ご注文はうさぎです! 作:兎丸
すみません、チノちゃん出なくて……
午前の授業が全て終了し昼休みに突入した。教材やら筆記用具やらを鞄に片付けていると、花深が話し掛けてくる。
「芹沢さん、お昼空いてるっス?」
俺の机に手を乗せて前のめりになる花深。自然に顔が近くなる。何の香水かは分からないが花深から良い香りが漂う。
因みにコイツの事が分からない人は『2大きくなりたい?チノはそのままで大丈夫』を参照してくれ。
「まあ空いてるっちゃ空いてるけど……なんで?」
「ちょっとご相談したいことがあって……」
俺の耳に小声で用件を伝える。
最近他人から相談事をよくされる。
昼は大した用事もないし、相談に乗ってやるとするか。
「別に構わないけど?」
「おお!ありがたいッス!じゃあここで話すのはアレなんで屋上に来てほしいッス~」
「別にここでも良くないか……?」
「あまり人には聞かれたくないんッスよね~」
「…………分かった。じゃあ屋上いこうぜ」
屋上へ続く階段を登り扉を開けると、花深と俺の髪を靡かせる気持ちの良い風。気温も丁度よく、昼食をもとるにも昼寝をするにも最適な場所だ。今度からココアと千夜とはここで飯を食おう。
丁度良さそうな位置に腰を下ろして、二人で並んでフェンスにもたれ掛かる。
「で、相談ってのは……?」
俺は袋に包まれた弁当箱を取り出しながら、相談内容を聞き出す。
「実は…………私ストーカーされてるっぽいんッスよねぇ……」
ストーカー。
そう呼ばれているような行為は、最初は、著名人を相手にした行為だった。つまり、最初は、現代風に言うところの『追っかけ』であったみたいだ。
追っかけはストーカーの最も基本的な形態であると指摘されている。
追っかけが過ぎて、やがて暴力行為に至ったり、賛美のつもりでやがてはファンがスターを殺害してしまう事例も起こっている。追っかけを行う中には、憧れの対象との間に愛情関係がある、などと勝手に思い込む者も多い。
「最近、知らない男の人が家を訪ねてきたり、ポストに変な手紙を入れたり……」
花深が胸ポケットから小さい封筒のようなものを取り出すと、俺に手渡す。封筒を受け取り、中に入っている手紙の内容に目を通す。
なんか運命の人だの赤い糸で繋がっているだの書いてるな。
「心当たりは?」
「たぶん前にフッた他校の男子生徒さんですね」
「え?告白されたの?」
「まあ一応……」
毛先をクルクル弄りながら恥ずかしそうに答える花深。
「私、結構モテるんッスよ?」
うわぁ……なんだこの敗北感。生まれてこのかた一度も告白なんてされたことないから、女性と言えど羨ましい。
「で、そいつがストーカーなんじゃないかと?」
「まあそうッスね」
「仮にそいつがストーカーだったとして、どうするんだよ?」
「警察に言うと脅してこんなことやめさせるッス」
容赦はないんかおのれは。
「それで、ジンさんにはそのお手伝いをしてほしいんッス!」
「手伝うたって、俺に一体どうしろと?」
「私とデートしてる振りしてくださいッス」
「無茶苦茶なこと言うねぇ…………」
そもそも俺はまだ手伝うなんて一言も言ってないし、デートしてる振りする意味なんてあるのか?
「もう最初っから警察に任せたら?」
「勘違いだったら恥ずかしいじゃないッスかー」
「じゃあ確証が得られるまでほっとけよ」
「ヒドイ!私があんなことやこんなことや淫らな事をされても良いって言うんッスか!?」
「うん」
「冷たいなぁ……じゃあ、後でご飯奢るッス!」
「俺がストーカーの正体を突き止めてやる……!」
「手首がネジ切れんばかり手のひら返しッスね!現金ッスね芹沢さん!」
バカ言え。
友人が困っているなら手を差し伸べるが世の常だろ。
「で、具体的にどうすんだ?」
「視線を感じるのはいつも下校するときッス。なんで今日は一緒に帰りましょうッス」
「疑似放課後デートってところか」
「そうッスね~。後、少しデート感出すためにちょっと寄り道もしたいッス」
「寄り道ね……オッケ」
じゃあラビットハウスの面々に、今日は仕事を休むって伝えとかないとな。
「じゃあ今日の帰りよろしくね、ジン!」
「分かっ……て、何その口調」
「振りをするなら徹底的に。本当に付き合ってるって感じ出さないと意味ないよ?」
え、ヤダ……全然慣れないし、超違和感。
そこまでする必要ある?
別に一緒に歩いてりゃあアッチから釣れるだろ。
わざわざそこまでやらなくても良くない?
「じゃあ放課後よろしくね~!」
花深はそれだけを残して颯爽と立ち去っていった。
「まさかずっとそのテンションで今日乗りきるつもり?」
「ねぇジン~!あのウサギ可愛いねぇ~!」
学校が終わった後、早速二人で放課後デートと洒落込む。
花深校門を出てからずっと俺の腕にくっついている。俺も健全な一人の男子だ。コレは非常に恥ずかしい。ここまでするかよ普通。
しかも何で花深は涼しい顔してられるんだ?
「なあ、少し離れない?」
「えぇ~!照れてるの~?可愛いなぁ~」
「そのキャラ止めない!?すげぇやりにくいから……!!」
というか、さっきから腕に柔らかい何かが当たってる。意識しないように努力はしてるが、勝手に腕へと意識が集中する。
「はぁ…………で、その寄りたい場所ってのはどこだよ?」
俺が溜め息混じりに問い掛けると、少し歩いたところで急に立ち止まった花深がとある店に指を差す。
「ここ!」
その店の看板を見て俺の思考は一時停止した。
ラビットハウス。
不意に汗が身体中から滲み出てくる。
「ここ、結構有名な喫茶店らしいんだ~。一度行ってみたかったんだよね~……って、どうしたの?そんな汗かいて」
「ダメ!!絶対ダメ!ここだけはダメ!」
俺が全力で否定すると、花深が不思議そうな様子で首を傾げている。
イヤ!ホントに!ここだけはアカンって!
「えぇ~!行こうよ!」
「絶対嫌だぁ!」
「もう……ワガママだなぁ~。じゃあいいよ。また別の機会に来るから」
「そうしてください…………」
良かった。何とか難を逃れることが出来た。この状態であそこに入ったら何を言われるか分かったもんじゃない。事情を話したところでラビットハウスの面々が素直に納得してくれそうにはないし。
「じゃあ今度はお洋服屋さんいこ~!」
「はい……」
俺はやるせない気持ちで、ハイテンションの花深に引っ張られていく。
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