アポカリプスの庭で 血涙の天使   作:ふくふくろう

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室内戦

 

 

 

 銃声。

 

 アサルトライフルなんかの音ではない。この耳をつんざくような音は、どちらかの装甲車に搭載されている機関銃だろう。

 

(よし、後ろの装甲車はもう動けねえぞ。今、カレンが機関銃を撃ちまくってる)

(了解。ティファニー、玄関ホール任せたよ?)

 

 アサルトライフルのマガジンを交換し、またカウンターを乗り越える。

 

 玄関から覗き込むと、壊れた装甲車を盾にして、カレンの機関銃の弾から身を隠す兵達が見えた。

 数は、18ほどか。

 血の涙のせいで赤いフィルターがかかったような視界でも、その数まではっきりとわかる。

 

 アサルトライフル。

 銃だけ玄関から出して、グレネードランチャーを撃った。

 シュポンッという気の抜けた音で、こんな時だというのに笑い出してしまいそうになる。こんな気の抜けた音の兵器で、何人もの兵が死ぬのか。

 

 ドカアンッ!

 

 すぐに引っ込んで、ベルトからグレネードランチャーの弾を抜いて装填。急造の弾薬ポケットなので、弾はあと2発しかない。

 

(気をつけろ、ジョン。こっちは出来る限り射線を確保してんだ。カレンの機関銃に撃たれたらどうする!)

(ごめん、次からは声をかけるよ。で、倒し切れそう?)

(キツイな。あっちは対車両兵器を持って来てねえらしくて、反撃すらしてこねえ。必死で隠れてやがるんだ)

(……カレン、3秒後に射撃中止。ジャニス、僕が敵兵を片付けたら玄関前に装甲車を横付けにして)

(わかった)

(あいよ!)

 

 心の中で3数える。

 

 さっきのグレネードランチャーで、何人減らしたんだろう。

 アサルトライフルを背負い、PDWを抜く。両手にだ。

 

 背後から、ショットガンの銃声。

 ティファニーを信じて、視線すら向けない。

 玄関から飛び出す。

 

 敵。

 

 12人に減っている。

 PDWを撃ちまくった。

 敵兵の向こうに、倒れてすらいないTT。

 

「さすがだよ、TT! 戦場じゃ命を捨てたヤツこそが生き残るってねっ!」

 

 敵兵がアサルトライフルを僕に向ける。

 階段の下に飛び下りながら、トリガーを引く。

 

 接近して来るジャニスの装甲車。

 その機関銃手席から、カレンが飛び降りた。

 

 加速するクルマから飛び降りたというのにカレンはつんのめったりもせず走り、装甲車の陰にいる敵兵の背後からサブマシンガンを撃ちまくる。

 

 僕も負けじと、PDWを撃ちまくった。

 敵の動きが見える。

 体が軽い。

 片手でPDWを撃っているというのに、反動も苦にならない。

 狙いが外れないのだ。

 撃たれないように小刻みに動きながら、僕は自分が笑みを浮かべているのを自覚した。

 

 敵の残りは、3。

 

 カレンがリロード。

 僕はPDWのトリガーを引きっぱなしにはしていない。指切り射撃を自然と出来ているので、まだ弾はある。

 残る3人をスクラップにすると、カレンが死体の上を跳び越えて走り寄ってきた。

 

「ジョン、怪我!」

「いつもの血の涙だから平気。それより僕もリロードするから、カレンはティファニーの援護を」

「くっ。わかった」

 

 少しでも早く。

 そう思いながら、片方のPDWを口に咥えてリロードする。

 

 急ブレーキの音。

 

(中央のドアは、装甲車の機関銃で狙えそうだ。任せろ!)

(カレン、ティファニー、機関銃の射線には気をつけてね。それとジャニス、まだ敵車両が来る可能性は高い。次は、ロケットランチャーなんかも持ち出してくるはず)

 

 リロードを終えたPDWはホルスターに戻す。

 ここからはまた、アサルトライフルだ。

 

(わかってらあ。カレンの方が落ち着いたら、ロケットランチャーを玄関に運んで待ち構える)

(だね。カレン、交代するよ)

(マスター、敵が来なくなったっす)

(アキは小声も出せない状況か。ジャニス、カレン、少し早いけど僕達はアキを追っていい?)

(もちろんだ。そうしてやってくれ)

(アキをお願い)

(任せて。行こう、ティファニー。アキと同じく、中央のドアから突入だ)

(室内戦はショットガンが活きるっすねえ)

(残弾が心許ないなら、今のうちに装甲車から持って来なよ)

(まだ弾帯に、しこたまあるっす)

 

 2人、肩を並べて玄関に向かう。

 

 静寂。

 

 まだ何も終わってはいないというのに、やけに静かだ。

 視界は、いつの間にか元に戻っている。

 

(アキ、今から向かう。だからムリしないでね。合流したら僕達の肩を叩いて無事を知らせて、それからは後ろで流れ弾が当たらないようにしてて。オクトまでの道は、僕とティファニーが拓く)

(マスターとティファニーなら楽勝っす)

 

 中央のドア。

 

 僕が右、ティファニーが左に立つ。

 ティファニーが自分を指差し、ドアの向こうの右に指先を向けた。

 

 頷く。

 

 ドアを蹴り開けた。

 駆け出すティファニーと交差するように廊下の左に飛び出して、闇にアサルトライフルの銃口を向ける。敵の姿は、ない。

 

「クリア」

「こっちもクリアっす!」

「まずは階段だ」

「構造を把握できてたら良かったんすけどねえ。ごめんなさいっす」

「気にしないで。行こう」

 

 ティファニーはオクトを止めたいと思ってはいただろうが、ここシカゴにいた頃はヤツをどうにか出来るなんて考えた事もないだろう。下調べしていなかったのは、ティファニーのミスではない。

 

 人気のない廊下を進む。

 ティファニーは、先頭を譲る気はないようだ。

 

(マスター、アキと合流まで銃は使えないっすよ?)

(……そうか。流れ弾が怖い。アキが声を出せないのは、敵がすぐ近くにいるからなんだもんね)

(そうっす)

 

 ティファニーがショットガンを背負う。

 軍事用ロボットも素手で倒すほどの怪力だ。アンドロイドなんて、殴っただけで殺せるだろう。

 僕もアサルトライフルは背負い、右にナイフと左にマグナムを持った。

 

(あった。階段っす)

(アンブッシュ、あるよねえ)

(どうっすかねえ。かなり殺ったんで、敵はそんなに多く残ってないと思うっすよ。そしてここを攻められる想定なんてしてなかったみたいっすから、対人地雷や爆薬の用意もしてないはずっす)

(そうだといいいなあ。階段、僕が駆け抜けるからティファニーの判断で動いて)

(助かるっす)

 

 階段を上らず向こうに駆け抜けたら、敵がいれば銃を撃つくらいはするだろう。そして治安部隊の兵は、そんな敵を正確に撃てるほどの腕ではない。

 分の良い賭けのはずだ。

 

 指を3本立てる。

 2本にして、つま先に力を込めた。

 

 1。

 

 走る。

 

 階段の幅なんて、大した距離ではない。

 すぐに駆け抜けて振り向くと、銃撃がなかったからかティファニーが階段に突入するのが見えた。急いでそれに続く。

 踊り場で足を止めたティファニーが、上階を睨んでいる。

 

(アンブッシュはなしか)

(オクトを守るために、戦力を集中させたっすかね)

(なんにしてもとりあえず、敵を探さないとね)

(そうっすねえ)

(ザリッ)

(なんだこれ。……あ、もしかしてアキ?)

(ザリッ)

(そうか。インカムのマイクを指で擦ってるっすね。それなら、敵に気づかれるほどの音は出ないっす)

(ザリッ)

 

 無事でよかった。

 でも、合流を急がないと。

 

(アキがいる階の数だけ、インカムを擦って)

 

 ザリッという音が5回。

 どうやら、アキは最上階にいるらしい。

 

(5階だね?)

(ザリッ)

(すぐに向かう。銃は使っても平気、アキに流れ弾が当たったりしない?)

(ザリッ)

(それは助かるな。行こう、ティファニー)

(はいっす)

(ザリッ、ザリッ)

(ああ、アンブッシュがあるって言いたいの?)

 

 ナイフとマグナムを戻し、背負っていたアサルトライフルに持ち換える。

 

(ザリッ)

(それは5階の廊下に出てすぐ?)

(ザリッ)

(よくわかるっすね、マスター)

(僕ならそこで仕掛けるからね。踊り場から撃ち下ろすのもいいけど、それだとあっちも危険だろうし。アキ、アンブッシュは爆発物?)

(ザリッ、ザリッ)

(それ、ノーって意味だよね?)

(ザリッ)

 

 爆発物はない。

 なら、アキが巻き込まれる心配はないだろう。

 

(アンブッシュの人数は?)

(ザリッ、ザリッ)

(たった2人。階段へ移動には、そいつらがジャマなのか。もしかしてアキ、敵に挟まれてる形? オクトがいそうな部屋の前の敵と、アンブッシュを仕掛ける敵兵に)

(……ザリッ)

 

 一瞬の逡巡は、動きが取れなくなった後悔からだろうか。

 でもそうなると、ショットガンでも持ってアンブッシュを仕掛けているアンドロイドの向こうからも撃たれるかもしれない。そう思いながらティファニーを見ると、わかっているとでも言うように頷いていた。

 

(わかった。でもそれじゃオクトを守っている敵が銃を撃ったら、アキが危ないんじゃないの?)

(ザリッ、ザリッ)

(柱の陰にでもいるんじゃないっすか。ほら、玄関ホールにもあった、壁に一体化してる大人が身を隠せるくらいの)

(ザリッ)

(なるほどね。じゃあ、そこから動かないで。銃は使うけど、柱のある方には撃たないから)

 

 ザリッという音を聞きながら、階段を注意深く進む。

 5階でアンブッシュは確定だが、そこまでに敵がいないとは限らない。

 3階、4階と何事もなく進むと、5階への入り口が見えた。それとかすかに、『来た』という囁くような声。

 

 耳を指差すと、ティファニーが頷く。

 そしてティファニーは自分の顔を指差し、両手を伸ばして何かを引っ張るような仕草を見せた。敵をこっちに引き摺り出すという事だろう。

 相当に危険なやり方だ。簡単に頷ける事ではない。

 でも迷っていては、アンブッシュの2人に怪しまれる。

 

 ポンポン。

 

 そんな感じでティファニーが僕の肩を叩き、笑顔を見せる。

 心配するなと言いたいのだろう。

 悩みながらも頷くと、ティファニーはバスの屋根に上る時のように気軽な足取りで階段を上がった。

 

(ザリッ、ザリザリッ)

 

 今までになかったインカムの擦り方。

 待って、そう声を出す前にティファニーは階段を上がり切り、2人の敵兵を僕の方にぶん投げた。

 

 上から、肉で肉を叩くような音。

 それにショットガンの銃声が重なる。

 

「くそっ!」

 

 階段を転がる兵を足で止め、顔面にアサルトライフルを3発。

 もう1人は死んだ兵に当って止まったので、そのまま後頭部を撃ち抜いた。

 

 階段を駆け上がる。

 僕の目に飛び込んで来たのは、倒れたティファニーにのしかかる、2人の兵士。

 

 また、視界が赤く染まった。

 

「ざけんじゃねえ、クソがっ!」

 

 その兵の顔面を蹴り上げる。

 

 もう1人。

 驚いて僕を見上げるその兵を、アサルトライフルの銃床で下から上にぶん殴った。

 

 銃声。

 時間が遅く感じる。

 

 またか。

 廊下は1方向に長く伸びているだけ。そこかしこに明かりがあるのは、床に置かれたフラッシュライトか。

 蹴った兵士、殴った兵士。その向こうにはティファニーのショットガンでやられたらしい、頭部がなくなった死体が見える。

 そしてさらにその先には、テーブルを倒して盾にしている兵士達。

 そのうちの1人が構えているのは、カレンのと同じ対物ライフルだ。

 

 時間は遅く流れても、僕が速く動ける訳じゃない。

 

 銃弾が迫る。

 

 このコースなら、弾は僕の眉間を撃ち抜くだろう。

 巧いじゃないか、狙撃。うちのカレンには敵わないけどね。ミスター、ポイント・ブランクとでも呼ばせてもらうかな。

 

「ゴメン。後は頼んだよ、ティファニー……」

 

 

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