ご注文はうさぎです! 作:兎丸
が、しかし!お泊まりは次になりそうです......すみません......
フルール・ド・ラパンの店まで来てみたのはいいものの、これじゃあまるっきし不審者じゃないか?俺達。
窓の外から、中を覗いてみたところシャロの姿はまだ見当たらない。他のバイト達の制服を見ると、別にいかがわしくは見えないんだが......。
「というか、シャロと千夜って幼馴染みなんだな」
「そうなの、家を出るときにチラシを貰ったから心配になっちゃって......」
千夜とシャロはどこか対照的だと思っていた。
海外と、日本みたいな?俺は断然、千夜派だ。
しばらく覗いていると、目的のシャロが接客しに出てきた。可愛らしい制服に身を包み明るい笑みを浮かべている。
器用に注文を消費していく、なんて器量のある少女なんだろう。
「いらっしゃいませ~」
活気のある声で接客している。が、段々と笑顔が消えていき、最終的にシャロも視線に気付いたのか、俺達の方に視線を向けてきた。
「なんでいるのよっ!」
あ............バレた。
観念して店の中へと入っていく。
結構広い店で、コーヒーとは違うハーブの良い香りがする。
「なんだか、ハーブの匂いがするな」
「なんせここは、ハーブティメインの喫茶店なのよ。それに、ハーブは色んな効能があるの」
ハーブティ専門の喫茶店はあまり聞いたことがないよな。コーヒーならまだしも。少し興味をそそられる。だが、潜入早々発見されるってどういう事だ。
こんなんじゃあ、某伝説の傭兵さんに叱られちまうぞ。
「だいたい勘違いしたの誰......」
チラシを見ながらワナワナと手を震わせるシャロ。
「私たちはシャロちゃんに会いに来ただけだよ~」
「いかがわしいお店ってどういうことです......?」
「こんなことだろうと思ったよ......」
「まあ、予想はしてたけどさ......」
四人全員の視線が千夜に注がれるが、別に気にしていない。気にしていないと言うか自覚がないみたいだ。マジか、コイツ。
ニコニコと穏やかな笑顔でシャロの手をとる千夜。
「その制服素敵っ」
(コイツか......!)
それにしても、その制服はなかなかに似合っている。ラビットハウスもこんな感じの制服にすれば良いのに。
まあ願望としてはチノだけで良いんだけどな。もはや男のロマンだろ。
いや、待て待て。たとえ願いが叶ったとしても、来る客の層が変わってしまう。それはマズイ。
首にカメラぶら下げた、チェック柄のシャツを着た奴しか来ない気がする。それだけは阻止しなくては。
「でもシャロちゃんの制服可愛い~」
「て、店長の趣味よ......」
うさみみの形を模したカチューシャを手で隠しながら、千夜の後ろに回るシャロ。リゼの視線が気になったのか、どこか表情を暗くしている。
まあ、シャロは軽蔑されてると思ってるだろうが、案外リゼの奴は可愛いこと考えてるからな。
どうせロッププイヤーも良いな、とか考えてるんだろう。
(ロップイヤーも悪くない......)
それに、急いでいたせいか皆制服だ。俺以外はな。実は俺だけ着替えてきたのだ。急いでいたにしろ、制服で町中歩き回るのは恥ずかしかった。
いや、百歩譲ってタカヒロさんの制服ならまだしも、この前新調したばっかりで、俺の制服も女性用のデザインに近い作りになっている。
流石にスカートではないが、どちらにせよ客には『可愛い』という印象が根強く残されるだろう。
現に一度、「その制服可愛いね」なんて女性客に言われたことがあり、俺が照れているのを見てココアがニヤニヤしてやがったので、軽くだが腹パンを食らわせてやった。
「店員さん、注文頼める?」
「こっちもおねがーい」
「「ただいま~」」
客の応答に答える千夜とココア。
「おい、あの人達はフルール・ド・ラパンの客だぞ............」
立ち話もなんだし、折角だからお茶をしていくことになった。一人一人席に座る。
「折角だからお茶していっても良いかなシャロちゃん」
「しょうがないわね、はい、これがメニュー表よ」
シャロからメニューを受け取り、一通り目を通してみるが、紅茶の種類はよく分からない。そもそも母さんが紅茶を飲めず、俺も飲ませてもらったことがないのだ。
他のみんなもメニューを見ながら難しい顔をしている。ココアと千夜を抜かして。
「紅茶って、何を頼めばいいか分からないよな」
「やっぱりダンデライオンだよねっ!」
メニューを決めたのか意気揚々と注文するココア。確か名前の通りタンポポを使ってるんだよな?
というかコイツ、何か分かって言ってるのだろうか?
「飲んだことあるのか?」
「ライオンみたいに強くなれるよ!」
「オーケーわかった、お前がたんぽぽの意味を分からないことがな」
そんなことだろうと思ったよ。
「なら、私がそれぞれにあった紅茶を注文してあげるわよ」
それは助かるが、シャロの仕事を増やしてないだろうか?そもそも、いかがわしいかどうか調べにきただけなのに。
けど、折角俺達にあったハーブティを注文してくれるんだから、断ったら逆に悪いか。一人一人にあったハーブティーを教えてくれるシャロだが、よくここまで詳しくなったものだ。
「ティッピーには腰痛改善と、老眼防止の効果があるものをお願いします」
「ティッピーってそんなフケてんの......!?」
あんな機敏に動いてて、けっこうなお年寄りなんだな。つうか、メスだってこともこの前初めて聞いたし。
「あー、シャロ。俺は普通のハーブティーで頼む」
「いいの?ジンくん、折角なんだし選んでもらったら?」
「いや、出来るだけ安いのを頼みたい」
「ケチくさいですね......」
なんかチノからブーイングを受けたが、金は無駄なところでは使わないようにする性分なんだ。
みんなはそれぞれにあったハーブティーを注文し、俺は普通のハーブティーを頼んだ。
シャロが注文を受け、ハーブティーを淹れに下がっていった。その間、しばし沈黙が続く。
「ジンくんって、一体どういう女性が好みなのかしら?」
そんな千夜の唐突な質問によって沈黙が破られる。他のみんなも興味があるのか、俺に視線を集中させてくる。
好きな女性のタイプと聞かれても、大して考えたこともなかった。
「まあ強いて言うなら、気品があって、力強く元気な将来性のある人かな?」
(気品があって......)
(力強い......)
(元気な人かぁ......)
「将来性がある......ジンさんってけっこう欲張りなんですね」
「まあな、すこし欲張りすぎたとは思うけど」
「本当よね、私達全員が好みだなんて......ジゴロね」
「......ん?いつそんなこと言った......!?」
なんか分からんが皆の間であらぬ誤解を受けちまったぞ。俺は一体いつジゴロ発言をした。例えジゴロ発言をしたとしてもココアだけはないな。
......うん、絶対ない。
「ジンくん今失礼なこと考えなかった!?」
「おいおい、心の中を読むんじゃねぇよ」
「ヒドイ!考えてたんだ!」
ココアと茶番を繰り広げていると、シャロがハーブティーを持って戻ってきた。ハーブの入っている容器にお湯をいれると、赤く変色した。
ハーブによって色が変わるとは、これまた面白いな。ココアも夢中になって見ている。
チノのハーブティーはレモンを淹れたら、青からピンク色に変色する。これはハーブティーの知識を取り入れるのも悪くなかもしれない。
「あの、ハーブを使ったクッキーはいかがでしょう?私が作ったんですが......」
「シャロが作ったのか~」
香ばしい匂いが癖になりそうなクッキーだ。アーモンドと一緒に焼いて作られてある。リゼが一つとって口に運ぶ。どうやら美味しいみたいだ。
その様子に喜ぶシャロの表情を見てみると、まるで恋でもしてるかのように真っ赤になっていた。
(シャロちゃんが真っ赤だぁ)
(こっちの方が見てておもしろいっ)
ココアも一つ手にとって一口かじる。
「あれ?このクッキー甘くないよ?」
「そんなこと無いわよ?」
俺も一口食べてみる。
うん、確かに控えめではあるが甘さはある。それでいてハーブの香りが効いていて、コーヒーと合いそうだ。
「ココア......お前、頭だけじゃなく味覚までおかしくなっちまったか......」
「元から頭はおかしくないよぉ!」
「んっふ、それはギムネマ・シルベスタを飲んだからよっ!」
「うえっ!?」
「ギムネマとは、砂糖を壊すことの意......それを飲むことによって一時的に甘さを感じなくなるのよ!」
「そ、そんな効能が......!」
それにしても、甘さを消して何かメリットになることはあるのだろうか?普段甘くて美味しく食えてるものが、一時的に甘さがなくなるなら......
「シャロちゃんはよくダイエットで飲んでたわよね」
「い、言うなばかぁ!」
ああー......確かに甘さがなくなるなら食べる気も失せるしダイエットになるから効率的だ。
「けど、シャロは普通に可愛いんだし、それ以上自分を磨く必要なんてあるか?」
と、シャロの頬が真っ赤に染まり始める。
「か......かわっ...へ、変なこと言わないでよっ!」
「流石ですジンさん、シャロさんも手中におさめようっていうんですか」
「ヒド過ぎるよジンくん!」
「わ、私達とは遊びだったのね......!」
誉めたつもりが何故かブーイングの嵐。解せぬ。
「結構飲んじまったなぁ~」
「お腹に花が咲きそうだよ~」
その場合、ココアの口から蕾が突き出てきている、結構グロテスクな光景になるのだがこの場で言うのは控えよう。
「何か手伝えることがあったら言ってください」
「ありがとう。チノちゃん、年下なのに偉いのね~」
食器を片付けているシャロに進言するチノ。その頭を優しくシャロが撫でる。気持ち良さそうに撫でられるチノ。
それを隣で不満そうに見ていたココアが急に立ち上がって言った。
「チノちゃんは私の妹だよっ!」
「何言ってるの......」
「そうだぞココア。チノは俺の妹なんだからよ......勝手に取らないでくれません?」
「そういう問題じゃないわよ!あとどうして敬語!?」
俺達二人のやりとりにわざわざツッコミまでいれてくれるとは。こりゃあ優秀な人材を発見したかもしれない。
それに、みんなハーブティーのお陰でリラックスできたみたいだ。
流石にプラシーボ効果だとは思うが、それとは別にクッキーもハーブティーも美味しかった。
「また来ても大丈夫か?」
「ええ、歓迎するわよ」
「ところで、ハーブって自分で作れたりするものなのか?」
今日、この店でハーブティーを味わってみて分かったことが一つ。ハーブティーもなかなかに奥が深くて面白い。
というわけで、自作したハーブティーを飲んでみたくなったのだ。
「そうね、自家栽培する人もけっこういるわよ。興味があるの?」
「まあな、暇があったら作ってみたいと思う」
「それは何よりだわ」
少し嬉しそうな表情で笑うシャロ。
うん、やっぱり美少女だよな、シャロって。
「さてと、そろそろ帰ろうか」
「ああ、帰りたいが......コイツは誰がおぶっていくよ?」
ココアが机に突っ伏して熟睡していた。
数日後。
「ジンくん!ハーブティー作りたいって言ってたよね?これで作ろー!」
ココアが何やら店に持ってきた。片手に握られているものは明らかにハーブではない。誰が見ても理解できる。
ため息を一つ吐いて、ココアに近付いていく。
「ココア、お前が右手に持っているそれは何だと思う?」
「ふぇ?ハーブだよ!」
「違う..................雑草だ」
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