アポカリプスの庭で 血涙の天使   作:ふくふくろう

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覚悟

 

 

 

 しばらく直進すると、アキが右折する道をティファニーに指示した。

 クルマの残骸はあるけどそれなりの道幅があるので、なんとか進めそうだ。

 

「地雷を仕掛けたくなる道だけど、僕達がここを逃げ帰る可能性もあるしなあ」

「そうっすねえ。リモコン操作の爆薬でもあれば、捨てる気で仕掛けてもいいっすけど」

「地雷と対人地雷しかないからね」

「ここはガマンっす。マスター、クレイモアはいくつあるっすか?」

「8だね」

「ムダ使いはできないっすねえ。お、プログレッシブ・フィールドが見えたっす」

「あれが野球場ってやつか。アンブッシュがあるなら、あの辺りかな。アキ、席を交代。僕はいつでも機関銃を撃てるシートにいたい。戦闘になったら、出来るだけ姿勢を低くしてね」

「マスター。後部座席の後ろの小隊を乗せるスペースには、マスターのスナイパーライフルもあるっすよ?」

 

 スナイパーライフルを撃った事なんてない。

 それでも僕は、ムービーで見たどんな兵士よりも腕の良いカレンの狙撃を何度も間近から見ている。

 やれるんじゃないか?

 

「……良い事を思いついた。さり気なく速度を落として。もしドローンを見つけられたら、僕とカレンがタイミングを合わせて撃ってみる」

「じゃあ、地雷を仕掛けたフリでもしましょうっす」

(いいね、任せた。少し止まるよ、ジャニス。カレンはスナイパーライフルを持って、屋根にいつでも飛び出せるようにしといて)

(あいよ)

(わかった。何でも撃ち抜いて見せる)

 

 装甲車が止まる。

 後部座席の機関銃手席に移動し、道の前後を警戒するフリをしながら空にドローンを探した。

 

(いた。西の空。高度はそんなでもない。アキ、スナイパーライフルを撃てる状態で僕の手に握らせて。狙撃を気取られたくないんだ)

(わかったわ)

(ジョン。西の空に何かいて、それを撃ち抜けばいい?)

(うん。飛んでるのは、ドローンっていう偵察用の小さな機械。5つ数えたら、2人同時に狙おう)

(1人でいい)

(いや、でもさ)

(1人でいい。狙撃なら、負けない。ジョンにだって)

(……わかったよ。じゃあ、タイミングも任せる。お願いね)

(うん)

 

 僕の出番はなさそうなので、タバコを出して咥える。

 火を点ける前に、銃声が響いた。

 

 西の空。

 ドローンが落ちていく。

 

(さすがカレン!)

(まだ)

(えっ?)

 

 もう1発の銃声。

 落下していくドローンが、弾けたように軌道を変えながら真っ二つになった。

 

(……マジ?)

(はっはー。いいか、ジョン。アンタが何者でどんなに成長したとしても、カレンは狙撃、アタシは運転、それにアキは白兵戦。これだけは、何があっても負けない。だからその3つが必要な時は、迷わずアタシ達に任せな。いいね?)

(頷くしかないね。で、相談があるんだけど)

 

 ドローンが他にも飛んでいないか探しながら、僕は迷っている。

 落下中のドローンを狙撃するという神業に驚いて忘れていた、咥えたままのタバコに火を点けた。

 

(なにかしら)

(言ってみな、ジョン)

(大丈夫、カレンお姉ちゃんもジョンが好き)

(ありがと。ドローンは落とした。でも、この道の先には軍事用ロボットが待ち受けている)

(なるほど。ルート変更ね)

(うん。それもシカゴに、ってのはどう?)

(なっ!?)

(ええっ!)

(ジョン、大胆)

 

 地雷を仕掛ける芝居をするために装甲車を降りたティファニーが、苦笑しながら僕を見上げている。

 煙を吐きながら笑顔を向けると、ティファニーも笑ってくれた。

 

「なんすか、マスターは『クレイジー・ジョン』とか呼ばれたい願望でもあるっすか?」

「いいね。ガイみたいでカッコイイじゃん」

「……やれやれっす」

(この近辺にアンドロイドがいるなら、ドローンを失ったオクトが損害を出す覚悟で僕達の行く手を偵察させる可能性もある。あまり時間はないよ)

(なんでそんな提案を、ジョン?)

(先手を取られた時点で、どうしようもないほど僕達は不利になった。あっちは僕達を始末するまで好きなだけアンブッシュを仕掛け、奇襲だっていつでも出来る)

(ええ。でもドローンを落としたから、それはそう簡単には出来なくなったわ)

(なら、オクトはどうすると思う?)

(そうね……)

 

 タバコを指で弾き飛ばす。

 足元のスナイパーライフルを持ち上げて前方をスコープで覗いてみたけど、これなら自分の目で見た方が先に敵を発見できそうだ。

 

(可能な限り広範囲に軍事用ロボットを配置して待ち伏せをしつつ、ってそういえばティファニー。オクトは、あなたがアンドロイドだって見抜いたと思う?)

(今の人類が素手で軍事用ロボットを引き千切れるなら、バレてないかもしんないっすねえ)

(愚問だったみたいね、ごめんなさい。可能な限り広範囲に軍事用ロボットを配置して待ち伏せをしつつ、西海岸への攻撃が覚られたと知って準備を急がせると思うわ。私達を逃さなければ、西海岸にシカゴからアンドロイドが攻めて来るって知られる事はないんだし)

 

 やっぱりそう考えるか。

 

(なら、シカゴは?)

(手薄になるってのかよ。逆に守りを固める可能性だってあるんじゃねえのか?)

(そう言うジャニスがオクトだったとして、偶然発見した僕達がたった5人で本拠地に突入して自分を殺そうとしている、なんて考える?)

(そりゃ、……ねえな)

(でしょ。おそらく装甲車を修理し始めた途端に襲いかからせたのは、西海岸にオクトの計画を知らせるのを遅らせるため。バスだけなら、簡単に始末できると思ったんでしょ)

(そしてオクトは今、こちらを見失っている。アキ、ジャニス、ここは攻めるべき)

(だなあ。アタシは賛成だぜ)

(……ああもう。私だってそう思うわよ! それでジョン、作戦は?)

 

 決まったか。

 賭けに近いけど、今はこちらに運がある。

 

 装甲車で軍事用ロボットを運んできたアンドロイドが軍人としての知識を持っていたら、戦闘車両の残骸の向こうから戦闘を仕掛けたりはしない。おそらくは、オクトの命令か静止が間に合わなかったのだろう。セオリー通り後方から攻撃を受けていたなら、ジャニス達はバスを捨てて逃げ出すしかなかったか、下手をすれば最初の攻撃で即死だった。

 そしてドローン。それに気づけて、それを撃ち落とすほど凄腕のカレンがこちらにはいた。

 

 ツイているうちに大きく賭けなければ、大勝なんて夢のまた夢。

 

(どこかにバスを隠して、バイクと装甲車でシカゴに突っ走る。今からこっちに向かわされる治安部隊がいるとすれば、クルマの残骸のない空港前の道を使うだろうからね。後は、前に話した作戦の第一案)

(今から準備して、夜にはシカゴね。了解。バスは、さっき見かけた立体駐車場に置きましょう)

(しゃあっ、燃えてきたぜ!)

(対物ライフルと、サブマシンガンと、パルスガン。……スナイパーライフルが持てない)

(装甲車に積んどけばいいっす。じゃ、戻るっすよ~)

(お願い)

 

 来た道を戻って記念碑の近くの立体駐車場という場所の奥にバスを隠し、装甲車に移したRPGをアサルトライフル代わりに背負う。

 

 そうした上でバイクの点検を始めると、僕に歩み寄る足音が聞こえた。これは、アキの音だ。

 

「私はもう後ろに乗ればいい、ジョン?」

「ジャニスとカレンが待機する、シカゴのアンドロイドの生活圏ギリギリで乗り換えればいいよ。もし敵の治安部隊が別ルートで走ってた時のために、僕はRPGを背負うし」

「了解。ごめんなさいね、こんな事に付き合わせて」

「これから住む街を守るなら、僕が戦うのは当たり前でしょ」

「……ありがとう。じゃあ、私は装甲車に乗るわね」

「うん」

 

 エンジンをかける。

 

「僕はみんなを守りたい。力を貸して、……TT」

「バイクの名前っすか~、マスター?」

「うん。今、決めたんだ」

「いい名前っす」

「ティファニーは機関銃手?」

「ジャニスとカレンたんの待機場所まではそうっすね~」

「アキ達を頼むね、何があっても」

「……それが、マスターの願いなら」

 

 頷く。

 ティファニーもしっかり頷いてから、装甲車に向かった。

 

 ギアをローに。

 途中で治安部隊と出くわせば、無線でオクトに連絡される前に始末しなければならない。そのためのRPGだ。

 

「センシャまで出してくるようなら、TTで至近距離まで接近してRPGをぶちかましてやる」

 

 後はティファニーに、アキ達を守ってもらうしかない。

 見上げた装甲車の機関銃手席で、ティファニーは哀しそうに僕を見ていた。

 

(準備完了だ。ジョン)

(了解。装甲車ならバスとは違って、道路が塞がってても悪路なんかを走れるよね)

(よっぽどじゃなければな)

(じゃあ、行こう)

 

 シカゴまでのルート選びは、アキとティファニーに任せる。

 アキ以外は地図表示機能の死んでいる軍事用デバイスしかないし、文字だってティファニーが一番良く知っている。僕は言われた道を先行し、治安部隊がいないか確認しながら進むのだ。

 

 橋を渡って、西へ。

 

 覚悟だけはして出発したけど、それはムダだったらしい。

 進むのは広い道でクルマの残骸が多く、装甲車でもギリギリだったりするからだ。

 ティファニーは6時間もかからないはずだと言ったが、僕達がシカゴに入ったのは深夜0時を過ぎた頃だった。つまり、8時間は走り続けていた計算になる。

 

 車両で身を隠すには最適だと、僕達はまたシカゴの立体駐車場にいた。

 

「アタシとカレンは、ここで待機か」

「ここがベストっす。1つ向こうの通りからは、アンドロイドの生活圏。そこの交差点を右折して直進するだけで、オクトのいるビルの前まで行けるっすから」

「そのビルまでは?」

「飛ばせば5分っすかね」

「アンドロイドの生活圏って、思ってたより狭いのね」

「今はそれがありがたいけどね。ティファニー、お願いだからムチャはしないでよ?」

「はいっす。真っ暗だから発見される危険は少なくて、逆に治安部隊の車両はヘッドライトで遠くからでもわかるっすから」

「電気はないの、シカゴって?」

「燃やすゴミもなくなって、発電所がマトモに動いてないっすからねえ」

 

 言われてみれば、こっちの立体駐車場にはゴミがない。クリーブランドの方は、空き箱や空き缶なんかが風に揺れていたのに。

 オクトはわざわざ周辺の街からゴミを集めてまで、ハツデンショを動かす気はないのか。

 

「じゃあ、いってくるっす」

「気をつけてね。何かあればすぐバイクで迎えに行くから、その時は僕とティファニーで治安部隊を引っ張り回してから逃げ出してやろう」

「そうならないように、気をつけて行くっす」

 

 水着ではなく普通の服を着たティファニーが、手を振って立体駐車場を出て行く。

 装甲車に積んでいたポリタンクを出してバイクに給油しようとすると、ジャニスが手伝ってくれた。

 

「ありがと、ジャニス」

「いいさ。でも、そんなギリギリまで入れなくてもいいんじゃないかい?」

「……バイクで逃げる状況もあり得るから」

「そうかい」

 

 ガソリンは燃える。そして、爆発する。

 それも、アキ達が教えてくれた事だ。

 

 TT。

 

 バイクに名前なんて付けたのは、みんなを助けるためなら僕と一緒に灰になってもらおうと考えていたからかもしれない。

 僕は、最低の人間だ。

 

 

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