ご注文はうさぎです! 作:兎丸
あんまり食欲ないんですよねー
ところで皆さん冷麺好きですか?
ベンチに再び芹沢さんと並んで座る。
手の傷は、たまたま持ってたハンカチで止血した。血はもう止まったとは思うけど、念の為にまだハンカチで傷口を押さえている。
芹沢さんも私も、少女が立ち去ってから一言も発せず、ただこうして座っている。
「…………軽蔑したッスか?」
最初に口を開いたのは私だった。顔を俯かせたまま、けれど目だけは芹沢さんの様子を伺いながら。
暫く返答に悩む芹沢さん。
援交自体あまり良いイメージがない。
けれど芹沢さんは否定する。
「…………別に。それより、怪我はないか?」
芹沢さんは顔を上げ、視線を遠くへ飛ばしながらそう答えた。
「芹沢さんが守ってくれたお陰で…………」
私は変わらず顔を俯かせたまま、小さくはにかんだ。
「芹沢さんは優しいッスね……こんな奴にもそんな言葉を掛けてくれるなんて…………私みたいな、売春奴なんかにーーーー」
「バーカ。お前が援交してようがしてまいが関係ねぇよ。隣で泣いてる女がいたら、優しくするのが男の基本だろ」
泣いてる……?
気付けば、私は自覚せずに涙を流していた。
でもどうして…………?
涙を流す理由なんてどこにもないのに。
友達すら傷付けて、想いを寄せる相手を危険な目に遭わせたから?
それも違う。
じゃあなんで?
思考をグルグル回転させていると芹沢さんが、
「でもホントに良かった。怪我がなくて」
嗚呼…………芹沢さんが気遣ってくれたことが嬉しかったからだ。
「うっ……グスッ…………ひっぐ…………」
途端に涙が溢れてくる。芹沢さんの優しさが嬉しくて、こんな私を友と呼んでくれることが嬉しくて。
まだ私を女と呼んでくれるのが嬉しくて。
ただただ私は泣きじゃくった。そんな私の頭を、芹沢さんは何も言わずに、優しく撫で続けてくれた。
「もう大丈夫か?」
「はい。お恥ずかしいところを…………」
ようやく落ち着いた花深は少し顔を赤くしている。花深の泣くところなんて初めて見たから少し驚いている。
「理由は聞かないんッスね……」
「まあ、聞いたところで何だって話だしな」
「…………こんな私でも、まだ友達で居てくれるッスか?」
「愚問だな。お前が何しようと何やらかそうと、俺が俺の判断で友達になろうって決めたんだ。今更友達辞めるなんて言わねぇーよ」
「ありがとうッス……芹沢さん」
「まだやってんのか?援交」
「こ、高校に上がってからはやってないッス!好きな人が出来たので…………」
そう慌てて否定する花深。
その好かれてるヤツは大変だな……。
確かに彼女は良くない事をしていた。けど、それを凶弾できる人間なんてこの世にはいない。誰しも必ず間違いを犯し、人に言えない秘密がある。俺だってそうだ。だから、花深が悪い事をしていた人間とはいえ、友達でありたい。
公園にある時計に目をやれば既に8時を回っていた。これ以上帰りが遅くなればチノ、ココア、リゼ、タカヒロさんの四人が心配する。
警察に捜索願い出される前にとっとと帰るか。
「花深、もう帰るか」
「そッスね。ではまた明日学校で」
「ああ、またな」
俺達は別れの挨拶だけして、公園を後にした。
そういや、ハンカチ返すの忘れてたな……後で洗って返すか。
「あら?ジンくん?」
ラビットハウスへ向かう途中で、買い物袋を手に持つ千夜とシャロに出くわす。
「って、どうしたのよその怪我!」
「いや、ちょっと転んで……」
「転んでそこまでならないわよ!何したの!?」
俺の血で、染みたハンカチを見て大袈裟に驚くシャロ。
あまりこの事に関しては振られたくないな。ただ、誤魔化そうとしてもシャロの奴がぐいぐい事情を聴いてくる。
「……い、いや…………」
「……まあ、言いたくないなら良いわよ。でも、ちゃんと治療しなきゃダメよ」
「わ、分かったって」
「ほら、ちゃんとした治療を施して上げるから付いてきなさい」
「え、いや大丈夫……」
「い・い・か・ら!」
「はい……」
俺はシャロに強引に手を引かれ、連れていかれる。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
誤字、脱字等ありましたらぜひご報告よろしくお願いします!
良ければ感想もお待ちしています!