父親に真央霊術院に入学したいと言ったら二つ返事で了承してくれた。最初から否定はされないだろうと思っていたが、本当に適当すぎる。
何せ俺の言葉に対する返答が「ふぅーん、好きにすれば?必要な金は自分で出せよ」だったのだから。放任主義にもほどがある。
そんな感じで俺は死神になるべく真央霊術院に入学したのだが……退屈だ。授業は簡単だし、俺の商人の経験からして同期にダイヤの原石と呼べるような奴はいなかった。
先生も大したことないし。アレなら数年もあれば余裕で抜けるだろう。
天宮家からは死神になった奴がいないから基準がイマイチ分からなかったが、俺は元々霊力が高かったらしいから当たり前といえば当たり前なのかもしれないが。
ただ霊術院時代に一人だけ面白い人物に出会った。一度だけ講義にやってきた五番隊隊長――藍染惣右介だ。周りの連中は「優しそう」とか「格好良い」とか言っていたがとんでもない。
確かに穏和な見た目をしていたが、アレは当時の俺の知識では理解すら出来ない化物だ。一目見た瞬間から恐怖が体を支配し震えが止まらず、講義がマトモに頭に入ってこなかった。
あの時の講義は生きた心地がしなかった。下手な動きをすれば殺されるとさえ錯覚していた。冷静に考えればそんな行動をするとは思えないのだが、そう勘違いさせるだけの圧倒的な圧力が藍染惣右介にはあった。
それからはサボり気味だった授業にも参加するようになった(回数が減ったというだけでサボリが完全になくなったわけではないが)。少しでも早くあの領域に辿り着くためだ。化物を理解するには自分も化物になる必要がある。
その結果、本来なら六年かかるところを四年で卒業した。前に一年で卒業した規格外れの天才児がいたというから、それに比べたらまだまだだな。確か名前は市丸ギンだったか。
最初の三年を適当に過ごしていたのが悔やまれる。最初から本気を出していたら市丸ギンの記録を抜けたかもしれないのに。……いや、さすがにそれは無理か。
よくて二年ってところだろう。まぁ、そんなことはどうでもいい。重要なのは護廷十三隊に入隊してからだ。
俺は入隊試験に一発合格して護廷十三隊への配属が決まった……のは良いのだが、ここで問題が起きた。配属先がまさかの十一番隊だったのだ。
十一番隊は荒くれ者が多く、女性はほとんどいない。つまり護廷十三隊一、むさ苦しい隊だ。まさか俺が一番行きたくなかった隊に配属が決まるとは。誰の嫌がらせだよ……。
隊長の名前は鬼厳城剣八。実力は高いが、それだけの乱暴でつまらない男だ。隊首会や四十六室の意向を無視することも多いと聞く。俺にとっては尊敬どころ嫌悪の対象だ。見た目も醜いしな。
俺が本当に入りたかったのは八番隊か十二番隊だ。他にも面白い隊長はいたが、八番隊隊長――京楽春水と十二番隊隊長――涅マユリが一番俺の興味を引いた。京楽春水は俺と気が合いそうだし、涅マユリの元なら市場に流通していない怪しい発明品を見れそうだ。
五番隊にも興味はあるが、入りたいとは思えない。というか怖い。藍染惣右介に関わるにしてもはまだ時期が早すぎる。俺がもっと経験を積んで色々な意味で強くなってからでも遅くない。
十一番隊に入隊してから一ヶ月が経った。
もう限界だ!隊員は何も考えていない口だけの戦闘馬鹿ばかりだし、隊長は俺のことが気に入らないのか面倒事を押し付けてくるし、何より四番隊の女性隊員をナンパしたら十一番隊だという理由だけで断られた!
こんな生活には耐えられない!全体的に潤いが足りない! 入隊してから一回も女性を抱いてないし!こんな苦しいだけの意味のない時間を過ごしたのは生まれて初めてだ!卯ノ花隊長に罵られたりたい!
こうなったら移隊届けを出すしかない!そう思って移届隊を持って隊舎にやってきた日、俺は二度目の運命の分岐点に遭遇した。
鬼厳城隊長が流魂街がやって来た一人の男に負けたのだ。それも一方的に。
ところで少し話が変わるが隊長になるには三つの方法があり、そのうちの一つに「二百名以上の隊員の立ち会いのもと現隊長を一騎討ちで倒す」というものがある。
更に言うと正確な数までは分からないが、俺を含めてこの場には二百名以上の隊員がいる。つまり流魂街から来た謎の男は隊長になる条件を満たしたことになり、今から俺の隊長になるということだ。
後、それと同時に最強の死神の称号である「剣八」も継いだことになるのだが、今の俺にとってその程度は大した問題ではない。
体中の血液が沸騰し、精神が異常なまでに昂っていくのを感じる。この感情をなんて表現したらいいか分からない。こんな気持ちは生まれて初めてだ。
俺は気付いたら手に持っていた移隊届を破り捨て、腰の斬魄刀に手を当てていた。そして自分の意思とは無関係に斬魄刀を抜き、鬼厳城隊長を……いや、もう隊長じゃないな。ブタ野郎を倒した男に突撃する。
周りの隊員が止めようとしてきたが、俺の体は動きを止めない。俺は強引に隊員達を振り払うと、男に向かった斬魄刀を振り下ろす。
「あぁ? 何だ、てめぇは?」
男は興味なそうな顔で俺の攻撃を軽々と受け止める。
ブタ野郎を倒した時から気付いていたが、刀を交えて改めて気付く。この男は藍染惣右介とはまた違う意味で化物だ。正に力の塊。近付いただけで霊圧に押されて体がすくんでしまう。だが、それでもやはり俺の体は止まらない。
俺はそのまま刀を振り続け、全力で斬撃を繰り出し続ける。
「…………」
「……?」
俺は途中で不思議に思った。
別に俺に押されて防戦一方というわけではない。むしろ斬り込んでいる俺の刀の方が折れそうなぐらいだ。
それなのに男は反撃してこない。……どういうことだ?
「……どうした?その程度か?」
「……どういう意味だ?」
「別に深い意味はねぇさ。ただ俺の力を見た後にこの程度の実力で挑んできたのか、って聞いているだけだ」
隠している力があるなら早く出せ、さもないと殺す、男の目はそう語っている。
……ああ、なるほど。だから反撃してこなかったのか。
でも残念だな。確かにまだ始解が残っているが、始解したところで俺の実力はブタ野郎の足元に及ばない。
とはいえ、このまま男に失望させて終わる訳にはいかない。俺は一旦、男から距離を取り斬魄刀を開放する。
「叶えろ『』!」
解号をすると、斬魄刀が俺の身長を越える巨大な斧へと姿を変えた。
ちなみに俺の斬魄刀には解号はあるが名前はない。いや、斬魄刀が教えてくれていないだけで、もしかしたらあるかもしれないが。俺の斬魄刀は捻くれていてよく分からない性格をしている。何なら解号すら嘘の可能性もある。まぁ、だったら俺はどうやって始解しているんだ、って話になるが。
聞くところによると俺みたいなタイプの斬魄刀は歴史上初らしい。て、こんな話は今は関係ないな。
俺は斧を両手で構え、今できる最高火力の攻撃を男にぶつける。
「ふん」
男の一振りで俺の斬魄刀は真っ二つに折れ、俺の体を切り裂く。俺は大量に血を吹き出しながらうつ伏せに地面に倒れる。
あ、ヤベ……。俺、死ぬかも。
走馬灯みたいなものが頭に浮かんでくる。思い出されるのは俺が死神になるきっかけになった女のことだ。
確かに女の言う通りになった。違和感が完全に消えたわけではないが、生死の境を彷徨って初めて何かが分かった気がする。
そういや、あの女って何て名前なんだ? 今さらだが聞いていなかった。あれ以来、会っていないがもう一度、会いたいな。
「……てめぇ、名は?」
「……天宮。十一番隊の天宮響也だ」
聞かれて俺は名を名乗る。この時、俺の頭から十一番隊をやめるという発想はすでに消えていた。
「あんたの名前は何て言うんだ?」
「更木。更木剣八だ」
男――更木隊長はそれだけ言うと振り返ってどこかに歩いていく。更木隊長が今どんな表情をしているのかは、ここからでは見えない。
「じゃあ、またね!」
更木隊長の背中に気付いたら小さな女の子が乗っていて、俺に手を振っていた。いつの間に乗ったんだ?全く気付かなかった。
更木剣八と藍染惣右介、二人とも俺の手が届かないほど強いからどっちが上なのかは分からない。勘で言うなら藍染惣右介の方が上に感じる。だが更木隊長には藍染惣右介とはまた違った魅力を感じる。
それが藍染惣右介には怯えて動くことすら出来なかったのに、更木隊長には突っ込んでいった理由だろう。
更木隊長の背中を倒れながら見送っていると、ある考えが俺の頭に浮かぶ。更木隊長みたいな強い奴が他にもいるのかな?
だったら戦ってみたい。今までも戦うのは好きだったけど、泥臭い戦闘が嫌いだった俺には考えられない発想だ。
そして最高の相手と最高の戦いをしながら笑いながら死にたい。それが出来たらどれだけ幸せだろうか……。
そのためにも、もっと強くならないと。明日……いや、今日から自主練をするか。
他にも死ぬためのステージの準備をしないといけない。他にもやることは沢山ある。これから忙しくなりそうだ。
まぁ、このまま死ななかったらの話だが。早く四番隊が治療に来ないかな。……あ、もう無理。更木隊長の背中が見えなくなったところで、俺は気を失った。
次回から本編、時間軸が現代になります。消す前の話を読んでいなかった人のために説明すると、尸魂界篇が終わった後です。
他にも語るべき過去はまだあるんですが、それはまた後で書くことになります。
では感想待ってます。