アポカリプスの庭で 血涙の天使   作:ふくふくろう

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単独行動

 

 

 

「さて、と」

「もう行くっすか?」

「昨日、午後からずっと寝てたでしょ。体を少しだけ動かしたいんだ。いいよね?」

「そんな事だろうと思ってたっすよ。なら、軍事用デバイスを出すっす」

「何するの?」

「通信チャンネルを追加するっす。マスターとティファニー専用の。何かあれば、それで連絡してくださいっす。じゃないと、アキ達が心配するっす」

「……なるほど。了解」

 

 通信チャンネルの追加というのはすぐに終わったので、ベレッタのホルスターを身に着ける。

 

「ソードオフショットガンの代わりに、今日からこれを腰に装備するっす。修理が終わったばかりの新装備っす」

「2つも? 大きさはカレンの銃くらいだけど、変わった形」

「PDWっす。カレンのはサブマシンガンっすね」

「あ。これ、ムービーで特殊部隊が使ってたのだ」

「だから使い方はわかるっすね?」

「うん。ありがと」

「まだあるっす。これは背負うか、両手で持って進むっす」

 

 次にティファニーがテーブルに置いたのは、かなり大きな銃だった。

 スナイパーライフルよりは短いけど、とてもベレッタやPDWのように片手では撃てそうにない。

 

「おっきいね。スコープまで付いてる」

「アサルトライフルっす。2つ上下に並んだ下の銃口は、取り外し可能なショットガン。マスター用のスナイパーライフルもあるっすけど、あれは走りながらのサーチ・アンド・デストロイには向かないっすからね。狙撃でロボットをぶっ壊すのに最適な対物ライフルは1丁しかないんで、それはカレンたんに譲った方がいいと思うっす。アサルトライフルのマガジンがこれ、30発入りが6つ。PDWはこれ、50発入りが6つっす」

「それだけでかなりの重さだよねえ……」

「それと左脇にはベレッタっすから、右にもハンドガンを。ベレッタと同じオートマティックで、口径の大きいマグナムっす。マガジンは7発入りを3つ。それらはこのバッグに収納して、腰に装備するっす」

「……腰の後ろが全部マガジン入れになっちゃうじゃん」

「弾切れで死ぬよりいいっす。わかってるっすか。マスターが死ねば、アキ達も死ぬっすよ?」

 

 そうか。

 ティファニーは、僕の気持ちを察して……

 

「愚痴ってゴメン。ありがたくいただくよ」

「右脇のマグナムと左腰のPDWはバイクに乗りながらでも使いやすいように、銃の左に薬莢が排出されるようにカスタムしてあるっす。右手はアクセルを離せないんで、射撃は左手になるっすからね。左に排莢されれば、顔の前を薬莢が横切ったりしないっす」

「おおっ、それはスゴイ!」

「ふふ~ん♪ 見落としかわざと置いて行ったかはわかんないっすけど、弾薬箱はかなりあったっすからねえ。遠慮しないで撃ちまくるっす」

「よしよし、これだけあれば」

 

 マガジンを平たいバッグに詰め、腰の後ろに来るように装備してからPDWというのを身に着ける。次にマグナム。最後にアサルトライフルを持ち上げると、子供でも背負っているんじゃないかと思うほどの重量感だ。

 

「ん。重いけど、動くのに支障はないかな」

「シカゴのオクトの根城に突入する時は、アサルトライフルかマグナムをパルスガンに変更っす。本当はベレッタと交換がいいっすけど、思い入れがあるんすよね?」

「……うん。これだけは手放したくない。ゴメン」

「それでいいっす。武器は信用できる物じゃないと、意味がないっすから」

「じゃあこの子達を信用できるようになるために、ちょっといってきます」

「昼はどうするっすか?」

「水筒の裏っかわに、ビスケットでも入れてくよ。じゃあ、夕方前には帰るね」

「気をつけるっすよ~」

 

 ベッドルームでクローゼットに掛けてある水筒を手に取り、ポケット状の布地に個包装のビスケットをいくつか入れる。キッチンでそれに水を詰め、Cを入れているいつものバッグと一緒に腰に装備すれば、準備は完了だ。

 バスを降りティファニーにひと声かけてから、アキ達とは逆の方向に歩き出す。

 

(言い忘れたけど、アキ達が早目に探索を切り上げたら急いで戻るっすよ~?)

(了解。ありがと)

(ブレイク・ア・レッグっす!)

(ヤダよ。なに言ってんのティファニー!?)

(幸運を祈る古い言葉っすよ)

(……そういえば、ムービーでも言ってたかも。ありがとう)

 

 バスで進んできた道の1つ向こうも、それなりに大きな道路だった。

 右か左か束の間考え、どっちでもいいかと道を渡らなくていい左を選ぶ。

 

「今日も暑くなりそうだなあ」

 

 サングラスは忘れたけど、わざわざ戻るのも面倒だ。

 通りの右も左も、大きな駐車場。

 悪臭はないし、小鳥の鳴き声と少しの風の音しか聞こえない。

 道の向こうの駐車場を見ると、そこを通ればもう1つ向こうの道に出られそうな感じだった。

 

「行ってみよっかな。目的地なんてないし」

 

 道を渡って、駐車場に入る。

 キャンプをしてた所と違ってクルマの残骸が多い。

 なのでアサルトライフルを背負って、PDWを持った。

 

 ムービーでは狭かったり障害物が多い場所でアサルトライフルを構えていて、急に襲われた時にアサルトライフルの大きさが仇になって死んだ人もいたのだ。

 それにPDWをアサルトライフルの代わりに持ち歩いている特殊部隊もあったので、威力的にも問題はないはず。

 

 ブーツの底で割れたガラスを踏む嫌な音が、澄み切った夏の空に吸い込まれてゆく。

 慣れない武器を使おうとして緊張しているのか、顎の先から汗が一滴落ちた。

 

「道路が見えた。でも、気を抜くんじゃないぞ? 安心した表情を浮かべた途端、眉間を撃ち抜かれた人がいたじゃないか……」

 

 クリーチャーには出会わず、駐車場を抜けた。PDWをアサルトライフルに持ち変え、また左に進む。

 少し歩くと、信じられない光景が僕の目に飛び込んでくる。

 

「ウソ。道路の下に、ものすごく広い道路が……」

 

 道路の下に道路。

 なぜこんな事をする必要があったのだろう。

 少し怖いなと思いながらも下の道路を観察すると、クルマの残骸が隙間なくあって、そのガラスはほとんどが割れていた。

 

「逃げようとした人が、大きな道路に集中しちゃったのか」

 

 そこにクリーチャーが現れて人を襲い出したとしたら、怖いなんてものじゃない。

 少し歩いて道路の上の道路が終わると、僕は安堵の溜息を吐いた。

 そう簡単に崩れたりしないとわかっていても、あんな場所を歩くのはなんとなく怖いものだ。

 

「……道路の上の道路が崩れないって信じるように、世界を壊す人なんかいないって信じちゃったのかな。忘れられた時代の人は。信じてもいい人間なんか、僕はアキ達しか知らないってのに」

 

 道路の向こうに、僕でも読める看板がある。

 

 バーガー。

 

 その後ろにKから始まる単語があるけど、それは知らない。

 大昔の人は、どんな場所でハンバーガーを食べていたんだろう。興味があるので、道を渡ってみる事にした。

 

(調子はどうっすか、マスター?)

(歩き続けてるけど、クリーチャーがいないんだよねえ)

(今ってドコかわかるっすか?)

(大聖堂から2つ道を渡った。ハンバーガーのお店を、覗いてみようと思って)

(……なるほど、ここっすね。その辺りだと、近くに図書館なんかもあるっすよ)

(本を集めた公共の施設だっけ。本はいくらでも欲しいけど、持ち帰ったらアキ達に遠出したのがバレるなあ)

 

 外出、それも完全武装で戦う気満々の遠出がバレたら、間違いなく怒られる。

 僕は夕方前に帰って水浴びをして、バスの屋根でムービーを観ていた事にするつもりなのに。

 

(図書館の向かいがエレメンタリー・スクールっす。軍が救出に向かった可能性は高いっすから、寄ってみてもいいかもっすねえ)

(エレメンタリー・スクール?)

(マスターより幼い子供達の勉強場所っすよ)

(おお。ならアンドロイドに殺される前に、そこでクリーチャーと救出部隊が戦闘になった可能性は高いね。行ってみるよ)

(気をつけるっすよ~)

 

 バーガー屋さんは、外から見る限りでは清潔そうな場所だった。

 その先にも、同じようなお店がある。

 

「これ、ガソリンスタンドだ。でもバスに積んであるポリタンクには、もうガソリン入れてあるからなあ。素通りか」

(言い忘れてたけどエレメンタリースクールはガソリンスタンドを右折っすよ、マスター)

(おお、危ない。ありがと)

 

 右に曲がって次の道を渡ると、左は雑草の生い茂る広い場所だ。右には、集合住宅のような建物がある。大昔は普通の人でも銃を持っている事が多かったそうなので、スカベンジャー・ハントの途中ならすべて見て回る事になるのだろう。

 それを考えると、スカベンジャー・ハントはかなり大変な仕事だ。

 右手に大聖堂とは比べようもないけれど、少し装飾された感じの壁の建物。

 

「これが図書館か。なら、エレメンタリー・スクールってのは向かいだね」

 

 道路からエレメンタリー・スクールに入る前に、アサルトライフルをいつでも撃てるようにする。取り外し可能なショットガンもだ。

 

 焦らず、ゆっくりと歩を進めた。

 青々とした雑草の切れ目から僕を見る動物か何かの置物に見送られ、いくつか見える割れた窓なんかじゃなく、なるべく広そうな入口を探す。

 

「あった。トンネルみたいな入り口だね。おっと、臭うな。この臭いは……」

 

 もしかしたら軍事ロボットは、臭いを感知できないのかもしれない。

 

 ムービーでアサルトライフルにショットガンを付けるのは、切り込み役の優秀な人だった。鍵を壊したり、角を曲がった出会い頭に敵を発見したらぶっ放したり、ショットガンはそういう使い方の武器であるらしい。

 

 トンネルのような入り口からエレメンタリースクールに足を踏み入れると、いよいよ臭いは強くなった。

 

 暗い。

 

 でも、問題なく辺りは見渡せる。

 ショットガンを撃てる体勢で、ジリジリと廊下の曲がり角に接近。

 廊下に飛び出せる位置で歩を止め、足場をしっかりと確認した。カラス片などはないが、紙クズなどは散乱している。

 

 深呼吸。

 

 何がいてもショットガンを撃つ。

 そう決めて、飛び出した。

 

「隠れてても臭いでバレバレなんだよっ!」

 

 巨体。

 

 ショットガンを撃つ。

 飛び散る肉片の左右とその後ろにも、手足の長いクリーチャー。

 

 ショットガンじゃ間に合わない!

 

 アサルトライフルのトリガーを引きっぱなしにした。

 轟音が連続する。

 

「君達は群れないんじゃなかったのっ!?」

 

 マガジンの30発はすぐになくなった。

 クリーチャーはまだまだいるのに、だ。

 

 

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