珍しい事に、最後に屋根に来たアキも手に缶ビールを持っていた。
音を立てて乱暴に椅子に座り、アキが缶ビールを呷る。
「荒れてるなあ、アキ」
「そりゃ荒れもするでしょ。私は、シカゴに潜入するのが簡単な事だと思ってたのよ。ちょっと考えれば、わかるはずなのにね」
「まあ、まだ動くに動けねえんだ。気楽に考えようぜ。そうだ、ジョンならどうやってオクトを殺る?」
それはムービーを見ながら、ずっと考えていた事だ。
「……まずシカゴのアンドロイドの生活圏の手前まで進み、ティファニーを偵察に出す。オクトのいる建物までの道に障害はないか、治安部隊に妙な動きはないかを見たら、明け方まで待機してもらう。明け方に僕達は突入開始。姿を消したアキを僕がバイクに乗せて、オクトのいる建物へ。アキは姿を消したまま階段で上へ。ティファニーと合流した僕が入り口で暴れ回れば、オクトのいる階は特定しやすいと思う」
「んでオクトを殺る、か」
「うん。そこまですれば治安部隊はおそらく戦闘車両でオクトのいる建物に駆けつけるから、無線でタイミングを合わせて背後か横からジャニスとカレンの装甲車がそれを叩く。そこで僕とティファニーが階段でアキと合流。その前にアキが発見されたり、苦戦しそうなら逃げ出して南から西海岸方面へ。潜伏場所を決めたら、僕がジャニスとバイクでバスを取りに戻る。その間、アキ達にはオクトの軍事ロボットが動かないか見ていてもらう」
「それは軍事ロボットを迎え撃つため、ジョン?」
「暗殺に失敗すれば、戦争。そう決めて動くしかないと思う」
「戦争って……」
本当なら西海岸まで行って、エージェントとガーディアンまで戦争に参加させたい。
一般人でも、武器さえ貸してもらえるなら戦うという人だっているはずだ。負ければ、西海岸の人間は皆殺しにされるのだから。
そして僕達は、特殊部隊として軍事ロボットを効果的に潰していけばいい。
「……なんか、作戦として悪くねえな」
「でも、アキとジョンとティファニーが凄く危険」
「私はまだいいわ。ジョンとティファニーは、オクトの拠点に配置されているアンドロイドと軍事ロボットを正面から相手にするのよ。そして脱走や反乱に備えて基地かどこかにいる治安部隊に、背後から襲われるの。危険なんてものじゃないわね」
やっぱりそう来たか。
「じゃあ、軽装でシカゴ潜入。PDWとハンドガンを装備した僕とティファニーが、オクトのいる建物に入る。アキは最後まで姿を消したままね。止められたらオクトに会いたいって言って、万が一会わせてもらえたら姿を消したアキが一撃。断られたら、そのアンドロイドを殺して、出会うアンドロイドを皆殺しにしながらオクトを探す。……正直、これの成功率は低いと思う」
「もしそれでやるとして、アタシとカレンは?」
「無線で呼ばれたら装甲車で迎えに来て、僕達を回収」
「そして離脱って訳ね。どうやらジョンは、どう動くにしても装甲車は修理するべきって意見のようね」
「戦争になるとしたら、僕達は特殊部隊として動くのがいいと思う。それには、足の速い戦闘車両が欲しい。バスはどこかに置いてベースにするんだ。急襲してオクトを殺すにしても、接近と離脱には足の速い戦闘車両が必要でしょ。時間がないと焦って失敗して打つ手を失うより、充分に準備を整えて、失敗してもやり直す前提で作戦を開始したい」
誰も、何も言わない。
そんなに的外れな話だったかと顔を見回すと、3人は神妙な顔で頷き合ってからティファニーを見た。
「まだまだっすよ。マスター。ちなみに誰が死んでもいいからオクトを殺すなら、どんな作戦っすか?」
それは、考えるだけは考えた。
でも、あまりに危険すぎる。全員がだ。
「口に出す事すら迷うような作戦なのね」
「言えよ、ジョン」
「言うだけなら問題ない」
「……ティファニーを偵察に出して、オクトの外出を待つ。出て来たなら、拠点から遠く離れてから装甲車で襲う。成功ならすぐ逃げる。失敗なら僕とカレンはバイクで、オクトが逃げ帰る拠点への道に。スナイパーライフルで仕留められないなら、バイクで突っ込んでマグナムで撃ち殺す。これは装甲車での襲撃と、スナイパーライフルでの狙撃を逆にしても使える作戦。その場合は、準備に少し時間がかかるけど」
「オクトが出て来ないなら?」
人間なら、家から出ない人なんていない。生きていけないからだ。
でも、相手はオイルさえ補給できていれば砂を舐めてでも動いていられるアンドロイド。当然、何日待っても外出しない事態も考えておくべきだろう。
「国境の見通しのいい場所の高い建物を選んで、そこに狙撃でロボットを倒すのに最適な銃を持ったカレンを配置。ティファニーと姿を消したアキが、アイテムボックスに水と食料を入るだけ詰め込んでシカゴ潜入。僕とジャニスは装甲車で軍事ロボットや治安部隊に戦闘を仕掛ける、カレンの狙撃バックアップを受けられるように立ち回ってね。最初は数体の軍事ロボットや小隊が来るだけだと思うけど、僕達が敵を倒し続ければ戦力は集中させてくるはず。でもそれには、時間がかかるでしょ。仕掛けるのはシカゴの近くだから、オクトがいる拠点のアンドロイドや軍事ロボットが回される可能性は高い。そこを、アキとティファニーが狙う。可能なら、アキとティファニーの突入に合わせて僕達とカレンも合流。誰か1人をアキとティファニーの援護に向かわせる。残る2人が装甲車で治安部隊を引っ張り回して、オクトの拠点からの離脱は状況を見て方法を決めるって感じ」
「戦争を仕掛けながら、暗殺も狙うって作戦ね」
「これだと、全員が死ぬかもしれない」
「戦争のやり方はもちろん、戦争をするって発想すらアタシ達にはなかったってのに……」
自分でも不思議だけど、戦争のやり方ならいくらでも頭に浮かんでくる。
「他にもあるけど、アンドロイドを巻き込んじゃうからねえ」
「どういう事?」
「大昔の爆弾かミサイルで、建物ごとオクトを木っ端微塵」
「さすがに、それは……」
「過激だなあ、おい」
カレンが立ち上がる。
どうしたのだろうと思っているとカレンは車内に消え、たくさんのビールと缶詰、それにスナック菓子を持って戻って来た。
「おお、気が利くなあ」
「こんなに贅沢していいの、アキ?」
「今日くらいは、良しとしましょうか。全員、好きなだけ食べて飲んで。ティファニーはオイルでいい?」
「カレンたんが言ってた最高級品っす!」
「そうね。じゃあ、飲み直しましょうか。乾杯」
「カンパイ!」
ビールは、あっという間になくなった。
今も冷やしているそうだけど、とても間に合わないらしい。
なので茶色の匂いのキツイお酒がグラスに注がれて配られたのだが、それを飲み始めてからのアキ達は手に負えない状態だ。
ジャニスは僕がなにか言うと胸に僕の顔を強く押し付けるし、カレンはツマミだと言って僕の股間に顔をうずめてはグラスを傾ける。
一番酷いのは、アキだ。恥ずかしいけどジョンになら、なんて言いながらただでさえ短いスカートを捲り上げているのだ。
「笑ってないで何とかしてよ、ティファニー!」
「イヤっす。カレンたん、マスターのはまだ反応しないっすか?」
「まだ。でも頑張る」
ヤバイから頑張らないでと叫びたいが、それを口に出したら何かが終わりそうな気がする。
僕は冷や汗を流しながら飲んでいたのでせっかくのお酒でもあまり酔えず、酔い潰れた3人をベッドルームに運んでから運転席の後部座席で1人で眠った。
「あら、ベッドにいないと思ったらこんなトコで寝てたのね」
「……おはよう、アキ。顔洗って歯磨きしてくる」
僕が洗顔と歯磨きを終えて完全装備に着替えても、ベッドのジャニスとカレンはピクリとも動かない。心配になったので口元に耳を寄せてみると、どちらも呼吸はしっかりしていた。
なので、放っておく事にする。
屋根に上がってテーブルに着くと、アキがコーヒーをくれた。
「ありがと」
「苦味に慣れたら夏でもホットコーヒーなんて、ジョンもこの国の人なのねえ」
「ジャニスとカレン、しばらく起きそうにないよ」
「人の事は言えないけど、かなり酔ってたから仕方ないわよ」
「アキは昨日の記憶、あるの?」
「……そういえば、ウイスキーを飲んで少ししてからの記憶がないわね。飲み過ぎたかしら」
「安心したよ。ティファニー、今日の作業は?」
「銃器とインカムの修理っすねえ。それも夕方には終わるっすから、装甲車を直すのかどうかは今日中に決めて欲しいっす」
「ジャニスとカレンにも相談してからだけど、修理してもらう事になると思うわ」
「了解っす」
「10日だっけ、装甲車が直るまで。今のうちに街を回りたいけど、ジャニスとカレンは起きそうにないしなあ」
あんなになるまで飲んでは、昼まで起きて来ないかもしれない。それに起きたとしても、二日酔いで見張りなんてムリだろう。
「街を回るって、何か探すの。ジョン?」
「バイクだけならまだしも装甲車が加わるから追加のポリタンクを探しておきたいし、軍事ロボットの見ている物をアンドロイドも見られる訳じゃないんでしょ? アンドロイドが見落としてる武器とか、もっとあるはずなんだよね」
「なるほど。それもそうね」
「行くならバイクっすか、マスター?」
「そのつもりだったよ」
「なら、アキを乗せて行ってくればいいっす。見張りは修理しながらでも出来るっすから」
「いいの?」
「もちろんっす」
「アキ、どうする?」
「私が行かなかったら、1人で行くって言うんでしょ。行くなら朝ごはんを食べてからね」
「わかった。ガソリン補給して、バイクの点検しとくね」
ハシゴを使って屋根から下り、荷台からバイクを降ろしてガソリンを入れる。
点検は念入りにやったが、どこにも異常は見られない。万全の状態だ。
最後に布で磨き上げたバイクを見ながらタバコを吸っていると、屋根からアキの呼ぶ声が聞こえる。
屋根に戻るとテーブルには、おむすびとミソスープが並んでいた。
「わあ、おむすび大好きだ」
「こないだ作ったら、喜んでくれてたみたいだから。そこのお店で手に入れたマヨネーズを使ったツナマヨと、缶詰のオムレツを具にしてみたわ。さあ、食べましょう」
「うん。いただきますっ」
おむすびは、どちらもかなり美味しかった。
「お肉の入ったミソスープも美味しかったあ」
「スカベンジャー・ハントに出るなら、力をつけないとね。足りる?」
「うん。ごちそうさまでした」
「アキ、新しい銃とインカム。ここに置くっすよ」
「銃か。……射撃、苦手なのよねえ」
「だから反動が小さいけど貫通力のある実弾銃と、ハンドガンタイプのパルスガンっす。パルスガンはロボットやアンドロイドを一時的に行動不能にするから、剣を使うアキとは相性が良いはずっすよ」
「それは助かるわね。あら、マガジンは?」
「上にある四角いバッテリーっすよ」
「なるほど。ありがとうね、ティファニー」
「洗い物はやっとくっすから、いってらっしゃいっす」
「あら嬉しい。ありがとう」
「じゃあ行って来るけど、何かあったら無線で呼んでね? それと2人乗りなら、アサルトライフルはジャマになるから置いて行く。良かったら使って。まあ、クリーチャーの臭いはないけど」
「はいっす」