ご注文はうさぎです! 作:兎丸
それでは本編どうぞ!
「ゼェ......ハァ......あっぶね、ギリギリ間に合った......」
買い物袋を両手にぶら下げながら荒い息遣いで帰路につく。
あれから、他はシャロと花深に任せて猛ダッシュした結果、なんとか店に間に合った。人間、死ぬ気になれば何でも出来るんだな。
このおつかいを忘れていたらとんでもないことになっていた。たぶん、リゼのジャーマンスープレックスは確定だったな。本当に危ねぇ。
「あれ......?」
安堵とともにゆっくりとした歩幅で歩いていると、ウサギを未だに探している少女の姿があった。
辺りはもう暗いというのに、まだ探しているのか。
俺は彼女に近付いて声をかける。
「もしもーし」
「んー?......あ!お兄さんじゃん!」
広場の噴水をウロウロしている少女は、こちらに気付くと小走りで近付いてくる。
「どう?見付かった?」
「ああ、見付かった。今ごろ保護施設に届けられてると思うぞ」
「そっか~......よかったぁ......」
安心したのか、彼女の頬が一気に緩む。
「お兄さん、見た目によらず優しいんだなっ」
それは一体どういう意味だ。
いや、まあ確かに目付きが悪いとはよく言われることはあるが、いくらなんでも失礼じゃない?
「見た目によらず、は余計だ......」
「えっへへ~」
チロッと下を出しながら笑う。
そんな顔をする彼女を憎めるわけもなく、俺は倦怠感とともに彼女を家まで送るなんて愚かな考えをしていた。
お節介にも程があるだろ。
けど、やはり放ってはおけなかった。
「ほら、帰るぞ」
「へ?もしかして、送ってくれるの?」
「嫌なら一人で帰るけど?」
「嫌じゃない!嫌じゃない!ありがたく送ってもらう!お兄さん、見た目によらずジェントルメンだな!」
「だから見た目によらず、は余計じゃない!?」
出会って間もないというのに、ここまで親しく話せるのは彼女の良いところなのだろう。
そのまま、俺たち二人は歩き出す。彼女は疲れた俺のことを考えているのか歩幅を合わせてくれている。
「そうそう、お兄さんのお名前は何て言うの?」
「んー?俺か?俺は、芹沢ジン。そっちは?」
「マヤだよ~。記憶したかー!」
「お前みたいに印象的なヤツ、忘れたくても忘れられねぇよ......」
騒がしい彼女だが、不思議と疲れない。
それどころか、逆に楽しかった。
そこで俺は、ふと疑問が沸き上がり、それを彼女にぶつけた。
「なあ、どうしてそこまで必死になれた?」
「ん?」
「あの怪我ウサギ、別にお前のペットなんかじゃないだろ?なのに、どうしてあそこまで必死になって探してたんだ?」
何もこんな時間まで探す必要はない。
そう考えていた俺は、だいぶ心が汚れていたことに自覚した。彼女の一言で。
「そりゃあ、可哀想だから」
「かわいそう......?」
「お兄さんは、誰かが困ってるとき、手を差し伸べないの?それが例え動物でも代わりはないよー」
死ぬほど恥ずかしかった。
ウサギだから、じゃない。
それはもう人間としてのモラル以前の問題。
どれだけ俺は下卑な人間なんだ。
誰かがじゃなくて、困ってるヤツは動物だろうが人間だろうが植物だろうが、手を差し伸べるのがヒーローってもんだろ。
本当にカッコ悪いな。俺は。
「だけど、お兄さんは良い人って分かるぞ。だって、こんな時間までウサギを探してくれたんだからな!」
彼女は本当の意味での笑顔で、優しい言葉を俺に向けた。いや、向けてくれた。
「いや、ただ俺はマヤが困ってたから......」
「いいや違うね。だってお兄さんって、木から下りれない猫を助けてあげたんでしょ?」
「えっ、どうしてそれを――――」
「それは置いといて。たぶん、アタシが頼まなくても、お兄さんはあのウサギを助けてあげようって考えてたよ」
「............ありがとな」
「いえいえ~」
何を年下の女の子に励まされているんだ俺は。
だけど......凄く嬉しいな。
自信がない俺に、少し自信をつけさせてくれた。
それに なんだか、今日は俺らしくない気がする。
「おっと、ここまでで大丈夫だよ。送ってくれてありがとなお兄さん。それじゃ、またいつの日か!」
「ああ、またな」
何故だかマヤとはまた出会う気がした。
だからさよならは言わなかった。
ラビットハウスに帰宅すると、リゼは他のどこかでバイト中なのか店内に姿がない。
その上、ココアも何故かおらず、チノだけが店の掃除をしていた。
「おかえりなさいジンさん。おつかい、結構時間掛かりましたね」
「まあな......ちょっとしたいざこざにあってさ」
「ココアさんは少し買い出しに出てたのでいませんよ。父へ送るためのネクタイの材料を買いに行ってます」
「そうか......」
ココアのヤツ、チノと一緒にタカヒロさんへの贈り物を作るのか。俺も俺で何か送りたい。あの人には結構世話になってる。
とは言うも、何を贈るべきなのか。
「なあチノ、タカヒロさんに何をプレゼントしたら喜んでくれるかな?」
丁度店内の掃除が終わったのか、俺が座るカウンター席の前に来るチノ。
「そうですね、父は気持ちが込められている物であれば、なんでも喜ぶと思いますよ」
「なるほど......」
気持ちが込められていれば、か。
そうだとしても悩む。
「............ジンさん」
タカヒロさんへ送るためのプレゼントを考えているところで、不意にチノから声をかけられる。
「ん?なんだ?」
「えっと、その......今朝は、その......すみません」
「ど、どうしたよ急に」
何故かチノに謝られた。
いや、チノに謝れるようなことはない。
むしろ、毎日世話になってる俺が謝罪するべきでは?
あとココア。
しかし、どうも納得ができないので理由を問う。
「チノは別に何も悪いことした訳じゃないだろ?」
「いえ、その、朝......ジンさんにお父さんが居ないって聞いて、分かった風な口を利いてしまって......」
そ、そんなことか。
彼女は優しい。
だからこそ、今朝、俺に父親が居ないってことをずっと気にしてたんだな。
「チノ、別に気にしちゃいないし、怒ってもいない。むしろ、気遣ってくれてありがとな」
「......」
「ていうか、俺の方こそゴメン。なんか素っ気ない態度とって」
「じ、ジンさんは何も悪くないです......」
こうは言ってくれるが、実際に、俺は俺で大人げなかった。
ホントは父親がいなくて寂しいんだ。
けど、それを年下の少女に察されたのが気に食わなかっただけ。ただ、俺がムキになってただけなんだ。
「うん。やっぱ寂しいわ。チノとタカヒロさん見てると、スゲー羨ましい」
「ジンさん......」
そろそろ俺も認めないとな。
「だからさ、ありがとな。チノが気遣ってくれたの、スゲー嬉しい」
久々に晴れやかで、穏やかな表情を浮かべて礼を言う。目の前の小さくて優しい少女に。
「あー!吐き出したらなんかスッキリした!」
ぐーっと背伸びをしながらいつもの調子を取り戻す。昔のことを気にしてちゃあ始まらない。
俺は、今ようやく親父のヤツにさよならを言えた気がした。全部チノのおかげだな。
「ジンさんは少しストレスを溜めすぎなんですよ」
「かもな~」
「私が癒してまげますか?」
彼女の言葉に耳を疑い、少し俺の動きが停止する。
「な、なんか、チノがそういう冗談言うのって珍しいな......」
「じょ、冗談じゃ......!」
顔を耳まで真っ赤にさせ、俯くチノ。
いつも罵倒されていた記憶のせいで、倍増しで衝撃的な一言だった。
「けど、大丈夫だよ。俺はチノに世話になってるからな」
仕事のいろはを教えてくれたり、朝食を作ってくれたり、家政婦張りの事をしてくれている。むしろ、俺がチノを癒してやりたいくらいだ。
「そ、そんなことないです。ただジンさんは、少し謙虚過ぎなだけだと思いますよ?」
「んなことないよ。それに、俺よりもココアを癒してやりなって。アイツはアイツなりに頑張ってるし、バカなりにスゲー良いヤツだしさ」
(それを本人の前で言ってあげたら、どれほど喜ぶんでしょうか......)
「なんか言った?」
「いえ、ジンさんが鈍感無気力系主人公だということが分かっただけです」
「ごめん、言ってることが1ミリも理解できない」
なんだよ。
鈍感無気力系主人公って......。
「そろそろココアさんが帰ってくる頃ですね」
「そうだな......」
「ただいま!」
噂をすればなんとやら。
「あ、ジンくん帰ってたんだね!おかえり!」
「ああ、ただいま。ところで、どんなネクタイの素材買ってきたんだ?」
「それがねぇ~......迷ってお店にたどり着けなかったんだ!」
どれだけ今日が俺らしくない日でも、ココアはココアで少し安心した。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
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えっと、最近更新スペースが極端に遅くて申し訳ありません。少しでも早められるよう頑張りたいと思うので、これからもご愛読お願いします!