お節介な家主もいない今、それを行うことは簡単なことだ。布団を敷いて寝ようかとも思ったが、一度座り込んでしまった以上再び立ち上がる気力はもうなかった。

 

「あらあら、随分とまた変わった睡眠のとり方ね? まるで蓬莱人形のよう」

「!?」

 

 闇に沈みかかった意識が、一瞬にして覚醒する。聞き間違えるはずがないその声は、昨日いきなり尹に攻撃を仕掛けてきた紫のものだった。

 当然、意識の覚醒と共に刀を握りしめていつでも抜刀できるように構えをとる。

 

「うふふ……安心して。今日は別にお仕置きをしに来たわけじゃないから」

「……八雲…紫……!」

「あらあら、いつの間に私の名前を?」

「ここの家主に聞いた。それだけだ」

「ふうん?」

「で……また()りにきたのか?」

 

 紫を睨みつけながら放った尹の言葉に、紫はクスクスと笑いながら答える。

 

「闘う? まさか。仮にそうだとしてもそれはただのワンサイドゲームにしかならないから、闘いとは言わないわね」

「…………」

 

 紫の態度に若干の殺意を抱くが、事実昨日戦闘した時に尹は手も足も出なかった。一瞬、自分を中心に放たれた何かを受けた彼女が驚愕していたからそれを出すことが出来れば一撃当てることくらいはできるかもしれない。だが、自分でも何をしたのかよくわかっていないものをそう都合よく出せるはずもないので、結果的にここで戦ったとしても再び負けることは必至だった。

 となると、戦闘は出来るだけ避けたほうが良いというのは明らかだ。しかし、紫の目的が分からない以上、下手に警戒を解くわけにもいかない。故に、尹は刀を握りしめたまま紫に問う。

 

「……何が目的だ」

「貴方の持っている力について、何か教えてほしいのよ」

「力? 何の話だ」

 

 紫の言葉に怪訝そうな表情をする尹。力とはいったい何を示しているのか、彼にはイマイチ分からなかった。勿論、思い当たることはある。ここに迷い込んだ直後に襲ってきた妖怪たちとの戦闘中、絶体絶命の彼を救った不可思議な現象。そして、昨日の戦闘の時に自分から発せられた何か。それらが全て彼自身の力で起きたものならば……

 だが、尹は別に意識してこれらの現象を発生させたわけではない。そもそもの話、自分があれを発生させた確証があるわけでもないのだ。そんなものについて聞かれても、答えられるわけがない。

 紫も、尹が自身の力に気づいていないことを察したのかそれ以上問い詰めることはせず、代わりにため息を一つついた。

 

「まぁいいわ。いずれ、分かる日が来るでしょう」

「…………」

「そんなに睨まないで頂戴。貴方が私の警告をしっかり聞いてくれている限り、手は出さないわ」

「信用できねぇな」

「はぁ……頑固ねぇ。いいわ。折角だから、貴方も一緒に飲みましょう」

「ナニ?」

 

 尹がいったい何の話をしているんだと言わんばかりの表情をした途端、彼の足もとにスキマが開かれた。

 

「なっ……!?」

「外来人一名、御案内~」

 

 なすすべもなくスキマの中に落ちていく尹を見ながら、心底楽しそうにそう言った紫もまたスキマの中に消えていく。そして、寺子屋には静寂だけが残された。

 

 

    ☆

 

 

「それにしても、文が情報ばらまくとこうも簡単に人が集まるもんなのね」

「私は幻想郷最速のブン屋ですから」

 

 急遽決行を決めた宴会なのにも関わらず、博麗神社にはいつも通り大勢の人妖が来ていた。勿論、文が自慢のスピードで幻想郷中を駆け回り情報をばらまいたおかげである。

 こういう時だけは忌々しいあのスピードも役に立つものだと心の中でつぶやく霊夢。

 

「顔に出てますよ霊夢さん」

「こっち見んなパパラッチ」

「あやや……酷い言われようですね」

「そう思うならもっとまともな記事を書くことね」

 

 私はいつも真実を伝えていますと憤慨する文を無視して霊夢は境内のある場所を見据える。何故なら、もう飽きるほど感じた感覚がそこからしたからだ。

 そして、その直後そこにスキマが開かれる。が、そこから現れたのは予想外の人物だった。

 

「がッ!?」

「なっ!? 紫……何を考えてるのよ……」

 

 大きなため息をつきながら言った霊夢の言葉に、スキマを使って後ろから現れた紫が答える。

 

「うふふ、頑固な彼とちょっと親睦を深めようかと思って」

「……アンタの考えてることが分からないわ」

 

 紫の言葉に呆れる霊夢の視線の先にいるのは、尹だった。いきなりの空間転移にいささか混乱している様で、辺りをぐるぐると見回している。それだけなら、何の問題もなかった。

 問題だったのは、そんな彼に近づいた人物である。

 

「怪しい奴! 何者だ!」

「? ッ!?」

 

 尹がその人物の方を向くと同時に、辺りに甲高い音が響く。それは、刀と刀がぶつかり合った音だった。

 その場にいる全員が鍔迫り合いをしている彼らに目を向ける。その中で、尹は驚愕していた。何故なら、彼に襲い掛かってきた人物は見た目彼と同じか年下の少女だったのだから。

 名も知れぬ少女は尹にむき出しの敵意を隠そうともせず問う。

 

「貴様、一体何者だ!」

「この世界は斬りかかってから挨拶をするのが常識なのか!?」

「質問してるのはこちらだ!」

「答える義務はない!」

「この……人間風情が!」

「ガキが…!」

 

 徐々に二人から発せられるソレは敵意から殺意へと変わっていく。ぎりぎりと金属同士が擦れる音だけが辺りに響いていた。尹が現れたことに気づいた慧音が、慌てて止めようとするがそれは妹紅に止められた。

 

「妹紅!」

「慧音、今アイツらの気をそらすようなことしたらどっちかが大けがするぞ」

「だが、木野では妖夢殿には……」

 

 そう慧音が言いかけた時、妖夢と呼ばれた少女の方が動き出した。絶妙なタイミングで力を緩め、尹の刃を横に捌いて返す刃で彼に斬りかかる。が、尹も黙ってやられるわけにはいかなかった。捌かれるのを直前で見切った彼は咄嗟に左手を刀から離し、鞘を握る。

 

「もらっ……」

「甘ぇんだよ!」

 

 そして、迫りくる刃を左手に握った鞘を振り上げて弾く。体勢を崩した少女にそのまま右手の刀で追撃をかけるが、少女はこれを紙一重で避けた。そのまま、彼女は尹から距離をとる。

 普通なら直撃させられる一撃を、紙一重とは言え躱されたことに舌打ちをする尹。だが、同時に言いようのない高揚感が彼の中にくすぶっていた。

 どうやら、それは相手も同じだったようだ。先程までの敵意と殺意は彼女から消え、代わりにその顔はどこか嬉しそうな笑みを浮かべている。

 

「貴方、名前は?」

「木野尹だ」

「私は白玉楼の庭師兼剣の指南役、魂魄妖夢」

「剣の指南役……ねぇ。それじゃあ、ちょっとその腕見せてもらおうか」

 

 ここに来て、尹の高揚感は確かなものとなった。祖母が他界し、ずっと一人で修練を積んできた尹の腕をようやくちゃんと試すことができるのだ。目の前の少女がどこまでやれるのか、祖母よりやれるのかどうかは分からないが自分で指南役と言うくらいなのだから恐らく彼よりも強いのだろう。

 それでも、尹は妖夢にその実力を見せろと言った。彼は知りたかったのだ。どこまで自分が祖母に近づいたのかを。

 そんな彼の想いを察したのか、それとも彼女も彼と想いなのか妖夢は再び構えを取る。それに合わせて、尹は一度納刀した。勿論、逃げるわけではない。抜刀術の構えである。

 挑戦的な笑みを浮かべ、妖夢が口を開く。

 

「それじゃあ、いざ……」

「尋常に……」

『勝負!!』

 

 まず動いたのは妖夢だった。尹に向かって、思い切り地を蹴る。そして、彼女は一陣の突風となった。

 

「!?」

 

 正に突風だった。尹にとっては視認すら不可能な速度でこちらに向かってくる刃を、彼は本能的に姿勢を低くして躱す。頭のすぐ上を刀が空を切っていく音が鮮明に聞こえる。迷っている暇はなかった。すぐさま、尹は妖夢にタックルを食らわせる。

 予想外の攻撃に僅かにたじろいだ妖夢は、避けようと後ろに飛び退こうとしたが既に手遅れだった。見事にタックルを食らい、尻餅をつく。しかし、尹は追撃をしようとはしなかった。否、出来なかったのだ。

 タックルを当てることで妖夢の攻撃を中断させることは出来たが、無理な体勢からのタックルをしたせいで自分も態勢を崩していたのだ。そして、タックルした時の勢いを殺しきれずそのまま前に倒れこむ。

 

「わ……ちょっ……!?」

「ヤベ……」

 

 顔を地面にぶつけるまいと、尹は咄嗟に両手を前に出した。が、それが失敗だった。本来地面につくべきだった手は妖夢の両肩に当たり、結果として彼女を押し倒す形になってしまったのだ。

 

「…………」

「あ~……その…大丈夫か?」

 

 予想外の状況に混乱しながらも、辛うじてそう言った尹は妖夢から手を放し一歩距離をとる。

 

「…大丈夫かと聞くなら、起こしてくれてもいいんじゃないですか?」

「男の汚い手なんぞ触りたくないだろう」

 

 この発言に驚いたのは既に彼に会ったことのある者たち全員だった。

 

「い、異変だわ…」

「こりゃ驚いた。まさかアイツがあんなことを言うなんてね……」

「あらあら…中々可愛いところあるじゃない」

 

 霊夢と妹紅は驚いた表情をし、紫は紫でどこか愉快そうな表情をする。尹は、それらに気づいていながらも特にリアクションを返すようなことはしなかった。

 

「…まぁいいや。なんか別にここは闘り合うような場所でもないみたいだし。続きは後日改めてだな」

「そうですね。先程はいきなり斬りかかってごめんなさい…」

「全くだ。お前はどういう教育をされてきたんだよ…」

「いやぁ…未だに取りあえず斬りかかれば何か分かるかもって癖が抜けなくて……」

 

 上体を起こし、頭をかきながら苦笑しながらそう言った妖夢の言葉に唖然とする尹。一体どうやったらそういう思考になるのか彼には全く理解できなかった。そんな彼の元に慧音が近づく。

 

「災難だったな、木野」

「……アンタがここにいるってことは、やっぱりここは宴会場か」

「紫殿に連れてこられたのか。何があったんだ?」

「さぁな。俺の力がどうとかなんとか言われたぜ」

「? お前、能力を持っているのか?」

「そんなものがあるなら教えてほしいね」

 

 慧音の問いにそれだけ返すと、尹は落してしまっていた刀を拾う。と、その途端に彼はその場に膝をついた。

 元々朝から体に倦怠感を感じており、調子が悪かったところに妖夢との打ち合いでさらに体に負担をかけたためついに限界が来たのだ。

 

「お、おい! 大丈夫か!?」

 

 慧音の声をどこか遠くで聞いているような奇妙な感じを受けながら、尹の意識は闇へと落ちていった。

 

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