ご注文はうさぎです! 作:兎丸
いやー、長かった......
「プレゼント?」
俺とチノは休憩時間に、ちょっとした世間話をしていたところ、チノが父の日にタカヒロさんにプレゼントを渡したいと言い出した。
ココアとリゼはまだ学校みたいだ。
というかココアの奴、また千夜と駄弁ってやがるな......。
「はい。同じ男性であるジンさんなら、ネクタイよりも、もっといいプレゼントが思い浮かぶと思って......」
チノはタカヒロさんに手作りのネクタイをプレゼントしようとしているらしい。
この歳で手作りのプレゼントを作って渡すなんて、相当出来た娘だな。
それに、良いプレゼントと聞かれたところで、あまり良い案は出せない。
何故なら、タカヒロさんはチノが作った物ならなんでも喜びそうだからだ。
もし俺に娘がいたとして、それが手書きの肩叩き券だったとしても泣いて喜ぶだろう。それほど気持ちというのは大切なものだ。
「別にチノが作ったものなら何でも喜んでくれるだろ。そもそも、父の日に何かをプレゼントしようって考える人の方が少ないからな。チノは父親想いの良い娘さんだな」
「そうですか......そ、そうですよね。ありがとうございますジンさん。私は私なりにプレゼントを作ってみたいと思います」
チノがプレゼントを決めたところでさっさと、仕事を終わらせにかかろうとした時、リゼが勢いよくドアを開け放って入ってきた。いつになく深刻な表情をしている。
「どうしたリゼ、そんなマジ顔で......」
「今日から他の店でもバイトをすることにした!」
「「な、なんだってー!」」
って、一体どういう風の吹き回しなのだろうか?
理由を問い詰めるべく、先に口を開いたのはチノだった。
「何か理由でも?どうしたんですか?」
「実は、パトリオットサーブの練習をしてたら親父のコレクションにしてたワインを割ってしまって......」
「なるほど。つまりそのワインを買うために他のお店でもお金を稼ごうと言う魂胆ですね」
「語弊がある気がするのは私だけか......?」
そもそもパトリオットサーブって何ぞや?
というか、リゼってお嬢様学校なんだよな。ということは、家もそこそこ良いところって訳か。
だとしたら、そこの主人――もとい、リゼの父親が飲むワインは高いだろうな。
「プレゼントならワインは学生でも買うだけなら出来るからさ。シフトも少し変えてもらったからよろしく」
なるほど、だからあんな事を言っていたのか。
話を聞いた今なら、それにも納得できる。
リゼも制服に着替えに行き、俺達も仕事を終わらせるべく手を動かし始めた。
「ところでジンさんは、自分の父親へ送るプレゼントとかは考えてないんですか?」
「あー。俺さ、親父いないんだよね。俺が小さい頃、死んじまってさ」
まだ俺が小学校へ通っていた頃だったと思う。まだ物心つくまえだった俺は、死んだ父親に大して悲しみはしなかった。いつも家を空けることが多く、父親らしいことをしてもらった記憶が一切ない。
あの時に死んだ父親は、本当に俺の父親だったのだろうか?母さんはえらく評価していた。
「そ、それは......すみません......」
暗い顔をして俯くチノ。
彼女が悪いと言うわけでもないのに、頭を下げている。
「なんでチノが謝るんだよ。別に母子家庭なんて珍しくないだろん」
「い、いえ、お父さんと呼べる存在がいないのは、寂しいんじゃないかなって思って......」
寂しい、そう思ったことは一度だってなかった。俺は軽薄な人間なのだろうか?普通は寂しいと思うものなのだろうか?分からない。
たぶん、俺とチノの差は、父親と触れあった数だと思う。その分だけチノは、タカヒロさんに愛されているんだ。その分だけチノは、タカヒロさんを愛しているんだ。
家族愛ってのはそう言うものなんだと思う。父親と触れあったことがない俺は、父親の大切さがわからない。
まあ、こんな話題はどうだって良いとして、今は仕事を終えることに専念しよう。
「さて、仕事仕事。とっとと片付けないとなー」
寂しそうな目で俺を見ていたチノの方を、俺は決して振り向きはしなかった。もし振り向いてしまったら、俺はきっと父親が欲しいと認めてしまうような気がしたから。
そして今はおつかいに至る。あの後すぐにココアが帰ってきて、パンの材料が足りないみたいなので買い出しに行くことにした。仕事も大して残っていなかったしな。
今回は小麦粉と、パンの具材を買えば良いだけだ。具材はしっかりとメモに記してありココアから受け取っている。
小豆に、ジャムに、焼そば......ん?焼そば?
これ具材じゃなくて料理じゃねぇか。まさか、焼そばパンでも作ろうってか?まあ、俺は焼そばパン好きだけど。
店に到着して、いざ入ろうと言う時にチノよりも背の低い少女が視界に入った。
何やら探し物をしているみたいだ。八重歯が特徴のショートカット。着ている制服は、チノと同じ中学の物と同一である。ざっと容姿を纏めるとこんなものだろう。
「おーい!出てこいよ~!」
それを無視して店に入ろうとすると、服の袖を引っ張られた。
「お兄さん、今暇でしょ?」
「暇に見えるか......?」
なんて失礼な人間なのだろうか。
この娘には、手に持つエコバックが目に写っていないのか?
というか、何で呼び止めた。
「暇だって~!一緒にウサギ探してくれよ~」
なんだかココアみたいな奴だ。それはそうと、俺にそんな暇はない。さっさと買い出しを済ませないと日が暮れてしまう。
彼女を無視して店に入って行こうとすると、制服から垂れ下がるパーカーを引っ張ってくる。
「ぐぇっ!?く、苦しいってバカ......!」
「手伝ってくれよ~!」
あ、ヤバイ。昇天する。窒息するぞこれ。
少女とは身長差があるせいで、思いっきり引っ張られてしまう。
「わ、わがった!手伝うから離せぇ!」
「おお!本当!?」
パッと手を離す少女。俺は解放されたことにより、床に膝をついて、首を押さえながら咳き込む。死ぬかと思った。
少女の方は悪気こそはなかったのかもしれないが、俺が窒息死していたら、危うく殺人犯だぞ。
「んで......そのウサギってのは、君が飼ってるウサギなのか?」
「んー?全然違うよー」
違うんかい。
なら、どうして探す必要があるのだろうか?たぶん、興味本意で探してるだけなんだろうな。それこそ、俺が付き合う道理なんてない。けど、もう一緒に探す気満々だしな。仕方ないか。
「ここで怪我したウサギがいたから、薬持ってきたんだけど、いなくなってたからさぁ。どこ行ったんだろ?」
「怪我......?それで探してたのか......もしそうなら、さっさと探そう。怪我してんならそう遠くには行けない筈だ」
口元に手を当てて、考えてみる。
どれ程の怪我かは見ていないから分からないけど、薬が必要となるなら少なくとも自由に動けない。
さて、何を手掛かりに探そうか?
手当たり次第に手分けして探そうしてみるのもいいかもしれない。
「そのウサギの色とかは見たか?」
「白一色!」
「さいですか......」
よりによって埋もれやすい色かよ。他のウサギと分別つかないんじゃないだろうか?いや、白ウサギだとしても、怪我をしてるウサギを探せば良いのか。
「そいじゃ!手分けして探そう!アタシあっち見てくる!」
気付けば既に50m先まで走っていっていた。行動が早い子だ。名前、聞いておけば良かった。
俺もウサギを探すべく、逆方向へと歩き出す。
ここまで読んでいただいてありがとうございます!
はい、というわけで皆様ご察しの通り彼女でございます。名前は次でわかりますよ!
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