「……どうなんだい?」
俺が答えないのを見て京楽隊長が再度、質問をしてくる。声と表情は普段通り柔らかいものだが、その目は全てを見透かすかのような鋭さがある。
伊勢副隊長は話を聞いてなかったのか驚いた顔をしている。
……う~ん、何か疑われるようなことをしたか?そんな下手を打つとは思えないが。十一番隊なのに隠密機動よりも暗躍が得意なこの俺が。
まぁ、まだ具体的な根拠とかあるように見えないし、かまをかけているって言ったところだろ。
……本当にどうしようか?この展開は全く予想していなかった。とりあえず下手な誤魔化しは止めた方が良い。そんなことをしたら逆にバレる。
ここは嘘をつかずに話を別の話題にすり替えるのが一番だ。
「何でそう思うんですか?まさか俺が裏切っているとでも?」
「さすがにそこまでは思っていないさ。ただ市丸隊長と仲が良かったでしょ?君は勘が鋭いところがあるから何か気付いていないかと思ってね」
あれを仲が良かったと言えるのかね?疑問に思うところだ。
気が合ったのは事実だが、あんな疲れる友人関係もないぞ。何たって常に腹の探り合いをしているようなものだからな。
市丸は胡散臭い上に性格が悪すぎる。
「何か具体的なことを知っていたとは思わないんですね?」
「そりゃ、そうだよ。もし具体的なことを知っていたら上に報告しているはずだからね。知っていたとしても報告する必要のない小さなことか、確信のないことだけでしょ」
そうきたか。京楽隊長も市丸に負けず劣らず性格が悪い。
これで余計に下手なことを言えなくなった。もし気付いたと言っても報告していないから不審に思われるし、それで焦って適当なことを言って矛盾点を見付けられても困る。これは俺から情報を得ようと言うより追い詰めようとしている方法だ。
疑惑を確信に変えるための作戦で、俺が裏切ってなかったらそれはそれで良しってことか。さすがベテランの隊長は年季が違う。やりづらい。
……ああ、何か楽しくなってきた!こういう展開は大好きだ!
贅沢を言えば美女の拷問官なら最高なんだが、さすがにそこまで要求したりはしない。良い暇潰しになりそうだ。
バレない自信はあるが、仮にバレても問題ない。ミスってバレた時のために虚圏に亡命するための準備は常にしているからな。
まぁ、その前に大暴れするけど。六番隊の朽木隊長とは戦っておきたい。今まで隠しておいた卍解を使って。
……あれ、バレた方が面白そうじゃないか?いや、まだ早いな。
「そうは言っても市丸元隊長は友達だからって秘密を悟らせてくれるような甘い性格をしていませんからね。むしろ積極的に自分の情報を隠していたぐらいです。何たって俺は市丸元隊長の好きな食べ物さえ知らないんですから」
「……どんな友達関係なんですか」
伊勢副隊長が理解できないといった表情をする。
それに関しては俺も同じ気持ちだが、実際にそうだったんだから仕方ない。俺も市丸に色々と情報を隠していたし。主に俺の戦闘能力に関する情報とか。
ていうか市丸以外の全員にも隠しているし、斬魄刀の能力に関しては誰にも教えていない。
ちなみに隠している理由はミステリアスな男は女にモテるからだ。そこからギャップのあるところを見せれば大抵の女は落ちる。
隠していた理由は他にもあるにはあるが大したことではない。
「そんなわけで残念ながら藍染元隊長達のことはほとんど知らないです。強いて言うなら藍染元隊長が俺を警戒していた、ってことぐらいですかね」
「「――っ!?」」
予想外だったのか二人が驚いた顔をする。驚く過ぎたらしく京楽隊長の手が止まっている。
「……それはどういうことだい?まさか君が本気を出せば彼に匹敵する力があるというのかな?」
「さすがにそれは無理ですよ。勝てる気がしません」
あの人は本当に化物だからな。斬魄刀以外の鬼道や白打でも俺よりも上だ。
俺が勝てるのなんて女性の扱いぐらいだ。俺なら藍染元隊長が雛森副隊長にしたような酷いことはしない。
「藍染元隊長が俺を警戒しているのは、俺に鏡花水月が効かないからです」
「……藍染惣右介は我々副隊長を集めて実際に見せる以外にも、色々なところで隊員に自分の斬魄刀の解放するところを見せていました。ですから天宮四席も鏡花水月の効果の発動条件を満たしているはずです。それなのに効かないというのはどういうことでしょう?まさか鏡花水月を破る方法があるということですか?」
伊勢副隊長が眼鏡をクイッと上げる。眼鏡美人のこういう仕草はグッとくるものがあるな。
その綺麗な足で踏まれたい。……いやいや、これは今は関係ない!ただの願望だ。
「まず前提が間違っています。何故なら俺は鏡花水月が発動する瞬間を見たことがないのですから」
……よく考えたらかなり重要なことを話してないか?まぁ、この程度ならもう知られても困ることはないから良いか。藍染元隊長が裏切る前に知られたらマズかったけど。
「それこそどういう意味だい?まさか藍染隊長が君だけ見逃していたってことかな?」
「それも違います、京楽隊長。ただ俺がサボっただけです」
より正確に言うなら女と遊んでいるうちに気付いたら任務のことを忘れていたのだが。おかげで後で始末書を書くはめになった。
始末書を書かずにサボる方法はないものか。俺の斬魄刀が鏡花水月みたいな幻術系だったら良かったんだが。
「で、その後も藍染元隊長がことあるごとに斬魄刀の発動を見せようとしていたので意識的に見ないようにしていました」
最初に警戒していたのは俺じゃなくて市丸だろう。市丸が俺に鏡花水月のことを喋っているんじゃないか、と。実際には何も喋ってないけど。
「……色々とツッコミたいところはあるけど、それなら藍染隊長の企みに気付けたんじゃない?」
「藍染元隊長はそんなに甘い男じゃありません」
本当、藍染の野郎、直前まで手伝ってやったのに黒崎一護達がやって来る前日に単独で流魂街への虚退治とか訳の分からない任務をさせやがって。しかも一番端っこの更木だし。おかげで祭りに乗り遅れたじゃねぇか。帰ってきたら一角と弓親どころか更木隊長まで負けているし、旅禍の大半がやられていて戦う相手がいなかった。ああ、参加したかった。
今度、会ったら絶対に藍染のクソ野郎に文句を言ってやる!……おっと口調が崩れているな。冷静にならないと。
「というより、俺が市丸元隊長の友達だから聞くって言うなら十番隊の松本副隊長にも聞いた方が良いんじゃないんですか?市丸元隊長の昔馴染みですし。後、狛村隊長も東仙元隊長と仲が良かったですよね?」
「もちろん聞くよ。でも、君と違って聞いても何も出ないだろうね」
別の人の話題に誘導しようと思ったんだが失敗か。あれだけインパクトのあることを言えば俺が主導権を握れると思ったんだが甘かった。
「じゃあ、何で俺からは出ると思っていたんですか?」
「最初に言ったじゃないか。君は勘が鋭いからだよ」
京楽隊長も同じじゃないですか、と返事をしようと思ったが止めた。面倒臭い人に目を付けられたな。
その後、簡単な質問を二、三回受けて尋問は終了した。