ガンスリンガー   作:ベリアル

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自転車レース

日本の東京武偵高校。レインボーブリッジ南方に浮かぶ南北およそ2キロメートル・東西500メートルの人工浮島に設立された武偵を育成する総合教育機関。校則によって校内での拳銃・刀剣の携帯が義務付けられており、制服は男女共に防弾繊維を使用した防弾制服である。端的に言えば、凶悪化する犯罪に対抗するために若い男女が拳銃やら刃物を装備して日本の平和を維持することに貢献しているのだ。

 

武偵高は日本だけではなく、世界中に多く存在する。また学科も数多く、その道のスペシャリストを輩出している。

 

「腹減った……」

 

ぼさぼさに伸びた茶の混じった黒髪に寝ぼけた茶色の瞳。中肉中背で一般的な日本人体型。服装はよれよれの制服。シャツ以外は防弾加工。後ろ腰にはどこの国にも製造されていないフレームとボウイナイフが一体化した二丁の大型拳銃。交差してガンベルトに収まっている。

 

腹に手を当て学校へと自転車をのんびりと漕ぐ。朝食は食いっぱぐれるている。手持ちもないためコンビニでなにも買うことはできない。虫が低く鳴る。

 

「ん?」

 

背後からの気配を感じ取った。とてつもない速さでこちらに移動してくる2つの気配の方角に目を向けた。彼の視界に映るのは友人が必死な形相で自転車を漕いでる姿、短機関銃が取り付けられたセグウェイ。穏やかな朝とは呼べない。

 

「朝から元気だな、知らんぷりっと」

 

「コウ!助けてくれ!」

 

「こっちくんじゃねえボケ」

 

「うるせえ!今見捨てたよな!?」

 

「武偵なら自立しましょう!」

 

「武偵なら友達助けろや!」

 

遠山金次。セグウェイに追われている男子生徒の名前だ。彼とは学生寮の同部屋であるが、一緒の登校するわけでもない。そんな彼は友人を巻き込んでチャリレースを繰り広げる。

 

「状況はどういうこったよ」

 

「俺の自転車に爆弾が仕掛けられてる!」

 

『減速したら爆発しやがります 携帯を使用した場合も爆発しやがります』

 

セグウェイから発せられるのは人間味のない音声。

 

「くそったれ」

 

「一応言っとくが逃げようとしてもついてくかんな、爆発に巻き込んでやる」

 

「くそったれぇ、友達巻き込んでんじゃねえよ!最大の敵金次じゃねえか!」

 

「お前ならどうにか出来るかと思ったんだよ。お前の銃ならセグウェイくらい1発でいける」

 

「そんだけ引っ付いてちゃ俺は無傷でもお前は木っ端微塵で死ぬかもな。生憎、俺の技能は金次が期待するほど高くはねえよ。どちらにせよ、弾は入っちゃいねえよ。落ち着かねえから銃だけ持ってんだ。犯人の心当たりはあんのか?」

 

「武偵殺しの模倣犯だ……!」

 

会話しながらも自転車のスピードを下げることはない。文句を言いながらも既に金次を助けるつもりではいるようだ。多少、余裕もあるのだろうか、金次の声のトーンが下がったことにも気づいている。金次にとって”武偵殺し”は非常に因縁深い相手なのだ。

 

「お前の黒歴史モードならなんとかなんだろうによ」

 

「黒歴史言うな!気にしてんだから!」

 

「ブラックヒストリー?」

 

「英語に変えただけだろ!冗談言ってる場合じゃないんだ!」

 

「分かってるよ」

 

もし狙いがコウと呼ばれた少年であれば、この状況を弾丸一つ使わず、解決できたであろう。狙いが自分でないからこそ、困難である。それはコウも金次も理解している。だが、この状況でたらればの問答は無駄に等しい。同時に2人の体力の限界も訪れる。

 

「よし、そのままペースを落とせ。俺はスピードを上げる。これで万事解決」

 

「地獄の果てまでくっついてやるよ、相棒」

 

とても市民の平和を守る武偵とは思えない会話。が、その会話もすぐに中断する。コウが上を見上げれば、金次もつられるようにして同じ方角に目を移す。ビルの屋上の立つ小学生程の少女が武偵の制服を着て、ビルから飛び降りる。紐なしバンジー。代わりにパラグライダーを広げ、2人に降下していく。

 

(ん?あのガキどっかで……)

 

「親方空から女の子が!」

 

「誰が親方だ!」

 

「ほらそこの馬鹿2人頭下げなさい!」

 

瞬間、少女の二丁拳銃がセグウェイを不安定な体勢で何発も精密に撃ち抜く。それによりセグウェイは修復不可能の廃棄物。バラバラの部品が散らばる。

 

「中々やるじゃねえか」

 

「来るな!この自転車には爆弾が仕掛けられてんだぞ。お前も巻き込まれる!」

 

「……おかしくね?」

 

彼女の身を案じての言葉。しかし、コウが金次と一緒に走っているのは金次の方から厄災を運んできたからだ。故にこの発言はおかしい。なにかがおかしい。

 

「いくわよ!」

 

逆さ吊りになった少女は金次を受け止めようと手を広げる。一瞬躊躇したが、考えている余裕はない。男女は抱き合い、自転車とお別れする。乗り手を失くした自転車は爆発し、既に離れていたコウは爆破には目もくれない。

 

「金次ッ!?」

 

友人と少女が体育倉庫まで勢いよく転がっていくのを見届ける。そのまま跳び箱に突っ込んでいき目を丸くさせるほかない。ただ、いつまでもそうしているわけにもいかないのは7つの気配で理解している。刹那に判断した空は自転車の2人が入った体育倉庫に飛び込む。入り口の壁際に背中を預け、跳び箱にダイブした2人がいた。

 

「状況はよく分からんがどうにかしてくれ。俺弾ねえんだよ」

 

「霧谷コウね」

 

「自己紹介した覚えはないんだがな。金次の彼女は素敵なご趣味をお持ちじゃねえか」

 

見知らぬ少女に名前を言われ、目を細め観察するコウ。

 

「だだ誰が誰の彼女よ!」

 

「頭出さない方がいいぜ」

 

「なに言って…」

 

言いかけて扉の先からの光景に会話を中断する。7つのセグウェイが銃口を3人を狙っていたからだ。

 

「秒間10発ってとこか。狙いは金次っぽいしトンズラこくかな」

 

「俺が撃ち殺してやろうか」

 

跳び箱からの怒気をはらんだ声は金次のもの。

 

「アディオス。なんにせよ、俺じゃあどうにも出来ねえよ」

 

「俺の銃!銃貸すから!俺の銃かすから!なんとかしてくれよ!な!」

 

「お前も条件が揃ってんだ、自分でどうにかできんだろ」

 

「逃げるの!?仲間を見捨てるなんて本当に武偵!?ってこの鉛の雨で風穴だらけになるわよ!」

 

「問題なし」

 

終わらない弾丸の嵐は未だ入り口に撃ち込まれていく。セグウェイでは発砲が不安定なのだろう、命中率は低いが7台もある短機関銃は余計に免れづらくなっている。どこに飛んでくるか分からない以上、倉庫の中にいた方が安全に違いない。

 

ただし、霧谷コウにはそんなもの無関係である。

 

「馬鹿言ってんじゃないわよ!自殺志望なの!?」

 

邪悪な笑顔のコウを見かねた少女は拳銃で7台のセグウェイに対応する。破壊は仕損じているが、牽制にはなった。セグウェイは下がっていき、出入り口を通る弾丸はまばらになる。

 

「強い子だ。上出来だよ」

 

「お。やっと来たか」

 

「きゃっ!?」

 

「ご褒美にちょっとの間だけお姫様にしてあげよう」

 

先程とは口調が違う金次は少女を横抱き、お姫様だっこする。突然の変化に少女は戸惑い、コウは待っていましたと言わんばかりに嘲笑した。倉庫の端に移動し、マットの上に少女を下ろす。そこからはあっという間だった。最高にスカした台詞並べ、7つの銃器を銃口を通して弾丸を打ち込み破壊する目を見張る超人技を少女に見せつける。

 

「行くか。口は災いの元だ、出来るだけ喋んなよ」

 

「善処するよ」

 

「ま、待ちなさいよ。強猥男!」

 

「悲しい誤解だ。アリアは中学生だ。中学生に手を出すわけないだろ」

 

「それでヒスるロリコン野郎はどーこのどいつですかー?ありゃコスプレした小学生だろ」

 

「あたしは高2だ!」

 

「嘘?タメ?ガキじゃねえの?」

 

とても高校生の体型ではない。ただ、この怒髪天の様子では嘘はではなさそうだ。訝し気にアリアと呼ばれた少女を観察する。良くて中学生、悪くて小学生。感情のままに怒るあたりまんま子供そのものだ。その怒りに任せて二丁拳銃を金次とコウに撃ち込もうと引き金を引こうとした瞬間、強い衝撃が拳銃を襲う。

 

驚愕しながら倉庫に落ちた拳銃に一瞬だけ目を移す。元凶なる人物は舌舐めずりして金次の銃を握っていた。指を入れたトリガーガードで銃を回すと、フレーム・バレル・スライド、三身一体となる部位を持って金次に返却。金次は何食わぬ顔で奪い取られた銃をしまう。

 

「クソガキが見え張ってんのか知ったこっちゃねえが、射撃で俺に勝てるとは思わねえほうがいいぜ」

 

霧谷コウは射撃においては絶対的な自信を誇っている。

 

狙った的は100%命中させるなど造作もない。扱えぬ銃はないと自負していた。

 

彼は思う。単純な銃撃戦においては自分こそが最強だと。Sランクにも引けを取らないと。

 

「俺に銃撃戦で勝とうなんざ100年早え」

 

大きな声ではない透き通るような声がアリアの耳にはっきりと届く。

 

「行こう、コウ。また会おう。アリア」

 

「デートの約束はほどほどにしとけよ」

 

金次は自分のベルトをアリアに投げ渡す。スカートのホックが壊れていたようだ。去りゆく2人の背中を見てアリアは顔を真っ赤にする。羞恥によるものなのか、憤怒によるものなのか定かではない。

 

彼等を追おうとしたアリアであったが、床に落ちていた薬莢が前に進めない。

 

「絶ッッッッッ対奴隷にしてやるんだから………!」

 

独り残された少女は力強く呟いた。

 

短い間であったが、最強コンビと呼ばれていた二人組に。

 

 

 

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