アポカリプスの庭で 血涙の天使   作:ふくふくろう

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ポイント・ブランク

 

 

 

 せめて、敵を睨みながら死のうか。

 

 6人の兵士達。

 対物ライフルを撃った男は命中を確信してるだろうに、表情を引き締めたままだ。

 

 愛想がないよ、ポイント・ブランク。

 ガキ1人殺ったって喜べないって?

 冗談じゃない。僕は何人も、何十人も、何百人も殺したリトル・Bだぜ?

 笑え、笑えよ。ポイント・ブランク。

 違う。驚けなんて言ってないだろうが。何を見て驚いてるんだ。

 

 ……ああ、立ち上がったティファニーか。

 

 ティファニー!?

 僕の前に立ち塞がってはいけない。

 

 ダメだ。

 ダメだよティファニー。

 ダメだってば。

 

「ティファニーッ!」

 

 時間が本来の流れを取り戻す。

 

 砕け散ったショットガン。ティファニーの体の破片。

 どちらが僕の頬を抉ったのかはわからない。

 

 でも、そんなのはどうでもいい。

 落ち着けよ心臓。焦るんじゃない。

 

 ……僕はただ、あいつらを殺したいだけなんだ。

 

「うおおおっ!」

 

 走る。

 

 銃口を見れば、射線は一目瞭然だ。

 アサルトライフルの連射を躱した僕を見て、兵士達が驚いている。

 銃口が動く。

 

 ティファニーやアキに流れ弾が行ったらどうすんだ、クソが!

 

 壁。

 ずいぶんと丈夫そうでありがたい。

 

 銃口が僕を追う。

 そうだ、それでいい。

 走るスピードは落とさない。

 

 ジャンプ。

 

 撃たれているけど、蚊ほどにも気にならない。

 壁を、蹴った。

 

 1歩、2歩、3歩で、机の向こうに届く。

 全力で、跳んだ。

 

「壁を走ったっ!」

「バケモノかっ!?」

「ただの人間だっての」

 

 横に薙ぐようにしてアサルトライフルのトリガーを引く。

 殺れたのは、3人だけ。

 アサルトライフルを捨て、ナイフとマグナムを抜いた。

 まだ立っている兵の1人の脳天にナイフを突き立て、着地。

 

「ひいっ……」

 

 マグナムで、怯えた声を漏らした兵を撃ち抜く。

 怯えるくらいなら、銃なんか持つな。隣のおっさんを見習え。

 

「よう、ポイント・ブランク」

「……私の名はウィンストンだ」

「へえ。そんでポイント・ブランク、抵抗はしねえのかよ?」

「何をどうすれば、君を殺せると言うんだ? 最初は血の涙を流す天使だと思ったが、今の動きはまるで悪魔だ」

「じゃあ、死ねや。バァ……」

「待つっす!」

 

 振り返れば、隙を突かれる。

 だから動きはしていないけど、僕はその声を聞いて今までにないほど安堵していた。

 

「生きててくれたか……」

「右腕を肩まで持ってかれたっすけどね」

「生きててくれたなら、それでいいよ」

「ありがとうっす。ダッドはそう言ってくれないんすね」

「ティファニー……」

 

 今、ティファニーはなんて言った?

 

 ダッド?

 

 ポイント・ブランクが、ティファニーの父さん!?

 

「今すぐ逃げろ、ティファニー。拾った命を、なぜ捨てに来た。振り返らずに逃げるんだ。私はおまえに死んで欲しくないから、自分でおまえを撃ちに行ったんだぞ!」

「……やっぱり、そうだったんっすね」

「だからお願いだ。すぐに逃げてくれ。装甲車を奪ったんだろう? この少年となら、逃げ切れるかもしれない。船を探して海を渡れ。この世界に崩壊していない国などないだろうが、島国などはすでに安全になった所もあるはずだ」

「逃げないっすよ。オクトを、止めに来たんすから」

「アレはリミッター解除した正真正銘のバケモノなんだぞっ!」

「リミッターなら、ティファニーだって解除済みっす」

「なん、だと……」

 

 そうか。

 ポイント・ブランクさんは、ティファニーがリミッター解除したのを知らないから、オクトには勝てるはずがないと思っていたのか。

 

 ポンっと肩が叩かれる。

 いい香りが、ふわりと僕の鼻先を擽った。

 アキだ。

 血の臭いは、僕からしかしない。無事で良かった。

 

「出来ればティファニーの父さんは殺したくない。行かせてくれるね、ポイント・ブランクさん?」

「……貴様か」

「何が?」

「ウチのかわいい愛娘を、まだジュニアハイスクール生のティファニーを、嫁になどしたのは貴様かっ!」

「えっと、ティファニー?」

「ごめんなさいっす。ウチの両親、血なんて繋がってないのに親バカなんっす」

「はあ……」

「まさかティファニーを、オモチャにしてるんじゃないだろうな? いろんな意味でいいオモチャを手に入れたぜ、とか言いながら涙を流すティファニーを朝まで激しく…… いだっ!」

「いい加減にするっす。マスターはいつでも優しいっす」

「……その言い方だと誤解されるよね、ティファニー?」

 

 ポイント・ブランクさんが僕を睨む。

 怖いから対物ライフルを握り締めないで欲しい。

 

「時間がないっす。こんな事して遊んでてオクトを逃したら、悔やんでも悔やみ切れないっす」

「オクトは逃げないさ。役立たずの私達が全滅したら自分で侵入者をなぶり殺すと言って、ドアの向こうのパーティー会場で待っている」

「そっすか。マスター、覚悟はいいっすね?」

「もちろん」

「……わかった。なら、私も行こう。リミッター解除したなら片手でもティファニーの方が強いだろうが、盾になる事くらいは出来る」

「ダッドはこの隙に市民を避難させるっす」

「娘をバケモノと戦わせてる間にか?」

「そうっすよ。シカゴで暮らすアンドロイドを逃すなら、今この時しかないっす」

「しかしっ!?」

 

 話が長くなりそうなのでタバコを咥える。

 アンドロイドがタバコを吸えるのかは知らないが、ポイント・ブランクさんにも差し出してみた。

 

「ああ、すまないね。ちょうどやりたかったんだ。……くっ。タバコなんかで許してもらえると思うなよ、貴様っ!」

「ああもう。うっさいおっさんっすねえ」

「ティファニー!?」

「いいからマムと一緒に、市民の避難を始めるっす!」

「ティファニー。そんなに心配なら、父さんと母さんにはクリーブランドを目指してもらえば? 記念碑の近くの立体駐車場にあるバスで落ち合うって事でさ」

「なるほどっす。ダッド、マムを連れてクリーブランドのソルジャーズ・アンド・セーラーズ・モニュメント近くの立体駐車場に行くっす。防弾板を貼り付けまくったバスがあるっすから。2、3日すればティファニー達も行くっす」

「……約束だぞ」

「はいっす」

 

 ポイント・ブランクさんが、ティファニーを抱きしめる。

 気持ち的には、ティファニーも一緒に行かせたい。でも、ティファニーはそれを拒むだろう。

 タバコを捨て、辺りを見回す。

 アキの姿はない。

 万が一にもオクトに存在を知られない用心か。

 アキはどうしても、姿を消したままオクトを一撃で殺すつもりのようだ。

 

「いたぞっ!」

 

 振り返る。

 ジャニスだ。自分の身長より大きな対物ライフルを抱えたカレンもいた。

 

「無事かっ。ジョン、ティファニー!」

「ジャニス。カレンも。来るなら言ってくれたらいいのに」

 

 階段から姿を現した2人が駆け寄ってくる。

 

「銃声が止んでも、無線が来ねえからだ。かなり厄介な状況だろうと思って、急いで来たんだよ」

「予想してなかった状況ではあるけど、別に厄介ではないかな。紹介するね。こちら、ティファニーの父さんのポイント・ブランクさん」

「はあっ!?」

「渋いけど、ジョンの方が好き。おっさんはかわいくない」

「……ウィンストンだ」

「別れを惜しんでから、オクトが待ってるそのドアの向こうのパーティー会場に突入予定だったんだよね。ポイント・ブランクさん、増援って呼んでる?」

「ウィンストンだ。戦車の足に合わせているから遅れているが、そろそろ到着する頃だと思う」

「それ、任せていい?」

「ああ。皆、オクトには嫌々従っていただけだ。シカゴからの逃亡に反対するのは少数だと思う」

「じゃあ、クリーブランドでまた会いましょう」

「名を、聞いてもいいか?」

「ああ。ジョンです。ジョン・ハッピーニューイヤー」

 

 ポイント・ブランクさんが目を閉じる。ティファニーを抱きしめたままだ。

 

「いい名前だ。ファースト・ネームも、ファミリー・ネームも」 

「意味を教えちゃダメっすよ、ダッド?」

 

 いい顔でティファニーが笑う。

 出会った頃より、ずいぶんとキレイになった。

 

「わかったよ。娘を、ティファニーを頼む。ジョン」

「さっき、ティファニーには命を救われました。今度は、僕が守ります」

 

 ポイント・ブランクさんが頷く。

 

「では、クリーブランドで待つよ。気をつけるんだぞ、ティファニー?」

「はいっす。ダッドも気をつけて」

 

 ポイント・ブランクさんが歩き出す。

 ジャニスとタバコを吸いながら見送ったが、彼は振り向かなかった。

 

「いい父さんだね」

「だな。ジョンがいなかったら誘惑するトコだ」

「ダメだよ? ジャニスは僕のだから」

「ッ!? ……言うじゃんか。特におっぱいは、だろ?」

「とーぜん。さ、行こうか。待たせちゃ悪い」

「だな」

「カレンお姉ちゃんもジョンの?」

「そうだよ。ティファニーも、クマさんパンツのあの人もね」

 

 息を呑む音。

 オクトにバレたら困るからやめて欲しい。

 

 ゆっくりと、パーティー会場とやらのドアに歩み寄る。

 みんなを僕のものだと言ったのは本心だ。

 

 ……それでも、僕の命はここに置いてゆく。

 

 素手で軍事用ロボットを粉砕する、リミッター解除したティファニーと最低でも同じ強さのオクトが、このドアの向こうにはいるのだ。

 

 

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